11
 夕暮れの世界
 
鳥はいつも何の前触れもなく目覚め、
 男の子を別世界に誘った。「今日あな
 たが行くところは、私が最も好きな夕
 暮れの世界です。」
  着いたところは、夕日が沈み残光が
 明るく空に残っている、おだやかな風
 景が広がる世界だった。
 「ここは昼でもなく夜でもないその狭
 間、永遠を感じさせてくれる世界です。」
 草の上から植物の精が気持ち良さそう
 に声をかけた。
  ルネッサンスの天才画家が、デッサ
 ンをするのに最も適した光は夕方の光
 だと絵画論に書いていたのを男の子は
 思い出した。明る過ぎもせず暗過ぎも
 しない光は、物の陰影を最も美しく浮
 かび上がらせる。夕暮れの淡い光のな
 かでなら、どんなものも調和と幻想に
 彩られた魅惑的な姿に映るのではない
 だろうかと思われた。

   

TITLE    BACK  NEXT