第五話 アスカ来日

あぐおさん:作

太平洋、日本へと向かう航路の途中、それは現れた。国連軍が誇る空母「オーヴァー・ザ・レインボー」に襲いかかる使徒。それを迎え撃ったのは真っ赤なカラーリングで4つ付いているエヴァンゲリオン弐号機。弐号機は掛けてあったシートをマントのように翻すとプログナイフを構えて攻撃に備える。使徒は海から獲物を飛んで捕まえるように襲ってきた。弐号機はその下をくぐり、逆にナイフを突き立てて相手の勢いを利用して腹を切り裂いた。そこへ国連軍の集中砲火が使徒を襲い殲滅した。奇しくもそれはネルフと国連軍が初めて共同で倒した敵だった。


ネルフ作戦会議室ではその迎撃の映像をミサト、リツコ、レイ、シンジの4人は食い入るように見ている。
「話では聞いていたけど」
「噂以上ね」
ミサトは振り向いてシンジ達に尋ねる。
「どう?シンちゃん感想は」
「すごいですね。エヴァをあんな風に動かせるなんて」
シンジは素直に感想を述べる。レイは何も言わない。ミサトは満足そうに彼らを見ている。
「明日にはこっちにきて紹介できると思うから仲良くね」
「はい」
「了解」

シンジは家に帰るとバビンスキーに明日合流するセカンドチルドレンについて話をした。
「ほう!シンジがそこまで賞賛するとはね、余程の使い手みたいだな」
「なんでも13歳で大学出たみたい。しかもユーロ空軍に所属する軍人なんだって、すごいよね!正にエリートだよ!」
「・・・嬉しそうだな。シンジ」
「そりゃ負担が減るからね」
ニコニコしながら語るシンジ、バビンスキーはそのことを素直に喜んだ。そのあとも彼らは夜遅くまで話し込んだ。

翌日、シンジは学校が終わるとネルフへと向かった。途中にある行きつけのゲームセンターに寄るトウジとケンスケが並んで歩く。
「へ~今日来るんか?そのパイロット」
「うん、どんな人か楽しみだよ」
「まったく、羨ましい限りだよ。エヴァに乗れるあんて」
たわいもない会話が続く、するとケンスケが声をあげた。
「お!見ろよ!スッゲー可愛い子がいるぞ!」
「うん?どこや?」
「ほら!ゲーセンのUFOキャッチャーやっている子!」
ケンスケが指を指した先には赤いのワンピースに長い金髪、赤い髪留めをした陞叙がUFOキャッチャーの中身を真剣に見ている。
「確かに可愛いね。モデルとかじゃないの?」
「あ~かもな~」
同い年くらであろう少女、その外見は男なら思わず見とれてしまうほどの美貌だった。少女が動かしたクレーンが人形を掴みゆっくりと落とし穴に届く一歩手前、人形はクレーンから落ちた。
「ああああああ!」
声も可愛らしい。しかし次の光景は三人とも目を疑った。
「このポンコツ!」
そういってUFOキャッチャーの台に蹴りを入れたからだ。絶句する三人。
「あかん、あれはあかんわ・・・」
トウジが手を振って見なかったことにしようとしたとき、少女の視線が三人に向かい、彼らに向かって近づいてきた。
「ちょっとアンタ達」
「な、なに?」
「アタシのこと見ていたでしょ。見物料として500円よこしなさいよ」
「はい?」
「アタシのこと見ていたでしょ!見物料よ!」
「んな言い分あるかい!」
少女の言葉に激怒するトウジ、少女は意も返さないように鼻で笑った。
「ハンッ!このアタシを見ていたのよ?安いくらいじゃない。これだからサルは・・・」
「なんやと!?もういっぺん言ってみいや!」
「やめなよ!トウジ!」
シンジが止めに入る。少女は三人の顔を見ると興味をなくしたように再びUFOキャッチャーへと目を向けた。シンジとケンスケは怒り狂うトウジを羽交い締めにしてゲームセンターの中へと入っていった。
「なんやあの女!胸糞悪い!」
「まあまあ、芸能人かなにかだろ?気に止めることもないさ」
ケンスケは軽くあしらうがトウジの怒りは収まらない。
「それじゃ、僕はネルフに行くよ」
シンジはそう言って彼らと別れた。外へ出るにはまた彼女の近くを通らなければならない。(今度は絡まれませんように)そう願いながら出口に向かうと、先ほどの少女が今度は柄の悪い不良達にナンパされている。
「俺たちと一緒に遊ぼうぜ~」
今し方嫌な思いをしたとはいえ、このまま彼女のことを見過ごすのは気が引ける。何より彼らの下品な笑い声が尺に触った。助け舟を出そうとしたそのとき、少女が凄い剣幕で不良達を怒鳴りつけた。
「うるっさいわね!アンタ達ごときがこのアタシに声かけていいと思ってるの!?自分の顔を鏡で見直してきなさいよ!」
火に油を注ぐ少女。不良達の顔に笑顔が消えた。
「このアマ・・・ぶっ殺す!」
ひとりが少女に殴りかかる。少女はそのパンチをよけると、逆に顎に蹴りを当てた。クリーンヒットして崩れ落ちる。
「このアマが!」
不良達が一斉に襲いかかる。少女は不良たちにパンチ、キックなどを当てて応戦している。一対多数とは言え少女の立ち回りは実に優雅で、まるでダンスを踊っているかのようだ。
(強いなこの子。この調子なら大丈夫そうかな)
加勢する気も失せるほど彼女の立ち回りは素晴らしかった。寧ろ余計な手を出して絡まれたくないというのもある。シンジは不良たちを見る。一人が不振な動きをしているのに気が付いた。ポケットに手を入れると中から特殊警棒を取り出して少女を後ろから殴りかかろうとしている。
「危ない!」
シンジは素早く少女と不良の間に体を入れ少女を守る。ガッ!という鈍い音がしてシンジの前頭部に警棒が当たった。その音に気が付いた少女が後ろを振り向く。
「ちょっと!あんた!?」
シンジは即在に反撃を開始、警棒を持った腕を取ると捻って腕を伸ばす。そこへ相手の肘関節にひじ打ちを打ち抜いた。ボキッという音がして不良の肘が折れた。次にシンジは振り向いて少女と向かい合う。シンジは片方で少女の手を握り、もう片方で腰に手を置くと社交ダンスのターンのように立ち位置を変える。
「ちょっ!ちょっと!?」
立ち位置が変わるとそのままの勢いで後ろ回し蹴りをもうひとりの不良に当てた。延髄にクリーンヒットし一瞬にして意識を刈り取った。
「て、てめえ!」
リーダーと思わしき不良が睨みつける。シンジは少女に顔を見られないように抱きかかえると殺気を叩きつけた。感じたことのない冷たい視線に思わず後退りする。
「お、覚えていやがれ!」
捨て台詞をはくと脱兎の如く彼らは逃げ出した。シンジはひとつ呼吸をすると少女に顔を向けた。
「大丈夫?怪我ない?」
「う、うん・・・」
シンジはその答えに安心すると笑顔を見せた。少女はその笑顔に見入ると思わず顔を赤らめて俯く。
「それじゃ僕は急ぐから、気を付けてね!」
シンジはそう言い残すと走ってその場を後にした。
「あ!ちょつと!」
呼び止めようとしたが、既に彼の背中は遠くにあった。
「名前・・・聞けなかったな・・・」
少しだけ残念そうな顔を浮かべる少女、そこへ車のクラクションが鳴った。
「よう!アスカ!」
「あ!加持さん!」
「ネルフに行くだろ?乗りな」
少女は嬉しそうに頷くと車の中へと乗り込んだ。道中、いつもならうるさいくらいに加地に話しかけるアスカだったがこの時は何も言わずに外の風景を嬉しそうに眺めていた。加持は初めて見せるアスカの態度を微笑ましく感じた。


シンジはネルフにつくと早速リツコの元へ訪ねる。
「こんにちは」
「あら?シンジ君どうしたの?額から血が出てるわよ?」
「ええ、ちょっと喧嘩に巻き込まれちゃって・・・」
「あのね、あなたはエヴァのパイロットなのよ?もう少し自覚して頂戴」
「すみません」
シンジは思わず苦笑いを浮かべた。リツコは傷口に薬を塗ると絆創膏を貼り付けた。
「これでいいわ。シンジ君、作戦会議室に行って頂戴。セカンドチルドレンが来ているわ」
「わかりました」
シンジはリツコの部屋を出ると作戦会議室へと急ぐ、部屋に入るとレイとミサトが待っていた。
「すみません!遅れました!」
「シンちゃん遅い!紹介するわ。彼女がセカンドチルドレン弐号機パイロットの惣流アスカ・ラングレーよ」
シンジとアスカの視線が交差する。
「「あーーーーーーーーー!」」
「え?なになに?」
「アンタ、ネルフの人間だったの?」
「う、うん・・・」
「え?シンちゃんアスカに会ったことあるの?」
「さっき、彼が不良に絡まれた所を助けてくれたんです」
「へ~シンちゃんやるわね」
「それよりアンタ大丈夫なの?警棒で殴られたでしょ?」
「け、警棒で殴られたあ!?」
「大丈夫だよ。薬塗って絆創膏貼ったから」
ミサトを置き去りにして会話が進むシンジとアスカ。アスカは絆創膏が貼られたところを軽く触る。少しだけ腫れている。アスカは手を戻すと急にモジモジし始めた。
「どうしたの?」
「あ、あの!・・・ありがとう・・・助けてくれて・・・」
「別に、当たり前のことをしただけだよ。それより君こそ怪我なかった?」
「大丈夫よ」
「アハッ良かった。助けに入ったのはいいけど、君みたいな可愛い子にケガでもしたら大変だからね」
「!!!」
アスカは顔を両手で隠しながらその場にしゃがみこんでしまった。
「どうしたの?」
「・・・・って言った・・」
「へ?」
「~~~~!可愛いって言った!」
「うん、言ったねえ」
「そ、そんな言い方しないで・・・どんな顔していいかわからないから・・・」
シンジの頭の上にはクエスチョンマークが沢山並んでいる。ミサトはその光景に唖然とするばかりだ。
「シンちゃんって天然のジゴロなのね・・・」

同時刻、司令室に加持が小さなジュラルミンケースと持って入ってきた。
「司令、例のものをお持ちしました。硬化ベークライトで固めてありますが生きています」
ゲンドウはジュラルミンケースを受け取ると鍵を使って中を開ける。そこには胎児のように丸くなったものが硬化ベークライトで固められ厳重に封印されていた。
「第一使徒、アダムです」
ゲンドウはニヤリと笑った。
「そういえば御子息を見かけましたよ。街の不良と大立ち回りをしたのですが、彼の相手にならなかったようです。随分と強い子じゃないですか。これも司令のシナリオの内ですか?」
加持は遠くから彼らの喧嘩を眺めていたのだ。資料とは異なり格闘に長けている様子だ。加持はそこに違和感を覚えたためゲンドウに軽い口調でカマをかけたがゲンドウは答えなかった。
「話は以上だ」
「はっ!失礼します!」
加地は姿勢を正すと司令室を後にした。

「よっ!葛城!」
ミサトがシンジ達を連れて歩いていると後ろから呼び止められた。声を聞けば誰だかわかる。
「あ!加持さん!」
アスカは甘えた声をだして加持の腕にしがみついた。ミサトは露骨に嫌そうな顔を浮かべる。
「・・・なんであんたがここにいるのよ」
「ドイツからアスカの同伴で来たのさ。また一緒につるめるな」
加地は嬉しそうに言う。ミサトはゲンナリした表情を浮かべた。5人はネルフの食堂へと移動する。加持はテーブルの下でミサトにちょっかいを出している。
「今、付き合っている男、いるの?」
「アンタには関係ないでしょ!」
「加持さ~ん、加持さんにはアタシがいるじゃない」
シンジとレイはジュースを飲んで沈黙を保っている。ふと、加持はシンジに声をかけた。
「君が碇シンジ君かい?葛城と暮らしているってね」
「ええ、お世話になっています」
加持がニヤリと笑う。
「こいつ、寝相悪いだろ」
「な、なんてこと言うのよ!」
「加持さん!?」
急に慌てるミサトとアスカ、シンジは一口ジュースを飲むと淡々と述べ始めた。
「寝相どころか、生活スタイル全般が悪いですね。食事は不摂生、掃除はしない。片付けも苦手、酒癖も悪い。良いところはおっぱいだけですね」
「葛城・・・お前中学生相手にその程度の評価なのか?」
「おっぱいだけ・・・おっぱいだけ・・・」
項垂れるミサト、哀れむ加持。そんな焦土とかした現場を余所にレイとシンジは黙々とジュースを飲む。アスカは席を立つとシンジの隣に移動した。
「ちょっと付き合って」

シンジとレイはアスカに連れられて弐号機が収められているゲージに移動した。アスカは胸を大きくそらして高らかに話す。
「これがエヴァンゲリオン弐号機よ!アンタ達が乗っているプロトタイプやテストタイプと違ってこれが本物のエヴァンゲリオンよ!」
「そう」
「ふ~ん、そうなんだ」
二人の反応は思いの外鈍かった。
「ちょっと!なによその態度!いい!?この弐号機とアタシがいれば使徒なんて簡単に殲滅できるわ!」
「そう」
レイは踵を返すとゲージから出ていこうとする。
「帰るわ。碇君、また」
「うん、お疲れ~」
アスカはレイの態度に怒りを露わにする。
「なによアイツ!あの態度!」
「まあ、綾波はあういう子だから、しょうがないよ」
シンジは軽く笑う。
「惣流さんみたいな腕の立つ人が来てくれて嬉しいよ。全力でサポートするよ」
「フフンッアンタわかってるじゃない」
アスカはシンジの言葉に気を良くしたのか勝ち誇った顔を浮かべる。
「アンタ、碇シンジだったわよね?」
「うん、そうだよ」
「今日からアンタのことシンジって呼ぶわ。アンタもアタシのことアスカって呼びなさい」
「ええ!?いきなりファーストネーム?恥ずかしいよ」
「いいから!これは決定事項なの!」
「ううっ・・・わかったよアスカ」
情けない声をあげながらもシンジはアスカを名前で呼んだ。アスカは嬉しそうに微笑む。
「なんで、またファーストネームで?」
「今日のことでアンタは信頼ができるってわかったから、アンタのこと認めてやっているのよ」
「光栄・・・なのかな?」
「有り難く思いなさい?私をファーストネームで呼んでいいのはアンタで二人目よ」
「一人目は?」
「加持さん!」
コロコロと表情を変えるアスカにシンジも自然に笑がこぼれた。


そのころバビンスキーはミサトの家で今まで得た情報の整理をしている。あれから様々な方法でネルフのことに関して調べてみたが、謎は深まるばかりでほしい情報が何一つ出てこない。飛鳥は申し訳なさそうな顔を浮かべている。
「申し訳ありません。バビンスキーさん。これ以上は・・・」
「まあ、仕方のないことさ。ネット上になければ調べようがないからな。あとは」
「MAGIにハッキングをかけるつもりですか?」
「できるか?」
「正攻法では不可能です」
「だよな・・・となると、裏口からの侵入を試みるしかないか」
「なるほど、“私と同じ手”を使うおつもりですね」
「ああ、飛鳥。赤木ナオコに関しての情報、論文、書籍、すべて調べてくれ」
「わかりました」
飛鳥は再びネットの世界へとダイブした。バビンスキーは情報を整理しながらも調べるたびにネルフに対して違和感を持つようになった。
(何故だ?何故こうまで機関内部においてでも情報規制をかけている?何をやろうとしている?全てを知っているのは、碇ゲンドウ、副司令の冬月コウゾウ、この二名くらいか・・・白鳥に動いてもらうしかないな・・・協力者を探してもらおう)
バビンスキーは電話を取ると白鳥の元へ電話をかける。
全身をまとわりつくような胡散臭さに不安を感じざるを得なかった。



第四話へ戻る | 第六話へ進む


あとがき
あぐおです。アスカの登場はコミック版を採用させていただきました。使徒戦よりもそのあとの出来事を重点的にやりたかったので・・・・バビンスキー色々動いていますね。彼がこれからどう関わっていくのか?書いていて結構楽しいです。ちなみにバビンスキーはゴールデンレトリバーの大型犬です。15年以上は生きている設定です。多分・・・色々ご不満などあるかと思われますが、暖かく見守って頂けると幸いです。


三日連続更新でお届けしました。あぐおさんのEVA2015です。
ようやくアスカ登場ですね。皆様もいよいよ続きが楽しみになったことでしょう。
もう続きも用意されているとのことですので、次の更新まで楽しみにしてお待ちください!

11/9 微修正

寄贈インデックスにもどる

烏賊のホウムにもどる