第六話 心重ねて

あぐおさん:作



その日第壱中学校は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。男子のみではあるが・・・
「惣流アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします」
グラビアの写真から出てきたような美少女が突然の転入してきたのだ。思春期の男子はすぐに魅了されてしまった。強気で高飛車、それを裏付けるようにスポーツ万能、成績優秀、おまけにクォーターで日本人離れした体つき、外見だけ言えばパーフェクトだろう。アスかは休み時間のときは男子に囲まれ質問攻めに合う。ケンスケのところへはアスカのスナップ写真の依頼が殺到した。
「猫も杓子も、アスカ、アスカか。毎度あり~」
「みんないい気なもんや。写真にあの性格は写らんからな」



当のアスカは連日続く男子からのアプローチに半ばウンザリしていた。ネルフへ向かう途中、そのストレスはシンジへと向けられる。
「ったく!なんとかしなさいよバカシンジ!毎日毎日うるさいったらありゃしない」
「僕がどうにかできる問題じゃないだろ?嫌だよ。これ以上恨み買いたくないよ」
「ハンっ!いくじのない男ね!」
「とほほ・・・」
シンジはアスカをファーストネームで呼んでいる唯一の男子だ。そのことはアスカの噂と同時進行で広がり嫉妬という厳しい目さらされている。ただでさえ喧嘩っ早いトウジを退けたということで注目を浴びているのにこれ以上事を荒立てたくない。シンジはただ耐えるしかなかった。
「しっかし退屈ね~今更中学なんて行ってもしょうがないのに」
「仕方ないよ。日本の法律なんだし」
「ガキの相手なんかしてられないっての」
「アスカもガキじゃん」
「あん?今何か言った?」
「なにも。でもさ、学校行く時間を骨休みと思えばいいんじゃない?」
「なにそれ・・・」
「アスカ、大学出てるでしょ。そこまでいくのにすごい努力をしてきたと思う。13歳で大学出ててエヴァのパイロット。本当にすごいよ。でも、その分無理してきたところもあると思う。だからさ」
アスカは立ち止まりシンジを見つめる。
「あの・・・僕何か変なこと言った?」
「アンタ、やっぱり他の人とは違うのね。そんなこと言われたの初めてだわ」
「もしかして馬鹿にしてる?」
「ううん、褒めているのよ」
アスカは鞄を持ち直すとスタスタと歩き出す。シンジもそのあとに続いた。



次の日、シンジとアスカは使徒迎撃のためエヴァに乗り込み海岸沿いで待機している。
『兵装ビルの修復がまだ追いついていないため、今回は水際で迎撃します。アスカがオフェンス、シンジ君がバックアップよ』
「まっかせなさい!いい?シンジ、このアタシがお手本見せてあげるわ」
「・・・はあ・・・」
意気揚々にソニックブレイブを装備し布陣するアスカ、シンジはパレットライフルを構えて布陣する。一歩ずつ近づく使徒。エリア内に足を入れた瞬間、弐号機が動いた。
「どおおおおりゃあああああ!」
雄叫びをあげて一気に飛び掛る、弐号機はソニックブレイブを唐竹に一閃。使徒は真二つに切り裂かれた。
「お見事!」
「ま、このアタシにかかればこんなものよね」
ソニックブレイブを肩にかけて振り返ったその時、使徒は二つに分裂した。
『使徒分裂しました!』
「ちょっと!分裂なんてインチキ!」
「アスカ!援護する!」
シンジが即座に応戦しアスカを援護する。しばらくは一進一退の攻防が繰り返されるが、時間がたつにつれて徐々に劣勢と持ち込まれた。



数時間後、作戦会議室でその様子を二人は見ていた。最後は犬神家よろしく、下半身が海面上に浮き出ている映像で終わっていた。結局はN2地雷を使って使徒を足止めするのが精一杯だった。
「地図をまた書き直さなければならないな」
冬月が嫌味たっぷりに呟く。ゲンドウはいつものポーズのまま話す。
「貴様たちの目的はなんだ?」
「エヴァに乗ること」
「違う。使徒を倒すことだ。使徒を倒せないチルドレンに用はない」
ゲンドウはそれだけ言うと部屋を出る。冬月もあとに続いた。
「アンタのせいで怒られちゃったじゃない」
「僕のせいですか・・・そうですか・・・」



一方、ミサトは自室で山のようになった抗議文の量を見てゲンナリしていた。
「それ、今日中に目を通しておいてね」
「どうせ、内容は同じでしょ?」
リツコの言葉にぶっきらぼうに答えた。
「それで?次はどうするの?葛城作戦本部長?」
「それがわかったら苦労しないわよ」
リツコは一枚のディスクを渡す。
「さっすがリツコ!持つべきものは友よね~」
「私じゃないわよ」
ディスクには「マイハニーへ♥」と書かれたメモ書きが貼り付けてあった。
「・・・やっぱいらね」
「クビになってもいいのね?」



シンジが帰宅すると部屋の廊下にはダンボールが所狭しと置かれていた。
「なんだこれ?」
「アタシの荷物に決まってるじゃない」
奥からラフな服装に着替えたアスカがペットボトル片手に出てきた。
「アンタお払い箱よ。ま、どっちが優秀か考えれば当然よね。そこにいる汚い犬っころも連れていって」
アスカは憐れみの視線を送る。バビンスキーは俯いている。
(バビンスキー!なんで止めなかったのさ!)
(できるわけないだろ!)
「なにコソコソと犬と喋ってるの?気持ち悪い」
ヒソヒソとバビンスキーと話すシンジに今度は蔑んだ視線を向ける。
「さっさと出てってよ。今日からここはアタシが」
「シンちゃんもここに住むわよ」
アスカの言葉を遮って帰宅したミサトは話しかけた。
「「え?」」
「だから~シンちゃんも一緒に住むの」
「イヤよ!こんな奴と同居なんて信じられない!こいつは学校でエッチスケベの変態で有名なのよ!?アタシの貞操の危機だわ!」
「・・・流石の僕も相手は選ぶよ・・・」
「ぬわんですって!」
「はいはい、喧嘩しないの」
ミサトはパンパンと手を叩くと真面目な顔をする。
「今回の作戦で必要なことなのよ。これは命令よ」
ミサトを睨みつけるアスカ、ミサトは気にも止めずに作戦内容を説明し始めた。
「今回の使徒は2体に分裂します。これを倒すには2体同時のユニゾン攻撃が必要です。そこで二人にはユニゾンに向けての特訓をしてもらいます。そのための同居よ。それに、シンちゃんは女の子に手をあげる子じゃないわ。わかってるでしょ?」
「そりゃ・・・まあ・・・」
口篭るアスカ、ミサトは微笑むと二人に向き直った。
「それじゃ!早速特訓開始よ!」



二日後、作戦提案者の加持はレイを連れてミサトの家に陣中見舞いに来た。
「よっ!調子はどうだい?」
「レイも来たのね。いらっしゃい。出来栄えは・・・見ての通りよ」
全くユニゾン出来てない。お互いがお互いに好き勝手やっているようにしか見えなかった。
「題して、鶴と亀の小踊り」
「先は長いわね~」



休憩時間に入った途端に口喧嘩になる二人、加持は頭を抱えた。
「もう!信じられない!アンタ、センスの欠片もないわね!」
「アスカがペース乱してるんだよ!ちゃんとリズムに合わせてよ!」
「人のせいにするの!?サイッテーね!」
「何言っているのさ!アスカが勝手にやっているじゃないか!」
「アタシはエリートなの!アンタと違って遺伝子レベルで出来が違うのよ!落ちこぼれは落ちこぼれらしく、アタシの足を引っ張らない程度の努力はしなさいよ!」


(この落ちこぼれが!)
(M遺伝子異常者が!)


シンジの動きがピタリと止まる。
「いいよね~アスカは、出来がよろしくて」
「シンちゃん?」
突然の態度に戸惑うミサト、シンジは何も言わず自室に戻るとトレーニングウェアを脱いで私服に着替えた。
「ミサトさん。僕はこの作戦から降ります。綾波と交代してください。夕飯の買い物に行きます」
「ちょっと!シンちゃん!?」
シンジはミサトの制しを振り切り外へ出る。バビンスキーも後に続いた。
「なによ!アイツ」
怒りが収まらないアスカ、ミサトは厳しい顔でアスカの前に立つ。
「アスカ、シンジ君に謝ってきなさい」
「なんでアタシが謝らなきゃいけないのよ!」
「できないなら、この作戦からアスカを降ろしてレイとシンジ君で組ませるわ。いいわね?レイ」
「了解」
「はあ!?なんでアタシが降ろされるのよ!アイツがアタシに合わせないから!」
「これは二人の息を合わせるユニゾンの訓練よ。相手に合わせる気のないアスカを降ろすのが当然でしょ」
「だったら落ちこぼれ同士仲良くやればいいじゃない!アタシはこれまでずっと一人でやってきた!これからも一人でやっていく!バッカじゃないの!」
アスカは吐き捨てるように罵声を浴びせるトレーニングウェアのまま外へと飛び出した。ミサトは思わず頭を掻いた。
「やっちゃったかしらね」
「いや、今のは葛城が正しい。アスカは少し意固地になっているだけさ。でも大丈夫、きっとシンジ君ならやってくれるさ」
「でも・・・」
「アスカとシンジ君を信じてやれ。それが上司の勤めってやつだ」




シンジとバビンスキーは買い物を済ませて家路を急ぐ、バビンスキーはシンジの顔を見上げた。
「シンジ、すまない。俺のせいで」
「バビンスキーのせいじゃないよ。もう昔のことだし」
「しかし・・・」
「あ、牛乳買うの忘れた。バビンスキー、コンビニ寄るね」
シンジは帰り道にあるコンビニに入ると牛乳を買う。店に出ようとすると雑誌コーナーで蹲るアスカが目に止まった。まだ頭にきていたシンジは黙って店を出る。しかし、あの露出の高い服を着たままのアスカが気になり、もう一度コンビニに入るとアスカに近づいた。
「なによ・・・」
「帰ろう。アスカ」
アスカはシンジの顔を見るとすぐに顔を背ける。
「わかっているわよ・・・アタシはエヴァに乗るしかないのよ」
「エヴァに乗るしかないって・・・悲しいこと言うなよ」
「アンタに何がわかるっていうのよ!アタシはエヴァのパイロットになるために辛い訓練にも耐えてきた!誰よりも努力してきた!エヴァに乗ることがアタシの全てなのよ!」
「アスカ、その後のことって考えたことある?」
「そ、それは・・・」
「どんな戦いでもいつかは終わりが来る。いつかわからないけど・・・でもそうなったらエヴァはいらなくなる」
「そんな!」
「エヴァがいらない世界になったら・・・アスカはどうするの?」
アスカは答えることができない。想像すらできなかった。途端に自分の足元が不確かなものになり足が震えた。
「・・・・でも・・・・アタシにはこれしかないのよ・・・」
「“今は”ね。でも僕らはまだ14歳だよ。将来のことを見据えている人なんてそういないさ。時間はあるんだ。ゆっくり考えていこうよ。僕も一緒に考えるからさ。頼りないかもしれないけど・・・」
「シンジ・・・」
「ケンスケから借りた漫画に書いてあった台詞だけどさ“未来はいつだって白紙なんだ”だって、僕もそう思うよ。アスカなら大丈夫だよ」
「・・・・」
「帰ろう?」
「・・・うん」
シンジとアスカは並んで帰った。ミサトは一言「おかえりなさい」と言って二人を迎えた。



深夜、アスカは喉の乾きを覚え水を飲みに行く、普段物音のしない時間にも関わらずシンジの部屋から話し声が聞こえた。ひとりはシンジだ。
(アイツ誰と話をしているのかしら?)
そっと音をたてないように襖を開けて中をのぞき込み、驚いた。部屋ではシンジとバビンスキーが話をしている。犬であるはずのバビンスキーは器用に胡座を組んで座り、人の言葉を話している。アスカは思わず勢いよく襖を開けた。
「「あ」」
シンジとバビンスキーがアスカを見る。アスカは目がこぼれ落ちそうなほど見開きワナワナと震えている。
「い、いいいいいい、犬がしゃべった!」
しまったという顔を浮かべるバビンスキー、アスカはバビンスキーに近づくと顔を両手で抑えてマジマジと見る。
「喋っていたよね!今この犬喋っていたよね!どうなってるの!?」
「アスカ・・・離してあげなよ。バビンスキー、もうバレちゃったからいいんじゃない?」
「むぅ、この際仕方ないか・・・」
「アスカ、バビンスキーは犬の姿をしているけど、脳は人間の脳を移植しているんだ。だから、人の言葉も話せるんだよ」
「へ~人の脳を・・・すごいマッドサイエンティストね。でも面白いわ」
「バビンスキーだ。よろしくな。あと、このことは・・・」
「分かってる、誰にも言わないわ。言ってもアタシが疑われるし、惣流アスカ・ラングレーよ」
握手を交わすアスカとバビンスキー。その光景は実にシュールだ。
「ソウリュウ・・・」
「ん?なに?」
「シンジ、先に寝ていてくれ。彼女と少し話がしたい」
「わかった。おやすみ」
「ちょ!ちょっと!?」
「君の部屋に行くぞ」
「ちょっと待ってよ!」
スタスタとバビンスキーはアスカの部屋に入る。アスカも続けて入りドアをしめた。バビンスキーとアスカは向かい合う。バビンスキーは流暢なドイツ語で話しかけた。
『ここからの会話はドイツ語で話すぞ』
『アンタ、ドイツ語話せるのね・・・本当に驚かされるわ・・・』
『惣流アスカ・ラングレー・・・だよな』
『そうよ。なに?』
『君の母親は・・・惣流キョウコ・チェッペリンか?』
『ママのこと知ってるの!?』
『ああ、以前写真で見たことがある。よく似ているからもしやと思ったんだ』
『ママに似ているんだ。嬉しいな。それよりアンタの脳ってものすごい学者かなにかでしょ?』
『・・・わかる奴にはわかるか』
『シッポ振るな!毛が飛ぶでしょ!』
ブンブンを尻尾を振り毛が部屋中に舞った。
『それと、まだシンジに謝っていないだろお前、今後のためにも謝っていたほうがいいぞ』
アスカは不機嫌な顔をして横を向いた。
『言わなくてもわかってるわよ。確かにアタシが言いすぎた。でも、あの態度はないじゃない!』
バビンスキーは少しだけ考え込むと意を決したように強い目でアスカを見る。
『お前なら話をしてもいいだろう。“M遺伝子理論”って知っているか?』
『なにそれ?』
『誰でも持っている遺伝子だが、このM遺伝子と呼ばれるものは心の設計図とも言われていてそれがその人の将来を決定する遺伝子と言われていた。そしてそのM遺伝子に異常を持っている人間は本人の人格や生い立ち、主義思想、学力などを一切無視して重犯罪者予備軍、或いは救いようのない落ちこぼれのレッテルを貼られたのさ』
『そんな!無茶苦茶よ!』
『ああ、誰がどう考えてみても無茶苦茶な遺伝子理論だ。だが、ひとつの事件がその“いい加減な理論”がひとつの事件を切欠に社会に認められてしまった。そしてそれは前の政権のプロバガンダに利用された。それがゲノム優性保護法案。シンジはその犠牲者の一人さ』
『アスカ、わかるか?シンジは親に捨てられた挙句に、そのくだらない法律のせいで預け先の家の人間によって国の施設に金で売り飛ばされて、そこで毎日落ちこぼれの扱いを受けていたのさ!そんな生活を強いられればトラウマにもなるさ』
『ひどい・・・』
想像もできなかった。アスカにとってシンジはいつもボケボケしていて、明るく、スケベな男子というイメージしかなかったから。彼の見せる笑顔の奥にそんな過去があるとは思いもしなかった。自分ならどうか?多分耐えられない。
『そんな政権を選んだ当時の有権者にも責任はある。だが、一番悪いのは差別を生んだ八角キヨタカ、俺を生んだ博士だ』
『じゃ、じゃあバビンスキーの脳って、20世紀最高の頭脳を持つと言われたあの八角キヨタカ教授!?』
バビンスキーは黙って頷く。しかしその顔は後悔と苦痛に滲んでいた。沈黙が流れる。アスカは俯きながら呟く。
『なんで・・・アタシに話をしたの?』
『・・・なんでだろうな。理由を付けるとするなら、シンジがアスカのことを信頼しているからさ』
バビンスキーは最後に笑って答えた。夜遅いせいかバビンスキーは大きな欠伸をした。
『俺はリビングで寝る。シンジのこと頼んだぞ』
バビンスキーは部屋を出てリビングへと向かう。アスカはベッドに座り天井を仰いだ。


シンジは部屋で天井を見続けている。目を閉じても眠気がこなかった。ふと襖が開いてアスカが入ってきた。
「アスカ?」
アスカは何も言わずにシンジの布団に潜り込む。
「ちょっ?アスカ?」
「黙ってアンタも寝なさい。ただし、こっち見たら殺すわ」
「なんだよそれ・・・」
シンジとアスカは互いに背中合せに寝ている。どうも落ち着かない。アスカが話しかけてきた。
「昼間は・・・言いすぎた」
「アスカ・・・」
「知らなかったとはいえ、アンタのトラウマ弄ったことは事実だから、悪かったわ」
「バビンスキーから聞いたんだ」
「ええ・・・聞いて、アタシね、パパが誰か知らないの。アタシのパパは精子バンクから買った顔も名前も知らない偉い学者さん。試験管ベイビーなのよ。笑えるでしょ?アンタのこと遺伝子云々でバカにしたけど、当のアタシは金で生まれた只の私生児なのよ。そしてママはもうこの世にはいない。家族なんて・・・いないのよ誰も」
「アスカ・・・なんで僕のそのことを話すの?」
「フェアじゃないから。アタシはアンタと対等の立場でいたいのよ。間違っても同情とかしないで、したら殺すわ。笑っても・・・」
「・・・笑わないよ。他の人が笑っても、僕は笑わない」
「・・・・勝手にしなさい」
「僕達、似たもの同士だね」
「・・・そう・・かもね。明日からまたユニゾンの訓練よ。アンタも寝なさい」
「うん、おやすみ」
二人はそれ以上何も言わず眠った。翌朝、シンジの部屋で寝ていたアスカを見てミサトは青い顔をしたが、「ユニゾン訓練の延長」として二人で言い訳をして無理矢理納得させた。
それからの二人は昨日険悪なムードを感じさせないほど訓練に励んだ。アスカが怒鳴り、シンジが怒った顔をしながらも素直に従う。ユニゾン訓練はやればやるほど飛躍的に伸びていき、それは普段の日常生活にも垣間見られ始めた。



そして決戦前夜、シンジは気持ちが昂って寝付けなかった。
「どうしよう・・・」
寝返りと打つと同時に目の前にアスカがシンジの布団に倒れ込んだ。
「アスカ?これ僕の・・・」
全てを言い切る前にアスカはシンジの顔を両手で抱えて胸に引き込んだ。柔らかい感触がシンジの理性を飛ばしそうになる。
「ちょっ!アスカ!やめて・・・ほしくないけどやめて・・・」
両手を振りほどこうとするがアスカは強くシンジの顔を抱きかかえる。
「マ・・・マ・・・・」
微かに呟いた。シンジはアスカの顔を見る。その顔には涙が流れていた。
「ママ・・・どうして死んじゃったの?」
シンジは自分が勘違いしていたことに気がつく。アスカはいつも自分勝手で高飛車で・・・そう思っていたが、目の前の彼女は幼い子供のようにか弱かった。
(僕はバカだ。こんな遠い国に一人で来て、ひとりぼっちで過ごしてきて、寂しくないわけないじゃないか)
シンジは優しく腕を振りほどくと、アスカの頭を撫でた。
「・・・ママ・・・」
いつの間にか涙は止まり安心したようにアスカは寝ていた。シンジは寝たのを確認すると布団を明け渡してリビングで寝た。



決戦当日、発令所は慌ただしく動いている。
『アスカ!シンジ君!いいわね!?もう後がないわよ!』
「わかってるわよミサト!いい?シンジ、最大戦速でいくわよ!」
「わかってるよアスカ。62秒でケリをつける」
『へ?あ、ああ・・・』
様子が違う二人の返答に戸惑うミサト、しかしその自信を裏付けるように彼らの動きは完璧にユニゾンしていた。射出されるとソニックブレイブを投げつけ分裂させる。そこへ追撃するかのようにパレットライフル浴びせ怯ませると一気に距離を詰めてアッパーを打ち込み、そのまま後ろ回し蹴りで使徒を同時に吹き飛ばす。使徒が再びひとつになると二体のエヴァは天高く飛び、そこから急降下のユニゾンキックをコアに叩き壊し、使徒は爆発した。終わってみればあっけないほど完璧なユニゾンだった。
「よっしゃー!」
ミサトはガッツポーズし、加持は安堵した表情を浮かべる。
「作戦提案者としてこれほど嬉しいことはないよ」
『映像回復します』
回復した映像が映し出したものは爆心地で折り重なるように倒れている初号機と弐号機だった。
「アンタ、最後ミスったわね?」
「ごめん・・・寝不足で・・・」
「まあ、いいわ・・・よくやったわ。アンタとしては」
「ふふふっそりゃ光栄だね・・・アスカ、僕は寝るよ」
「アタシも寝るわ・・・ねえ、シンジ。後でアンタが言ってた漫画貸しなさいよ」
「ケンスケからの借り物だから汚さないでよ」
二人は会話を終えると糸が切れたかのように寝てしまった。ミサトは二人を起こさないように回収するように手配をした。
後日、ケンスケの漫画を読んだアスカは「ガキね」と悪態をつけながらも後に全巻大人買いしたというのはまた別の話である。



第五話へ戻る | 第七話へ進む


あとがき
あぐおです。この話で少しだけシンジ君の過去を書いていこうと思って色々話が重たくならないようにぶち込もうと思いましたが、できませんでした・・・あとシンジ君の言った台詞ですが、検索をかければすぐ出てくるかと思われます。結構有名な名台詞ですね。ただ私は途中までしか読んだことがないです・・・・
次はマグマダイバーですね。頑張ります。


寄贈インデックスにもどる

烏賊のホウムにもどる