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「どうだいとても心休まる美しい眺めだろう。
家や町並みというのは新しいうちはけばけばし
くて、よそよそしくてちっともいいものじゃな
い。年月がたってくるに従って味がでてくる。
それでも人間がいるうちはだめだね。人間がい
なくなり風化が始まり崩れてゆく。それからが
本当の美しさの始まりだ。本当に美しくなるの
は、それを作った当人がいなくなった時、とい
うのも皮肉なものだね。」
ここは期待や希望、栄光、野心といったもの
の終焉の地だった。崩れかけた石の上に座ると
淡い光の中に細かい塵が浮かんでいるのが見え
た。男の子は今までに体験したことのない居心
地の良さを感じた。ここに何時までもいたいと
思った。近くに寝そべっている猫も、まるで石
で出来た廃虚の一部のように思えた。
「ここにはおれの古い友達の梟も住んでいる。
そいつは賢者と呼ばれている物知りだ。そいつ
にも何時か会うといい。」
その時丁度どんよりとたれ込めた雲の隙間か
ら光がさしてきたが、その明るさは風景を活気
づかせるのではなく、繁栄の残滓のようなもの
を浮かび上がらせるだけだった。植物の精が帰
るように促した時、男の子は深い物思いに沈ん
でいた。