第三話 戦いの後で・・・

あぐおさん:作

「シンちゃんも明日から学校に通ってもらうことになったから」
その日の夕食、ミサトはビールを飲みながら急に話をきりだした。
「学校・・・ですか?」
「そうよ、シンちゃんにはできるだけ普通の生活をしてもらいたいの。エヴァのパイロットとしてじゃなくて普通の中学生としての生活をね」
そう言ってミサトは軽くウィンクをした。
「でも大丈夫ですか?僕が言うのもなんですが、エヴァのパイロットは貴重なんですよね?映画みたくテロとかに巻き込まれたら大変なことになると思いますが」
「大丈夫よん♪セキュリティはバッチシだから、それに日本の法律上義務教育はちゃんと受けてないと」
「はあ・・・そういうのでしたら・・・」
「あ、そうそう、同じクラスにエヴァのパイロットがいるから仲良くしてねん♪」
「エヴァのパイロットですか。誰です?」
「綾波レイ、女の子よ」

深夜、シンジはバビンスキーと話をしている。
「ねえ、今更僕が普通の学校なんて行く意味あるのかな?」
「俺は行くべきだと思うが」
「でも・・・」
「シンジ、お前はもっと色々な事を経験して学ぶべきだ。お前はエヴァに乗るためや殺人マシーンになるために生まれてきたわけじゃないからな」
「うん、ありがとう」
シンジは布団を被るとすぐに眠ってしまった。バビンスキーはその寝顔を見るとゆっくりと目を閉じた。

「碇シンジです。趣味は料理です。よろしくお願いします」
シンジは学校に来てクラスメートに挨拶をする。男子から無関心な視線が飛び、女子からは期待に満ちたような視線が飛んだ。一人の女子生徒が話しかけてきた。
「碇君、料理得意なんだって?何が得意なの?」
「えっと、ハンバーグと厚焼き玉子かな?えっと・・・」
「ごめんなさい、私洞口ヒカリ、このクラスの委員長をやっているの」
そばかすの少女は笑いながらシンジに自己紹介をする。シンジもそれに答えるかのように笑いかけるとヒカリは思わず顔を赤くして俯いた。
「おうおう!転校早々に女に色目使うんか。さすがエヴァのパイロット様やのう」
ジャージを着た生徒がシンジに絡んでくる。
「ちょっと鈴原!いきなりなんてこと言うのよ!」
「やかましいわ!おい転校生、ちょっとツラ貸せや」
状況が飲み込めないシンジは顔をキョトンとしている。
「えっと、なんで?」
「ええから来い言うとろうが!」
「こいつ、こういう奴だから諦めてついて行ったほうがいいよ」
眼鏡をかけニキビの跡が残る少年がニヤニヤと見つめる。シンジはため息をつくと渋々少年たちについて行った。学校の屋上へと連れていかれ、ジャージの少年は指の骨をゴキゴキと鳴らし、眼鏡の少年はビデオカメラでその様子を撮影している。
「あ~もしかしてクラスの番長とかなにか?俺が礼儀を教えてやる~みたいな」
「ワシはお前を殴らなあかん。殴らんと気が済まんのや!」
そう言うとジャージの少年はシンジに殴りかかる。シンジはそれをひらりと躱した。
「糞が!」
大ぶりのパンチを振り回す少年、しかし空を切るばかりで掠りともしない。
「チョコマカと・・・逃げるな!」
痺れを切らした少年がシンジの服を掴むと、次の瞬間には体が一回転して地面に落ちた。シンジが投げ飛ばしたからだ。
「すっげ、綺麗に投げたよ」
「いつまでも撮影してないで友達なら止めるなり助けるなりしなよ」
「え?だってほら俺カメラ持ってるし・・・」
シンジは眼鏡の少年を睨むとゆっくりと近づく。本気で怒っていないとはいえ、中学生を怯ませるには十分な威圧感を持っている。少年は思わず後退りした。
「お、おい・・・暴力はいかんよ・・・な?」
「その暴力に目をつむっていたのは君だろ?なら・・・」
「碇君」
急にその場にそぐわない女性の声がした。視線を向けると色白で淡い青い髪をして、包帯を巻いた少女が立っていた。今の状況など気にしないように話しかけてくる。
「あなたがサードチルドレンね」
「そうみたいだね、君がもう一人のエヴァのパイロット?」
「綾波レイ」
「ミサトさんから話は聞いているよ。同じパイロット同士仲良くやろうよ」
「命令があれば、そうするわ」
レイは興味が失せたかのように振り返るとそのまま校舎の中へと消えていった。シンジは少年たちを見る。ジャージの少年は背中をさすりながらも睨みつけ、眼鏡の少年は体を震わせていた。
「言っておくけど、僕は番長とかそういうの興味ないから、やりたければ好きにやってくれればいいよ」
シンジはそう言い残して校舎の中へと向かう。するとジャージの少年が吐き捨てるように言った。
「エヴァノパイロットやからって、英雄気取りちゃうか!?」
「はあ?」
「一昨日、お前らが暴れたせいでワシの妹が怪我したんや!お前のせいや!お前のせいで妹は!」
「・・・ごめん」
「ごめんで済むかいな!」
「確かにそうだね、でもあのときは非常事態宣言が発令されていたから、人がいないと考えるのが普通じゃないかな。だとするなら妹さんの保護者にも責任の一端はあると思うけど?」
「そ、それは・・・」
「僕はね、化物相手に戦争しているんだよ」
その台詞に少年たちは背筋に冷たいものを感じた。シンジは悲しそうな横顔だけ残すとその場から立ち去った。

「シンジに殴りかかるバカがいたのか。そりゃ無謀にもほどがある」
夜、バビンスキーはシンジの話を聞いてクスクスと笑う。
「笑い事じゃないよ。静かに過ごそうかと思っていたのにいきなり躓いているんだから」
「すまんすまん。それで?他はどうだ?」
「ん~普通の学校ってこんなもんかって感じかな?のんびりしてていいや」
「そういう経験も大事だぞ。特にお前の場合はな」
まるで出来の悪い弟を心配するかのような顔をするバビンスキー、シンジは黙って頷いた。バビンスキーは座り直すと真剣な表情に変わる。
「あとこっちで調べたことだが、ネルフって組織はセカンドインパクトの後に設立された組織らしい。その前はゲルヒン研究所、通称人口進化研究所っていうところでその所長が碇ゲンドウ、お前の父親だな。そこには母親の碇ユイもいたそうだ。副所長に冬月コウゾウ、後は赤木リツコとその母親の赤木ナオコもある。この人は凄いぞ!“飛鳥”をモデルにしてより人間に近い判断ができるようになるMAGI基本構成理論を発表したひとだからな!しかし凄い面子だよ。“東洋の三賢者”が全員いるんだからな」
「東洋の三賢者?なにそれ」
「知らないのも無理もないか、それだけずば抜けた才能と頭脳を持った科学者だよ。赤木ナオコ、惣流キョウコ・チェッペリン・碇ユイの三人のことさ」
「母さんが?」
「ああ、お前は三賢者の紛れもない血を引く息子だ」
「そんなのどうでもいいよ」
「シンジ・・・」
「母さんがすごい人だってのは分かったよ。でも僕からしてみれば勝手に産んで勝手に捨てた只の大人の女じゃないか!」
本心ではないと思いたい。しかしそう言いたくなるほどシンジの親に対する感情は冷め切っていた。
「そうか・・・そうだな。取り敢えず昨日今日でわかったのはこれくらいだ。引き続き飛鳥に頼んで色々と調べてもらうよ」
バビンスキーは軽く笑いながら言ってみた。少しでもシンジの心を和らげようと思っての気遣いだった。

後日、シンジが学校にいると緊急コールが鳴った。使徒の襲来があったからだ。シンジはエヴァに乗り込むとパレットライフルを構え、ビルに隠れて攻撃のタイミングを伺う。
「シンジ君、パレットライフルで先制攻撃よ!」
「了解!」
シンジはビルの陰から姿を表すとライフルを数発に分けて撃つ。歩きながら撃つ様子は実に様になっている。
「もう!男の子なんだからもっと思い切り良くいきなさいよ!」
ミサトの激を無視して再びビルの物陰に隠れる。初号機はより姿勢を低くするとすり足で移動を始めた。すると光る鞭のようなものが初号機がさっきまでいた場所に襲いかかった。鞭が飛んできた場所のビルは積み木のようにバラバラに崩れた。

シェルター内
中では眼鏡をかけた少年が携帯テレビの画面を見ながらチェンネルを弄っている。
「ちぇっやっぱりどこも映ってないや」
「別にええがな・・・」
ジャージを着た少年がつまらなさそうに寝ている。眼鏡の少年の目がキラリと光る。
「なあトウジ、あいつの戦いぶり見にいかないか?」
「何言うとるんや、外に出れないやろ」
「へっへ~こんなこともあろうかと、パパのPCからパスコード調べておいたんだよ」
「マジか!でも危ないで?」
「トウジ、あの転校生にいつまでもデカイ顔させてていいの?偉そうなこと言って実際は何もできないんじゃないか?そうなったらあいつの弱みも握れるし、俺たちは腹を抱えて笑える。一石二鳥じゃないか」
「せやな・・・あれだけでかいこと言うたんや。無様な真似しよったら鼻で笑ってやるわ」
少年たちは意気揚々とシェルターから抜け出そうとその場から消えていった。

その頃シンジはシャムシエルに苦戦を強いられていた。ライフルは効果がなく、接近戦を仕掛けようにも二本の触手が鞭のように襲いかかるため近づくことができない。すると一本の触手が初号機の足に巻き付き、そのまま大きく弧を描いて投げ飛ばされた。

シェルターの非常口から二人の少年が出てきた。
「おおおおおお!あれがエヴァンゲリオンか!すげええ!」
「なんやあれ?あれが使徒かいな?」
待ちに待った光景に感動を覚えシャッターをきりつづける眼鏡の少年、その横でジャージの少年は非日常の光景に見入るしかなかった。
「すごい!これはすごいぞおお!」
「ホンマやな!ホンマすごいで!」
「あ!エヴァが投げ飛ばされた!」
「おい!こっち来るで!」
「うわあああああああああ!」

『初号機、山に叩きつけられました!アンビリカルケーブル切断!』
「ぐぅ・・・」
投げ飛ばされ山に激突したシンジに激痛が走る。態勢を立て直そうと体を起こそうとすると目の前のモニターに手元が映る。そこには2人の少年が身をかがめて蹲っていた。シンジに絡んだ二人組だ。
『大変です!初号機の手の付近に子供が2人!』
『なんでこんなところにガキがいるのよ!』
立ち上がろうにも彼らがすぐ近くにいるため立ち上がることができない。そこへシャムシェルの二本の触手が初号機に襲いかかった。初号機は触手を掴んで動きを封じる。そしてエントリープラグを外に出すとハッチを開けた。
「そこの二人!中に入れ!」
少年たちは慌ててエントリープラグの中へと飛び込む。LCLの中に入った二人はパニックを起こした。
「カメラ!カメラがあ!」
「水!溺れる!」
はいあがろうとするが無情にもハッチは締り、強制的に肺の中へLCLを流し込むことになった。呼吸を確保した二人が次に目にしたものは使徒を相手に戦っているシンジの姿だった。
「転校生!?」
「うるさい!気が散る!」
初号機は座ったままの姿勢で使徒を蹴り飛ばして距離をあける。
「ミサトさん撤退します。ルート指定とカバーお願いします」
『シンジ君、今撤退ルートを送ったわ。すぐに逃げて!』
「カバーは!?」
『援護はないわ。自力で逃げて!』
「援護なしで撤退ですか!?できるわけないでしょ!」
初号機はプログレッシブナイフを手にとった。
『初号機!プログレッシブナイフを装備!』
『シンジ君!?』
「おい転校生!逃げたほうがええんちゃうか!?」
「逃げない」
「何言うとるんじゃ!死んだら元も子もないやろ!もしかしてワシの言葉気にしてるんか?」
「そうじゃないよ。僕が相手の立場ならこのチャンスを逃がさない。必ず仕留めにかかるよ。こういうときは下手に逃げるより前にでたほうが・・・・勝機があるんだあああああ!」
初号機は山を駆け下りて特攻を仕掛ける。シャムシエルは二本の触手で突き刺そうとするが、ギリギリのところで回避されコアをナイフで突き刺された。そしてもう一度深く突き刺すと抉る。コアはそのまま砕け散り、使徒はそのままの形で沈黙した。内部電源を数十秒残して戦いに勝利したのだった。

使徒戦を終えたシンジはロッカールームに座っている。そのそばでミサトが厳しい顔でシンジを睨んでいた。
「シンジ君、なんで命令を無視したの?」
「・・・・・」
「あなたの独断で被害が大きくなったかもしれないのよ?」
「・・・・・」
シンジは何も言わない。それがミサトの逆鱗に触れた。
「黙ってないでなんとか言いなさいよ!」
「ミサトさん、なんでカバーがなかったんです?」
「そんなの関係ないでしょ!」
「撤退をするときは被害を最小限にするために必ずカバーを入れて徹底するものですよ。相手の攻撃のチャンスを潰して逃げる。当然じゃないですか。あのまま逃げたら負けてますよ。戦自に協力してもらうこともできたはずです。なんでやらなかったんです?」
「それは・・・」
ミサトは返答に困った。シンジの言ったことは理に叶っている。しかも戦自を入れなかったのはあくまでもミサト自身の使徒に対する復讐心だからだ。自分の手でできるなら殺したい。しかしできないならせめて自分が立案した作戦で間接的に屠ってもらおうとしたためだ。

「ミサトさんは僕を動かす立場、僕は言うなればひと振りの刀ですよ。それを使うのはミサトさんです。使い方を誤れば刀は折れて全てを奪われますよ」
シンジはそれだけ言い残すとロッカールームを後にした。ミサトは反論できないシンジの言葉に頭を抱えた。
「これじゃどっちが上司だか、わからないじゃない」

次の日、シンジはまたも屋上に呼ばれた。
「おい!転校生!」
「なんだよ・・・前に言っただろ?そういうの興味ないって」
「お前・・・ワシを殴れ!」
シンジは思わずズッコケた。
「はあ?」
「ワシの思い込みでお前に迷惑をかけた。だから!ワシを殴ってくれ!」
「No thank you」
「頼む!殴ってくれ!殴られないとワシの気がすまんのや!」
「もしかして・・・ドM?あの・・・そういう趣味は・・・ちょっと・・・」
「誰がSMの話をしとんねん!」
「こいつこういう暑苦しい男だから、わかってやってくれよ」
「いいよ別に、済んだ話しじゃないか」
シンジはそう言って二人に笑いかけた。少年たちはシンジに深々と頭を下げた。
「ワシは鈴原トウジや。トウジでええで」
「俺は相田ケンスケ。ケンスケって呼んでくれ」
「碇シンジ。よろしくね。ん~折角和解したことだし、僕のとっておきを教えてあげるよ!」
「おお!なんやそれ!」
「も、もしかして・・・・」

休み時間三人は妙に仲良くなっていた。疑問に思いながらも仲良くなった彼らを見てヒカリは胸をなで下ろす。
「どうしたの?急に仲良くなっちゃって」
「おお、イインチョ。ワシらセンセのマブダチになったんや」
「そうそう、碇には頭上がらないよ。すごいこと教えてもらったしな」
「教えてもらったって・・・なにを?」
「「「女体神秘の素晴らしさ」」」
「・・・・・・・・・・・・・・ふっ」
「「「ふ?」」」
「不潔よ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
乾いた音が3つ綺麗に学校内に響いた。以後彼らは3バカトリオと呼ばれ、その名を学校中に轟かせることとなった。


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あとがき
やっと綾波レイが出てきました。彼女も色々出したいのですが、私の中では何せ使いづらいキャラクターです。しかし頑張って出していきたいと思います。次はヤシマ作戦です!


※2013/11/02現在、鋭意、連続更新中であります。明日も更新予定……。

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