第二十一話  Wille

あぐおさん:作


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手首に鋭い痛みが走る。
「うっ・・・・く・・・・むぅ・・・・」
ぼんやりとしていた意識が少しずつはっきりしていく。冬月は自分の状態を確認してみる。
多分、今自分は座っている。そして手と足が何かで繋がれているようだ。手で触ってみる。金属の手触りがするところから手錠がかけられている。足を動かすとチャラチャラと音がなる。足も手錠のようなものをかけられている。つまり拘束されているという結論に達する。目はあいていると思う。しかし真っ暗で何も見えないため、自分が目を開けているのかそうでないのか?どういうふうに座っているのかが全く把握できない。
(そういえばネルフを出て、電車に乗り込みいつもの駅で降りたところで記憶がない。そこで拉致されたのか。まあいい、どうせ生きては帰れまい・・・)


急に目の前が明るくなる。暗闇に慣れた目に、その光はとても眩しく感じられる。目が慣れてくると彼の目の前にカーテン越しに一人の男が座っている。
『ようこそ、冬月コウゾウ先生』
影絵の男が言った。
「君は誰だ?私に何の用だ」
『まずはこんな荒っぽいやり方で先生を招きました非礼をお詫びします。先生にネルフのことを全てお話していただきたいと思いまして、このような手段を取らせていただきました。そうですね・・・私のことはヴィレとでもお呼びください』
「Wille、“意思”か・・・“神経”ネルフのことを知りたいと?面白い洒落だな」
声はボイスチェンジャーで変えられているため、男性か女性か、年をとっているのか若いのか?判断がつかない。
『そんなことはどうでもいいのです。冬月先生、ネルフは・・・いや、碇ゲンドウは何を企んでいるのか教えて欲しいのです』
「あの男の考えていることなんて、誰にもわからんよ。わかりたくもないしな」
『おや?先生はあの男の右腕ではないのですか?』
「右腕か・・・私など右腕にもなりはしなかったよ。所詮は傍観者に過ぎない。だが・・・それも疲れた。もう、ついていけない。こんなじじいの話を聞きたいのかね?」
『・・・是非・・・』
冬月はため息をつくと話し出した。
「碇は・・・ユイ君にもう一度会いたいがために、全てを犠牲にしてでもやり遂げようとしている。そのためのネルフだよ。後は全て駒に過ぎん。自分の息子の命さえもな。私はこれでも教師の端くれだ。子供の命を犠牲にすることなどもっての外だ。あいつは二人の子供の命を生贄に捧げた。もう・・・私には耐えることができない。」

「昔はこんな男じゃなかった・・・研究所にいた頃なんかは、ふふふっ本当に笑えたよ。あの悪人顔した男が顔を緩ませて子供の面倒を見ていたのだからな。だが、妻のユイ君が亡くなる少し前くらいからか・・・あいつは変わっていった。まるで妻を神のように崇めていたのだ。そして彼女は、あいつの絶対神になった。息子を捨てて・・・」

『碇ユイ、彼女は先生にとってどのような人物でしたか?』
「一言で言えば天才。そして彼女の思考は学者でもある私のインスピレーションを大いに刺激する。彼女といれば研究者としてより高いレベルの研究が出来るのではないかと思ってしまうほどだ。しかし・・・彼女はそのために手段を選ばない傾向が強かった。たまに彼女が恐ろしく感じることがあったよ」
冬月は遠い目をして答えた。
『どういうところに恐怖を感じたのですか?』
「ダミープラグの基本設計は彼女が作ったものだ。人格のデジタル化。すごい発想だよ。私の若い頃のSFXの映画のようなことを本気でやろうとしたのだからな!そして、それは一部成功をしている」
『綾波レイのことですね』
「ほほう!よく知っているな。その通りだ。綾波レイの人格はユイ君の初期データを元にしてある。そして、それをデジタル化してコピーしたものが“綾波レイ”。彼女の姿はその器に過ぎない。それを指示したのはユイ君本人だ。碇を使ってな」
『・・・どういうことです?』
「ユイ君は生きている。エヴァ初号機の中で・・・そしてMAGIを使って碇ゲンドウを洗脳し動かしているのだ。ずっと昔からな。だが、それに気が付いた者が2名いた。赤木ナオコと惣流キョウコ・チェッペリン。賢者達だ。彼女たちは碇ユイを止めようとした。そして、最悪の事態を想定した惣流キョウコ君はエヴァの中に入って阻止できるような体制に整えようとした。しかしユイ君は彼女を中途半端にサルベーシして・・・心を欠けてしまった。赤木ナオコ君はレイを使って殺された。これが真相だよ。私は怖くて見ているだけだった・・・」

『では全ての元凶は・・・碇ユイ・・・そうですね?』
「ああ・・・彼女が何をやろうとしているのかは碇しか分からんだろう。私はもう疲れた。この世界から足を洗うよ」
『わかりました。先生・・・いえ、やめておきましょう。では、地獄で・・・』
冬月の意識は途切れた。
次に冬月が目が覚めたのは自分の部屋だった。彼の枕元に一枚のメモが置いてある。冬月は苦笑いを浮かべながらそのメモを見て、顔を上げた。その顔は憑き物がとれたようにさっぱりとしている。
「まだ、こんなじじいに死ぬなというのか・・・傲慢な奴だ」
自ら命を絶つつもりだった。だが、まだ死ねない。メモに書いてある通りに、生きてその責務を果たすように。



ネルフ女子寮
リツコはクッキーを焼いて紅茶を入れる。今まで休みらしい休みなど取れなかった、これが初めての連休と言っても良い。そのためか何をしようか本当に困った。外には出れないが時間はたっぷりある。久しぶりにお菓子作りでもしようかと思いやってみた。
一口齧る。なかなかの出来だ。
「私にもこんな才能があるのね」
ゆったりと過ごしているように見えるが内心は不安で仕方がない。自分の外で一体何が動いているのかわからないのだ。こんな時加持やミサトに連絡ができればいいのだが、携帯電話は使うことが出来ない。不安と苛々が募る。
「そうね・・・こんなときはアレね・・・」
リツコは大型テレビとゲーム機の電源を入れる。そして押入れから木の棒を二本取り出した。テレビ画面には「太鼓の鉄人」とデカデカと映っている。コントローラーは実寸大の太鼓。全てリツコが趣味で開発したものだ。鉢巻と胸に晒を巻くとリツコは人が変わったように太鼓を叩いた。
すごく叩いた。
超叩いた。
所々に合いの手のような奇声が入り、目は明後日の方向を見ている。
文章では書き下ろせないような奇声を上げてドドンっと太鼓を打ちならした。
「ふう・・・」
気持ちのいい汗がでる。
「あの・・・・・」
リツコの身に緊張が走る。見ると恐ろしいものを見たように体を強ばらせてドアで顔だけ出す加持とキョウシロウの姿があった。
「赤木博士、助けにお伺いしましたけど・・・お邪魔・・・・でしたか?」
「グッドタイミングよ。シャワー浴びてもいいかしら?」
「どうぞ・・・」
リツコはキョウシロウと加持に連れられて葛城の家に向かっている。途中、しゃべったら実験台にするという脅迫をしたのは言うまでもない。



葛城家
「リツコ!大丈夫!?」
ミサトはリツコの姿を見ると駆け寄った。y
「大丈夫よ。ありがとうミサト」
キョウシロウが全員をリビングへと移動させる。
「喜んでいるところをすまないが、今後の話をしよう。今日加持さんと協力してもらって冬月副司令官を拉致して情報を引き出した。バビンスキー」
バビンスキーは頷く。冬月への尋問を直接したのはバビンスキーだ。影絵はキョウシロウが椅子に座っていたのだ。バビンスキーは冬月から得た情報を話した。それは俄には信じられないものだ。
「それじゃあ、シンジ君のお母さんが元凶ってこと!?」
バビンスキーは頷く。リツコは顎に手をあてて考え込んでいる。そして思い出したようにリツコは話し出した。
「バビンスキーの話は正直信じられないけど、あれと一致するわね」
「リッちゃん、あれってなんのことだい?」
「これを見て」
リツコは付箋を見せた。そこには「碇ユイに気をつけろ。彼女は悪魔のような女」とだけ書かれていた。
「なにこれ・・・」
「これはMAGIの、カスパーの心臓部に貼られてあったの、目につかないようなところにね。これを見てシンジ君に退行催眠をかける切欠になったんだけど、正直私も恐ろしいわ。彼女は何を考えているのか」
「確かに彼女が何を考えているのかは俺にもわからん。だが、八角博士の日記には彼女はゼーレの幹部の血縁者らしい。碇ユイは人類の補完を願う側の人間だ。それにネルフ総司令官の碇ゲンドウも賛同していると思っていたが・・・」
「実際はユイさんに会いにいくため。そのためにサードインパクトを起こす。ふふふっ協力していた私が言うのもなんだけど、狂っているわねえ。彼も・・・私も」
自傷気味に笑うリツコ、バビンスキーは話を続ける。

「とにかくネルフ総司令官碇ゲンドウの目的はサードインパクトを起こす事、これに尽きる。これだけは阻止しなくちゃいけない。よって最重要課題として碇ゲンドウの拘束もしくは殺害、これは絶対と言ってもいい。奴が動くときは何かしらのアクションがあるはずだ。それを見逃さないようにしてくれ」
「アクションって・・・なによ?」
ミサトの言葉にバビンスキーは頭をひねらせる。
「そうだな・・・何か大きなことが起きれば・・・」
「あ・・・・」
加持とミサトが何か思いついたような顔をする。
「葛城さん?加持さんまで・・・なにかあったのか?」
「そういえば!ネルフ支部が消滅したじゃない!」
「それ本当なの!?ミサト!」
「本当よ!一昨日に起こったの!原因は不明よ」
ミサトに消滅したネルフの支部を聞いてリツコの顔が青ざめた。
「マズイわ・・・その消滅した支部って・・・ゼーレのメンバーがいる支部じゃない!」
「じゃあ!碇司令がそれを起こしたの!?」
「わからない・・・でも碇司令は今水を得た魚よ。誰も止められる人間がいないわ!」
「くっ!バビンスキー!今から行くぞ!」
ネルフへ向かおうとするキョウシロウをバビンスキーは止める。
「待て!キョウシロウ一人でどうにかなる相手じゃない!応援を呼ぼう」
「ネルフは国連機関なのよ!?保安部には元戦自がゴロゴロいるわ!一国の軍隊相手にするようなものよ!そんなのに対抗できる組織なんてどこにも・・・」
「ある・・・一箇所だけ・・・」
バビンスキーの言葉に注目が集まる。シンジとキョウシロウはすぐに納得した顔をした。
「アルカディア軍だ」
「山下さんのところか・・・確かにいけるね」
「また頼むのかよ・・・なんか悪い気がしてきたぜ」
頷くシンジ、キョウシロウはポリポリと頭を掻いた。ミサトは困惑した顔を浮かべる。
「え?どういうこと?なに?シンちゃんアルカディアって?」
「あ~ミサトさんはアルカディアのこと知らないんですよね。世界最強の夜警国家ですよ。あそことまともにやり合おうなんて国は世界中どこにもないですよ」
「どこにあるのよ・・・そんなの・・・」
「日本です。ぶっちゃけ独立国みたいなものですけど」
シンジはミサトにアルカディアについて簡単に説明する。ミサトは目からウロコのような顔をした。
「廻さん、そんな所とコネクションがあるだなんて・・・何者なの?」
その質問に加持が答える。
「元MAS陸軍特殊部隊所属で大戦後、奥さんを会いに行くためにこの国に喧嘩を売って勝った伝説の英雄さ。俺も最近まで知らなかったがね・・・戦自のブラックリストSSクラスさ」
キョウシロウに注目が集まる。キョウシロウは照れくさそうに鼻の頭を掻いた。
「俺ひとりの力じゃないさ。バビンスキーもいたからな」
「すごいわ・・・そんな人がいたなんて・・・シンジ君が桁外れに強いのも頷ける話ね」
「ミサトさん、僕はキョウシロウさんの一番弟子ですからね」
シンジはニコニコして答えた。その時、ミサトの携帯電話が鳴った。
「ごめんなさい。電話に出るわ。もしもし?日向くん?今?自宅にいるけど・・・ええ・・・え・・・・分かったわ。リツコもいるから丁度いいわね。急いで来て」
「どうしたのミサト?」
リツコの問いには答えずミサトは救急箱を持ってくるとリツコに言った。
「今から日向君がマヤちゃんと青葉君を連れてこっちに向かって来ているわ。何があったのかはこれから聞くけど、青葉君ひどいケガをしているみたいなの。手当して」
「え?ええ・・・」
15分後ミサトの家にころがりこんできた3人。マヤ、青葉それぞれケガを負っていたが、特に青葉がひどい。血だらけだ。
「先輩!」
マヤがリツコの胸に飛び込む。余程怖い思いをしたのだろう、マヤは大声で泣き肩は震えている。
「マヤ、嬉しいけどまずは青葉君の手当をするわ。バビンスキー教授も手伝って!」
別室で青葉の手当をし、マヤはリビングでキョウシロウに手当を受けている。体の至るところににかすり傷と切り傷があった。
「どうしたの日向君、何があったの?」
「はい・・・実は・・・」
落ち着きを取り戻した日向はポツリポツリと語りだした。



約1時間程前  ネルフ本部
「ん~~~~~」
日向は大きく伸びをした。座りっぱなしとはいえ、原因不明の消滅事件のあとのためネルフ本部には緊張の色があったが二日間の間でやるべきことは全て終わっていた。情報の収集にあたっても現地の人間が大混乱のため思うように収集ができないため半ば待機のような状態位だ。少しずつではあるが緊張の糸も緩んできていた。
「マコト、だらけすぎだぞ」
「そうですよ!日向さん!」
すかさずマヤと青葉から怒られる。
「ごめんごめん。なんか緊張の糸が緩んじゃって」
「ま、わからなくはないよな。本部で出来ることなんてたかが知れているし」
「でも・・・」
その時くぅとかわいい音が鳴った。マヤが真っ赤な顔を浮かべた。
「マヤちゃん可愛いお腹の音だね!」
「もう!日向さんからかわないでください!」
「ん?もうこんな時間か、なあ、夜食でも買いに行かないか?」
「そうだな、それなら俺が行くよ。何がいい?」
「カップラーメンとブラックコーヒー、あとパン」
「私はサンドイッチとカフェオレ」
「OK、それじゃ行ってくるよ」
日向は財布を持つと近くのコンビニへと向かう。エレベーターを待っている間、ふと廊下の奥を見ると白衣を着たレイに似た女性がゲンドウを連れて歩いている。日向はその光景に違和感を覚えた。
「あれは・・・レイちゃんに良く似ている人だな。もしかして幽霊?ははっまさか」
日向は軽口をたたきながらエレベーターに入った。



セントラルドグマ
LCLの水槽の中に多くの綾波レイが漂っている。
「どうするつもりだ?」
「人格をデジタル化したダミープラグ。これをこの子達に入れるわ。実験済みなんでしょ?」
「ああ、勿論だ」
「時計の針を進めましょう。そして、人は進化を遂げて新しい人類が生まれるの。私達の元で・・・」
「ああ・・・」
ゲンドウは小さなジュラルミンケースを渡す。少女は中を開けると硬化ベークライトを液体に戻し、中からアダムをつみむように取り出すとそのまま飲み込んだ。
「味・・・しないものなのね」
少女はパネルを弄り、ダミープラグをインストールする。インストールが終わると、LCLの水槽の強化ガラスが割れて中からLCLと綾波レイが流れてきた。
『フフフ・・・』
楽しそうに笑う綾波シリーズ、少女は白衣のポケットに手を突っ込んだままニヤリと笑った。
「さあ、行きなさい。私の娘達」
綾波達は勢い良く部屋から出ていった。セントラルドグマには少女とゲンドウだけが残される。
「始めましょう。真の人類補完計画を・・・」
「そうしよう・・・・ユイ」



保安部控え室
「それでさ~」
「マジかよ!だっせ~」
控え室ではモニターを監視しながらゲームに興じる者や、会話を楽しむ声がする。ドアが開いた。誰か巡回から帰って来たのだろう。ふと視線が集まる。すると扉から全裸の綾波レイが部屋入ってきた。いくら大人だからといってもスレンダーな体型のレイの体は男にとって実に魅力的である。嬉しいが正直困る。一人の保安員がレイに近づく。
「あの・・・ファーストチルドレン、そのような格好をされていると風邪をひ・・・」
鈍い音と共にその男の顔が180度回った。
「・・・え?」
男は膝から崩れる。すると扉からはもう1人、いや2人の綾波レイが姿を現した。
「こ・・れ・は・・?」
その問いに答えはなく、ニヤリと笑うと3人の綾波レイは保安員に襲いかかった。



発令所
急に照明が落ちてモニターが真っ黒になる。
「あれ?停電?」
「変ね、実験なんかやってもいないのに・・・」
すぐに予備電源が動き出し辺りが明るくなる。ドアがあくと中へ血だらけの保安員が駆け込んできた。
「キャッ!」
女性オペレーターが悲鳴を上げる。
「逃げろおおおお!化け物が!化け物があああ!ぐふっ」
彼の体からスラリと白い手が伸びてきた。男の体が崩れ落ちると後ろに何人もの綾波レイが血だらけで立っている。
「きゃああアアアアアアアアアアアア!!!!」
女性の悲鳴で一斉に襲いかかるレイ、ある者は噛み付かれ、ある者は組み伏せられ襲われた。
「マヤ!こっちだ!」
青葉はマヤの手を引いて発令所から命からがら逃げ出した。後ろからは悲鳴が耳に届くが構わず逃げる。二人は緊急脱出ポットに体を滑り込ませるとスイッチを入れて地上へと脱出した。マヤが脱出ポットから顔を出す。続いて青葉が外へ出たところで倒れ込んだ。
「青葉くん!?青葉くん!・・・あっ・・・」
手にぬるりとした感触がする。その手は赤かった。
「いやあああああアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

ネルフ本部入口
日向は途方にくれている。カードを差し込んでもドアが開かない。
「停電でもしてるのかな・・・」
仕方なく別ルートから入ろうと移動したところで青葉から携帯電話に着信が入った。
「もしもし?あれ?マヤちゃん?どうしてシゲルの携帯使って・・・ええ!?」
日向はすぐに車を走らせると青葉といるマヤを保護した。日向は直ぐに信頼がおける葛城に電話をして彼らのもとへ向かった。




「それじゃ・・・今ネルフは・・・」
「はい・・・綾波レイのクローンに占拠されているはずです」
「くそ・・・先手を打たれたということね」
ミサトは悔しそうに爪を噛んだ。そこへリツコとバビンスキーが戻る。
「青葉君の治療は終わったけど、ちゃんとした設備がないとこれ以上は無理ね。今すぐ彼を都内の病院に連れていって」
「わかった」
加持は青葉をおぶさると病院へと向かった。ミサトは厳しい顔でリツコを見る。
「状況は・・・聞いての通り最悪よ。司令が何をやったのかすらわからないわ」
「それは・・・多分、綾波レイのクローンにダミープラグを入れたんでしょうね。行動が原始的ですもの・・・そういうことだと思うわ」
「となると・・・こちらも手を打たなきゃいけないな・・・」
突如、部屋のドアが開いた。加持がカヲルを抱えて部屋の中へと戻ってきた。
「大変だ!この少年が部屋の外に!」
「君は・・・渚カヲル君じゃないか!」
シンジの声にカヲルが反応する。カヲルはゆっくりと手を伸ばした。
「シンジ君・・・時間がない・・・この手を握ってくれ・・・頼む・・・」
シンジは黙ってその手を握ると電気が走ったような痛みが襲った。
「いて!」
「ちょっとアンタ!シンジに何するのよ!」
アスカが牙を向く。カヲルは辿たどしく言葉を繋げた。
「シンジ君・・・君に・・・僕の魂の欠片を託すよ・・・僕は・・・君に出会うために、シンジ君に幸せになってもらうために・・・ここに来たんだ・・・今・・ネルフは・・・うっ・・」
「カヲル君!?カヲル君!」
カヲルは意識を失った。彼もまた加持に連れられて病院へと搬送されていった。


バビンスキーは腕を組んで考え込むと覚悟を決めたように話す。
「葛城さん、キョウシロウ、赤木博士、今から作戦会議だ。場所は」
「それなら加持君の家に行きましょう。子供の前で話すようなことじゃないから」
「ミサト!ここにきて子供扱い!?ふざけないで!」
「アスカ、あなたにもやってもらいたいことが出てくると思うの。それを考えるのは私達がやるわ。シンジ君とアスカは明日に備えて」
「わかった・・・・」
「いいか?それじゃ行こう」
大人たちは部屋を出ていきシンジとアスカだけが残された。急に二人きりになったのでシンジは緊張してしまう。
「あ、アスカ、お風呂・・・入れてくるね」
シンジが声をかけて風呂場へ向かうとアスカがシンジに後ろから抱きついた。
「アスカ?」
「シンジ・・・アタシ怖い・・・」
「シンジが遠くに行っちゃいそうで怖いの・・・ひとりにしないで」
「僕はずっと一緒にいるよ。大丈夫だから」
シンジはそっと手を握る。アスカは強く握り返した。
アスカはその夜何をするにもシンジの側を離れようとはしなかった。ベッドの上で抱き合う二人、指を絡めてアスカはシンジの鼓動を聞いている。
「死んだら・・・許さないからね」
アスカがふと呟いた。シンジは頷く。
二人は何も言わずに互いの温度を確かめていた。



朝、シンジとアスカはネルフ本部の入口へと向かう。現地には既にミサト、加持、キョウシロウ、白鳥の他50人のアルカディア兵が準備をしていた。ミサトがアスカに近づく。
「おはようアスカ。ゆっくり眠れた?」
「まあね~シンジのおかげでね」
「泣いても笑ってもこれが最後よ。覚悟はいい?」
「あったりまえじゃない!さっさと終わらせるわよ」

シンジはキョウシロウと会話をする。
「よう、一端の男の顔になったな。シンジ」
「ええ!?あはは・・・・」
「シンジ、これを」
キョウシロウはシンジにひと振りの刀を渡す。
「これは・・・」
「今日はお前にもやってもらうことがある。すまないが・・・」
「構いませんよ。戦力は欲しいでしょ?」
「すまない」
「大丈夫です。もう・・・僕は亡霊じゃないですから、ひとりの人間として戦いますから。ところでカヲル君の容態は?」
キョウシロウは首を横に振った。シンジはカヲルに触れた手をグッと握りしめる。


『そこに全員いるのか?』
地面に置かれたスピーカーからバビンスキーの声がした。
『みんなには、ネルフ本部へと突入してもらう。敵はデザインヒューマン兵器だ。発見次第即射殺してくれ。目標は碇ゲンドウネルフ総司令官の無力化、及びセントラルドグマの爆破だ。作戦内容はそこにいる葛城三佐より指示がある。それに従ってくれ。アルカディアのみんな、手を貸してくれて本当にありがとう』
山下をはじめとするアルカディア兵はスピーカーに向けて敬礼をした。
ミサトが大声を出す。
「作戦内容を説明します!作戦名は『Wille』!さあみんな行くわよ!」






To be continued

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