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『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、セガの16ビット機・メガドライブオリジナルの魂斗羅作品だ。ちなみにこの『ハードコア』は「ハードコア・ポルノ」等の“hardcore”ではなく、「ハードな部隊」を意味する“hard corps”である。 1992年のスーパーファミコン版『魂斗羅スピリッツ』が大成功をおさめたにもかかわらず、その後約2年半もの間、魂斗羅シリーズの新作は発表されなかった。また、ファミコンやスーパーファミコンでは、ハードが出てすぐ市場をリードしていたコナミだったが、メガドライブへの参入はハード5年目の1992年12月と遅く、『魂斗羅 ザ・ハードコア』の発売はさらにそれから約2年後、メガドライブも末期の1994年9月15日のことだった。ただしこの間に、魂斗羅シリーズの魂を継ぐようなアクションゲームが、メガドライブで2つ発売されている。 ひとつは、『魂斗羅スピリッツ』のディレクターだった中里伸也氏が手がけた、コナミの『ロケットナイトアドベンチャーズ』(1993年8月)だ。キャラクターこそコミカルだが、中里氏の「ロケットナイトはアニマル魂斗羅です。ハッハッハッハッ」という言葉通り、人間大砲で空中戦艦に突入したり、宇宙ステーションに開いた穴から吸い出されそうになったり、死んだと思ったボスが大気圏突入する脱出ポッドを追いかけてきたりと、そのまま魂斗羅が活躍できそうな熱い展開が目白押しの力作だった。 もうひとつは、コナミで『魂斗羅スピリッツ』のプログラムを担当した八井田満氏と菅波秀幸氏がトレジャー移籍後に作り上げた『ガンスターヒーローズ』(1993年9月)だ。前川正人社長を始めトレジャーのスタッフ自らも認めているように魂斗羅のゲームスタイルを踏襲した作品で、多彩な武器で全方向に撃って撃って撃ちまくる、爽快アクションシューティングである。その高い技術力と完成度は発売直後から絶賛され、今日でも最高級のアクションゲームという評価を受けている。 これらの作品を経て、満を持して発売された『魂斗羅』の名を冠する正統な新作、『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、シリーズ最大のボリュームを持つ力作であると同時に、シリーズ最大の異色作となっている。制作チームの名は、「TEAM 機知GUY」。魂斗羅を愛し、『ロケットナイトアドベンチャーズ』や『VAMPIRE KILLER』等も手がけた精鋭スタッフ達である。 そして、あらゆる面で傑作だった前作『魂斗羅スピリッツ』に引き続き、『魂斗羅 ザ・ハードコア』のディレクターも務めることになった中里伸也氏は、「シリーズものをやるうえで、タイトルから受けるイメージを踏襲して作ることも必要だが、良い方向で裏切っていかないと、本当に続ける意味はない」と考え、内容の大幅なリニューアルを敢行したのだ。 ストーリー上は『魂斗羅スピリッツ』の続編という設定だが、主人公がビル&ランスから「魂斗羅部隊」に変わり、4人から選べるプレイヤーキャラ、会話シーンによるルート分岐、ライフ制やスライディングの導入など、新たな試みがいくつもなされている。これは明らかに一連のシリーズの傾向を離れた全く独自の作品だった。 ストーリー性とキャラクター性を重視 『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、エイリアン戦争から5年後が舞台だ。政府は新型の凶悪犯罪に対抗すべく特別チームを設立。プロ中のプロを集めたそのチームを人々は「魂斗羅部隊」と呼んだ。 無人機動兵器の暴走を鎮圧するため、出動する「魂斗羅部隊」。だがこれはプロローグに過ぎず、ゲームが進むにつれ、更なる巨大な陰謀が明らかになっていく。実は暴走事件はオトリ作戦で、この混乱に乗じて、軍の研究施設に保管されていたエイリアン細胞が強奪されてしまう。事件の黒幕、退役軍人バハムート大佐は軍の研究者Dr.ジオ・マンドレイクと通じ、エイリアン細胞を利用した生体兵器による政府転覆計画を進めていたのだ。 プレイヤーはレイ・パワード(マッチョガイ)、シーナ・エトランゼ(女戦士)、ブラッド・ファング(サイボーグ狼)、ブラウニー(ちびロボット)の4人から選ぶことができる。人物像、性能共に個性的で、選んだキャラによってゲームの感じはかなり違ってくる。 それぞれ異なる4種類の武器を装備でき、合計16種類もの追加装備がある。レイとシーナはクラッシュ、スプレッド、ホーミング、レーザーといったシリーズの伝統武器が主だが、ファングはパンチや溜め撃ち、ブラウニーは二段ジャンプや超電磁ヨーヨーが使えるなど新鮮だ。お前らは人間じゃねえ。キャラによってセリフも変化し、身長も微妙に違う。ちなみに開発中の段階では、ライフの量もそれぞれ違っていた。 そして、『魂斗羅 ザ・ハードコア』の大きなウリのひとつが、会話シーンの選択肢によってその後の展開が変わっていくルート分岐だ。隠しステージ等もあり、全てのルートを合わせると、13のステージと6種類のエンディングがある。ルートごとのプレイ時間は短いので気軽に遊べ、キャラを変えたり全てのエンディングを見ようと思えば繰り返し遊べる、という仕組みだ。 このように『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、シリーズ中最もストーリー性とキャラクター性を重視している。本作の敵はバハムート大佐やデッドアイ・ジョーといったテロリストで、これまでの作品のように地球侵略をたくらむエイリアンではない。スケールという点では見劣りするかもしれないが、そのぶん「人間」らしい個性に満ちていて魅力的だ。 また、『魂斗羅 ザ・ハードコア』の雰囲気はシリーズ中最もユーモラスだ。ゲーム中でも、会話シーンでも、とにかくバカっぽくて笑える演出が多い。だがその反面、ユーモアが過剰すぎ、従来の硬派な雰囲気や、「シリアスなのか? ギャグなのか?」という紙一重の面白さを失ってしまったという声もあった。敵キャラにも、見た目やアイデア面での面白さを狙ったものが多く、従来のように圧倒的な威圧感や恐怖感を与えるものは少ない。 ブラウニーのとぼけたセリフや、シリーズ初の女戦士シーナの存在も議論を呼んだ。シーナは女とは言え、それを意識させないほど、男にも負けない優秀な戦士だ。だがそれでも、硬派ファンからすれば、「魂斗羅に女など一切不要!」というわけだ。 こうして見ると『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、他の魂斗羅シリーズのような戦争映画的と言うより、むしろ気楽なSFミリタリーアニメといった雰囲気がある。イメージイラストにもアニメクリエイターの梅津泰臣氏を起用し、初期の作品で色濃かった『ランボー』『コマンドー』『エイリアン』といった80年代アクション映画のイメージはほとんどなくなっている。 ノンストップ撃砕アクション 『魂斗羅 ザ・ハードコア』の最大の魅力は、シリーズ中最もハイテンションで、過剰なまでにド派手な演出だ。まず、「爆発」へのこだわりからして凄まじい。ザコ1匹倒しただけでも普通のゲームのボスキャラ並みの爆発が巻き起こり、しかもほぼ全ての敵に個別の爆発パターンが用意されている。後半面のボスに至っては、画面中を爆炎がグルグルと渦を巻いて弾け飛ぶ大花火大会だ。 そして、13ものステージにジェットコースターのごとく展開する、最高にバカバカしいギミックの数々を表現するために、メガドライブの性能を限界まで引き出した、最高に高度な技術の数々が投入されている。大量に登場する多関節キャラはどれもなめらかに動き、まるで生き物のように多彩な「芸」を披露してくれる。また、メガドライブはスーパーファミコンと違い、回転・拡大・縮小といった機能をハードウェアではサポートしていない。だが本作はそうしたメガドライブの弱点をも、驚異的なプログラム技術によって見事に克服している。 擬似3Dで表現された、ハイウェイでの追いかけっこは圧巻だ。プレイヤーは画面手前に向かって走り、背景はラスタースクロールしながら高速で後ろへ流れていく。そこへ画面奥から、多関節の巨大ロボットが拡大縮小しながらドタバタと追いかけてくるのだ。これまでのシリーズにない斬新な演出で、インパクトはとても強い。そして技術的にも、全てのメガドライブソフトの中でも間違いなく最高峰と言える。 余談だがこれにそっくりなシーンが、何と他社の作品にも存在する。データイーストの伝説的アクション『エドワードランディ』(1990年)で、主人公ランディが画面手前に向かって走っていると、画面奥から敵の車が追いかけてくる、というシーンだ。またこのシーンだけでなく、どちらの作品にも、飛んでいる飛行機を真正面からとらえた視点で、その翼の上に乗って戦うという、全く同じシーンが登場する。面白いことに、『エドワードランディ』のソフトウェアプログラマであった濱田英美氏は、その後『魂斗羅 ザ・ハードコア』でエネミープログラムを担当している。まさに「変なゲームならまかせとけ!」といったところだ。 この他にも『魂斗羅 ザ・ハードコア』には、こうした派手で印象的なシーンがいくつもある。「パワード忍者YOKOZUNA」の登場シーンは、本作を代表する名場面のひとつだろう。この怪力ロボットは、プレイヤーの乗る列車を走って追い抜き、前へ回りこんで力任せに止めてしまう。最期も列車にはねられバラバラになるという天晴れな死に様である。このシーンを始め、本作の見せ場でたびたび使われるBGM“GTR ATTACK!”も最高にエキサイティングだ。またこのキャラは、続編『真魂斗羅』でも、「超力ロボ・ヨコヅナJr」として再登場を果たしている。 洋上に展開する3体合体変形メカ「タケッダーロボ」も忘れられない。『ガンスターヒーローズ』で菅波氏が作り上げた7変形ボス、「セブンフォース」を彷彿とさせる。ちなみにセブンフォースは、菅波氏がアニメ『伝説の勇者ダガーン』を見て思いついたのだそうだ。また、タケッダーロボの由来であるエネミープログラマの武田長(たけだ・たかし)氏は、後にディレクターを務めたゲームボーイアドバンス版『キャッスルヴァニア〜白夜の協奏曲〜』(2002年)でも巨大な多関節キャラを登場させ、「多関節プログラマ」の健在ぶりを見せている。 シリーズのお約束であるエイリアンステージにも、スタッフの気合いが感じられる。『ロケットナイトアドベンチャーズ』の企画開始時のことだが、中里氏はチーム全員を引き連れて当時開館したばかりのトレンドスポット、品川水族館へ向かったという。目的に対してまったく関係のない所からアプローチして新鮮なアイデアをひねり出すのが氏のやり方なのだそうだ。だが、結局水族館ではこれといったアイデアを得ることはできなかった。唯一「昼飯は焼き魚を喰おう!」と思いついたということが伝えられている。 そうした苦い体験があったわけだが、この『魂斗羅 ザ・ハードコア』では、何と言うことだ、妙なところに行かなければ妙な発想は出ないと、今度はチーム全員で「目黒寄生虫館」に出かけてしまったのだという。その成果がエイリアンステージでの動きに活かされている。 確かに本作のエイリアンを見てみると、ギーガーを模倣した従来のデザインとは一味違う、独自の怪しさを放っている。多関節キャラが目立つ中にあって、ラスター処理でグロテスクな首の動きを表現したアイデアも素晴らしい。また、エイリアン同士が接触すると共食いを始めるという演出にもドキッとさせられる。 この作品で最も笑えるのは、オマケ的な隠しステージの展開だ。開発アップ近くの最も忙しい時期に制作されたにもかかわらず、ここにはオリジナルの隠しボスが3体も登場する。中でもムチとたいやきで攻撃してくる子門真人は爆笑モノだ。言うまでもなく『悪魔城ドラキュラ』の主人公「シモン・ベルモンド」と引っかけたギャグで、BGMまで“Vampire Killer”(ドラキュラの1面BGM)のアレンジという凝りようである。 そしてこの隠しステージをクリアすると、魂斗羅はいきなり原始時代にタイムスリップし、サルと結婚してエンディングを迎える。そんなのおかしい。おかしいですよ!! 誰もが楽しめる絶妙なデフォルト難易度 『魂斗羅 ザ・ハードコア』は『魂斗羅スピリッツ』以上にボス戦中心のステージ構成になっている。もはや最初から最後まで、ほとんどボス戦の連続と言っていいくらいだ。スクロール画面とザコ戦は、ボスラッシュの合間に時折挟まれる、短い繋ぎのような存在になり、ザコ戦中心だった初期の魂斗羅シリーズとは完全に逆転している。 このボス戦中心の構成は派手でテンポが良く、まさにノンストップアクションと呼ぶにふさわしい。だが一部の伝統的な魂斗羅ファンからは、初期の作品の肝だった、「大量のザコを撃ちまくりつつ駆け抜ける」ザコラッシュの爽快感や疾走感を味わえる場面が少なくなってしまった、という声もあがった。この議論は、同じくボス戦中心の続編『真魂斗羅』でも再び繰り返されることになる。 また本作では、シリーズの大きな特徴だったステージごとに切り替わるスクロールも廃止され、全編サイドビュー面に統一されている。少し寂しい気もするが、これまでのシリーズでも、3D面やトップビュー面はゲームの統一感を損なっているという意見や、サイドビュー面のほうが面白いといった意見は多く出ていた。そうした背景もあり、この変更はほぼすんなり受け入れられた。 基本システムにも、様々な変更点がある。3発まで耐えられるライフ制や、無敵のスライディングなど、どれもゲームをより遊びやすくするためのものだ。さりげないことだが、多くのアクションゲームのように、ボタンを押す長さでジャンプの高さ調節も可能になっている。 また、武器セレクトも『魂斗羅スピリッツ』以上に親切になっており、取った武器アイテムは入れ替わらずに全てストックされ、最大4種類の武器を自由に使い分けることができる。アウトになっても、その時点で使用していた武器は失われるものの、これまでのように武器が何もない状態に陥ることはほとんどない。ライフ制で死ににくいうえに、死んだ時のリスクもより軽減されているのだ。 こうした遊びやすいシステムのおかげで、『魂斗羅 ザ・ハードコア』の難易度はそれほど高くない。攻略もパターン性が強いので、何度もプレイすれば、誰でも必ずクリアできる。このやさしい難易度が本作の美点でもあり、反面上級者にとっては物足りない点でもある。また本作には、『魂斗羅スピリッツ』のような難易度設定もない。だが、本作がシリーズ中でも特に幅広い層のプレイヤーに支持されているのは、この誰もが楽しめる絶妙なデフォルト難易度によるところが大きいのは確かだ。 ちなみに海外版の『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、国内版と違ってかなり難しい。ゲーム内容は全く同じだが、ライフ制ではなく従来通りの一発死になっているのだ。海外では難しいゲームが好まれるという事情を考慮したのだろう。 機知GUYスピリッツ 『魂斗羅 ザ・ハードコア』が、シリーズ最大の異色作であることは間違いない。ビル&ランスの代わりに女やケダモノや漫才ロボが登場し、ライフ制や無敵スライディングでサクサク進めるこの作品を、「邪道」「ぬるすぎる」と考える人もいる。だが、シリーズの正統派として頂点を極めた『魂斗羅スピリッツ』を超えるべく、全く新しい方向性に挑戦した勇気ある姿勢は評価されるべきだ。 そして実際に『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、その結果従来のイメージをぶち破ったことなど、些細な問題と思わせてしまうほど、圧倒的な熱意のこもった作品に仕上がっている。また、これだけ内容的にリニューアルされていながらも、やはりれっきとした魂斗羅シリーズだと感じられるのは、独特の操作感覚、撃ちまくりの爽快感、2人同時プレイといった、ファンが魂斗羅というタイトルに求める基本エッセンスは大事に残されていたからに他ならない。 結果的に『魂斗羅 ザ・ハードコア』は、『魂斗羅スピリッツ』に並ぶシリーズ中の傑作、という最高級の評価を受けている。中には『魂斗羅スピリッツ』より好きだという人や、最高のアクションゲームと考える人も多い。この事実こそ、「TEAM 機知GUY」の挑戦が間違いではなかった、何よりの証明と言えるだろう。 ただ残念なことに、メガドライブ末期に発売されたこともあって、『魂斗羅 ザ・ハードコア』の出荷数は少なく、発売当時は主に熱心な魂斗羅ファンか、「メガドライバー」と呼ばれるコアユーザーがプレイするにとどまった。そして現在の中古市場では、本作は定価かそれ以上のプレミア価格で取り引きされ、素晴らしい作品にもかかわらず多くのユーザーが触れやすい状況とは言いがたい。 またこの作品に関して、『ガンスターヒーローズ』への対抗心を燃やして制作された、という噂ばかりが喧伝されることが多い。確かに本作には、『ガンスターヒーローズ』を意識したような部分も少なからず見られる。だが結局、本当のところは制作スタッフだけが知っていることである。唯一信じられるのは、本作の発売当時、OH!味こと中里氏がユーザーに向けて送ったメッセージだけだ。 「誰が何と言おうと、こいつは俺達が渾身の力を込めて日本のメガドライバーのために作った『魂斗羅』だ、受け取れ!!」 「今回はチーム全員がお金とか名誉とかそういうものじゃなく、個人個人が抑えがたく持ってる熱いもののために走り続けることができたという誇りがある。それが君達にも伝わることを信じているぞ!」 魂斗羅ファンとして、ゲーマーとして、これ以上何を望むことがある? 『魂斗羅 ザ・ハードコア』の発売からほどなく、メガドライブ、そしてスーパーファミコンといった16ビット市場は終焉を迎える。1994年11月にセガサターン、12月にプレイステーションと、次世代32ビット機が相次いで発売され、ゲーム業界は3Dゲーム全盛に変わっていく。そして、『魂斗羅スピリッツ』、『魂斗羅 ザ・ハードコア』と、2つの傑作に全てを注ぎこんだ中里氏も、これ以上新しいことはできないと考え、シミュレーションゲーム(『ヴァンダルハーツ』シリーズ)の制作という新たなフィールドへ移っていった。 魂斗羅ファンやアクションゲーマーにとっては、最もつまらない時代がやって来たのだ。 “SEE YOU NEXT MISSION!”その漢の約束だけを信じながら。 |
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