思ひきや 宇治の河瀬の 末つひに
          君と伏見の月を見るとは















End of EVANGELION×狂四郎2030





Eva2015





最終話  My life Your life

あぐおさん:作



ネルフ事変 最終報告
特務機関ネルフは本来サードインパクトを未然に防ぐための国連の非公式組織であり、各省庁並びに国連組織に過大な融通を利かせていた。しかしながらその実態は人類補完計画を達成させ人類を滅亡へと導こうとする秘密結社ゼーレの傘下に過ぎず、ネルフは只の駒に過ぎなかった。
ゼーレの理念に賛同していたはずの碇ゲンドウであったが、その理念は彼を良く知る人物像からは大きくかけ離れており、生前受けた心理テストの結果も踏まえると碇ゲンドウが行なっていた行動は碇ゲンドウ本人の意思とは離れた所にあると考えられる。事実、碇ゲンドウには洗脳された形跡が多々見られている報告を受けている。
彼を洗脳していた人物は碇ユイ。彼女はゼーレの理念に賛同し、それを達成すべく非人道的な行いも指示し、碇ゲンドウの影に隠れて行なっていたと予想される。
これが人の未来のためと従っていた冬月コウゾウと脅迫され共に行動せざるを得なかった赤木リツコの両名が離反、元ネルフ作戦本部長である葛城ミサトに真相を打ち明けネルフに対して戦略自衛隊の協力の下反旗を翻す。
碇ユイの遺伝子を使ったデザインヒューマン、通称綾波シリーズと交戦。迎撃に成功。尚、碇ゲンドウ、碇ユイはネルフ本部自爆に巻き込まれて死亡。

特務機関ネルフ
死者約1200名 負傷者0
碇ユイ 死亡 
碇ゲンドウ 死亡 

反ネルフ及び戦略自衛隊
負傷者18名 死者1名

碇シンジ 死亡







「ふーっ」
ミサトはタバコの煙を天井にふかした。ネルフ本部が自爆したのち、瓦礫を探って遺体を探したが、首謀者達の遺体を見つけることは叶わなかった。N2地雷の爆発を真下からくらってネルフ本部は火の海に包まれたのだ。生きているはずがない。そしてシンジの姿もどこにも見えなかった。
全てが終わって捜索がすぐに開始されたが、3日目には終わった。それは目の前に広がる瓦礫の山を見ればわかることだ。あの爆発に巻き込まれて生きているはずがない。そう結論付けた。
あれからすでに半年が過ぎている。この半年で大きく変わった。
生き残った青葉とマヤが交際をし始めたらしい。実に微笑ましいことだ。日向は抜け駆けしやがってと笑っていた。冬月は贖罪のために翻弄している。リツコも忙しい日々の中、戦自の技術部の男性といい関係を築いたという話を聞いた。しかしこの事件の真相究明のために冬月と共に世界を飛び回っているため、彼の元へいくのはもう少し先らしい。
「あまり遅くならなければいいけど」
リツコは苦笑いを浮かべた。
ミサトと加持は同居を始めた。その切欠となったのはアスカの状態だ。加持もまた事件の真相究明とネルフで働いていた仲間たちの無罪と名誉回復のために日本政府に対して働きかけている。ミサトはネルフを辞めて家で報告書を書く日々が続いている。
バビンスキーの姿はあの日から見えない。多分キョウシロウと共に帰ったのだろう。
あの日以来、ビールは飲んでいない。いや、飲めなくなった。代わりにほとんど吸っていなかった煙草を吸い始めた。女の香りで満たされていた部屋はもうヤニ臭い部屋に変わっている。
ミサトが部屋から出るとドアが開いた。
「ただいま~」
「おかえり、加持くん」
「ふ~、やっぱ役所の連中は頭が固くて困る。何度同じことを言えばいいやら・・・」
「弱気なんかはいてないでなんとかしなさいよ」
「へいへい、わかってますよ。・・・ところで、アスカは?」
「いつもどおりよ・・・・」
ミサトと加持はやりきれない表情を浮かべるとシンジが使っていた部屋を見る。ドアが閉められたその向こうにはアスカが涙を流しながらシンジの布団で寝ていた。

あの日以来、アスカは本当にひどい有様だった。夢遊病者のように元ネルフのジオフロントをさ迷いシンジを探す。そして正式に死亡と認定された数日後アスカは自殺を図った。発見が早かったためそれは未遂に終わったのだが、綺麗だったアスカの右腕にはクッキリとリストカットした後が残っている。目を離すとアスカは何をするのかわからない。ミサトはネルフを辞めて加持を自宅で住まわせるとアスカの監視をし続けた。
夜になるとシンジの部屋に行き、彼の残り香を求めて部屋を漁り、そして彼の使っていた布団にくるんで寝る。元気いっぱいだった彼女の顔からは笑顔が消えて自信すらも失った。
今のアスカはまるで手を離したら消えてしまいそうな儚い存在だった。
学校に復学したアスカの変わりように男子は彼女を守りたいという意識を刺激され彼女の人気は再び加熱したのだった。
ラブレター攻撃から始まり登下校中に露骨なアポローチをしてくる者、または強引な手段を使ってくる者もいた。そんなアスカを守ろうとする人たちがいる。それはクラスメート達だ。シンジとの蜜月を目の当たりにしてきた彼らは彼女が失った部分の大きさに深く同情した。男女問わず彼女を守ろうと誰もが自ら率先して動いたのだ。その中心にヒカリがいたのは言うまでもない。
ヒカリは毎朝アスカを迎えに行き、夕方はマンションの前まで一緒に帰った。例え自分の生活スタイルが変化しようとしても、結果的に妹に迷惑をかけたとしても彼女は決してやめようとはしなかった。ミサトは彼女の慈愛に深く感謝をした。


放課後、いつものように帰ろうとするアスカをケンスケが呼び止めた。
「惣流、待てってば。洞口から頼まれて今日は俺が送って行くことになったよ。よろしくな」
ケンスケは明るくアスカに振舞う。アスカは興味がなさそうに顔を背けると歩き始めた。ケンスケは慌てて彼女の後を追った。
アスカの三歩後ろを歩くケンスケ、彼はできる限りアスカに対して明るく振舞う。そうしなければ耐えられないほど、アスカの背中は儚かった。
「っていうことがあってさあ~ホント参っちゃうよな!あははははは!」
「・・・・・・」
「ははははは・・・・はあ・・・」
学校で起きたことやプライベートでの出来事をケンスケは面白おかしく着色しながらアスカに語りかける。しかし、アスカからの反応はない。あるのは独り言をつぶやいているような虚しさだけだ。そうこうしているうちにコンフォート17に着いてしまった。
「じゃあ!また明日な!惣流!」
マンションの入口へと向かうアスカの背中に声をかける。アスカの歩みが止まった。
「相田・・・」
「えっ?な、なに?惣流」
「・・・送ってくれて。ありがとう」
背中を向けたまま言われた謝礼。それはケンスケの心を突き動かした。ずっと言いたくて言えなかった心の内、諦めかけていた想いがケンスケの心を揺さぶった。

ケンスケはアスカのことが好きだ。強気な彼女が稀に見せる儚げな表情がケンスケの目にたまたまファインダー越しに見えた時、ケンスケはアスカに惹かれた。アスカを撮るときはファインダーを通して彼女へ想いと伝えていた。
しかし現実は厳しい。それは休み時間の時、シンジの前の席に座り机に頬杖をついて楽しそうに話をしているアスカの表情。その顔はまさしく恋する乙女の顔だった。シンジにだけ見せる顔があることを知ったとき、ケンスケの心はチクリと傷んだ。それでも可能性を信じて諦めることができなかった。
だが、トウジの一件でシンジのことを心配し自らの評判を地に落としてでもシンジを庇うアスカを見たケンスケはアスカの心の中に自分が入る余地など何もないことに気付き、何も言わずに身を引いたのだ。その諦めたはずの気持ちが再び甦る。彼女の心の隙を狙って告白するような真似はケンスケはしたくなかった。
しかし、それでも、例え罵られようとも、アスカのことを守りたい。アスカを支えたい。アスカのことが本気で好きだ。
その気持ちに偽りはない。ケンスケは覚悟を決めた。
「な、なあ!惣流!」
「俺じゃダメかな!?俺じゃ惣流の心を埋めることはできないのかな!?俺、ずっと惣流のことが好きなんだ!」
突然の告白。アスカは振り返らずに背中越しで語った。
「ありがとう。相田、こんなアタシのこと好きになってくれて」
「惣流・・・」
「でも、ごめんなさい。相田の気持ちには答えられない。他の誰にも心の穴を埋めることは出来ないの。シンジしかいないのよ」
「い、今はそうかもしれない!けど!それでも俺は・・・!」
「無理よ。シンジ以外の男なんてまっぴらよ。今も、これからも・・・」
予想した通りの展開にケンスケは大きく息を吐くと笑いかけた。
「わかった。でも、諦めないからな!じゃあな!惣流!」
ケンスケは大きく手を振ってその場から立ち去った。アスカはその背中を見送る。
「もう・・・限界か・・・」
アスカは部屋に帰る。ミサトが玄関で出迎えてくれた。
「おかえりアスカ。どうしたの?深刻な顔をして・・・」
「ミサト、私決めたわ」
「・・・・・えっ・・・・?」




「「えええええ~~~!?ドイツに帰る!?」」
学校の屋上でケンスケとヒカリの声が木霊する。アスカは頷いた。
「どうして、そんな急に・・・」
「・・・もしかして、俺のせいか?」
「ケンスケ!アンタまさか!」
アスカは首を振った。
「違うわ。相田から告白されたのは事実だけど、振ったわ。そうじゃないの。元々帰国命令は出ていたけど、無視していたの」
「だからって来週に帰国するって急すぎるじゃない!」
「そうだぜ!学校卒業するまで待ってもいいんじゃないのか!?」
アスカは手すりに捕まり街を見下ろした。
「私、日本に来て良かった。ヒカリと親友になれて、鈴原や相田とか異性の友人も出来て、シンジに出逢えて・・・今までの人生で手に入らなかったものが一気に手に入った」

「エヴァのパイロットになるために必死に走り続けて、大学も卒業して、でも、私何も知らなかった。何も、何も知らなかった」

「いつも食べられる温かいご飯の美味しさ。うだるような夏の暑さ。照りつける強い日差し。雨が降った後に香るアスファルトの匂い。ベランダで一緒に見た夕陽の紅さや星の輝き。頬を撫でる風の優しさ。放課後に舐めたアイスクリームの甘さ。何気ない会話」

「そんな、割とどうでもいい日常が、どこにでも溢れている小さな日常がこんなにも、こんなにも綺麗だなんて、私ちっとも知らなかった」

「それを教えてくれたのは全部シンジなの。シンジに会わなかったら、私何も知らないで過ごしてた。触れそうで触れない手のもどかしさも、初めてのキスも、好きな人の腕に抱かれる温かさも、女としての悦びも、全部、全部シンジが私に教えてくれた」

「抱かれるって・・アスカ、まさか!」

「うん、シンジと寝たわ。何度も何度も。凄く嬉しかった。本当に幸せだった・・・だから辛いの・・・この街のどこにでもシンジとの思い出があって!どこにでも想いが詰まっていて!でも!シンジはどこにもいないから!・・・辛いの・・・だから帰るの・・・あそこには何もないけど・・帰って・・・もう一度一人で生きていくの・・・シンジとの思い出があれば、私は生きていけるから」

ヒカリがトウジことを思い出した。ヒカリはトウジの最後の言葉を教えられた。最後は自分への感謝の言葉だった。それがあったからヒカリは比較的早くその傷から立ち上がることができた。何より友人、とりわけケンスケがヒカリのことを支えてくれた。そのことは十分すぎるほど感謝している。だが、アスカは違う。
彼女はシンジしか居なかったのだ。誰一人として彼女を支えることも、心に触れることも許さない。シンジの面影にしがみつくことしかアスカにはできないのだ。それが彼女が、惣流アスカ・ラングレーが惣流アスカ・ラングレーとして、碇シンジを愛したアスカの最後のプライドだから。
「わかったわ。アスカ。でもこれだけは言わせて。私達はいつまでも親友よ。例えドイツに帰って、二度と会うことがなくても私はアスカを親友だと思っているわ。向こうについたら連絡を頂戴。また・・・笑って会いたいから・・・」

「うん・・・ありがとう。ヒカリ」

ヒカリはアスカを抱きしめた。泣いて別れるのは彼女には似合わないから、こみ上げるものを必死で抑えて笑った。ケンスケは彼女たちに背を向けると一人涙を流した。

12月3日 アスカ帰国前夜

葛城家では最後の晩餐が並んでいる。久しぶりに晩酌をするミサトと加持がいる。アスカは血が繋がらない家族との食事を楽しんだ。はじめは昔話に花が咲き賑やかな食事だったが、時間がたつにつれ会話が途切れ途切れとなり、そして沈黙する。ミサトも加持もできることなら止めたかった。彼女の傷が癒えるその日まで彼女と一緒に過ごしたかった。しかし、本人が決めた以上、引き留めることはできなかった。ミサトは罪悪感からなのか謝った。
「ごめんなさい。アスカ、こんな形になるだなんて・・・本当に・・・謝って済む話じゃないわね」
アスカは黙って首を振る。
「ミサト、いいの。自分で決めたことだから。私はこの思い出が、シンジとの思い出があれば生きていける」
アスカはミサトの傍に移動するとその場で膝をついて指を揃え頭を下げた。
「短い間でしたけど、お世話になりました」

「や、やめてよ、そんな・・・畏まって・・・」
ミサトはアスカを抱きしめ泣いた。アスカもミサトを抱きしめ泣いている。加持は二人を抱き寄せた。
「アスカ!アスカ!ごめんなさい!」
「ミサト!本当は帰りたくない!帰りたくないよお!シンジィ!」
最後に漏れたアスカの本音。それは二人の嗚咽によってかき消された。

ピンポーン

呼び鈴がなる。加持が少しだけ苛立つように立ち上がる。
「誰だこんな時に・・・はーいどちら様?」
「こんばんは、廻です。お時間いいですか?」
「廻さん?開いているから中へどうぞ」
ドアが開いてキョウシロウが部屋の中へと入る。
「込み合っているところすまないが、アスカ、君に大事な話がある」
アスカは涙を拭くとキョウシロウと向かい合う。
「大事な話って・・・?」
「シンジのことだ」
「っ!」



12月4日 
アスカはガードの車に乗り込むと目を閉じて昨日のことを思い出した。

『まず始めに、シンジは生きている』
『本当か!廻さん!』
『ああ、今後のアイツのことを考えて戸籍上死亡扱いにするために隠していたのさ。最も、発見したときは全治5ヶ月の大怪我をしていたから、バビンスキーがつきっきりで看病していたんだ。アスカ、連絡できなくて本当にすまない』
『良かった・・・シンジが生きている。良かったよぉ・・・』
『そこでだ、シンジから伝言がある。“約束を果たしに行く”以上だ。こう言えばわかるとも言っていた。どうする?その約束を果たすか?』
『あったりまえじゃない!行くわ!』


空港バスターミナル
車から降りたアスカは周囲を見渡す。そこには旅行者やビジネスマンなどがバッグを片手に行き来している。アスカは祈るように両手を胸の前で握る。
(シンジ・・・私はここ・・・ここにいるわ・・・シンジ)
晴れ渡る青空、快晴の天気にもかかわらず突然雨が降り始めた。
「おい、雨が降ってきたぞ。空は晴れているのにな」
「これが狐の嫁入りってやつか」

「つまり攫うってことだよ」


どこからかわからないがアスカの足元に筒状のようなものが転がると、彼女を包み込むように煙が巻かれる。
「くそ!誰だ!こんな真似を・・・ゴホッ!」
突然の出来事に混乱するガード、その中はっきりとした声がアスカの耳に届く。
「こっちだ!アスカ!」
アスカは声の方向へ走り出す。煙の向こうにはフルフェイスを被りバイクに乗った人が手を差し伸べている。顔が見えなくてもわかる。独特の雰囲気、忘れるはずもない声。
「シンジ!」
「アスカ!乗って!」
アスカはバイクの後ろに跨るとしっかりとシンジを後ろから抱きかかえる。
「行くよ!しっかり捕まってて」
「はい!」
バイクはエンジン音を高く響かせながら走り去った。

「くそ!追え!逃すな!」
パンッ!銃声が鳴り響く。ミサトが威嚇射撃をした。たちまち空港は大パニックだ。
「銃を下ろしなさい!動かないで!」
「葛城三佐!何をしているのですか!正気ですか!」
「正気よ。彼らを見逃しなさい。ついでに私たちもね♥」
ミサトがウィンクするとターミナルに青いルノーが滑り込んだ。
「ミサト!乗れ!」
「それじゃみなさんバイビー♪」
ミサトは加持の運転するルノーに飛び乗った。
「それじゃ行くぞ!」
「さあて!派手に行きましょう!いざっ!アルカディアへ!」
青いルノーは急発進するとタイヤを鳴らせて空港から姿を消した。




そこには彼らを兄弟のように見守る人たちがいた。
「おっ?来た来た。マイカ、シンジ君達が来たぞ」
「あ!本当だ!おーい!おーい!」
「全く・・・変なところだけキョウシロウに似やがって」




陰日向で支え続けた人たちがいた。
「MAGI交通システムハッキング完了しました。先輩!」
「青葉君、彼らの予想進行ルートを算出して!マヤは予想ルートに従ってルートの確保をして!日向君は警察の情報の攪乱!彼らが無事逃げられるようにするのよ!」
「「「了解しました!」」」
「ミサト、あなたも逃げるんだからちゃんと彼らの面倒を見るのよ。シンジ君、アスカ、幸せになりなさい」




親友と呼べる人がそこにいた。
「委員長、どうした?空何か見上げて」
「うん、もうアスカは飛行機に乗ったのかなって・・・」
「うん?なんかバイクがでかい音鳴らして来てるな・・・」
「・・・・・・っ!!!!」
「・・・ケンスケ、今のバイク見た?」
「ああ、見た・・・うちの学校の制服着てたよな・・・」
「金髪のロングヘヤーだったよね・・・もしかして・・・」
「アスカ!?」
「惣流か!?」
「運転しているのって・・・」
「「まさか!?」」




血の繋がらない本当の家族がそこにいた。
「おっ?来たな」
バイクが彼らの前で止まる。
「キョウシロウさん!シノさん!バビンスキー!」
「よう!シンジ」
「その子がアスカちゃん?初めましてキョウシロウの妻のシノです」
「初めまして惣流アスカ・ラングレーです」
「これからアルカディアに行くんだろ?大変だろうが、頑張れよ」
「シンジ、アスカちゃんを大切にするのよ?アスカちゃんうちのシンジのことよろしくお願いいます」
「はい!」
「お義父様、お義母様もどうかお元気で」
「シンジ、アスカ、ゆっくりしている時間はないぞ。早く行け」
「うん、バビンスキーも元気でね」
「教授、また会おうね」
二人はバイクに跨るとエンジンを吹かせて走り去った。
バビンスキーが大きな声を上げて彼らにエールを送る。

「行け!シンジ!アスカ!誰のためでもない!自分たちの未来のために!」










これが、最後に見た彼らの姿だ。俺たちが再会するまで実に十年の歳月を有したことをここに記す。
彼らが走り抜けたこの2015年は欲望にまみれ、陰謀が渦巻き、子供が子供らしく生きるにはあまりにも厳しい時代だった。
しかしそんな世の中であっても、彼らは希望の欠片を見つけ、いくつもの苦難を乗り越え彼らはやっと人並みの幸せを手にすることができた。そこに行き着くまでにどれだけの苦労とどれほどの犠牲を伴ったのかは一番近くで見てきた俺でさえも推し量ることはできない。

彼らがこの先、どんな波乱万丈な人生を送るか
それは天才犬である俺にもわからねえが、ただ、ひとつ言える事は



シンジのそばにはいつもアスカがいるって事だ


















Epilogue


2026年 第三新東京市
「ヒカリ~いる~?」
「いらっしゃいお姉ちゃん、どうしたの?」
「あんた宛に手紙が来てるよ」
「誰から?」
「さあね?」
「・・・・・・・・・・」
「っ!ちょっと!ケンスケ!ケンスケってば!」
「あん?なんだよヒカリ」
「アスカ!アスカ達から手紙が来てる!」
「マジか!?なんて書いてある!?」
「待って。読むね」

親愛なる洞木ヒカリ様へ
久しぶり、元気にしている?
私は今、シンジと結婚してアルカディアという島に住んでいます。そこで毎日畑を耕して、漁に出たりと、シンジと彼との間に生まれた子供達に囲まれてスローライフを楽しんでいます。
10年前、もっと色々なことを話したかった。もっと一緒に過ごして行きたかった。そう思うけど、あの日全てを捨ててシンジと一緒に生きていくことを決めたことに後悔はありません。
毎日本当に忙しいけれどもシンジと結ばれて、子供たちに囲まれて、幸せな日々を過ごしています。
そちらはどうですか?ヒカリのことだからバリバリ働いているのかな?それとも、もう結婚したのかな?
来月、私達は第三新東京市に帰ってきます。ここで過ごすのもいいけど、やっぱり思い入れのある街だから・・・シンジと相談して帰ることに決めました。
戻ってきたら連絡します。その時は遊びに来てください。シンジも子供たちも会えるのを楽しみにしています。
PS
家族で撮った写真を同封します。すごくカワイイわよ♥


碇アスカ






Fin








あとがき
あぐおです。最後までこんな素人の駄文を読んで頂き誠にありがとうございます。
このEva2015の全体像は投稿する1ヶ月ほど前から大まかな流れは決まっていたのですが、書いていく段階で当初とは異なるシナリオになっていきました。ユイをラスボスに持ってきたのとシンジがゲンドウの子供じゃないという設定は書いている最中にそういう流れになっていましたが、こういうのもアリ程度に大目に見てください。

スパシン大好きな私ですが、出来る限りスーパーシンジ君にならないようにしようと考えたのですが、設定上どうしてもそれは難しいということで、その代償としてシンジに辛い過去を背負わせてしまいました。
書いていて思ったことは「徳弘正也先生は本当に偉大だ」ということです。
クロス作品が容赦ないものであり、どうしてもそれを中和したがために下ネタをいれようとしましたが、いざ書いてみると全く思いつかないという事態に直面してシリアスな部分がモロでてしまいました。
正直やりすぎじゃね?と思う部分も多々あります。興味のある方は是非クロス作品も読んでもらえたらと思いますが、残酷な描写や性的描写がきついため女性と15歳以下の方は見ないことを強く推奨します。

文頭の短歌は坂本龍馬の妻お龍が坂本龍馬に宛た手紙に書かれたものです。意味としましては
「宇治川の早い川の流れのように、激しい時代の流れの中で色々なことが急ぎ足で過ぎていったけど、最後は二人で一緒に月を見ていました」
という意味だそうです。(歴史秘話ヒストリアにて)これを詠んでなんとなくシンジとアスカの二人の関係みたいだなと思い引用しました。

最後にシンジとアスカのそれからを手紙という形で書きました。その他の登場人物はどうなったのか?これは私の中でのEva2015の他登場人物のその後です。
ミサトと加持はシンジ達と共にアルカディアに逃げ込みそこで子供を作り生涯アルカディアで生活します。
ヒカリはケンスケとその後交際をして手紙が来たときには同棲してます。結婚秒読みです。
ムサシとマナはアルカディアにて幸せに暮らします。シンジ達が来たときには既にマナは妊娠しています。
青葉とマヤは後に結婚して地方に移り住みます。子供も生まれ穏やかに暮らします。
日向はネルフを退職後、青年海外協力隊として世界に羽ばたきます。
リツコは3年後に戦自の研究者と結婚、専業主婦になり子宝にも恵まれます。晩年は夫と共に医者の居ない地域へ引越し医者として地域に貢献します。
冬月は全てを終えたあと世捨人となり生涯この一連の出来事で亡くなった人の供養をし続けます。
以上が私が考えるこの世界でのエヴァの人達の未来です。皆さんはどうお考えでしょうか?

最後まで読んでいただいた皆様、メールを送ってくださいました皆様
作品を載せていただいた怪作様、

本当にありがとうございました。

あぐおさんの「EVA2015」堂々完結です!
何度かヒヤっとさせられるシーンもありましたけど、シンジとアスカの二人はみんなが望むHappy Endの形まで、突き進んでいきましたね。
素敵なお話でした。みなさんも是非、感想をメールの形にして贈ってください!

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