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賢者の話 男の子は永遠の世界というものがどん なところなのか、とても気になっていた。 あの時植物の精にくわしく聞いておくべ きだったと悔やまれた。鳥は剥製のよう に動かず埒があかなかった。 ある夜、男の子は夢のなかで年老いた 梟に出会った。それは廃虚の王が言って いた賢者と呼ばれている梟だった。男の 子はその梟に永遠の世 界について尋ねた。 梟の声は嗄れていて、か細く聞き取りに くかった。「本当の自分というものを知 らない人間が、永遠を理解するのはほと んど不可能だ。人間は過去と未来に捕わ れている。過去と未来の狭間にある純粋 な『今』がすなわち永遠のことだ。 過去と未来は蓄積された経験、記憶か ら作りだされる。人間は生まれ落ちた時 からすぐに色々なことを体験しそれを蓄 積していく。その蓄積された構築物を自 分だと思い込む。それは丁度鏡に様々な ものが映り、映ったものを自分だと思う ようなものだ。本当はなにも映っていな い鏡そのものが自分なのに。 過去という壁と未来という壁の間に開 いた僅かな隙間から人間は時々永遠をみ る。しかし『本当の自分』にまとわりつ いた『記憶の蓄積物』で、肥大化してし まった人間は、その隙間を通り抜けるこ とができない。」 始めと同じように唐突 に話し終ると、梟はしばらく哀れむよう に男の子を見つめていたが、いきなり大 きな翼をいっぱいに広げて飛びたっ た。 |