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ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』は、メガドライブ版『魂斗羅 ザ・ハードコア』とほぼ同時期、1994年9月23日に発売された。そのタイトル通り、1992年に発売されたスーパーファミコンの傑作『魂斗羅スピリッツ』の移植である。 1P専用で2人同時プレイはなし。4文字のパスワードによるコンティニューを搭載。また、スーパーファミコンと周辺機器のスーパーゲームボーイを使えば、テレビのカラー画面でプレイすることができる。 魂斗羅シリーズ一の駄作 残念ながら、この作品には見るべきところはほとんどない。ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』はMSX2版『魂斗羅』と並び、魂斗羅シリーズ中の駄作である。シリーズ最低と言っていいかもしれない。 言うまでもなくスーパーファミコンとゲームボーイでは、回転・拡大・縮小機能の有無を始め、ハード性能に天と地ほどの差がある。そのゲームボーイで『魂斗羅スピリッツ』を無理矢理再現しようとした本作は、全てのギミックが悲しいくらい貧弱になっており、削られたギミックも数多い。そして反対に、新しく追加されたオリジナル要素はほぼ皆無。完全なダウンサイズ移植に終わっている。 何と言っても、スーパーファミコン版で最も印象的だったステージ4が丸々カットされているのが痛い。エアバイクも、対魂斗羅戦艦ドドリゲスも、ロケット忍者ササキも、そして伝説のミサイル渡りも、全てなくなってしまっている。 その他のステージでも、敵の種類はスーパーファミコン版の半分以下に減らされ、シリーズ中で最も数が少ない。特にマグナスmk2、ガースベース、ケニ1号&2号といった魅力的なボスが跡形もなく消えているのは寂しい限りだ。 最終面のボスラッシュもジャバ、キムコウ、ギャバの3体だけで、その穴埋めにジャバばかり3回も出現するという苦肉の策がとられている。スーパーファミコン版の最終ボスだったサールとフェロメドス六人衆も登場せず、ギャバを倒すといきなりエンディングとなる。 とにかくあらゆる場面で、明らかに無理をしているのが伝わってきて痛々しい。ビッグファズは首だけで動かないし、アントヘルはボスコスパイダーのパーツの使い回しだ。その他にも、スーパーファミコン版との違いは挙げればきりがない。 トップビューステージの仕様も変更されており、スーパーファミコン版はL、Rボタンによる背景回転が度肝を抜いたが、ゲームボーイ版は当然回転せず、Aボタンでプレイヤーの向きを固定する何の変哲もないシステムになっている。 武器アイテムではレーザーが削除され、銃の左右使い分け、乱れ撃ち、固定撃ちといった新システムも全てなくなった。タイトルこそ『魂斗羅スピリッツ』だが、システム的には初期の魂斗羅作品に戻っていると言っていいだろう。 魂斗羅らしさの欠如 見た目や内容が貧弱でも、ゲームとして面白ければ良かったのだが、それもてんで駄目だ。何より、魂斗羅らしいキビキビとした操作感や、バリバリ撃ちまくる爽快感が全く感じられないのが致命的だった。ゲームボーイ版『コントラ』はこの部分を完璧にクリアしていたからこそ、魂斗羅シリーズにふさわしい名作となったのだ。 ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』では、自機はレスポンス悪くモタモタと動き、アクションも魂斗羅らしくない。特に地面にベターッと伏せる魂斗羅独特のポーズが、怪しい屈みポーズに変わっているのが謎だ。 銃弾は弾切れしながらトロトロと飛んでいき、スプレッドもろくに拡散(スプレッド)しない。本作で爽快感のある武器と言ったら、ファイヤーくらいだろう。スーパーファミコン版の、炎をウネウネと振り回す感じが良く再現されている。攻撃力も高く、本作では最強の武器だ。 ただし、この攻撃力が高いというのもまたくせものである。と言うのも、ほとんどのボスはファイヤーやクラッシュで撃ちこめば、攻撃してくる前に瞬殺できてしまうのだ。そこには戦略も何もない。これはバランス調整のミスと言わざるを得ないだろう。 これらの武器を有効に使いつつ丁寧にプレイすれば、クリアは簡単にできる。難易度は4段階から選べるが、残機数が減ったり、ザコが嫌な感じに硬くなるくらいで、スーパーファミコン版のような内容の変化はほとんどない。結局、あまり長く遊べるゲームではないのだ。 グラフィックはゲームボーイとしては健闘しているが、それでもゲームボーイ版『コントラ』のほうがずっと美しかった。スーパーゲームボーイ対応も、はっきり言って全く魅力を感じない。配色のセンスはあまり良くないし、第一家にいてテレビとスーパーファミコンがあるのなら、誰だってスーパーファミコン版をやるに決まっている。 サウンドも妙に刺々しく、耳に心地良いとは言いがたい。そもそもの問題は、元々スーパーファミコンのPCM音源を前提に作曲されたBGMを、ゲームボーイのPSG音源で無理矢理再現しようとしていることだ。PCM音源なら音色も同時発音数も多いので、オーケストラのように立体的な音楽を表現することができる。だが音数の少ないPSG音源は、そのぶんメロディをわかりやすくノリの良いものにするべきなのだ。かつてのファミコン版やゲームボーイ版の魂斗羅が、どれもシンプルながら脳裏に焼きつくような、思わず口ずさんでしまうようなメロディを持っていたように。 シリーズ初の外注作品 実際にプレイすればすぐに感じることだが、ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』には他の魂斗羅作品と異なる違和感、いわゆる「洋ゲー」っぽい独特の雰囲気がある。それもそのはず、実は本作を制作したのは本家コナミではなく、ファクター5(Factor 5)という海外の制作会社なのだ。魂斗羅シリーズでは初めての外注作品ということになる。 ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』の出来は残念ながら今ひとつだが、ファクター5自体は優秀な制作会社だ。1987年ドイツに設立されたファクター5は、1996年からはカリフォルニア州サンラファエルを本拠地としている。近年の代表作はルーカスアーツとの『スター・ウォーズ ローグ スコードロン(Star Wars Rogue Squadron)』シリーズ、そして90年代前半には伝説的なアクションゲーム『タリカン(Turrican)』シリーズを制作した。 『タリカン』シリーズは日本では無名だが、コモドール64やアミガで大ヒットし、海外では今でも人気がある。面白いことに1990年の第1作『タリカン』は、任天堂の『メトロイド』、データイーストの『サイコニクス・オスカー』、そしてコナミの『魂斗羅』の要素をミックスして作られたと、制作者自ら語っている。その会社が、後に本物の魂斗羅作品を作ることになったわけだ。 また、ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』の翌年、1995年にSNES(海外スーパーファミコン)のみで発売された『スーパータリカン2(Super Turrican 2)』には、『魂斗羅スピリッツ』や『魂斗羅 ザ・ハードコア』にそっくりな場面がいくつか出てくる。この『スーパータリカン2』は、海外の複数のゲーム誌上で、史上最高のアクションゲームのひとつという評価を受けた。 チャレンジ魂(スピリッツ)の感じられない凡作 ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』が魂斗羅シリーズの水準に到達していないことは明らかだが、それでもゲームボーイソフトとして見れば良く頑張っているほうだ。ファクター5は技術力のある会社だし、貧弱なゲームボーイで何とかスーパーファミコン版に近いものを、という工夫は感じられる。 結局、ゲームボーイに『魂斗羅スピリッツ』をそのまま移植しようというコンセプト自体に無理があったのだ。スーパーファミコン版や他のシリーズ作品を知らなければそれなりに楽しめるかもしれないが、大ヒット作の移植である以上比較されるのは当たり前だし、そうすればどうしたって見劣りしてしまうことはわかっていたはずだ。ましてや原作は2年半以上も前の作品である。 回転・拡大・縮小といったスーパーファミコン版の大きな売りも、ゲームボーイの性能を考えれば削られるのは仕方がない。だが一番の問題は、こうしたパワーダウンが当然わかっていながら、それを補うようなゲームボーイ版独自の要素が何ひとつ追加されていなかったということだ。そこにファミコン版『魂斗羅』、『スーパー魂斗羅』や、ゲームボーイ版『コントラ』との決定的な違いがある。 振り返ってみれば、魂斗羅シリーズの歴史は飽くなき「挑戦」の歴史だった。ハードの限界、前作の成功、既成の概念、様々な「壁」に挑戦し、常にもっと新しいものを、もっと面白いものを、という制作者の熱き魂(スピリッツ)が、完成したゲームからビシビシ伝わってきた。『魂斗羅 ザ・ハードコア』など、その最たる例ではないか。 残念ながら、ゲームボーイ版『魂斗羅スピリッツ』から感じられるのは、MSX2版『魂斗羅』同様、妥協と怠惰に満ちた安易な制作姿勢だけだ。決して遊べないゲームではないかもしれないが、魂斗羅の名を語るには、あまりにも志の低い作品だった。 |
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