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  廃虚の王

  男の子は長い間学校に行ってなかった。集団で
  何かをやらされることの空しさと、自信に満ちた
  大人達の、押し付けがましさにはうんざりしてい
  た。そのかわりよく本を読んだ。文字は押し付け
  がましくなかったし、その気になれば何時でも閉
  じることが出来た。男の子にはその時々自分にと
  って本当に必要な本を見つけ出す才能があった。
  それでも鳥がつれて行ってくれる世界は、本では
  味わえないリアリティーを男の子に与えた。
   寝ているうちに夜の世界から戻ってから、鳥は
  動かなかった。そんなある夜、男の子は夢の中で
  植物の精に出会った。
  「あなたは鳥の案内がなくてもこちらに来られる
  のですね。次に鳥はあなたを夕暮れの世界につれ
  て行くと言っていたけれど、ここで折角あなたに
  会ったのだから、面白い所につれて行ってあげま
  しょう。」植物の精は男の子の手をとると、空に
  舞い上がった。
   やがて降りた所は枯れ草の中の廃虚だった。そ
  こは広大な廃虚だった。何時建てられたのか想像
  もつかない数知れぬ建造物が、重なり合い崩れあ
  いして広がっていた。すこし離れたところから一
  匹のとても大きな白い猫が近づいてきた。身体は
  薄汚れていたが目はするどかった。「おれはここ
  らで廃虚の王と呼ばれている猫だ。もっともこの
  辺にはあまり生き物はいないがね。」その猫はぶ
  っきらぼうに話し始めた。

  

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