『もしもし?洞口ヒカリさん?葛城よ』
『ちょっとあなたに頼みたいことがあるの。・・・・いいえ、違うわ。もっと個人的なこと』
『ウチの家で犬とペンギン飼っているでしょ?温泉ペンギン。あの子達をしばらく預かって欲しいのよ。しばらく家に帰れそうにないから』
『シンジ君とアスカ?あの子達は前の戦いで重傷を負っちゃってしばらく入院しなきゃいけないの・・・・お見舞いか・・・ごめんなさい、それは無理なのよ・・・わかったわ彼らに伝えておくから。それじゃお願い』
「シンジ君・・・アスカ・・・」





第十九話 魂のルフラン

あぐおさん:作

ジオフロント内の病院からミサトは電話をした。シンジの容態を見るためだ。幸い命に別状はないが、意識はまだ戻っていない。問題はアスカのほうだ。彼女は弐号機に取り込まれたままだ。エントリープラグの中を映像で見た時、ミサトはショックを受けた。彼女のプラグスーツだけが浮いていて彼女がいなかったからだ。リツコが言った。
「これが400%の結果よ」
自分の無力さをこれほど痛感した出来事はない。
「シンジ君になんて言えばいいのよ!」



????
『エヴァシリーズに生まれるはずのないS2機関』
『まさか、あのような、やり方で自ら手に入れるとは、我々とは大きく異なったシナリオだよ』
『この修正、容易ではないぞ』
『そもそもあの男にネルフを渡したのが間違いではないのかね?』
『しかし、あの男でなければ、全ての計画は遂行されなかっただろう。碇、何を考えている?』



司令室では冬月が声を荒らげている。
「どうするつもりだ碇!あんなの俺のシナリオにはないぞ!」
「弐号機の一件は全て不慮の事故です。我々の制御下ではなかった」
「委員会にはどう説明する!?」
「弐号機は次の使徒が来るまで凍結する」
「言い訳は既に考えてあるというわけか!お前から委員会に説明をするんだな!」
冬月は怒りを抑えられそうにないため、司令室を出ていった。




病院
シンジが目を覚ますと隣にレイが座っていた。彼女もケガをしているらしく、頭に包帯を巻いている。
「綾波・・・」
「碇君、目が覚めたのね」
シンジは飛び起きた。
「・・・そうだ!使徒は!?アスカは!?」
「使徒は、セカンドが殲滅したわ。セカンドには、もう会えない」
「どういうことだよ・・・どういうことだよ!綾波!」
「彼女は、弐号機に取り込まれたわ」
「!!!!!」
シンジはベッドから降りるとふらふらとした足取りで部屋を出ていこうとする。
「どこ、行くの?」
「アスカの所に決まってるだろ!?」
レイがシンジの前に立って出口を塞いだ。
「どけ!綾波!」
「ダメ、行かせない」
「そこをどけ!」
無理矢理レイをどかそうとするが、力が入らないためか、足から崩れ落ちる。
「行かなきゃ・・・アスカが待っているんだ!行かせてくれ!綾波!」
「ダメ、行かせない」
「なんで・・・なんでだよ!」
「セカンドじゃ無理よ。碇君は、私が守る」
レイはシンジを抱き寄せた。
「私だけが、碇君を支えられる。私だけが、碇君を理解できる。セカンドじゃ、無理」
「・・・なに決めつけているのさ・・・」
「行かないで、碇君」
シンジはレイの手を優しく離すと綾波の目を見た。表情こそは変わらないが、目は強くシンジを見返している。
「綾波、ありがとう・・・」
「・・・・・・」
「でも、僕はアスカじゃないとダメなんだ」
シンジははっきりと言った。
「どうして?どうして、私じゃダメなの?」
「アスカだけが・・・僕の心に触れた。僕だけが・・・アスカの心に触れたんだ・・・・それを誰にも譲る気は・・・ないよ」
シンジはもう一度立ち上がるとレイを押しのけ病室を出ていった。



アスカちゃん・・・・


誰かが呼んでいる。


アスカちゃん・・・


この声をアタシは知っている。何処か懐かしい優しい声。


「アスカちゃん」


「う・・・ん・・・」
アスカが目を覚ますと見覚えのある天井が目に飛び込んできた。そう、ここはアスカが幼少期過ごした部屋。アスカがゆっくりと体を起こすと一番会いたい人がそこにいた。
「ママ・・・」
「ようやくお目覚めね、アスカちゃん」
アスカは抱きついた。懐かしい母の匂いがする。ずっとずっと欲しかったものだ。涙が溢れる。
「ママ・・・ママァ・・・」
「あらあら、困った子ね。甘えん坊さんで」
キョウコは笑顔でアスカを抱き返し、頭を優しく撫でた。
母親に会いたい。母親に抱きしめて欲しい。母親に撫でて欲しい。それはアスカがずっと切望しながらも叶うことない願いだ。それが今自分の目の前にある。それだけで心が満たされていった。キョウコは優しくアスカの体を離した。
「ほら、もうすぐお昼ですよ。ご飯の用意ができるから、一緒に食べましょう」
「うん!」



ネルフ本部
リツコ主導の下、アスカのサルベージ計画が着々と進行している。リツコはミサトに計画の説明をした。
「アスカのサルベージ計画?できるの?そんなことが」
リツコは頷く。しかし“あくまでも理論上は”という枕詞がつく。
「アスカの生命という存在はまだ存在しているわ。彼女の肉体は自我境界線を失って量子状態のままエントリープラグ内を漂っていると思われます。エントリープラグ内のLCLは現在化学反応を起こして、原始地球の海のようになっているわ」
「生命のスープってわけね・・・」
「アスカを構築していたものは全てエントリープラグ内にある。魂というのもあるわ。彼女の肉体を再構築して、そこに精神を定着させるの。MAGIのサポートを使ってね」
「理論上でもなんでもやらなきゃわからないわ。成功させましょ」
「ええ、彼女のことを待っているシンジ君のためにも」
「私達も・・・よ」
ミサトとリツコは互いに頷くと部屋を出ていった。



「ママー早く早く!」
アスカは大きく手を振る。その先にはキョウコが笑って歩いている。
「早いわよアスカちゃん。そんなに急いでもお店は逃げないわよ」
「だって~久しぶりにママと買い物ができるんだもん・・・」
むくれた表情を浮かべながらも目は輝きを放ち、楽しくて仕方がないというオーラが体中から溢れている。赤いコートに身を包んだアスカは顔をあげた.。そこには曇天とした雲が広がり今にも雪が降り出しそうだ。ドイツは常冬で明け方は氷点下を下回ることなどしばしばだ。アスカを冷たい風が襲う。
「くしゅん!」
可愛いくしゃみが出た。キョウコが近づいてきてアスカに自分が巻いていたマフラーを巻きつけた。
「これでいいわ」
「あったかい・・・ありがとう。ママ」
「アスカちゃんは最近まで日本にいたのだから寒さには慣れていないのね。あそこは常夏だから」
アスカの心に何かが引っ掛かる。
(なんだろう・・・なにか大切なことを忘れている気がする・・・アタシの・・・大切な)
「アスカちゃん?」
キョウコの呼び掛けに意識を取り戻した。キョウコが心配そうな顔でアスカを見つめている。
「どうしたの?アスカちゃん。なにか悩み事でもあるの?」
「ううん、なんでもないわ。さあ!行こう!ママ!」
アスカは首を横に振るとキョウコの手を取って歩きだした。モヤモヤと頭の中に引っ掛かる何かを気にとめながら。



ネルフ本部発令所
アスカのサルベージ作戦を着々と進める中、一本の内線が入った。
「はい、・・・なんですって!?それで!?・・・はい・・・はい・・・わかったわ」
ミサトが内線を切る。リツコが話しかけてきた。
「病院から?シンジ君になにかあったの?」
「・・・病院を抜け出してこっちに向かってきているみたい。もう!何やってるのよ!シンジ君だって回復しきれてないじゃない!」
「ミサト、シンジ君を中に入れてあげて。ひょっとしたら・・・彼が居てくれたら・・・あるいは・・・」
『赤木博士、準備整いました』
オペレーターが合図の時を待つ。リツコは弐号機のゲージが見える位置まで移動すると小さく息を吸い込んだ。
「作戦開始。サルベージ。スタート」
『了解!第一信号送ります』
『信号を受信。拒否反応なし』
『続いて第二、第三信号送信』
『対象カテクシス、異常なし。デストリドー、認められません』
「了解、対象を第二ステージに移行」
「アスカ・・・」
心配そうに見つめるミサト、リツコはモニターの動きを注意深く見ている。シンジはゆっくりと足を前に出しながら弐号機が収められているゲージへと向かってた。



街角のカフェで紅茶を楽しむ親子。行き交う人々はどこか忙しそうに街を歩いている。
「そろそろ還りましょうか。アスカちゃん」
「うん!」
キョウコはアスカの手を握ると笑って言った。
「アスカちゃん、もう寂しい思いはさせないから、ママとずっと一緒にいようね?」
「ママ?」
嬉しいはずなのに、何故か答えられなかった。アスカの頭の中で引っかかっている何かはどんどん形を大きくしていった。アスカはキョウコと手を繋いで家路を急いだ。風が冷たい。もうすぐ雪が降りそうだ。



『ダメです!自我境界がループ上に固定されています!』
「全波形域をを全方位で照射してみて!」
モニターを見ていたリツコが悔しそうに机に手を叩きつける。
「ダメだわ・・・発進信号がクライン空間に捕らわれている・・・」
ミサトが心配そうな顔をしている。
「リツコ、つまりどういう事?」
「・・・失敗・・・よ・・・」
「えっ!」
「干渉を中止!タンジェクトグラフを逆転!加算数値を0に戻して!」
最悪な事態は避けようと対策を施すリツコ、しかし状況は悪くなる一方だ。その様子はミサトにも伝わる。ミサトはその場にいることに耐えられなくなり弐号機がいるゲージへと急いで向かった。自分の声を取り込まれた彼女に届けたかったから、その場にいるのが辛かったから、ミサトは走った。ゲージに向かう途中、ふらふらとした足取りで向かうシンジがいた。
「シンジ君!大丈夫なの!?」
シンジは答えない。額からは脂汗が滲み出ており、その苦痛さを物語る。ミサトは何も言わずにシンジの腕を肩に回すと彼を引きずるようにゲージへと向かった。


発令所
リツコの指示が飛ぶ。オペレーターも最悪の事態だけは避けようと必死にモニターを見ながらパネルを忙しなく動かしている。
「現状維持を最優先!逆流を防いで!」
『体内アトポーシス作業、予定数値オーバー!危険水域です!』
『ダメです!塞ぎ止められません!』
『エヴァ、信号を拒絶!』h
『LCLの自己フォーメーションが分解していきます!プラグ内圧力上昇!』
「作業中止!電源落として!」
『ダメです!プラグがイクジットされます!』
「アスカ!」


ゲージにシンジとミサトが着いたとき、エントリープラグが排出されてハッチが開き中から大量のLCLが流れ出した。その中にアスカが着ていたプラグスーツも流れ出した。
「・・ア・・・スカ・・・・」
ミサトはガックリと膝をついた。シンジはふらふらとした足で歩き、彼女のプラグスーツを大事そうに抱きかかえた。
リツコはモニターを殴りつけた。
「なにが・・・何が科学よ!何が人の力よ!人一人救えないくせに!」
「やめてください先輩!」
モニターを殴りつけるリツコをマヤが止めに入る。リツコはマヤを抱きしめ泣いた。
シンジはプラグスーツを抱きしめたまま動かない。ミサトも声をかけることが出来なかった。シンジはゆっくりと顔をあげて弐号機を睨みつける。
「返せよ・・・・アスカを返せよ!」
「アスカァァァァァアアアアアアア!!!!」




「!!」
アスカは家に向かう途中後ろを振り返る。誰かに呼ばれた気がしたから、彼女の一番大事な人を思い出したから。
「アスカちゃん?どうしたの?」
心配そうな顔をするキョウコ、アスカは笑った。
「ごめんママ。私、ママと一緒には行けない。アイツの所に戻らなきゃ」
「アスカちゃん?どうして?ママと一緒にいたくないの!?ずっと一緒にいられるのよ!?」
アスカはゆっくりと首を振る。
「私、ママと別れていつも寂しかった。もう泣かないって・・早く大人になって強くならなきゃって・・・ひとりで生きていかなきゃって・・・そう思ってた。でも、そうじゃなくていいよってシンジが教えてくれた。シンジは凄く強い人だって思っていたけど、シンジは誰よりも弱かったの。いつも自分の過去に怯えて、人から拒絶されることを恐れて、自分には何もないって、そう思い込んでいて、それを悟られないように明るく振舞ってた。シンジは私と同じなの。だから、アイツは私が居ないとダメになっちゃうの。私がアイツを支えてあげないと、だって・・・」

「シンジのいる所がアタシの居場所だから」

「アスカちゃん・・・」
「だからママと一緒には行けない」
キョウコはアスカを抱きしめた。目には涙溢れている。
「アスカちゃん・・・もう大人の女性になったのね」
「ママ、また会えて嬉しかった!」
「ママもよ。アスカちゃんにこんな寂しい思いさせて・・・母親失格ね。ごめんなさい」
「謝らないで!ママが居なかったらアタシは産まれて来なかった。アイツに出会えなかった!アタシ一人じゃここまで来れなかった!シンジが居てくれたからアタシはたどり着けた!ここまで来るのに、随分と遠回りした気がする。沢山大事なものを落としてきた気がする。それが・・・ほかの人より多い気がするけど・・・でも、今なら胸を張って言えるわ」
「・・・・・」


「ママ、私を産んでくれて、ありがとう」


キョウコは強く抱きしめる。アスカも強く抱き返した。静かに二人の周りに雪が舞い降りる。
「ママ、お願いがあるの」
「なあに?アスカちゃん」
「今度生まれ変わっても、もう一度ママの子供に産ませて」
「ええ・・・何度生まれ変わっても、アスカちゃんはママが産んであげるからね・・・産まれてきてくれてありがとう。アスカちゃん」



ゲージでプラグスーツを抱きしめるシンジ、ミサトはシンジの肩を抱きしめている。
ボゴッ!という音がするとエントリープラグの中からアスカが吐き出された。
「アスカ!」
シンジは這いずるようにアスカに近づくと、アスカを抱きしめた。ミサトははすぐに救助隊を派遣、シンジも一緒に病院に送られた。


リツコとミサトはリツコの部屋でコーヒーを飲んでいる。
「弐号機の修復は明日完了するわ。零号機も明日よ。初号機は・・・まだまだ先ね」
「仕方ないわよ・・・シンジ君が生きていただけども儲け物よ」
「でも良かったわ・・・アスカが出てきてくれて・・・エヴァンゲリオン・・・人には過ぎたものね」
「その不明なものすら飛び越える愛の力!く~~~~~!!!ビールが欲しいわね!」
「久しぶりに二人で飲みに行く?」
「加持も呼んで3人で行こうよ。なんだかバカ騒ぎしたい気分だわ。お酒とツマミいっぱい買って家で飲むのはどう?」
「いいわね。私も騒ぎたい気分だったのよ。それじゃ連絡お願いね、フィアンセ様」
ミサトは携帯電話を取り出し加持にかけた。



アスカの検査は入念に行われたが、特に目立ったこともなくすぐに退院できた。シンジが退院できたのはその一週間後のことだった。シンジの退院にアスカは当然の如く駆けつけた。夕飯のリクエストを携えて、シンジは一体誰の退院祝いなのだろううかと考え込んだ。
夜、夕食が終わるとシンジはいつものようにお風呂の準備をする。お風呂の準備をしながら待ち時間を利用して洗い物を片付け始めた。アスカはシンジの背中をずっと追っている。
(アイツの声を聞いてアタシは戻ってこれた。アタシがいなきゃダメなんてママに言っちゃったけど、ダメなのはアタシのほうよね)
「アスカ」
「ひっ!」
急に声をかけられたためびっくりするアスカ、シンジはキョトンとしている。
「な、なによ!」
ついつい声がきつくなる。
「お風呂入ったよ」
「あ、そう・・・」
アスカは席を立ち上がると、そのまま立ち止まった。
「そういえばシンジ、アンタまともにお風呂入ってないでしょ?」
「うん、病院じゃ体を拭いて終わりだったからね。そんなに匂うかな?」
シンジは自分の体の匂いを嗅ぐがわからない。アスカは思わず笑ってしまった。
「そんなに笑うことないじゃないか」
「ごめん、なんか可笑しくって・・・今日はと く べ つ に 先に入ってもいいわよ」
「そう?じゃあ先入るね。少し気になっていたんだ」
シンジはエプロンを脱ぐと下着と着替えを持ってお風呂へ向かった。30分後、いつもより長く入ったシンジが出ていき、入れ違いにアスカがお風呂場へと入っていった。
シンジは冷蔵庫から麦茶を出して飲むと自分の部屋へと戻る。布団を敷くとゴロリと寝転がった。見慣れた天井が視界に映る。
(アスカが戻ってきてくれて良かった。僕は・・・本当にダメな奴だな・・・アスカに心配ばかりかけて・・・)
バビンスキーは白鳥の家で調べ物があると言って家にはいない。ペンギンのペンペンはすでに冷蔵庫の中で寝ている。ミサトは加持とデートで帰ってこない。アスカと二人きりだと思うと急に緊張してきた。
ふとシンジが考え事にふけっていると、襖が開いてアスカがそこに立っている。風呂上がりのためかバスタオル一枚の姿だ。
「アスカ?どうしたの?」
アスカは何も言わずに部屋の中に入ってくる。アスカがシンジの部屋に入ってくるのはなんどもあったが、バスタオル一枚というのは初めてだ。シンジの質問を無視して部屋の中へと入るとそのままシンジを押し倒して馬乗りになり大人のキスをする。
「ん!ん、ん~!」
アスカの舌がシンジの口内に入ってくる。激しいアスカの行動にシンジは混乱した。唇を離すとアスカがじっとシンジの目を見る。その瞳は潤んでいる。
「シンジ・・・」
「な、なに?アスカ」
「・・・抱いて」
「はい!!??」
「抱いて欲しいの・・・」
「え!?ちょっと!?アスカさん!?本気なの!?」
「アタシは本気よ。シンジに抱かれたい」
あまりのことで思考が追いつかないシンジ、落ち着いてと言いたいがまず自分が全く落ち着かない。やっと出た台詞は情けないものだった。
「さ、流石に僕らじゃ早いんじゃ・・・」
「何言ってるのよ!」
アスカが声を上げる。
「アタシ達はヒカリとか普通の中学生じゃないのよ!?明日には死んじゃうかもしれない!そんな非日常の世界で生きているのよ!?アタシ達には“明日”なんてモノはないのよ!“今”しかないのよ!アタシは!今のまま死ぬなんて絶対イヤ!シンジが死ぬのもイヤ!アタシはシンジに女にして欲しい。他の男じゃ嫌なの・・・お願い・・・」
最後は涙目になりながら懇願する。シンジはそっとアスカの肩を掴む。その肩は微かに震えていた。シンジはアスカの目をまっすぐに見る。シンジは覚悟を決めた。
「僕でいいの?」
「シンジじゃなきゃ・・・イヤ・・・」
シンジはアスカを抱き寄せると耳元で囁く。
「やっぱダメだよね。僕は、こういうことはちゃんと男から言わないといけないのに・・・」
「・・・・」
「改めて僕の口から言うよ」
「シンジ・・・」
「アスカが欲しい」
「・・・ずっと・・・その言葉、待ってた・・・」
バスタオルが落ちる。シンジは全てを吐き出すかのようにアスカを求め、アスカは全身を使ってシンジを受け入れた。破瓜の証でアスカの目に涙が溢れた。貪るように求め合う二人、それは盛りのついた雄と雌の交わりかもしれない。或いは傷ついた男と女の傷の舐め合いかもしれない。その行為は深夜を過ぎても続けられた。


儀式を終えた二人はそのまま抱き合って寝ている。アスカはシンジの胸に顔を埋めて安心しきった顔を浮かべている。ふとある疑問がシンジの脳裏を過ぎった。
「アスカ」
「なあに?シンジ」
「アスカは・・・この戦いが終わったら・・・どうなるのかな?」
「どうなるって・・・ずっとあなたと一緒よ。それ以外に考えられないわ」
何があっても絶対に離れない。そう言うかのごとくシンジの体に手足を絡める。
「いや、そうじゃなくって、アスカはユーロの空軍に所属しているでしょ?終わったら帰国命令が出るんじゃないの?」
「そんなの無視よ無視!それともなに!?アタシがいるのが不満だってーの!?」
「違うよ!そんなわけないじゃないか!」
「じゃあなんだってのよ!」
興奮するアスカを宥めシンジはポツリポツリ語る。
「これが終わったら、アスカは人類を救った英雄の一人に祭り上げられちゃうと思うんだよね。そうなったら是が火でもユーロはアスカを帰国させると思う。もしくは国籍がアメリカだから、アメリカが国籍を理由に引き取る圧力を政府を通じてかけてくると予想できる・・・大人の都合ってやつだよ。そうなったら・・・どうしようって、不安に思っただけだよ」
シンジの言いたいことはわかる。事実そういう事態はアスカも予測していた。シンジと想いを繋げる前はそのままドイツに帰ることを考えていただろう。しかし、今は日本を、いや、シンジの側から離れる気は全くない。アスカは終わったらすぐにでも除隊をするつもりだろうが、相手が理由をつけて飼い殺しにするのは目に見えている。シンジは一頻り考えた後、ある考えを聞かせた。
「もし・・・アスカがドイツに帰国するっていう話になったら・・・」
「・・・・・・・」
「キョウシロウさんがシノさんにやったように、アスカのこと攫うから、アスカを奪って、どこか遠くの誰も知らないような場所に連れていくから」
シンジからの思いがけない提案、アスカは目を丸くした。
「さらって・・・くれるの?」
「うん」
「うばって・・・くれの?」
「うん、そのつもり」
アスカの目に涙が溢れる。
「攫ってくれるなんて!―奪ってくれるなんて!」

「そんなこと、絶対にされたいに決まってるじゃない!」

「どこにでも連れ去って!シンジがいればどこでもいいから!」
シンジに強く抱きつくアスカ、シンジは優しく抱き返した。夜はひっそりと更けていった。





『シンジ君、君は幸せになるために彼女と行く道を選んだんだね』
『やはり、シンジ君は彼女と結ばれるほうが、他の誰よりも幸せそうに見えるよ』
『次は僕の番だね。シンジ君の幸せのために、僕のやるべきことをするよ』
『僕はシンジ君を幸せにするために、産まれてきたんだから』



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あぐおさんから「EVA2015」の19話をいただきました。
シンジではなくアスカがシンクロ率400%だとか、いろいろおおきく変わる回でした。
そして二人の関係も完全にらう゛らう゛になってしまっていて。
本当に大きな変化ですね。
続きも期待して待ちましょう!

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