The Lord of the Rings [Illustrated by Alan Lee]

最終更新日: 2008.07/20

『指輪物語』の挿絵を描くに当たって、私が先ず心がけたのは、著者が読者の心の中に注意深く作り上げようとしている情景の邪魔をすることなく、或いは無理やりそれを追い払ったりすることなく、物語に視覚的な添え物を提供できるよう努めることだった。私の仕事は、使命を帯びて旅に出た主人公たちのあとをつけることのように思われた。たいていは距離を置いてついていったが、感情が高まると、時に接近することもあった。ただ物語の劇的な山場を絵に再現することは避けた。

トールキンズワールド―中つ国を描く』(評論社) 「画家たちのことば - アラン・リー」より(田中明子 訳)

書名欄と書影欄のリンクは、インターネットから書籍を購入できる amazon.co.jp の各書ページです。
書名 The Lord of the Rings [Illustrated by Alan Lee]
著者 J.R.R Tolkien / Alan Lee (挿絵)
出版 HarperCollins
ISBN0-261-10230-3
価格(UK)£45.00
エディションハードカバー
頁数1200頁 + カラー挿絵50葉
書影 The Lord of the Rings [Illustrated by Alan Lee] 書影
関連リンク

(本書の入手日: 2002.5/9)


紹介

アラン・リー (Alan Lee) による美しい水彩画のカラー挿絵が50葉入った 『指輪物語』の原書 The Lord of the Rings(以下 LotR と略)。 ちなみに、本書の挿絵は、 邦訳 『指輪物語』では、全3巻のカラー大型愛蔵版に50葉全てが収録されていて、一部がA5サイズ版のカバー絵と文庫版のカバー絵に使われています。 また、『「中つ国」のうた』や『トールキンズワールド―中つ国を描く』にも一部が収録されています。

本書は、大判のハードカバーで三部を一冊に収めてあるので重量級で(興味本位で計ったら、2.2kgありました...)、 手に持って読むより座って机や膝の上などに置いて読むのが向いています。 僕の所有している本書、Alan Lee 挿絵1巻本は、英国 HarperCollins からの出版のもので、 当時8400円+消費税で購入したのですが、おそらく同等品が米国 Houghton Mifflin からも出版されており(現物は未確認です)、 そちら(関連リンク参照)の方が円レートの関係で安く購入できるかもしれません。 また、僕が本書を買った時点では、まだ出版されていなかったのですが、 Alan Lee 挿絵の LotR ハードカバー版には、 2002年出版の三巻本もあり、一巻本と同じ挿絵が使われているようで、その三巻本(関連リンク参照)の方が一冊の重量も適度で誰でも読みやすいでしょう。また、2008年には、ハードカバー版に比べて気軽に買えて読める、ペーパーバック版の挿絵入り三巻本(同じく関連リンク参照)も出版されました。このペーパーバック版は、2004年〜2005年に校訂された50周年記念版のテキストが使われています。

本ページ先頭の引用は、 アラン・リー自身が本書の挿絵を描いた体験について書いた文章からの一節です。 なるほどと思わせる文章で、 アラン・リー自身、トールキン作品を大切に思っているからこそ、 心がけられることなのでしょう。 実際に、彼の描くトールキン世界は鮮烈な印象を残してくれますが、 押しつけがましさを感じませんし、 僕の「情景の邪魔」や「追い払ったり」しません。

そのアラン・リーの文章の引用元の画集に、 アラン・リーらとともに作品が収録されているロバート・ゴールドスミスという画家も、 その画集に寄せた文章の中で、
私が見て最も成功していると思う挿絵は、中心人物たちをやたら詳細に描くより、 むしろその雰囲気を伝えているもの、また、何でも構わずこまごまと描写するのではなく、 選ばれたディテールを活かすことで、見る人の想像力と解釈に多くを委ねているものだ。 私はアラン・リーの仕事に大いに敬服している。 かれの挿絵は、今述べたような部類に属すると思う。
と書いている。 彼の言葉はアラン・リーの挿絵の良さを的確に表現しているんだろうと思う。 アラン・リーの挿絵がいくら好きでも、僕のような絵心の無い人間は、 その良さを表現することがうまくできないが、流石、自分でもトールキン世界絵を描いている、 本職さんです。

トールキン著作の原書でアラン・リー挿絵のものは他に、 The Hobbit [Illustrated by Alan Lee] もあります。


画像

The Lord of the Rings [Illustrated by Alan Lee] 中身

↑本書を開いたところです。

The Lord of the Rings [Illustrated by Alan Lee] 比較

↑1200頁あるので分厚いです。


Note on the Text の日付が 'April 1993' の版との比較

本書 Alan Lee 挿絵1巻本は1991年からの出版で、 LotR 原書 1994年英国版で訂正されたエラー等が残っています。 なぜか 1987年米国版での訂正も反映されていないのですが、その事情は分かりませんが、 本書 Alan Lee 挿絵1巻本は、 英国Allen and Unwinから1969年に出た一巻本ハードカバーと本文のページ組みが同じになってるようで、 その関係かもしれません。 尚、1987年版以降の原書 LotR 改訂の経緯は、 英国 HarperCollins 及び 米国 Houghton Mifflin の原書先頭にある、 Note on the Text に詳しいです。Note on the Text は、 改訂が反映されていない本書 Alan Lee 挿絵1巻本には存在しませんが、 現在売られている両社のほとんどの版にはあり、その日付を見れば、 どの時点のテキストが使われているかも分かります。 1994年版のNote on the Text の日付は'April 1993'です。

参考までに、 現在普通に購入できる LotR 原書で、 おそらく一番多いと思われ、 僕自身も手元に持っている、 Note on the Textが'April 1993'日付の版と比較して、 本書 Alan Lee 挿絵1巻本と異なる箇所を、 分かっているものだけ以下にまとめておきます。

比較に使用した版は、 『"The Lord of the Rings Boxed Set" (HarperCollins) paperback edition 1999 ISBN:0-261-10238-9』です。また、参考資料として、1992年以前の詳細な書誌、 『 J.R.R.TOLKIEN - A Descriptive Bibliography ISBN:1-873040-11-3 』も利用しました。 訂正・変更の表記には、真鵺道(まぬえど)という校正方式の記法を使用しました。 校正記号の意味については、 高橋誠さんのサイトにある真鵺道(まぬえど)式の説明がとても分りやすく、簡潔に必要な情報が書いてあります。

p.9 l.1 ・・・ 1991年挿絵1巻本版の FOREWORD は 'TO THE SECOND EDITION' となってませんが、SECOND EDITIONのFOREWORDより旧いものというわけではなく、 後述の差異を除いて基本的に同じ文章です。
FOREWORD[/ TO THE SECOND EDITION]
p.12 l.12-16 ・・・ SECOND EDITION以降1994年版以前のFOREWORD は、 最終パラグラフの文章が版によって異なることがあったようで、本書、挿絵1巻本の FOREWORD は、英国Allen and Unwinから1969年出版のハードカバー一巻本 と同じ最終パラグラフになっているようです。
[The heraldic device on the binding of this edition represents the ancient throne of Elendil; it bears his monogram L. ND. L. For the significance of the design above the throne see the Index under Tree and Star. The green jewel at the bottom represents the coming of the new King, Elessar./The Lord of the Rings is now issued in a new edition, and the opportunity has been taken of revising it. A number of errors and inconsistencies that still remained in the text have been corrected, and an ttempt has been made to provide information on a few points which attentive readers have raised. I have considered all their comments and enquiries, and if some seem to have been passed over that may be because I have failed to keep my notes in order; but many enquiries could only be answered by additional appendices, or indeed by the production of an accessory volume containing much of the material that I did not include in the original edition, in particular more detailed linguistic information. In the meantime this edition offers this Foreword, an addition to the Prologue, some notes, and an index of the names of persons and places. This index is in intention complete in items but not in references, since for the present purpose it has been necessary to reduce its bulk. A complete index, making full use of the material prepared for me by Mrs. N. Smith, belongs rather to the accessory volume.]
p.890 l.31-32
in the days of his wisdom Denethor [did/would] not presume to use it,
p.1081 l.14-15
Aragorn indeed lived to be [one/two] hundred and [ninety/ten] years old,
p.1134 l.8とl.9の間に
[/1462 Master Samwise becomes Mayor for the sixth time.]
p.1137 "TOOK OF GREAT SMIALS"
"[Fredegar] 1380"の妹として、"[Estella] 1385" が追加されている。
p.1138 "BRANDYBUCK OF BUCKLAND"
"[MERIADOC] 'the Magnificent' 1382" の配偶者として、"[Estella] 1385" が追加されている。
p.1173 l.3
(a)[/ Titles]
その他
'NOTE ON THE TEXT' 及び、Middle-earth 地図の作成・改訂経緯について説明した 'NOTE ON THE MAPS' が追加されている。

The Complete Guide to the Middle-earth での参照について

定評ある、指輪世界の優れた辞典、 『The Complete Guide to the Middle-earth』の各項目には、 原書への参照ページが記されています。同書のHarperCollins 版ペーパーバックの場合、 手元にある版では(2002年に購入したもので、奥付には、This paperback edition 1993 とあります)、 LotR の場合、Unwinから出版されていた頃の少し古めの複数の版への参照ができると書いてありますが、 1991年出版の Alan Lee 挿絵1巻本に参照できるとは明記されていません。 しかし、実は、同書p.xi に参照が明記されている 'A One volume de-luxe(india paper). First published 1969' とある版と、1991年出版の Alan Lee 挿絵1巻本とは、 本文テキストのページ組に互換があるようで、その為、 A の頁参照が、ほぼ、そのまま使えています。 「ほぼ」と書いたのは、本文ではなく、地図の挿入頁に差がある為で、 地名項目などで、Aの地図への参照頁があると、 合わないこともあるからです (『 J.R.R.TOLKIEN - A Descriptive Bibliography』 によると、 1969年版では、p.771にローハン・ゴンドール・モルドールの拡大地図が、endpaper(見返し)に中つ国の地図が、各々あったようですが、 Alan Lee 挿絵1巻本では両地図は巻末にあり、p.771は空白頁になっています。)。 ここまで読んで、1991年版の方にしかないはずの、挿絵の頁はどうなっているのかと思われる方もいるかもしれませんが、挿絵の頁にはページ番号が振られていないので、互換性に影響ありません。

全て頁参照を細かくチェックしたわけではないのですが、 今までのところ、前述の挿入地図への参照以外は、問題なく便利に参照が使えていますし、 地図参照もページが特定できているので支障は感じていません。 Alan Lee 挿絵1巻本は、うちにある原書LotRのうち、『The Complete Guide to the Middle-earth』のHarperCollins 版ペーパーバックから参照できる唯一の版なので、重宝します。


トールキン関連書籍紹介に戻る