第十七話 許されざる者

あぐおさん:作



第壱中学校ではある噂が流れている。“碇シンジが鈴原トウジを殺した”という噂が実しやかに囁かれた。その噂について言及するものはいない。しかし、シンジを見る周囲の目は白かった。ケンスケ、ヒカリの両名ですらシンジに対する視線は冷たかった。以前はクラスメートが彼に話しかけてきたが、今は誰一人いない。休み時間になるとどこかへ姿を消して授業前にふらりと戻ってくる。シンジは沈黙を保ったままだ。レイは勿論のことアスカも何も言わない。噂だけが一人歩きし、いつしかシンジはシリアルキラーのレッテルを貼られた。
「アスカ、ご飯食べよ」
「うん・・・・」
昼休み、アスカとヒカリは机を並べて食事をする。シンジの姿は既に教室にはいない。
「シンジ・・・」
話しかけたかった。庇いたかった。しかしアスカは何もしない。それはトウジが亡くなったその日の夜のことである。



『学校で話しかけるなって・・・どういうことよ!』
『そのままの意味だよ。アスカ』
『なんでよ!』
『遅かれ早かれ僕がトウジを殺した噂は嫌でも出てくると思う。その時にアスカが僕の近くにいると同じ目で見られるに決まっている。それだけは避けたいんだ』
『でも!あれは!』
『アスカ!・・・お願いだから僕の言う通りにして・・・アスカは・・・こっち側に来ちゃいけないんだ!』
『だからって!』
『アスカのためだ!お願い・・・』


現実、シンジの言う通りになった。アスカはあの時に何も出来なかったことが悔しかった。


病院
ミサトは
松代の事故で重傷を負ったため病院に入院している。加持がお見舞いに来てくれた。
「葛城、大丈夫か?」
「私は大丈夫、でも・・・シンジ君は・・・」
「・・・シンジ君は、自らアスカ達と距離をとっている。巻き込まないためだろうが・・・やりきれない」
「私、シンジ君になんて声をかければいいのか、わからないわ・・・」
「それは俺だって同じさ。シンジ君は全ての罪を背負っている。誰にもそれを止めることはできないさ。そういえばリッちゃんは明日にでも退院するらしい。彼女も思う所があったんだろうな。葛城と同じくらい重傷なんだが、無理矢理退院するって聞かないんだ」
「そう・・・」



司令室
珍しく冬月が荒い声を上げた。
「碇!いくらなんでもやりすぎだ!」
「大丈夫だ。全てはシナリオ通りだ」
「だからって子供の命を犠牲にしていいものじゃないだろ!」
「大事の前の小事だ。大したことではない」
(その考え方が歪みとは思えないのか!)
ゲンドウは両手を顔の前で組みながら微動だにしない。冬月はこのままで良いのかと疑問を持ち始めている。しかし、ここまで来るのに非人道的なことは多めに見てきたことがある。しかし、子供の命をこうも簡単に切り捨てるのは流石についていけない。
(ユイ君、これが君の望むことなのか?)
冬月は心の中で彼女に問いを投げかけた。



放課後、アスカはヒカリに呼ばれて屋上へと来ている。屋上にはヒカリとケンスケがいた。アスカは何を聞かれるか察した。
「ねえ、アスカ正直に答えて。あの話は・・・本当なの?」
「・・・知らないわ・・・その時アタシは・・・気を失っていたから」
「ねえ、アスカ、私ね。碇君が憎い。殺してやりたいほど憎い!なんで!?なんで人を殺した人間がこうも大手を振って歩いているの?おかしいじゃない!」
「ヒカリ!落ち着いて!」
「なんで!なんでよ!なんでトウジは殺されなきゃいけないのよ!そんなに悪いことした?してないでしょ!?なのになんでよ!碇君、なんであんなに平気な顔をしてるのよ!」
ヒカリは大粒の涙を流してアスカを見る。アスカは思わず顔を背けた。
「なあ、惣流。今シンジと一緒に暮らしているだろ。あんな奴がいるところ出ていったほうがいいぜ。このままじゃ惣流も同じ扱いされちまうよ」
「そうよ!アスカ!私の家においでよ!」
「それは・・・無理よ」
「なんでだよ!」
「わかってるでしょ?アタシはエヴァのパイロットなのよ?セキュリティの問題があるわ。それに・・・シンジを一人にはできない。アタシが離れたらシンジの傍に誰もいなくなっちゃう」
「ほっとけよ!人殺しなんて!」
「やめて!そんな言い方やめて!これ以上シンジのこと悪く言わないで!アンタ友達でしょ!?」
「殺人鬼とツレになった覚えはないね!だいたいアイツは!・・」
パンッ!乾いた音が鳴る。アスカがケンスケを引っぱたいた。
「・・・これ以上シンジを侮辱するなら・・・アタシがアンタを殺すわ」
アスカは吐き捨てるように言うと校舎の中へと戻っていった。



夜、シンジは部屋から出てこない。アスカはシンジの部屋を悲しそうに眺めた。
「ねえ、教授・・・」
「なんだ?」
「アタシの部屋に来て」
アスカはバビンスキーを部屋へと招きいれる。バビンスキーは胡座をかいて座った。
「どうした?何か聞きたいことでもあるのか?予想はつくが」
「うん、教授はシンジの昔の話は知ってるの?」
「・・・・まあな」
「教えて」
「・・・・なんでだ?なんでそんなこと知りたいんだ?単純に興味か?」
「き、興味よ。アイツなにも話をしてくれないから」
アスカは顔を赤くしながら顔を背ける。それは照れ隠しなのは承知していたが、バビンスキーは突き放した。
「そうか・・・じゃあ話すよ。“色々あった”以上だ」
バビンスキーは部屋を出ていこうとする。
「ちょっと!教授待ってよ!そんな言い方ないじゃない!」
「アスカ・・・お前ふざけるなよ」
珍しくバビンスキーが怒っている。
「シンジがどういう人生を生きてきたかなんて簡単に言える訳がないだろ!あいつの人生はそんなに軽いものじゃない!このことを知っていいのはアイツを本気で支える覚悟がある奴だけだ!アスカ、今のお前じゃ話す価値すらない。諦めろ」
「教授!」
「シンジに好意を持っているのは知っている。だが今のお前じゃ、あいつもお前自身も傷つく。そうなる前に諦めたほうがいい」
バビンスキーは背を向けると部屋を出ていこうとする。アスカはその行く手を遮るようにバビンスキーの前に立った。
「・・・・嫌!そんなの絶対嫌!諦めない!知りたいのどうしても!お願い・・・教授。お願い・・・します」
アスカはバビンスキーの前で指を揃えて膝をつき頭を床に付けた。プライドの高いアスカがこうも簡単に頭を下げるとはバビンスキーすら考えられなかったことだ。
「アスカ・・・もう一度だけ聞くぞ。なんでシンジの過去を知りたい?」
「・・・シンジを支えたいから!シンジのことが好きだから!シンジのことを一番アタシが理解したいから!ずっと傍にいたいから!だから!」
目を潤ませて必死に訴えるアスカ、バビンスキーは腕を組みひとつため息をつく。
「・・・・いいだろう。だが、ここから話すことは本当に非道い話だ。途中で耐え切れなくなったら、そのときは会話を止めろ。その代わりシンジのことは諦めてもらう。これが条件だ。いいな」
強い眼差しでバビンスキーを見て頷くアスカ。バビンスキーは頷くと少しずつ話をし始めた。






2005年
シンジは叔父の家に預けられた。そこでの生活は孤独そのものだった。離の一室を与えられて食事は部屋の前まで運ばれた。但し、本家への出入りは厳禁とされた。
『ねえ、あの子いつまで預かっているのよ。気味が悪いわ』
『仕方ないだろ?養育費もらっていることだしな。まあこのままあそこに閉じ込めておけばいいさ』
孤独とは言えこの生活の方がマシだったのかもしれない。しかし、時代がそれを許さなかった。
『くそ!100万の赤字だぞ!どうしてくれる!』
『しょうがないじゃない!先物取引なんですもの!これくらいすぐに返せるわ!』
息子が嬉々として彼らに話しかけてきた。
『母さん!父さん!あの気味悪い奴!さっき試しに調べてみたらさ!あいつM遺伝子異常者だったんだぜ!やっぱそうだと思ったんだよ!』
『M遺伝子異常だって!?なんてことだ・・・この家にそんな奴が・・・』
『あなた、そういえば通報したらいくらか賞金が出るはずよね?いくらだったかしら・・・』
『ふん!金になるならいくらでもいいさ!そしてあいつの養育費を俺たちがもらえば・・・儲けものじゃないか』
『そうね、そうしましょう。M遺伝子異常者の面倒を見ていたんですもの。手数料よ』

次の日の朝には制服を着た男が家を訪れシンジを連れていった。そこは関東更生病院、M遺伝子異常の判定を受けた子供が集められる収容所だ。そこでは連日軍事訓練が行われていた。施設に着いたシンジは早速囚人服のような服を着せられてタコ部屋へと放り込まれた。そこには同じくらいの子供が数多くいた。そのうちのひとりが歩みよる。
『僕の名前はムサシ・リー・ストラスバーグ。今日から俺達は・・・・家族だ』
ムサシと名乗った子供は最後は泣きながら言った。その日からシンジは強制的に兵士になるべく連日訓練を受けさせられた。
シンジは元々気の弱い子だ。運動は決して得意なほうではない。何をやっても下から数えたほうが早い順位だった。
『またお前か、この落ちこぼれが!』
大の大人が幼い子供に向かって激を飛ばす。時には暴力もあった。そんな生活が続きながらもシンジは生き抜いた。その影にはムサシがいたおかげだ。ムサシは成績の優れないシンジの面倒をよく見た。時には食事も分け与えた。シンジはムサシを信頼し彼のために訓練を頑張った。そのかいあって2年後にはムサシに次ぐ成績上位者となれたのだ。そんな日々を過ごしていくうちに友人も出来た。浅利ケイタと霧島マナ。髪型が自由ならマナが女の子と認識出来たかもしれないが、当時は男女関係なく坊主頭だった。マナは活発な女性だった。ケイタは成績はイマイチものの明るくムードメーカーだった。地獄のような日々であっても彼らは互いを励まし、そして笑いあった。一緒に激戦地区へ行こう。そして勇猛果敢に戦って死のう。それが彼らの目標であり自分達を落ちこぼれ呼ばわりした社会に対する唯一の復讐だった。そんな楽しい日々も終わりを迎える。

成績によって出される食事が変わる施設。その日は特別だった。
『今日みんなカレー食べてもいいのか!?』
『ああ、いっぱい食べろ。遠慮はするな』
教官たちは笑って言った。
『よかったね!ケイタ!』
『お代わりもあるみたいだからな!今のうちに食っとけよ!』
『うん、うん!』
ケイタはお代わりをしてお腹いっぱい食べた。
頃合を見た教官たちがガスマスクをつける。
『・・・・これより毒ガス訓練を抜き打ちで行う!濃度は薄いため死ぬことはないが、たくさん食べた卑しいものはその分長く苦しむことになる!』
もがき苦しむ少年たち、誰もがその場で嘔吐した。ケイタは必死で嘔吐を我慢した。
そして・・・
『・・・・・・・・』
『・・・・・・・・』
『うぅ・・・くぅぅ・・・ケイタ・・・・』
『ケイタ!ケイタァァァァ!』
『まさか死ぬとはな・・・』
『仕方ないさ。どうせ落ちこぼれだ』
まるで生ゴミのように片付けられるケイタ、シンジ達はそれを黙って見ている他なかった。

2012年 シンジ11歳
シンジは中東にいた。国連軍の要請で戦自にも召集がかかったためだ。シンジが派遣されたところは文字通りの激戦地区だった。敵も最終防衛ラインを死守するため必死だ。シンジはそこで何人もの人を殺した。一人殺すたびに心の中で呟く
『ごめんなさい』
いよいよ大詰めという日、シンジが行軍していると隣にいたまだ10歳にも満たない少年兵が撃たれた。
『しっかりしろ!大丈夫だからね!今助けるから!』
『僕は・・・もう無理だよ・・・ねえ・・・ダメだよ・・・生きて帰らないと・・・シンジお兄ちゃん・・・お父さんと・・・お母さんが・・・待っててくれるから・・・』
少年はシンジの腕の中で息を引き取った。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
『うわあああああああああああああああああああああ!!!!!』
『親がなんだ!親がなんだ!僕たちを勝手に産んで勝手に捨てたただの大人じゃないか!僕たちには!僕たちには!』
『生きて帰る場所なんてどこにもないんだよ!』

中東に駐留する戦自の間で二人の少年兵の話題が上がる。
『すげーよなあのガキども』
『ああ、この前一緒に行軍したけどさ、あの色黒の奴。あいつは凄いわ』
『もうひとりの奴も凄いな。色白の薄気味悪いガキ、あいつらたった二人でD地区を制圧したようなもんだぜ』
『あの少年兵はM遺伝子異常者だろ?末恐ろしいな』
『全くだ、あいつらは殺しの才能があるぜ』
中東での戦争はシンジ達が参戦して約半年で終結した。日本に帰国したシンジ達はそのまま施設へと戻っていった。
戦自会議室、そこでは帰国した少年兵たちの今後の進路の話をしている。
『どうだろう?このムサシという少年はよく鍛えられている』
『そうだな、トライデントに入れるのが無難だろう。性格にも合うだろうしな。もう一人の子供はどうする?碇シンジは』
『ああ、その子なんだが・・・親があの碇ゲンドウの息子らしい』
『なに!?それはマズイな。あいつはゼーレの関係者だ。表に出たら大変な騒ぎになる』
『それならゲシュペンストに配属させたら如何ですか?この子は慎重ですし戦闘技能も十分です。それに死んでも揉み消せます』
『そうだな。そうしよう』
シンジは教官室に呼ばれた。
『おめでとう!君は中東戦線において優秀な戦果を上げた。君はもっと重要な任務を与えよう。その任務とは』
『暗殺だ』

シンジは初めての任務についた。彼の目の前には若い夫婦と幼子が倒れている。その死体を見下ろすように一人の男がタバコを吸いながらソファーに座っている。
『どうだい?初めての任務は?』
『・・・・・・・・・・・・』
『納得できないって顔しているな。幼子を殺したことか?』
『・・・・・・・・・・・』
『わかってねーな。こいつが生きていればいつか復讐しに来るかもしれない。そういう芽を摘むのも仕事のうちさ』
『・・・・・・・・』
『機械になっちまえよ。でなきゃ潰れるぜ。お前ならできるさ』
その日からシンジは機械になった。通知が届くたびに流れる血、1月も経たないうちにシンジの目からは光が消え、人間の顔を失った。

『まずいことになったな・・・まさか政権が変わってしまうとはな』
『そんなこと言っている場合か!情報が漏れるのはまずい。さっさと隠蔽するぞ!』
『亡霊はどうする?あの気味悪いガキがいるぜ』
『・・・そこらへんの山中にでも捨てておけ。どうせ生き残れないさ。生き残ったところで殺人を犯して死刑さ』
その日、シンジは人里離れた山の中に捨てられた。

『キョウシロウ、人の臭いがするぞ』
『こんな山奥でか?好きな奴もいるものだな』
『おい、あそこだ・・・ってまだ子供じゃないか!捨て子か?』
『保護するぞバビンスキー』
『・・・・・・・・・』
『よう!こんなところでどうした坊主』
『・・・・・・・・・』
シンジはキョウシロウに出会った。




葛城家
「ということがあったのさ・・・」
バビンスキーはシンジの過去を一通り話した。アスカは涙を流しながら聞いている。
「ひどい・・・ひどいよ・・・シンジ・・・」
「最初の頃は本当に大変だったぜ。なんせ人形同然だからな。俺達はシンジに人としての強さや一般常識とかを叩き込んだ。そうでなければただの壊れたガキだからな。あいつが笑えるようになるまで一年はかかったな。もちろん俺が催眠療法で治療したこともある。キョウシロウもシノも献身的にシンジの面倒を見たもんだ」
「ねえ・・・教授・・・シンジに・・・アタシ何をしてあげられるのかな?」
「・・・あいつは自分の過去を知られることを極端に恐れている。普通の人はあんな人生を歩んでいたと知ればまともに相手にすることを躊躇するからな。どうする?シンジの傍にそれでもいたいか?躊躇う気持ちが少しでもあるなら、アイツのことは諦めろ」
それはバビンスキーなりの優しさだ。アスカは首を振った。
「シンジにどんな過去があっても、アタシはシンジのことを愛している」
強い眼差しで答えるアスカ、バビンスキーは笑って頷く。
「そうか、それじゃその気持ちをぶつけてやれ。頼んだぞ」
アスカはしっかりと強く頷いた。



次の日、シンジはアスカに叩き起された。朝食を食べて支度を整える。昨日まではシンジがアスカが出た後に時間を見て登校するのだったが、今日は違った。
「さ、シンジ行くわよ」
「え、アスカが先に行って、うわ!」
「いいから行く!」
アスカはシンジの手を握って連れ出す。登校のピーク時に学校に入る二人、彼らを見る視線は白い。アスカはシンジの腕を自分の腕に絡めた。腕を離そうともがくとアスカはより強い力でシンジの腕にしがみつく。
「や、やめてよ・・・」
「離したら泣くわよ。全力で」
「ぐっ・・・むぅ・・・・」
シンジは諦めの境地だ。
休み時間でもアスカはシンジを構うことをやめることはしなかった。寧ろそれを見せつけるかのように振舞う。放課後、アスカがシンジと一緒に帰ろうとするとヒカリに呼び止められた。
「アスカ、少しいいかしら?」
「・・・いいわよ。シンジ、待ってなさいよ」
ヒカリはアスカを屋上へと連れ出した。ヒカリの視線は厳しい。
「どういうつもり?あれ」
「なんのことかしら?」
「彼がどういう目で見られているか知らない訳じゃないでしょ?あれはどういうこと?二人は恋人にでもなったの?」
「それはまだね、そういう噂なら是非たててもらいたいわ」
「ふざけないで!これは友人としての忠告よ。彼に構うのはやめて。アスカも同類に見られるだけよ。わかった?」
「わかってないのはヒカリ、いえ、みんなのほうでしょ?一番辛い思いをしているのは誰だと思ってるの?シンジでしょ。なんでそういうことが分からないの?それに、ヒカリはシンジのことどれだけ知っているの?この学校にいる時のシンジだけじゃない、アタシはシンジがどういう人生を生きてきたかも知っている。知らない人にそんなこと言われる筋合いはないしシンジとの付き合い方も変えるつもりもないわ」
「そう、男を取るということね。儚いものね女の友情って、もう話しかけないで」
ヒカリはアスカを睨みつけてその場を後にした。アスカはひとつため息をつくと校舎の中へ入っていった。
帰り道、シンジとアスカは朝と同様に手を繋いで帰る。会話はない。家に着くとアスカが大きく息を吐いた。
「ふ~結構恥ずかしいものね、手を繋ぐってだけでも」
アスカはまんざらでもないような表情を浮かべる。シンジは厳しい顔をする。
「アスカ」
「なに?まだ手を繋いで欲しいの?」
「なんでこんなことするんだよ」
「はあ?」
「なんでアスカが僕なんかのために、こんなことするんだよ!アスカが何を考えているか僕にはわからないよ!」
アスカは真っ直ぐシンジの瞳を見る。思わずシンジは顔を背けた。
「アンタ、本気でそう言ってる?本当はわかってるでしょ?アタシの気持ち」
「・・・・・」
「じゃあ、言ってあげる」
「やめろ・・・・」
「アタシは・・・」
「やめろよ!」
「惣流アスカ・ラングレーは」
「やめろって言っているだろ!」

「碇シンジのことを誰よりも愛している」

シンジはガックリと項垂れる。アスカは1歩シンジに近付いた。
「アタシは自分の気持ちを伝えた。アンタはどうなの?アタシのことどう思ってるの?」
「・・・・・・・・だよ」
「はっきり言いなさいよ!」
「好きだよ!僕もアスカが好きだ!だからアスカを遠ざけたんだ!僕と同じ目で見られてほしくないから!僕にアスカの気持ちを受け取る資格なんてないから!僕は!」
「人殺しなんでしょ?もう何人も殺した生きる亡霊」
知られたくない過去を知られてしまった。絶望に満ちた目でシンジはアスカを見た。
「・・・・知られちゃったか。もう・・・僕は・・・」
「教授に教えてもらったわ。アンタがどういう過去を歩いてきたのか。でもそんなのアタシには関係ない!シンジにどんな過去があろうとアタシはシンジのことを愛している!アタシはシンジの傍にずっと居続ける!」
「・・・・・・・・・・」
「アタシもろくな育ち方してないから、愛というのがどんなものか知らないわ。でも、この気持ちを・・・シンジの傍にいたい。シンジを支えたい。シンジから離れたくない。この気持ちを愛と呼んでいいのなら、アタシは・・・惣流アスカ・ラングレーは碇シンジに永遠の愛を誓うわ」
シンジはアスカを抱きしめる。一瞬驚いたが、アスカは慈しむように抱き返した。
「僕は・・・アスカを受け入れていいの?」
「自分で考えて」
「僕は人を好きになっていいの?」
「それも自分で考えて、それでもアタシはシンジから離れないわ。アンタが離れても追いかけていくから、逃がさないから」
ふと視線が交わる。何かに導かれるように二人は唇を交わした。小鳥がさえずるように2度3度、そして舌を入れてお互いを貪った。そのまま抱き合う二人。
(ママ、アタシの居場所見つかったよ・・・)
アスカの目に一雫の涙が流れた。



次の日、アスカはヒカリを屋上へと呼び出した。ヒカリは不機嫌な顔をしている。
「昨日、話しかけないでって言ったでしょ?何考えているの?」
「ヒカリ、最後にこれだけは言わなきゃおかなきゃいけないことがあるの」
「何?早くして」
「鈴原の最後の言葉よ」
「!!!!」
「これはシンジが最後受け取った言葉なの。自分じゃ話もしてもらえそうにないからってアタシに頼んだのよ」
「・・・・・」
『ヒカリ、ありがとう』
「これが鈴原の最後の言葉よ」
「・・・・・・・・」
ヒカリの目に涙が溢れる。
「シンジは・・・みんなに、ヒカリに恨まれることを望んでいるわ。そうでないと心の安定が保てないだろうからって、シンジはそういう奴なのよ。好き好んで人を傷つけるような人じゃないわ」
「ズルイ・・・ズルイじゃない!そんなこと言われたら!恨めないじゃない!」
泣き崩れるヒカリをアスカは抱きしめ、そして彼女も泣いた。屋上の出入口でシンジはその一部始終を聞いていた。シンジは深々とヒカリに向けて頭を下げた。茜色に染まる屋上でいつまでも二人の少女は涙を流していた。





真実を求めて動き出すシンジ達
そこへ最強の使徒が遂に現れる
全てを拒絶する使徒に苦戦を強いられるシンジ達
そして彼女が目覚める
次回Eva2015 「残酷な天使」
次回もサービス サービス♪

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