第十八話 残酷な天使

あぐおさん:作


夜、リツコは加持の家にいる。包帯が取れていない体が痛々しい。リツコは痛みを堪えてここにいる。彼女の前には加持とキョウシロウが座っている。
「シンジの奴、そんなことがあったのか・・・」
トウジの話を聞いてキョウシロウは静かに怒っている。
「ごめんなさい廻さん。ダミープラグが完成していれば・・・こんなことには・・・」
「リッちゃん、それは違う。リッちゃんのせいじゃない」
「そうだぜ赤木さん。もし完成していたとしても、その子は間違いなく死んでいただろうな。そのダミープラグによって殺されただろうよ」
「その可能性は高いな。碇司令は仕事に関しては非情だからな。試す口実を作ったかもしれん」
「私は・・・司令の愛人だったわ・・・彼のためなら汚れても構わなかった。一瞬でも私を見てくれたら、それで良かった!でも、もう無理。あの人は・・・今でも奥さんの影を追い続けているわ。私・・・これまで何のためにやってきたの!?」
リツコは泣き出した。加持はそっと肩に手を置く。リツコは涙を拭いて顔を上げる。
「ダミープラグはレイのデータを元に作ってあるの、でもそれはプログラミングだけで動くよう簡単な代物じゃないわ。人の本能そのものがデジタル化ものなの。そしてレイは・・・碇ユイの遺伝子と使徒リリスの細胞から作り出されたデザインヒューマン。つまりクローンよ」
「なんだって!?それじゃ綾波レイは!」
「人と使徒の中間の存在・・・今の彼女が死んでもその魂は予備のクローンに引き継がれる。彼女の予備はセントラルドグマ、LCLの水槽の中に漂っているわ」
「国際違反どころの話じゃないじゃないか。いくらなんでもそれはやりすぎだ」
「このことを知っているのは司令と副司令、あと私だけよ」
「赤木さん教えてくれ。そうまでして達成させたい悲願はなんだ?あなたなら知っているはずだ」
「表向きは使徒の殲滅だけど、ネルフはゼーレの傘下にあるわ。彼らの目的は“人類補完計画”の成就。でも司令は違う。司令と副司令の目的は・・・碇ユイの復活。黄泉がえりよ。すべての人を地獄にたたき落として自分の最愛の人に会うことよ!」
「それだけのために?狂ってるな」
「リッちゃん、その人類補完計画ってのは何をするんだ?いくら調べても出てこないんだ」
「それは・・・私も分からない。全ての人をひとつにするとしか聞かされていないから・・・」
申し訳なさそうに答えるリツコ、キョウシロウが口を開いた。
「それが何をするのかは八角博士の日記から出てきたよ。正直眉唾物だったから本気にはしていなかったが・・・」
「本当か廻さん!」
「どうしてそれをあなたが!?」
「リッちゃん、廻さんのスポンサーはゼーレの幹部のひとりだった人の血縁者だったのさ」
「そうだったの・・・廻さん教えて!人類補完計画ってどういうのなの!?」
「全ての人を・・・LCLだっけか?その物質に変えてやり直すことらしい。そうすれば今の地球規模のあらゆる問題、紛争、エネルギー問題、貧富の格差、温暖化現象などなど、色んな問題が解決する。当たり前だよな?人間が地球上から居なくなっちまうんだから」
「つまり言い方を変えれば全人類の抹殺じゃないか!」
「人の形を創り出すATフィールドを無効してしまえば人はLCLになってしまう・・・そしていつの日かLCLの海から新たな人は生まれてくる・・・そして生まれて来る新しい人は補完された完璧な人間。そういうことね?」
「詳しいことは俺にはさっぱりわからん。とにかくこいつを阻止しなきゃいかんことは確かだ。赤木博士、協力してくれるかい?」
「もちろんよ」
リツコは強く頷いた。その時だ。呼び鈴が鳴る。
「はい、どちら様ですか?」
『宅急便です!お荷物が届きました』
加持はキョウシロウと目を会わせる。キョウシロウは頷いた。
「鍵は開けたので入って来てください」
『はい、失礼します!』
ドアが開く音がする。すると3人の男が部屋の中へと入ってくる。その手にはサイレンサー付きの拳銃が握られていた。ダイニングへ足を踏み入れたその時、キョウシロウが物陰から襲い掛かり、体を押さえつけると拳銃を奪い直ぐ様発砲した。後ろから来ていた2人の男は頭に狙撃され即死、キョウシロウは押さえつけた男の首に腕を巻きつけると一気に捻り首の骨を折った。
「凄いな・・・3人の刺客を一瞬のうちに・・・」
拳銃を構えていた加持は驚きの声をあげた。一切の無駄がない攻撃だ。
「俺を誰だと思っているだい?あの廻キョウシロウ様だぜ」
「廻さんの戦闘技能は軍に所属していたことを知っているからわかる。しかしここまですごいとは思ってもみなかった。しかも、あの“アルカディア”とも接点があり、ゼーレの幹部の血族とも知り合いだなんて・・・出来すぎている。何者なんだ?」
「・・・そうだな、俺が話すより“スポンサー”に会ってもらったほうが早いかな?」
「会わせてくれるのか!?あの八角キヨタカの隠し子に!」
「向こうと連絡をとってみるよ。それからだな」

キョウシロウはバビンスキーに連絡をした。
「なあ、そろそろネタバレをしてもいい頃合だと思うんだが」
「キョウシロウがそう思うなら俺は構わないさ。明日こっちの家に来るかい?」
「そうだな、白鳥も呼ぼう。あいつの力も今後必要になるだろ?」
「そうだな、そうしよう」
バビンスキーは電話を切るとシンジを呼んだ。
「なに?バビンスキー」
「明日ここにキョウシロウと白鳥、あとネルフの人間がこっちに来る。暴露大会だ」



夜、ミサトの家にキョウシロウ、白鳥、加持、リツコ、ミサトが集まる。何も聞かされていないミサトは怪訝そうな顔をした。アスカも同様だ。キョウシロウは全員が集まったことを確認すると話し始めた。
「本日はお日柄も良く~」
「キョウシロウさん、加地さんとミサトさんの式はまだだから」
「すまんシンジ、こういうのに慣れてなくてな・・・今日集まってくれた人はみんな同じ目的がある人間だ。そこで、加持さんに言っていた“協力者”を紹介しようと思う。ではどうぞ!」
「廻さん?ここにいる人間はこれで全部だけど?」
ミサトはビールを飲みながらバカにしたように喋る。直後、アルコールは吹き飛んだ。
「オレだよ」
「・・・・・え?」
「俺がキョウシロウの言う八角キヨタカの隠し子扱いされている。バビンスキーだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「「犬がしゃべったあああああああああああ!」」」
「犬が!犬がああああああ!!!!」
「これぬいぐるみじゃないのか!?マジか!?マジなのか!?」
「解剖させて!お願い!今すぐ解剖させて!」
「教授、収集つかなくしてどうするのよ?」
「落ち着いてください!僕が最初から説明しますから!」
シンジは加持、ミサト、リツコを落ち着かせるとバビンスキーのことを話した。加持、ミサトは未だに信じられないという顔をし、リツコは怪しげに目を光らせている。
「じゃあ私達が話をしているのは・・・八角キヨタカ本人ということ?」
「脳だけを言うならそういうことだな」
「ああ・・・感動だわ・・・あとでゆっくり話を聞きたいわ・・・むしろ解剖したいわ・・・」
「少し黙れよ金髪黒眉マッドサイエンティスト」
バビンスキーは咳払いをすると話し始める。
「まず、この騒動の発端はそもそも何億年という昔に遡る。アダムと呼ばれる使徒の卵が南極に落ちてきた。その段階で使徒という生命体はすでに生まれていたらしいと博士の日記には記されている。そして少し後に今度は箱根にリリスというのが地球に落ちてきたんだ。それがファーストインパクトと言われている。そして彼らから生まれたのが人間、知恵の実をつけた人ってわけさ、俺達の敵と言われている使徒は人としての別の可能性だったということらしい」
「らしいって・・・」
「俺に聞くな。全ては博士の書いた日記とゼーレに関する資料から読み取れたんだ。半信半疑だがな・・・話を戻すぞ。だが、この使徒というのも人間もぶっちゃけお互いが生き物なわけだ。そして互いが互いに喉から手が出るほど欲しいものを持っている。では原始的に考えてそれを手に入れるためにどうするか?“相手から奪う”という選択肢しかないのさ。それがこの戦いの本来の目的さ。今の世の中だって似たようなものだろ?ほしい資源があって独占したい。そうしたければ相手から奪う。セカンドインパクトの後の紛争だって似たようなもんさ。結局やってることはお互い対して変わらないのさ」
「じゃあ!セカンドインパクトってなんなの?なんで起きたのよ!」
「あれはゼーレが人類を新たなステージに導こうと焦って起こした結果さ。第二次世界大戦、そして冷戦、キューバ危機などなど、その頃の世界は僅かなさじ加減で核戦争が勃発してしまうような雰囲気だったんだ。当然このままじゃいけないと国連をはじめとして世界各国が動いてなんとか事なきを得たが、次に浮上したのが温暖化現象をはじめとする環境問題、貧富の格差、宗教戦争に民族紛争、そういう問題を解決するためにはどうすればいい?極論を言えばみんなひとつにまとまればいい。だがそれを本気でやろうとしているのがゼーレ、ネルフの上の組織って話だ。セカンドインパクトは・・・それらの問題をすべて解決するためにゼーレが“無理矢理起こして失敗した結末”なのさ。そしてそれを指揮していたのが、ゼーレのリーダー、キース・ローレンツと碇ゲンドウってわけさ」
「じゃ、じゃあ!父さんを殺したのは碇司令だってこと!?」
「そういうことになるな・・・・」
「待ってミサト、やったのは碇司令であることは確かなんだけど、彼が自主的にやっていたかどうかわからないの。事実、碇司令は何者かに洗脳されていた形跡があったわ。だとすれば実行犯は司令でも彼を操っていた人物がいるということになるわ」
「だからなんだってのよ!父さんを殺したことに代わりはないじゃない!」
声を荒らげるミサト、加持が間に入った。
「葛城!落ち着け!つまり碇司令をここで殺しても、またその意思を継ぐものが現れて鼬ごっこになるだけだ!ここは様子を見て真犯人を見極めたほうがいい」
ミサトは渋々納得した。バビンスキーは首を傾げた。白鳥が疑問を投げかける。
「真犯人ってどういうことだ?どう見てもゼーレが主犯で碇ゲンドウが実行犯だろ」
「白鳥さん・・・それは・・・」
「待って」
加持の言葉を制してリツコが前に出る。
「それは、私の口から話すわ。碇司令に洗脳された、いえ現在も洗脳され続けている可能性が出てきたの。実は・・・シンジ君ごめんなさい。あなたに退行催眠をかけてあなたの過去を知ろうとしたのよ」
今度はアスカが黙っていない。
「リツコ!アンタねえ!やっていいことと悪いことの区別も付かないの!?シンジの過去は興味本位でいじっていいような過去じゃないわ!」
「アスカ落ち着いて、シンジ君の過去に土足で入ろうとしたことは謝るわ。それよりもっと衝撃的なことを知ったの。シンジ君、あなたお父さんとお母さんと一緒に住んでいいた頃の記憶あってある?」
「4歳のころですよ?ほとんど覚えてないですよ」
「そうね、今の碇司令は自分の子供ですらコミュニケーションを取ろうともしない人だけど、昔は親バカだった・・・と言われて信じられる?」
「えええ!?リツコ・・・それはないわよ・・・」
「あの無愛想を服で着ている司令が?想像もできないわね・・・」
「そうよね、普段のあの人を見ていたら想像すらつかないわ。でも、あれから色々調べてみたの。そしたらネルフの前身、ゲヒルン研究所の所長という立場にも関わらず育児休暇をとっていたのよ」
ミサト、シンジ、アスカの3人が一生懸命笑いを堪えている。たまらずミサトが聞いた。
「ごめん・・・笑うところ?」
「笑っちゃダメ、言っている私も吹き出しそうだから。そんな子煩悩の人が奥さんが他界しただけであそこまで子供に無関心になるかしら?普通ならどんなに大変でも自分で育てようとするわ。矛盾しているのよ」
「確かにそうね・・・ところでなんでシンジ君の過去を調べようとしたのよ」
「単純に興味が湧いたから・・・アスカ睨まなくてもいいわよ」
シンジの隣で物凄い顔をしてアスカが睨みつける。シンジは言った。
「そんなに僕の過去が知りたいのでしたら、教えますけど?」

「シンジ!」
「シンジ・・・大丈夫なの?」
キョウシロウとアスカが心配そうな顔でシンジを見る。シンジは頷くと、全員に自分の過去を全て話した。想像すら出来ないシンジの過去にリツコ、ミサト、加持は言葉を失った。
「シンジ君・・・ごめんなさい。辛いこと思い出させちゃって」
「いいんです。もう大丈夫ですから・・・」
「シンちゃんがいつも一線引いてみんなを見ている理由がわかった気がするわ。それよりも・・・」
「なんですか?ミサトさん」
「いつまでアスカ、シンちゃんの腕を組んでるの?」
シンジが話しをし始めるとアスカはシンジを支えるようにシンジに寄り添い腕を組んでいる。最早夫婦そのものだ。
「いいじゃない別に、アタシ達そういう関係なんだし」
「「「ええええええええええええええええ!!!!!」」」
ミサト、リツコ、加持は目が飛び出すほど驚いた。
「いつの間に・・・」
「ついこの間よ。文句ある?」
「ないけど・・・家でイチャイチャしないでね。帰れないから」
「じゃあさっさと加持さんの所行きなさいよ。邪魔だから」
「アスカ、俺はもう少し料理が上手くなってから来てもらったほうがいいかな~」
キョウシロウが手を叩く。
「取り敢えず今夜はここまでしよう。夜も遅いしな。赤木博士まずはそのダミープラグって奴を劣化版でもいいから完成させたほうがいい。さもないとあなた自身の命が危ないからな」
「分かったわ。もうひと手間加えるだけで司令に渡せるレベルにはなるから」
「よし!それじゃ俺と白鳥はこれで帰るよ。また連絡する。シンジ、いい子じゃないか。守ってやれよ」
「はい!」
「シンジ君、またな」
「白鳥さんも気を付けて」
「シンジ君、アスカのこと頼んだぞ。よかったアスカ」
「はい、加持さん」
「ふふーん、逃がした魚は大きいものよ」
「シンジ君、アスカ、今までごめんなさいね」
「いいですよ。もう」
「リツコ、シンジはアタシのものだから色目使わないでね」
「わかってるわ」
「シンジ君、アスカ・・・良かったわね。二人とも」
思わず涙ぐむミサト、シンジは笑い、アスカも貰い泣きをしている。
「シンジ君、アスカ・・・」
「ぐずっ・・なに?ミサト・・・・」



「避妊はするのよ」



「溜めといてソレ!?それ言っちゃうんだ!」
「アタシの涙返しなさいよ!」
「避妊は本気だけど、こ こ は ワ タ シ の い え だからね。変なことしないでよ!クビがかかってるんだから!」
醜い3人の口論は遅くまで続いた。



学校
シンジとアスカが交際し始めたことでアスカに憧れを抱いていた男子からの風当たりはより強いものとなっている。アスカに対しても女子からは妬みとシンジに対するマイナスイメージが手伝い白い目を向けられている。しかし、今の彼らにとって周囲の反応は至極当然のことと覚悟していたことであったため気にも止めていない。
屋上で昼ご飯を二人で食べているとヒカリが近づいてきた。
「碇君」
「・・・なに?洞口さん」
愛称である委員長とは呼べなかった。
「ごめんね。碇君。一番辛いのは碇君なのに、ひどいこと言って」
「ヒカリ・・・」
「別に気にしてないよ。すべてとは言えないけど事実だしね。僕のこと恨んでいるでしょ?」
「彼が・・・トウジが碇君に託して届けてくれた言葉があるから、あの言葉が聞けたから私はもう大丈夫。それだけ信頼されている碇君に正直嫉妬しているけどね。恨んではいないわ。今までどおりとはいかないけどね」
「ヒカリ、ありがとう。シンジのこと許してくれて」
「ふふふっまるで長年連れ添った夫婦みたいよ?二人とも」
「ちょっと!ヒカリ!?」
顔を真っ赤にして照れるアスカ、シンジも顔を赤くして俯いた。
「実際そう見えたんだから仕方ないじゃない。凄く羨ましいから少しだけ仕返しさせてもらったわ。あ~あ、私もトウジとこういう関係、築きたかったな」
振り向きながら言った言葉が胸に突き刺さる。彼女の本音だろう。シンジもアスカも何も言えなかった。その時、緊急招集のコールが鳴り、周囲にサイレンが鳴り響く。
「使徒・・・」
「行こう。アスカ」
二人は頷き合うとネルフへと向かった。
「アスカ!碇君!ちゃんと生きて帰って来てね!」
ヒカリは彼らの心に届くように大声を出してその言葉を送った。



ネルフ本部発令所
「総員、第一種戦闘配置」
『総員!第一種戦闘配置!』
ゲンドウがいつものポーズを作って命令を出す。オペレーターが復唱する。
「シンジ君達は?」
『間もなくこちらにつきます!』
「葛城三佐、指揮をとりたまえ」
「はっ!戦自に応援を要請!新型のミサイルを使うように言って!」
『了解!』
普段戦自との密な折衝を行なっていたミサトの努力のかいもあり、戦自はすぐにネルフの応援に駆けつけた。戦自がリツコのデータを元にした対使徒用の新型ミサイルが1次、2次、3次と数十発微妙な間隔を開けて発射される。
「リツコ、あのミサイルの威力はどんな感じなの?」
「そうね、最初のほうに出てきた使徒ならATフィールドも破壊、使徒に当てられるわ。理論上だけど」
「いつの間にそんなデータを・・・」
「少し前に戦自との会合があったでしょ?そのときに開発部の人に直接渡したのよ。なかなかいい男だったわよ?」
「リツコの口からそんな台詞が出てくるとは思わなかったわ・・・」
ミサトとリツコが軽口を叩いている間にミサイルは使徒に全弾命中した。煙が上がり視界が途切れる。リツコは少なくてもある程度のダメージは与えることができる自信はあった。しかし、煙をかき分けるように使徒が悠々と移動してきたのだ。
「そんな!ATフィールドも貫けないなんて!」
「今までの中で最強の拒絶タイプか・・・リツコ例のもの完成してる?」
「ヤシマ作戦のときに使ったスナイパーポジトロンライフルの改良型ね。できているわ。威力は前の半分ぐらいだけど、カードリッジ式にして連続で狙撃できるようにしてあるわ」
「零号機の修復はできたけど前線に出れるほどじゃない、アスカがオフェンス!シンジ君はバックアップ!レイが砲手を担当!アスカとシンジ君が敵を攪乱しつつATフィールドを中和。中和したら狙撃する。この作戦で行くわよ」



シンジとアスカは地上にて敵を迎え撃つ。レイは狙撃ポイントでその時を待つ。
「目標を目視で確認。いい?シンジ、レイが安心して撃てるようにATフィールドを中和しつつ攻撃。でも、レイに獲物をやるつもりはないからね。ふたりで仕留めるわよ!」
「・・・それじゃ話が違うよ・・・」
「!セカンド!危ない!」
「え?」
レイが珍しく叫んだ。アスカがその声に気を取られた次の瞬間。アスカの意識は途切れた。
「アスカ!!」
アスカは何が起こったかすらわからないだろう。それもそのはず、目視で確認をしたとき、距離はかなりあったはず、その場所からビームを撃ち弐号機は後ろに飛ばされた。
『アスカ!?しっかりして!』
『弐号機胸部背部頭部破損!パイロットの意識途絶えました!』
「あんな距離からこの威力なんて・・・」
使徒の二発目がシンジを襲う。シンジは緊急回避してビームをよけた。
『第1から18装甲まで破損!あ、あの距離から?』
『18まである特殊装甲を一瞬で・・・』
アスカはそのビームの直撃を受けたのだ。なんとか命は取り留めたものの復帰は絶望的だ。その間も3発、4発目のビームが初号機を襲う。シンジはそれらを回避しながらも少しずつ使徒に近づく。シンジは使徒が遠距離攻撃型と判断をして接近戦を仕掛けようとしている。そしてシンジの間合いに使徒が入った。
初号機は蜻蛉の構えを取ると一気に距離を詰める。
「チェストオオオオオオオオオオ!」
一閃、ATフィールドごと切り裂くつもりだったが、その攻撃は届くことなかった。代わりに別の金属音が鳴る。マゴロク・Eソードが折れた。
「なっ!」
使徒は腕のようなものをパラパラと展開すると初号機に突き出す。初号機は寸前のところで回避し、立ち上がりざまにマゴロクソードを捨てるとプログレッシブナイフを2本装備した。
(正攻法じゃ難しいか・・・あまりやりたくないけど・・・)
シンジは今までの人生を振り返る。全てを失い、仲間は星となり、大人の都合で汚れた手。そんな自分を受け入れてくれた女の子がいる。支えてくれた人がいる。許してくれた人がいる。彼らを守りたい。例えその先に自分がいなくとも・・・
シンジの目が黒く濁り口角が少しだけ上がった。もう一度接近戦を仕掛ける初号機、敵のカミソリのような腕を回避しながらナイフで攻撃を仕掛けるがATフィールドに阻まれ届かない。シンジはATフィールドそのものに攻撃対象を移す。ナイフでATフィールドを突き刺すと強引に切り裂いてコアを攻撃、しかし、コアもガードされてしまった。他の部位にナイフを突き刺そうとするが刺さることはなく逆にナイフが欠ける始末だ。
『なんて体が硬いの!?まるでシンジ君の攻撃が通用してないじゃない!』
『レイに賭けるしかないわね・・・』
リツコの言葉にミサトは頷いた。それでも無理なら街中でN2地雷を使うもしくは自爆しか手段がない。
シンジはもう一度ATフィールドを切り裂くとすぐに横に回避する。
「綾波!」
レイは躊躇うことなく引き金を引いた。狙った一撃はATフィールドを抜けて使徒の体に命中した。続けざまに全弾撃ち尽くす。
「・・・やったの?」
レイがライフルを置いて立ち上がると、ビームが零号機を襲った。
『使徒!未だ健在!』
『なんてこと・・・』
ダメージは確かに与えることはできたが、足止め程度のものでしかない。ミサトはガックリと膝をついた。
初号機は重心を低くすると再度攻撃を開始した。




「うっ!・・・くぅ・・・頭が・・・痛い・・・どう・・・なったの?」
エントリープラグの中でアスカの意識が戻った。
「そっか・・・アタシ攻撃されて・・・そうだ!使徒!シンジ!?」
アスカの目に見えた光景は一方的なものだった。右腕が切断され、左腕もちぎれかかって宙に浮いた状態だ。両足もすでに負傷している。使徒はなんの傷もなく初号機を攻撃している。そのうち左腕が飛び、右足も飛ばされた。
「いやあああああ!シンジぃぃぃぃい!やめえてええええええええええ!!!!」
使徒は初号機を突き刺すと持ち上げて至近距離でビームを撃った。ボロ人形のように
転がり、弐号機のそばで止まった。
「いや!いや!返事してよ!お願いだから!返事してよぉぉ!」
返答はない。アスカの中で何かが切れた。
(私はもうどうなってもいい。シンジがいないこの世界なんて、私イラナイ。でも、あいつだけは・・・殺す。ママ力を貸して・・・あいつを、あいつを殺す力が欲しい!)
「うわアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああ!!!!!!!!!!!!」



アスカちゃん      ありがとう    気がついてくれて
さあ還りましょう     私の中に
おかえり      アスカちゃん



「ゥゥウウウウウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
弐号機が吼える。弐号機に装備されていた何かが飛んだ。



発令所では何が起こったのかすらわからない。
「拘束具が!」
「拘束具ってなによリツコ」
「そうよ、あれは装甲じゃないの。エヴァ本来の力を私達が抑える拘束具なのよ。その呪縛を自ら解いた!キョウコさんが・・・目覚めたのね・・・・」
『シンクロ率上昇!100!120!まだまだ伸びます!』



弐号機の背中から羽が伸びる。10枚の羽が弐号機の背中に展開した。

「あの羽は・・・なに?」
「ATフィールド・・・あんな使い方ができるなんて・・・」
「あれじゃ・・・あれじゃまるで・・・・・・・!」




                     使徒




「あれじゃセカンドインパクトと同じじゃない!」
ミサトは怯えた。弐号機のその姿にいや、誰もが怯えている。チルドレンを苦しめたあの使徒でさえも。使徒は足を二歩、そして三歩後ろに下がった。
『使徒が・・・怯えているの・・・か?』
『た、大変です!弐号機のシンクロ率が400%を超えました!』
「アスカ!ヒトを捨てる気!?」
「リツコ!あのままじゃ!」
「もう・・・無理よ・・・アレは人の域を超えている。使徒に近づいているのよ・・・」
「ふざけないで!アスカはどうなるのよ!使徒ってなんなのよ!」



覚醒した弐号機が使徒が一方的に嬲る。その光景にミサトとリツコは純粋な恐怖に身を震わせ、青葉と日向は戦慄で声をあげることすらできない。マヤは体中の体液を出し尽くすように嘔吐した。
ATフィールドでできた羽で使徒を串刺しをすると、まるで凌遅刑のように羽を使って少しずつ少しずつ引き裂いていく。それは小さい子供が自分より遥かに小さな生き物を殺して遊ぶように
無邪気で。
無垢で。
残酷だ。
弐号機は使徒であった肉片をそこらじゅうにまき散らしながら解体すると、その一部を拾い上げて食べ始めた。辺りに咀嚼音だけが響く。
「使徒を・・・喰ってる・・・・・」
あまりのおぞましい光景に誰もが言葉を失う。弐号機は食べ終わると高らかに吼えた。











『弐号機の覚醒に解放。老人たちの思惑とは随分と離れた無茶苦茶なシナリオじゃないか』
『でも・・・面白いね・・・この世界のリリンは』
『まあいいさ、僕はシンジ君の幸せのためにここに来たのだから』



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