第八話 Attack MAGI

あぐおさん:作

シンジが退院し彼らの日常も戻ったある日、学校で授業をボーッとしながら聞いている。
「平和・・・だな・・・」
シンジがボソッと呟くと後ろから叩かれた。
「な~にが平和よ!バカシンジ!さっさと弁当出しなさいよ!」
シンジがボーッとしている間に授業が終わり昼休みになっていた。アスカはシンジに弁当を持たせて取りに来たのだ。
「いきなり叩かないでよ・・・」
「ハンッこれ以上バカにはならないから問題ないわ!いいから早くお弁当出しなさいよ!さっさと食べるわよ」
「え・・・アスカ僕と食べるつもりだったの?」
「1、 アア、アンタバカァ!?なんでアタシがアンタと弁当食べなきゃいけないのよ!」
顔を真っ赤に染めながら大声で否定するアスカ、反論するシンジ最近の二年A組の名物の光景だ。
「また夫婦喧嘩かいな」
「アスカも素直になればいいのに・・・」
「さっさと食べようぜ。時間なくなっちまう」
二人を余所にクラスメイトは各々に時間を使い始めた。



その頃、ミサト宅ではバビンスキーが電話をしている。相手は彼の友人でもある白鳥ミノルだ。
「なるほど、じゃあその加持リョウジって奴が協力者になりうるのか」
『ああ、彼はネルフ諜報部員でありながら、内閣調査室の人間でもある。でもな・・・これは俺のカンだが、どうもそういう組織とは別に動いているようにも思える行動がある。それがどこなのかはわからないが』
「なるほど、三重スパイか?」
『その可能性は否定しないが、単独での行動が多いからチームで動いているとは思えない。多分、好奇心でやっている、しかもそれが自分にとって関わりの深い人物のためにって一番タチの悪いやつさ』
「じゃあ、そいつをこっち側に引き込むにはどうすればいい?」
『そりゃ簡単さ、彼が知りたい情報を流せばいい』
「それが一番難しいところなんだけどな・・・」
『ああ、それと戦自が少々きな臭い動きをしているみたいだ。工作員が何人か第3新東京市に流れてきているらしい、気を付けてくれ』
白鳥はそれだけ伝えると通信を切った。バビンスキーは腕組みをして考える。
「飛鳥、その彼が求めている情報ってなんだろうな」
『白鳥さんの言う人物なら好奇心だけで行動は起こす可能性は低いです。寧ろ誰かのために動こうとするでしょうね。シンジさんの話では彼は葛城女史のかつての恋人だったはずです。彼女が関わっていて公に不透明な部分があるとすると、セカンドインパクト、使徒、エヴァこのあたりではないですか?』
「あれは確か新しいエネルギーの開発実験の失敗のせいで起こったことだろ?」
『それなんですが、この写真を見てください』
飛鳥は一枚の衛星写真を画面に出した。白い塊の周りにはオレンジ色のものが取り囲み、そして青いものが周囲を更に被っている。
「これは?」
『3年前ほどの写真ですが、南極の衛星写真です』
「なんだこれは、赤潮じゃないよな?なんだこのオレンジ色のものは」
『わかりません。ただ、問題なのはこの写真そのものが隠蔽されているという事実です。公には出てきません』
「まだまだ謎が多いということか・・・こりゃいよいよMAGIにアタックをかけて情報を仕入れるしかなさそうだな」



後日、レイ、シンジ、アスカの三人はシンクロテストにネルフに来ている。その様子を注意深くミサトとリツコは眺めていた。
「どう?調子のほどは」
「そうね、レイは少しずつだけどシンクロ率を上げているわ。アスカもムラはあるけどトップをキープし続けている。問題はシンジ君ね、初搭乗からほとんど変わっていないの」
「そうなの?」
「ええ、しかもそれは戦闘中でも変わらずよ」
「それであの活躍か・・・リツコはこれをどう見ているの?」
「そうね、彼には強いイメージが確立されている、もしくは彼自身の強さがそうさせているというのはどうかしら?」
「シンジ君は只の中学生よ?そんな」
「彼が“只の中学生”と本気で思っている?少なくても彼の戦闘能力は中学生の能力を逸脱しているわ。ミサトは聞いてないかしら?保安員の黒田三尉の話」
「黒田三尉?知らないわ」
「シンジ君、剣のほうが慣れているって前言ったでしょ?だから彼と勝負させてみたの。そしたら一撃で黒田三尉を倒したわ。しかも一瞬でね」
「それって、その黒田って人が弱かっただけじゃないの?」
「黒田三尉は元々戦自にいて3年前の剣道の全国大会3位の実力者よ。弱いわけがないわ。そんな実力者を一瞬で倒すほどの実力を持つシンジ君、正直恐ろしいわ」
「聞いてみたいわね、どこでそんな技を磨いたのか。でもシンジ君自分のこと話したがらないのよね~」
「退行催眠でもかけて調べてみる?気が向いたらでいいけど」
「そこまでする必要ないわよ。彼から話してくれるのを待つわ。みんなお疲れ様、上がっていいわよ」
ミサトはマイクで三人にテストの終了を告げると部屋を出ていった。
(ミサトはああ言ってるけど興味が注がれるのよね。今度黙ってかけちゃおうかしら?)
リツコは悪戯猫のような顔をしてモニターを眺めた。




シンジとアスカはテストが終わると一緒にエレベーターに乗る。
「シンジ、アンタ初搭乗からほとんどシンクロ率変わってないじゃない。なにやってるのよ」
「こんなものじゃないの?」
「真面目にやりなさいよ!やる気がないなら辞めなさいよ!」
「辞めていいなら辞めたいよ・・・」
ため息をつきながら返事をすると、いきなり明かりが消えて真っ暗になった。
「あれ?停電?」
「そうかもしれないわね、もうすぐ復旧するでしょうから待ちましょう」
「きゃあ!って言いながら抱きついてくるイベントはなしか・・・」
「・・・なんでアンタって男はこうもエッチでスケベで変態なの・・・」




同時刻、ミサトがエレベーターに乗ってドアを閉めようとすると途中で加持が走ってくる。
「おーい、ちょっと待ってくれ!」
「チッ・・・」
加持はそのままエレベーターに乗り込む。
「いや~走った走った。またご機嫌斜めだね?」
「アンタの顔を見たからよ」
エレベーターは二人を乗せて上昇をし始めた。二人の間に会話はない。モーター音だけが響いている。すると急に真っ暗になった。
「あら?」
「ん?停電か?」
「まさか、有り得ないわ。実験でもミスったのかしら?」
ミサトは暗闇の中顔を見上げた。




同時刻、ミサトの家ではバビンスキーが資料を読んでいる。その傍らで飛鳥も情報の整理をしている。ふと部屋の明かりが消えて暗くなる。
「あれ?停電か?珍しいな」
『バビンスキーさん、もしかしたら白鳥さんが言っていた“きな臭い動き”ではないですか?どうやら第三新東京市全体が停電しているようです』
「相変わらず戦自は大味な行動を起こすな。善良な市民を巻き込むなっつーの」
『バビンスキーさん、チャンスですよ。これだけの大規模な停電なら相手に気がつかれる心配は少ないです』
「しかし、停電じゃ通信手段も・・・」
『その心配はありません。どんな状況下でも通信ができるように常に微量の電気は流れています。スパコンなら当然電気は常に供給されています。今頃予備発電がフル稼働している最中でしょう。スタッフもこちらまで目が行き届かないはずです』
「よし、MAGIにアタックをかけるぞ!準備はいいか?」
『いつでも行けますよ。バビンスキーさん』
バビンスキーは飛鳥と共にMAGIへのハッキングを開始した。




一方その頃、シンジとアスカはエレベーターからはい出て発令所を目指している。迷路のような作りにシンジとアスカは迷子同然になっている。
「シンジ!ここは右よ!」
「僕は左だと思うな」
「アンタバカ!?アタシがリーダーなのよ!アタシの指示に従いなさい!」
「従ってこんな見たこともない通路を歩いていますが、何か?」
「細かい男ね!ホンットうるさいわ!」
「それじゃ僕はこっちに行くよ」
シンジは左の道へ歩いていく。
「勝手にすればいいじゃないの!アタシは右に行くわ!」
アスカは右の通路を歩き始める。そして踵を返した。
「ちょっと待ちなさいよ!バカシンジ!」




一方その頃、バビンスキーはMAGIへのアタックをしている。バビンスキーは開発者赤木ナオコが自分専用の特殊プログラムがあると睨んでその解析をしているのだ。コンピューター学者はそれが国家プロジェクトのものであったとしても自分専用の裏パスワードなどを隠して設定などする。それは“飛鳥”も同様だった。バビンスキーは同じ手口でMAGIにアクションを仕掛けているだ。いくつもの障害を乗り越えたあと、最後の難関に彼らは突入した。彼らの前には3つのパスワードを入れる画面があり、それぞれ、カスパー、メルキオール、バルタザールという名前が書かれてある。
『ここで最後ですね』
「ああ、ここが一番難しい。論文だとそれぞれ赤木ナオコの「科学者」「母親」「女」としての思考パターンによって構成されている。だからそれにあったパスが必要だ。さて・・・始めるぞ」
バビンスキーは論文や赤木ナオコの個人情報から導き出され絞り込まれたパスワードを順々に打ち込んでいった。




その頃、シンジとアスカはまだ発令所に着いていなかった。延々と単調なことの繰り返しにアスカは苛立ちを隠せない。そしてそれはついに爆発した。
「ああああああ!もう!全っ然発令所に着かないじゃないのよ!バカシンジ!アンタが勝手なことするから!」
「しっ」
アスカの抗議を無視してシンジは人差し指を口に当てて静かにするよう促す。
「人の声がする」
「え?どこ?」
「こっちだ!」
シンジは近くのダクトを破壊すると素早く中へと滑り込んだ。
「ちょっとシンジ?」
一人残されるアスカ、中を覗くと確かに声が聞こえるが姿は見えない。シンジの姿もない。
「あああ!もう!」
アスカは意を決して中へと滑り込んだ。中は滑り台のようになっており、スカートを抑えて滑っている。目の前に明かりが見えると勢いをそのままに地面に尻餅をついた。
「いったーーーーーい!」
「アスカ!?待っていたわ!」
目の前にはリツコがいる。よく見ると作業員が総出で手作業でエントリープラグをエヴァに固定している。
「どうしたの?これ・・・」
「使徒が来たのよ。みんなあなたたちが来るのを信じて準備をしていたわ。さあ!急いで!」



バビンスキーは最後のパスワードで悩んでいる。メルキオール、バルタザールは解除したが、カスパーだけがどうしてもわからない。カスパーは“女”の思考を構成したものらしいというのはわかったが、バビンスキーはその“女”の思考がわからなかったのだ。
「くそ!厄介なもの作ってくれたぜ。女の思考なんてわかるわけないじゃないか」
『シノさんに聞いてみてはいかがですか?』
「そんな恥ずかしいこと聞けるか!それにシノはキョウシロウのことばかり考え・・・・そうか・・・そういうことか!」
バビンスキーはもう一度画面に向かう。
「女か・・・確か彼女の娘は・・・アレだったんだよな・・・なら・・・でも趣味は似るっていうから・・・まあいい、やってみるか」
バビンスキーは碇ゲンドウの名前を打ち込んでみた。しかしエラーがでる。次にバビンスキーは六分儀ゲンドウと打ち込む。バビンスキーはニヤリをした。
「飛鳥、思っていたより時間を食った。絞り込んでやるぞ」



マニュアル発進された初号機と弐号機は別々のルートで使徒迎撃に向かう。
「負けるわけないじゃない。このアタシが」
アスカは呟く。それはほんの数分前にあった出来事だ。





『アタシが前に出るわ』
『危険だよ』
『さっきの借りを返さないと気が済まないのよ』
『アスカも面倒だね』
『なんですって!?』
『じゃあこうしない?二人で別々の作戦で攻撃、どっちが先に倒すか競争しようよ。』
『・・・面白そうじゃない。アタシが負けるわけないけどね~』
『それじゃミッションスタートということで』





弐号機はトンネルの中から見上げて使徒を確認するとライフルで真下から攻撃を開始した。しかし、使徒から分泌される強力な溶解液に弾が溶かされて使徒に当たるころには
威力はほとんどない。
「こんちくしょおおおおおお!」



シンジは別のルートから攻略を開始している。使徒から離れた別の穴に這い出でると空を見上げる。
「それじゃ、行きますか」
初号機はグッと膝を曲げると一気に飛躍した。そしてトンネルの壁を蹴って三角飛びで外へと飛び出る。シンジの視界に使徒が見える。意識は下に集中されてこちらには気がついていない。初号機は注文して出来上がったばかりの武器“マゴロク・Eソード”の鞘を抜くと一気に駆け出し、そして宙に飛んだ。
「はあああああああ!」
使徒の真上に飛びのるとそのまま串刺しにして一気に抉る。使徒はシンジの手によって屠られた。アスカはその様子をただ真下から見ていた。悔しさがこみ上げてくる。
「あんな奴に負けた・・・ちくしょおおおお!」



バビンスキーはMAGIからいくつかの情報を抜き取っている。
「飛鳥、侵入してどれくらいだ?」
『まもなく5分になることろです。』
「よし、今抜き取っている情報を最後にして回線を落とすぞ。足がつかないように工作してくれ」
『既にやっています』
バビンスキーは抜き取りを確認すると回線を切断した。長時間集中していたためか一気に疲れがこみ上げる。
「ふ~なんとかなったな」
『お疲れ様です。こちらで情報の整理をしますので、バビンスキーさんは少し休んでください』
「すまん。そうさせてもらうよ」
バビンスキーが軽く伸びをすると明かりがつき、冷蔵庫のモーター音が唸り声をあげる。電気が復旧したようだ。ギリギリのタイミングだったらしい。バビンスキーは安堵して体を寝かせた。



電気が復旧したネルフ本部では安堵の声があがる。蒸し暑い室内とかした発令所では誰もが汗だくだ。
「こんなときに作戦部長が不在なんて、なにやっているのかしら」
「MAGI監視システムで葛城作戦部長を見つけました!」
「どこにいるの!?モニター回して!」
画面一杯に映し出されたのはエレベーターの密室で折り重なって倒れている加持とミサトの姿だった。



数分後にミサとは苦笑いを浮かべながら発令所に入ってきた。
「ごっめ~ん!エレベーター止まっててさあ!ってなに・・・この冷ややかな視線」
「チッ!」
「チッ!」
「チッ!」
「なに?なんなの!?なんでみんな私のこと睨んでるの!?なんで舌打ちしてるの!?」
その後ミサトは発令所の床で正座させられ、リツコにくどくど説教されたのは言うまでもない。



『バビンスキーさん。よろしいですか?』
飛鳥に呼ばれたバビンスキーは体を起こして向き合った。
「どうした?飛鳥」
『後でもよかったのですが、これは早めにお知らせしたほうが良いと思いまして、これを見てください』
飛鳥は一枚の写真を映し出した。バビンスキーは目を丸くしその写真に見入る。
「なんだよ、これはどういうことなんだ!」
『その写真は16年前の写真です。場所は・・・ゲヒルン研究所です』
「なんで、なんで!なんでここに博士が写っているんだ!」
その写真にの片隅によく知っている人物が写っている。バビンスキーの生みの親“八角キヨタカ”が写っていたのだ。バビンスキーは画面にしがみつき震えながらその現実と向き合った。



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あぐおさんから第八話をいただきました。
シンジに優秀な家庭教師がついていたせいで、いろいろと違いが生じたようです。

そして今回の最後の部分。
ゲヒルンに驚くべき差異が生じていた模様。優れた頭脳をもった人を勧誘してたとこだから、こういう風になるのは当然かもしれませんが……。
続きも刮目して待ちましょう。

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