m@stervision pinkarchives 2003

★ ★ ★ ★ ★ =すばらしい
★ ★ ★ ★ =とてもおもしろい
★ ★ ★ =おもしろい
★ ★ =つまらない
=どうしようもない



※追加アップ分の28本については当サイトの通例とは逆に 上→下 への公開順になっている。
また、このページのレビュウ本文での「今年」とは2003年を指している。

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痴漢義父 息子の嫁と…(後藤大輔)

プロデューサー:池島ゆたか シナリオ題「夜明けの牛」

上野オークラで再見して星1つ増やした。 ● 熊本の酪農農家。まだ明けきらぬ冬の寒い朝。四十がらみの農家の嫁が寒さに凍えながらも牛舎に入っていくと、そこで服を脱ぎ、牛と牛のあいだで全裸で四つん這いになる。そこへ年老いた義父・周吉がやってきて、何事も無いように四つん這いになった嫁の乳を搾ろうとする。もちろん乳は出るはずもない。老人は心配そうに牝牛に声をかける「ハナコォ、どしたぁ?」 ● アルツハイマー病が進行している周吉は可愛がっていた牝牛が死んだことを受け入れられず、毎朝、嫁が牝牛の代わりを勤めているのだ。老妻には先立たれ、息子は孫を作ることもなく交通事故で死んで、古い農家に老人と嫁の2人暮し。義父は「まだ若いのだから」と再婚を勧めるが、今年39歳になる嫁は返事をうやむやにして出て行かない。2人だけの畑仕事。2人だけの食事。2人だけの毎日。おお、これはナルセじゃないか! 脚本・監督の後藤大輔はピンク映画館の主要観客層である老人を主役に──それも艶笑喜劇の道化役たる「スケベ爺い」としてではなく、堂々たる「ロマンスの主役」に据えてボケ老人が主役のメロドラマなどという離れワザをみごとに成功させた。もちろんこれはピンク映画だから最後には2人はセックスをする。そしてメロドラマの必然として、結ばれたがゆえに2人は別れざるを得ない。身を引く男。未練の女。「お義父さま……ずるい」 家を去る嫁。久しぶりに筆をとった老人の一句「嫁なりし 牛の哭きたる 明け方の夢」 ボケによる「意識の白濁と覚醒」をメロドラマのこのうえなく効果的な装置として機能させた傑作。後藤大輔はこの1本を撮れただけでピンク映画に身を投じた甲斐があった。撮影は飯岡聖英。 ● 主役の周吉を演じるのは元・自由劇場/東京壱組の名優・中村方隆。 嫁には新田栄の「極楽昇天風呂 カキ回して!」(2000)以来3年ぶりのピンク映画出演となる麻木涼子。まだ実年齢20代なかばなので役からは若すぎるのだが、どすこい気味の体型がここではプラスに作用した。劇団系の人らしく芝居もかなり頑張っていて「…わがままなんです。…勝手なんです。ひどい……女なんです」なんて難しい台詞もちゃんとこなしている。 だが本作で心底ビックリしたのは周吉の親友の「獣医」を演じた城春樹だ。いつもはしょーもないピンク映画で道化たハゲ親父ばかりやってる人だが、なんだ普通の演技も出来るんじゃん。てゆーか、巧いじゃんかメチャクチャ! 年のはなれた若い看護婦にプロポーズしたあとで周吉にも再婚を勧めて、おれとお前は立場が違うと言い返されて「周ちゃん、人生は長かよ。…とほうもなく長か」 まさか城春樹の台詞にジーンとするとは思わなかったぜ。 周吉の土地を奪って開発しようとこすっからい計略を練る、なかみつせいじ や、中盤で都会から帰郷してくる「実娘」役の佐々木ユメカが巧いのは当然として、濡れ場要員である看護婦役の女のコ(新人・水樹桜)まできちんと芝居をしてる/させてるのには感心した。[新東宝]

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熟年の性 人妻に戯れて(関根和美)

脚本:関根和美+林真由美

後藤大輔「痴漢義父 息子の嫁と…」に続く老人メロドラマの傑作。あちらが成瀬巳喜男なら、こっちは日活ムード・アクション風味である。 ● 妻に先立たれて娘夫婦と同居してる初老の男・正治。初老といってもまだ六十そこそこで体は健康なのだが定年退職して以来、することがない。家に居ても邪魔者なので、当てどなく外へ出る。話し相手が欲しくてホテルにデリヘル嬢を呼ぶと、いきなり「お爺ちゃん」呼ばわり。「話がしたいんだ」と言うと「これって、ねるとん?」とバカにされる。あまりに手持ち無沙汰なので新聞で見たホーム・ヘルパーのボランティアに応募する。 ● 正治が派遣されたのはアルツハイマー病が進行した老婆の家。独り暮らしではなく息子夫婦が同居してるのだが、息子は仕事が忙しくて家庭を顧みず、妻の冴子は家庭の孤独を紛らすためキッチン・ドランカーとなり家事放棄。だが、毎日のように通って来ては、甲斐々々しく老婆の世話をする正治の姿に、冴子の荒んだ心にも徐々に血が通いはじめる…。 ● 正治を演じるのは〈東映 専属俳優〉町田政則。「無法松の一生」の阪東妻三郎から東映仁侠映画の若山富三郎にいたる「無骨な純情」の系譜に連なる男優である。 ちょっと前なら吉行由実が演じたであろう「冴子」役には酒井あずさ。コメディ演技の達者さは周知だったが、こういうメロドラマのアンニュイなヒロインもこなせるとは大したもの。 冴子の夫に なかみつせいじ。 正治の娘に百歩ゆずってセシリア・チャン似の安西なるみ。 亡妻に(写真出演の)亜季いずみ。 ● メロドラマのクライマックスは正治と冴子の一度きりの逢瀬。場末のラブホテルの一室。溜まっていた感情をすべて放出する冴子。感極まって硬く握り合う、その「手」のアップ。赤いライトが当たる。ブルージーな劇伴がイン。…いいねえ。先ごろカムバックした1980年代ピンク映画の名カメラマン 倉本和比人(=倉本和人)が濡れ場で多用する「斜めの構図」がいかにも昭和な感じを醸しだす。気持ちの入った今年いちばんのラブ・シーンだ。 ● 冴子を家まで送っていく正治。もうここへ来ることも、…その必要もないだろう。──いいラストなんだが、欲を言えばここは「戻ってきた妻を夫が出迎える」べきではなかったか。[オーピー/大蔵映画]

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シングルマザー 猥らな男あさり(吉行由実)

「不倫妻 愛されたい想い」に続く今年2本目の吉行由実 監督作品。脚本は今回も五代暁子。 ● 小学生の娘と暮らすバツイチの派遣社員が、勤め先の、やはりバツイチの社員と親しくなるが…。ま、たしかに「子持ちバツイチの30代女性の生活と感情」というのはピンク映画にはめずらしいテーマではある。今回ついに主演女優のアテレコまで自らやってしまい、ますます私映画と化してゆく吉行由実ワールドなのだが、そんな彼女の特質は次の台詞に端的にあらわれている>「…でも きっとどこかにいると思うな、ちゃんとした男の人」 えーえーちゃんとしてなくて悪うござんしたね。三十路もなかばを過ぎたってのに、いまだに白馬の王子様を待ち焦がれてるのが吉行由実という人なのである(でも顔は意地悪な魔女なんだけどね) ● 主演の(角度によっては高島礼子に似てなくもない気がする)秋津薫は、ときどき中野貴雄…もとい地獄女子 率いるギャルショッカー軍団でキャットファイターにも変身する、現役イメクラ嬢らしい。 だめんずウォーカーな同僚OLに里見瑤子。<じつはこの人もたまにキャットファイターだったりする。 前夫に石川雄也。 新カレに岡田智宏。 吉行由実 本人も濡れ場要員として出演している。[オーピー/大蔵映画]

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新・未亡人銭湯 女盛りムンムン(国沢実)

今年の大蔵映画のゴールデン・ウィーク超特作は、国沢実+樫原辰郎(脚本)の大蔵ゴールデン・コンビがクラシックなドタバタ艶笑譚に挑戦している。夫の遺した下町商店街の銭湯「川中湯」をまもる未亡人。彼女に惚れているお人好しの三河屋。そして、地上げ屋の先鋒として町に帰ってくるヒロインとワケありの男…という「未亡人銭湯もの」の伝統に則った──いや、「未亡人銭湯」と題された映画が何本あるかは知らんが、てゆーか、べつに銭湯じゃなくたっていいのだ。商店街の床屋とか、町医者の待合室とか、駅裏のスナックとか、あるいは、そう、学生下宿などの地域コミュニティが、未亡人であるヒロインを「母親」として抱く擬似家族となって、そうした旧時代の共同体を押しつぶそうとする時代の風に最後の抵抗を試みる…というプロットに基づいた「下町人情もの」である。これはいわば昔のピンク映画の思想であって、小林悟の助監督としてキャリアをスタートさせた国沢実の、かれなりの故人への手向けなのであろう。 ● ヒロインの未亡人に山咲小春のお母さん似見たのかよ!)の熟女系AV女優・原ゆきの。 彼女の信奉者である「酒屋のおやじ」に、かわさきひろゆき。昔なら久保新二の役ですな。まあ、天才・久保チンと較べてしまうのは可哀想かもしれんが、こういうドタバタ・コメディにおける かわさきひろゆき の芸の無さには厳しいものがありますな。だってコイツ、カット尻とかでも、帚を手にただ持て余すだけなんだもん。なんかやれよ! 町に帰ってきた「謎の男」に森羅万象。後頭部のハゲばかり写されて、みんなからハゲハゲ言われて可哀相。なんでそこだけ優しくなるんだよ?>おれ。いや、まあ…。 あと本来ならばこの物語には、港雄一 演じるボイラーマン居てしかるべきなのだが。 ● さて、未亡人をめぐる中年男3人の話が小林悟の世界ならば、記憶喪失の青年(久保隆)をめぐる三角関係が国沢=樫原のフィールドである。かれはどうやら暴力的な彼女(ゆき)から逃げ出して、銭湯の前で全裸で行き倒れていたところを、未亡人に助けられ、湯で働くことになる。未亡人ヒロインをまるで母親のように憧憬する青年が、自分を好いてくれているちょっと年下の猟奇的な彼女(橘瑠璃)への愛に目覚めるまで…というのが、このパートの主筋となる。「うじうじしとらんと体当たりせえ!」という、いつもの樫原節(カツオブシじゃないぞ)がたいへんに心地よく、橘瑠璃ちゃんの素晴らしいパンモロ・オブ・ザ・イヤーも拝めるし、もう「猟奇的な彼女」なんぞの百倍スバラシイんだが、あくまでメインは「未亡人銭湯」のほうなので、青年と猟奇的な彼女の話が「… 中略 …」みたいになってしまったのが物足りない。てゆーか、もっと瑠璃ぷぅ〜☆の出番を増やせー!(だれだよ!) ● 撮影:長谷川卓也+照明:ガッツ。脱衣場・洗い場のシーンとも蛍光灯のフリッカーが出てるのが惜しい。それと二重露光(?)の「幻想シーン」で画面外からゴム風船を放ってる国沢実が写っちゃってるぞ。[オーピー/大蔵映画]

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派遣女子社員 愛人不倫(松岡邦彦)

役所の戸籍係が離婚届を出しに来た女をストーカーして「離婚女性のための訪問生活相談」と称して家に上がりこみコマす。「バツイチ女はヤリマンである」という確固たる思想に基づいた作品。で、その戸籍係の親友の福祉課の独身男が本作の主人公。かれはいつも戸籍係にヤリ部屋としてアパートを貸していて…て、おっ、「アパートの鍵貸します」かな?と思ったら、共通するのはそこだけだった。バツイチ派遣社員のヒロインに柳東史の妹みたいな顔の(わかんねーよ!)松本静香。しのざきさとみ、酒井あずさの共演。あと岡田智宏クンに質問だけど「心底」って「しんぞこ」って濁るかあ?[エクセス]

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覗き!おばさんの性態 午後の間男(野上正義)

これまた随分と久しぶりな野上正義 監督作品はエクセスから(1996年の新東宝「三十路妻のトロケ汁」以来?) ヒロインの新人・高根綾が顔も躯も「未亡人下宿」の橘雪子そっくりで、共演が(もちろん橘雪子と共演したこともある)小川真実と野上正義。必殺技「透けパンに割れ目クッキリ」とか、膣痙攣がギャグに使われてたり、知らずに観たら旧作の改題ニュープリントかと思ったかも。脚本は五代暁子だが、さすがにこれは野上正義がだいぶ変えちゃってるんでしょう。撮影:中本憲政。[エクセス]

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小説家の情事 不貞の快楽(深町章)

深町章の自筆脚本によるメロドラマの傑作。壮年の売れっこ直木賞作家と、担当の若い女性編集者。かつて1度だけ肌を重ねた仲だが、今は作家には交通事故で痴呆性記憶喪失となった妻の看病があり、編集者には6畳+台所のアパートで同棲する作家志望のカレシがいる。作家としていっこうに陽の目を見ないカレシは酒量が増えて僻みがちになり、ヒロインに辛くあたるようになり、次に来るのは お定まりの浮気コース。作家は作家で、凝っと自分を見つめる妻の責めるような視線に、じつは妻は正気なのではないか、記憶喪失は浮気を知った妻が自分を責めるための「狂言」なのではないか、という疑惑に苛まれている。だからひょっとしたら…。2人して、すべてを捨てて知らない土地へ旅立ったなら幸せな暮らしが待ってるかもしれない──そう2人が考えるのも無理からぬことだった。なるようにしかならぬ定めが、2人を避け得ぬ悲劇へと導いていく…。 ● 作家に なかみつせいじ。森雅之といっては褒めすぎだが「やつれた二枚目」を演じて絶妙。 ヒロインに里見瑤子。ひとつひとつの演技が適確。役に入り込むのは昔からだから、このごろは「脚本(ほん)を読む力」が付いたんだと思う。 作家の狂気の和服妻に若宮弥咲。今回は暴走せず、分をわきまえた ほどよい芝居。 ヒロインのカレシに高橋剛。これはまるっきり佐藤幹雄のエピゴーネン。 浮気相手に池谷紗恵。 ● 今回、いつもの水上荘ではなく白亜の豪邸チックな初めてのロケ・セットを使用。撮影は長谷川卓也。現像過程でのオプチカル処理経費を節約するためにクレジットタイトルさえ紙に書いてブツ撮りする昨今のピンク映画としてはめずらしく、2度のゆっくりとしたフェイド・アウトも効果的に決まり、夕陽さす妻のベッドにぽつんと置かれた人形に胸しめつけられ、来るたべき悲劇を告げるコロスの如きカラスの群れに戦慄する。そうした(たとえ画面に俳優が写っていなくとも)力のある画が映画のグレードを高めている。[新東宝]

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婚前交渉 淫夢に濡れて(加藤義一)

大蔵映画は、配給業務をオーピー映画という別会社に移行して以来、「製作」名義はそれぞれの監督の個人プロダクションになっているのだが──おお「加藤映像工房」のロゴがCGになってる!(いや、もちろんパソコンCGだけど、CGはCGだ) デビューした2002年に一挙4本をものした多作派・加藤義一、今年も前半ではやくも3本目である。 ● いつもの座付脚本家・岡輝男とのコンビで今回、挑んだのはサイコ・サスペンス。ヒロインの回想として語られる物語。幼馴染の大親友だが性的関係にはないミツハとトモヤ。トモヤには父親はなく、女手ひとつで育ててくれた母との2人暮し。このところ彼女が出来ると、なぜかいつもその彼女が淫夢を見るようになり、彼女が淫乱女に変身して別れてしまう…というケースが続く。トモヤは自分を溺愛する母親がなんらかの細工をしてるのでは?とミツハに相談するが…。 ● ヒロインのミツハに(「味見したい人妻たち」の KaoRi 改め)りる。最強の甘えんぼうボイスにソソられまくり。「KaoRi」だの「りる」だのゆーググりにくい名前なので経歴不祥なのだが、このところ「噂の真相」巻頭の荒木経惟のグラビア日記に(こちらはKaoRiの名で)よくモデルとして登場してますな。 トモヤに〈マゾを演じて日本一〉柳東史。 そして母に小川真実。 ● これさあ、最初っから小川真実を怪しく描きすぎなんだよ。あれでは誰が見ても母親が犯人に見えてしまうではないか。観客にはあくまで裁縫上手のやさしいお母さんとして紹介しなきゃ。まあピンク映画としては林由美香や風間今日子が見る「淫夢」の数々がきちんと映像化されてるので合格点なんだけど、サスペンスとしては物足りない。ヒロインの[ジキル&ハイド的な二重人格性]も少しは[匂わせて]おくべきだろうし。[オーピー/大蔵映画]

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美人保健婦 覗かれた医務室 (森山茂雄)

プロデューサー:池島ゆたか

大蔵映画の国映分子こと、森山茂雄の3本目。国映系ライターの西田直子に対抗して黒澤久子という女流脚本家を起用。どすこい体型のゴミ部屋女@喫煙者が、それでもカレシにするなら、すべてをさらけ出せる相手より、ステキなカレの前で良妻賢母を気取りたい…ってな女のホンネ(?)のお話。疲れませんかねえ、そーゆーの。てゆーか、演出のイロハのイとして「ほっとできる男友だち」と「あこがれのカレ」を演じる男優2人が似すぎ。せめて髪型ぐらい変えたらどーよ? ● とある巨大綜合商社の医務室の女医さんであるヒロインに「痴漢義父 息子の嫁と…」の麻木涼子@好演。 2人のカレシに野村貴浩と西岡秀記@どっちがどっちかワカラン。 医務室のベッドで玉の輿ゲットにいそしむヤリマンOLに川瀬有希子。 よく休憩に来る鬱病OLに河村栞。<おー、半年ぶりー!と思ったらこの後またパッタリ出演作が…。やっぱ引退?(泣) ● さて森山茂雄が国映分子たる所以は、ヒロインが息抜きに屋上にタバコを吸いに行くと、そこには「燃え尽きて自殺未遂の末、コワれてしまった元・企業戦士の課長(松木良方)」が屋上に机を置いて一心不乱に仕事に打ち込んでいる(と本人は思い込んでる)のだ。先の「ほっとするほうのカレシ」というのは、会社からこのキチガイの監視役に任命されて男の部下のふりをして(ありもしない)仕事を手伝っているという設定。ヒロインとほっカレが屋上デートを重ねるあいだにも、この課長は(線の繋がっていない)電話に向かって海外の開発プラントの指示を飛ばしている。で、ラストはこの課長が「よし、おれが直接 乗り込んでやる!」とどこやらの外国めざして歩きはじめ、ヒロインやカレシが「ハメルーンの笛吹き」よろしくゾロゾロと後に続いて鉄橋を川の向こうへと渡っていく…。まあ、おそらくこのサブ・プロットで国映的ななにかを訴えてるのだと思われるが生憎と おれにはまったく伝わらなかった。[オーピー/大蔵映画]

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天井裏の痴漢 淫獣覗き魔(深町章)

どうやら新東宝の社員プロデューサー・福俵満の個人的な趣味で作り続けられているらしい深町章 監督「鍵穴」シリーズの最新作。シリーズとしての共通項は「昭和初期から敗戦直後を舞台にした猟奇ミステリー」という一点で、まあ、つまり江戸川乱歩の贋作を延々とやっているわけである。もちろんピンク映画には美術費なんぞないので──「少ない」じゃないぞ。「無い」のだ──必然的に建物が旧くて宿泊費が安いのが取り柄のピンク映画界 御用達=山梨県は塩山町の水上荘ロケと相成る。あまり屋外ロケをすると平成だとバレてしまうので、いかに旅館内のシーンでだけで話を成立されるかが脚本家の腕の見せどころ。今回は福俵満がみずから筆を執っている。脚本家が代わっても、監督は常に深町章が指名されるのにはもちろん理由があって、それは深町章が年寄りなので温泉ロケが好きだから…じゃなくて、ピンク映画には衣裳部なんてないので、当時のご婦人方の着付けや所作風俗に通じているベテラン監督の知識が有用なのだ。当代一の安定した演出力については言うまでもない。 ● 昭和24年。旧家の女主人のタマヨ奥様(川瀬有希子)は長患いに臥せっている。看病に当たるのは身寄りのない孤児をタマヨが引き取った女中シノ(里見瑤子)と、看護婦をしている同い年の従妹サトコ(水原香菜恵) タマヨの婿養子の夫(なかみつせいじ)は、ろくに夜の相手も勤まらぬ妻に飽き足らず、サトコとデキている。ある日、夫が勤め先の役所で聞いたという奇妙な噂の話をする。人目を避けて山中で暮らす癩病の男が夜な夜な里に降りて来ては、民家の屋根裏に潜んで覗き見をしているらしいというのだ。その夜、ひさびさに体の調子がよく、夫に抱かれたタマヨは天井板の節穴から覗き見る目に気付く…。 ● 「恋のから騒ぎ」出身の川瀬有希子はオバQボイスアニメ声なので、乱歩の女主人にはちと違和感があるが、その分、ひさびさの女中役で「映画女中」の面目躍如の里見瑤子と、演技派への進境著しい水原香菜恵が映画を支える。ただ水原香菜恵が奥様を蔭で「彼女」「彼女」と言うのが気になった。たとえ「同い年の従姉」とはいえ旧家なのだから「奥様」と呼ぶのが普通だと思うが、せめて名前でタマヨと呼ぶべきでは? 刑事役に、かわさきひろゆき。 撮影は長谷川卓也。タテの構図を活かした奥行きのある画作りがすばらしい。このカメラマン特有のゆっくりとした溶暗も効果的。[新東宝]

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ノーパン秘書2 悶絶大股びらき(池島ゆたか)

監督にプロデュースにと八面六臂の活躍を続ける池島ゆたか。新東宝での新作は、なつかしや「赤い玉の伝説」をテーマにした狂騒的セックス・コメディ。あなた「赤い玉の伝説」って識ってます? 男が生涯に生産する精液の量は決まっていて、あまり使いすぎるとある日、突然 ちんぽの先から赤い玉ポンっと出て煙がシュ〜。それで打ち止めになるという言い伝えである。川上宗薫とかの時代にはわりとポピュラーな都市伝説だったと思うのだが、最近はあまり目にしないよねえ? ● 池島組に連続出演して国映俳優から「池島ゆた計画」邁進中の、本多菊次朗 演じるところの好色社長は、絶倫なのに子宝に恵まれず、やはり絶倫だった親父の先代社長がある日、ちんぽから赤い玉が出て、その日を境に急に老け込んで死んでしまったという記憶から、このまま自分も後継者が出来ないまま「打ち止め」になるのでは?とアセってる。それで元・社長秘書で今は経理部長に納まってる おっかない妻(相変わらず素晴らしいコメディエンヌぶりの酒井あずさ)や、現在進行形で浮気続行中の社長秘書(オランウータンに似てる新人・西園貴更)や、好色社員(望月梨央)を巻き込んで子作り大作戦が開始される…! ● 脚本はもちろん五代暁子。今回とくに濡れ場が多いのでピンク映画としてはOKなのだが、映画としては最後まで「赤い玉の伝説」と「子作り大作戦」が交わらないまま。エピローグは「半年後」にして女性全員のお腹が大きくなってるってのが艶笑喜劇の「定石」ってもんでしょう。あと社長秘書が「社長はいらっしゃいますか?」という内線の(=社内からの)呼び出しに「おります」って答えはないでしょう。 池島ゆたか本人もプロローグに「先代社長」役で出演して柏木舞とカラんでいる。撮影は小山田勝治。[新東宝]

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牝猫 くびれ腰(池島ゆたか)

監督にプロデュースにと八面六臂の活躍を続ける池島ゆたか。大蔵映画での新作はデンパ路線である。絵に描いたような幸せな家庭を持つ男(本多菊次朗) 妻とのセックスの最中、窓の外に不思議な光を見た男はふらふらと誘われるように外へ出た。そこには半裸の宇宙人の女が手招きをしていた。UFOに乗せられ、めくるめく地球外セックスを重ねるうち、だんだんと男は現実感覚を喪失していく…。 ● おお、これはアブダクションSFか!?と思ってると、まあ実は[夢オチ]というか「ユージュアル・サスペクツ」ネタなんだが。池島ゆたか=五代暁子(脚本)コンビは前にも「美人秘書 パンストを剥ぐ」(1997)でこのネタを使っていて[ホームレスの見た夢]という結末も一緒なのだが、SF風味のないリアル路線だったそのときのほうがよくまとまっていた。ラストが鮮やかにキマった「美人秘書 パンストを剥ぐ」に較べると本作は[ラストの種明かし]が長過ぎて粋じゃないし。池島ゆたかはじつを言うと寺山修司の「演劇実験室◎天井桟敷」出身なので、この手のデンパ路線がわりと好きみたいなんだけど、こういうジャンルは作り手のイマジネーションの限界がハッキリと出るからねえ…。 ● 宇宙人の女に歌唱・朗読ユニット「母檸檬」の水子(写真 右)こと紅屋トミ子。塩島里砂という本名で出た自主映画「閉塞慰安婦」がネットで観られる。 男の妻に望月梨央。 息子に樹かず。息子の恋人に美奈(この2人、生尺してませんか?) 撮影は鈴木一博。「UFOの間」は池島組常連の女装オカマ・色華昇子の自室を、そのまま何の追加装飾もせずに使ってるのだそうだが、これがちょっとスゲー。UFOの内部にはとても見えないけど、壁一面に葬式の祭壇のようなチープな装飾が施されていて、常人がこんな部屋で暮らしたら3日で気が狂うこと必定である。[オーピー/大蔵映画]

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人妻 渇いた舌先(関根和美)

評判を聞いて観に行った「熟年の性 人妻に戯れて」が大傑作だったので、ちょっと関根和美を見直して次回作たる本作も観に来たのだが・・・やはり関根和美は関根和美だった。主演は前作に続いて町田政則。4年前に殺人を犯して服役した刑務所帰りの男。いまは知り合いの経営する海辺のペンションの管理を任されている。ある日、散歩に出た砂浜で倒れていた女を助けるが、彼女は記憶を喪失していた…。 ● 脚本:関根和美。撮影:下元哲。 ハードボイルドなメロドラマ狙いなんだが、救った女を一緒の部屋に寝泊りさせといて、女が迫ってきたら「おい、おれはそんなつもりじゃ」も無いもんだ。あと、関根和美は繋ぎがみんな一緒なので、いま見てるのが「回想シーン」なんだか「次の場面」なんだか区別がつかないのも困ったもの。 ヒロインに酒井あずさ。ほかに、ゆき・岡田謙一郎・竹本泰志らの出演。 どーでもいいけど、あのペンション。朝食が「目玉焼きに、塩茹でしたブロッコリに、ロールパン」ってずいぶん簡素な朝食やなあ。 [オーピー/大蔵映画]

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十八歳、制服の胸元(国沢≡●≡実)

女流脚本家かわさきりぼんと組んでの最新作。作家志望のリストラ・サラリーマン40歳と、いじめられっ子のリスカ女子高生が、自殺をしようとやってきたビルの屋上で出会ってメル友になって…という話。人生と格闘している格闘映画。男が過去に1冊だけ自費出版した初版100部の小説が、偶然にも少女を励まし続けてきた愛読書で…ってワカるよ、ワカるけどちょっと少女趣味だなあ。だいたい100部ってなんだよ100部って。自費出版だって最低500部は刷るだろフツー? あとサラリーマン氏の自殺の動機が希薄すぎる。会社をクビになって女房に浮気されたから…ってだから何? 国沢実は「生きる力」が弱いのでこの2人に肩入れしたくなるのか知らんが、おれは、サラリーマン氏の女房の、浮気をワザと亭主に見せ付ける佐倉萌(実際、演技力の差もあって完全に主役2人を喰っている)や、援交しながら逞しく生きてる同級生の橘瑠璃のほうがずっと感情移入できる。彼女らを主演にした話のほうが観たい。 ● サラリーマンに寺西徹。 リスカ女子高生にAV女優の、はらだはるな。ひと昔前の声優顔いたいけ不思議少女。 国沢組ではもっぱら「飛び道具」として使われている幸せ者の瑠璃ぷぅ〜☆(セーラー服ミニスカのパンチラがタマりません)は前作に続いて、またも鼻血を披露。アンディ・ラウとタメ張る気か!? 屋上で少女を犯す男に森羅万象(という名前の男優) ファンタジーに生きている少女が森羅万象という名の「現実」にしっぺ返しを喰らう…って、出来すぎやな。 ● 撮影は長谷川卓也。 なお監督クレジットはパソコンでは汎用表記不能なので「≡●≡」としてあるが、実際にはケータイ用メールの「太陽マーク」である。 役者として佐倉萌の浮気相手に扮した国沢実。佐倉姐さんに何度も何度も求められて「もういいだろ。おれ、カラダ弱いんだから」[オーピー/大蔵映画]

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寝乱れ義母 夫の帰る前に…(工藤雅典)

大蔵映画・国沢組の爆弾プリンセス=橘瑠璃に続いて、新東宝・榎本組のヒロイン=麻田真夕までエクセス初登場。もっともエロの権化=下元哲が監督だった瑠璃ぷぅ〜☆と違って、麻田真夕の場合は監督も旧にっかつ系の工藤雅典。これがピンク映画 初脚本の日下由子は、早稲田系の若手劇団「CAB DRIVER」に書き下ろした「七部袖、ほくろ。」が2000年度の岸田戯曲賞候補にノミネートされた気鋭の劇作家で、現在は「秘法零番館」の竹内銃一郎の新ユニット「カメレオン会議」に参加。 ● ストーリーはよくある「若い義母と高校3年生の息子の禁じられた関係もの」なのだが、ユニークなのはピンク映画にはめずらしく肉欲の前に愛があるという点。ポルノグラフィにおける「義母×息子もの」の場合、夫では満たされぬ若妻が義理の息子を誘惑するパターンか、悪魔的な少年が女ざかりの義母を誘惑するパターンのどちらかに、ほぼ100%大別できるのだが、いずれの場合でも「手近なところで互いの肉欲を満たしあう」というのが基本コンセプトである。ところが本作の場合は「愛した女が義母だった。愛した男が夫の連れ子だった」というテレビドラマのような設定で、2人は映画の最初から相思相愛であり、しかもかなり終盤になるまで肉体関係を結ばないのである。いや、もちろんセックス・シーンがなかったらピンク映画にならないから、妄想シーンや夫の浮気が描かれるし、息子は予備校で同い年のカノジョと出逢い、それに義母が嫉妬して…。 ● 脚本家がまだ若いせいか、あるいは劇作家であるゆえか、ところどころ観念的で生硬な台詞があり、浮いているのだが、ピンク映画で正面から「純愛」を描こうとした試みは評価したい。 問題は工藤雅典の演出のほうで、まだデビュー4年目だというのに濡れ場の処理など早くもルーティンワークになっていて「このセックスは登場人物にとってどういう意味があるのか」というピンク映画のいちばん大切な部分をお座なりにしている。そうでなければ「息子のちんぽが初めて義母のおまんこに入る瞬間」を、あれほど気のない演出で済ませるはずがない。工藤雅典よ、もういちど自分でデビュー作「人妻発情期 不倫まみれ」(1999)を観直してごらん。あなたがあの映画に対して持っていた瑞々しい気持ちを思い出すんだ。それが出来ないなら、いくら脚本家だけ新しくしたって いい映画は撮れないよ。 ● 若い義母に麻田真夕。脇の下を剃る場面が、うーん…エロティック<完全におやじですな。エクセスってことで従来よりハードめなカラミにも果敢にチャレンジ。いや、それは嬉しいけど いいけど、なにも坂入正三とまでカラまなくても(泣) あと、なんで結婚指輪を小指にしてるの? 高3の息子に、この手の役 一手引受けの、しらとまさひさ。 予備校のカノジョに真咲紀子。 父親に なかみつせいじ。その浮気相手に ゆき。なんだなんだひらがな名前ばっかだなあ。撮影:創優和。[エクセス]

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痴漢電車2003 さわられたい女(神野太)

あいかわらずどこに金つかってんだか解からない新東宝「ピンクX(エックス)」のシリーズ第6弾。ぼくの大好きな家庭教師のセンセーは痴漢されないと燃えない変態女でした…という青春映画。新東宝の「痴漢電車」シリーズってよりはVシネマ「痴漢日記」の世界。スタジオの「電車セット」をいっさい使わず全シーンとも実車ロケを敢行した努力は買うが、スタッフ&キャストともピンク映画と縁のない人たちによって作られた映画を「これが新東宝〈痴漢電車〉の記念作で御座居」と差し出されても嬉しくないぞ。 ● 監督・脚本の神野太は売れっこVシネ監督。ここ3年ばかりのビデオグラフィを並べると「女囚肉体懲罰房」「女教師監禁実習 チャイムが鳴り止むまで」「秘書肉体研修」「湘南爆走族」「新人弁護士 痴漢の罠」「愛義母」「湘南爆走族2」「デリバリー・ガール 最上級のお届けものです」「サポーターの女 ハット・トリックされた彼」「湘南爆走族3 10オンスの絆」となる。 撮影は茂呂高志。全篇にわたって、まるでシロート写真のような妙に周囲に余白のあるフレーミングが気になって気になって。Vシネマではかなりの経験を積んでる人のようなんだがなあ。同様に ここ3年の作品を並べると「女囚肉体懲罰房」「女教師監禁実習 チャイムが鳴り止むまで」「搭乗日誌 国際線スチュワーデス・デートクラブ」「秘書肉体研修」「生ごみ 死体遺棄」「秘密の放課後 ブルマー倶楽部」「むちむちエプロン 禁断のコスチューム」「制服娘(秘)訪問 女教師・看護婦・スチュワーデス編」「ネット秘性感白書 快楽オンライン・ショッピング」「スーバー美脚ガールズ」「美人性体験白書2001」「愛義母」「むらむら新妻日記」「噂の盗撮現場」「オークションされる人妻」「女弁護士の性 犯された六法全書」「淫造人間オルガ 恍惚の秘密兵器」「湘南爆走族2」「背徳姉妹」「家庭教師のお姉様」「ゆかた美人コレクション」と。ね、スゴい数でしょ? ちなみに途中「淫造人間オルガ 恍惚の秘密兵器」というタイトルにピクンと反応したのは内緒だ。イヤだなあ手帳にメモなんかしてませんてば。 ● あこがれの家庭教師/変態痴女に山咲小春+岡元あつこ似の新人・中谷友美。 なにかと主人公に尽くしてるのに軽視されてる可哀想なカノジョに新人・野本富子。←このコ、このあと深町章「いんらん家族計画 発情母娘」で主演デビューした麻白と同一人物らしいんだけど…ダメだ、もう(本作での)顔を覚えてないや。 主人公の母に、しのざきさとみ。[新東宝=ジャパンホームビデオ]

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真昼の不倫妻 美女の快楽(橋口卓明)

はい、信頼と実績の愛情調査、園部興信事務所です。── 2000年から年に1本ずつ「人妻家政婦 情事のあえぎ」「人妻浮気調査 主人では満足できない」「探偵物語 甘く淫らな罠」と作られてきた、伊藤猛 演じる 浮気調査専門の私立探偵・園部亜門を主人公とするシリーズの最新 第4弾。福俵満 → 武田浩介 → 五代暁子とまわった脚本はふたたび最初に戻り、ミステリ好きの新東宝プロデューサー・福俵満がみずから執筆。撮影はずっと代わらず中尾正人。 ● 今回の依頼はヤミ金の帝王の美人妻の浮気調査。おっかない兄さん方に脅されて厭々ながら調査に着手した亜門だったが…。ファム・ファタールはAV女優の岡崎美女 おかざき・みお(だからタイトルも「ビジョの快楽」ではなく「ミオの快楽」と読む) 美女なんて名前をつけるだけあって喋らないとキレイなのだが、演技のほうは惨憺たるもの。能面のような顔からは、この女が何を考え何を感じているのか、まったく伝わってこない。つまり〈運命の女〉足り得ていないのだ。まあ、このシリーズは(映画の出来はともかく)ヒロインだけは「佐々木麻由子 → 時任歩 → ゆき」と来てるので余計に目立つんだけど。 ● ハードボイルド・ミステリでファム・ファタールがダメだったら他がどんなにがんばってもロクなものになりゃせんのだが、本作の失敗の要因はそれだけではない。橋口卓明がみずからシリーズのリズムを乱してるのだ。「会えばいつも喧嘩してるのに、なにかと世話を焼く、探偵と憎からぬ仲のキャバクラ嬢」の役がなんで工藤翔子じゃないのだ!? いや代役の酒井あずさ だって悪かぁないよ。達者だし。まったくもって悪くはないのだが「シリーズもの」の愉しみってのは、同じ役者が同じ役で出てくるとこにあるんじゃないか。探偵の事務所(兼 自室)のロケセットが今までの「狭くて散らかった部屋」から、コジャレた別の部屋に変わってしまったのも大きなマイナス。おそらくピンク映画の宿命上、先に撮影日が決まってしまって生憎とその日は工藤翔子と貸しスタジオのスケジュールが空いてなかったんだろうが、それなら撮るな。無理して撮るより次回にまわせよ。代替企画のひとつぐらいあるだろ?>福俵満。 ● 女性タクシー運転手に林由美香。たしかにおれは1本でも多く林由美香の映画を観たいと思ってはいるが、はっきり言ってこの話にこの役は要らないじゃん。ここで無理やり濡れ場を作る時間があるなら(出演女優が1人減ってもいいから)もっとヒロインの描写に時間を割きなさいよ。 ヤミ金社長に新納敏正。コワモテの若頭に江端英久。ヒロインの浮気相手に本多菊次朗。[新東宝]

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純愛夫婦 したたる愛液(森山茂雄)

プロデューサー:池島ゆたか ストーリー:森山茂雄 脚本:五代暁子

森山茂雄の3本目。あんまり国映っぽい映画ばっか撮るんでプロデューサーの池島ゆたかに叱られたのか、今回はガラっと趣きを変えて、池島組の座付作家・五代暁子の脚本によるファンタジー映画に挑戦した。ある日とつぜん会社にリストラされたバリバリの企業戦士。45歳という年齢ゆえ、ひと月たっても再就職もままならず、自暴自棄の鬱屈をついつい妻にぶつけてしまい、女房は家出。八方ふさがりのかれの前に、白いフリフリの沢山ついたピンクハウスのドレスを着て、白いポーチを肩から斜め掛けした「天使」が現れる…。 ● 本作の最大の失敗は「天使」に林由美香をキャスティングしなかったことに尽きる。メリー・ポピンズこそは林由美香の本役。ピンク映画界で他にだれがフシギちゃん天使を演じられよう。文学座研究員出身のまいまちこではリアリティが克ちすぎて見ててツラいものがある。逆に言えば「まいまちこ主演」から逆算したならば「天使」のキャラは「フシギちゃん」ではなくて普通の格好をして「家出した妻が手配した住込み家政婦」と名乗ればよいのだ。天使の役だからヘンテコな格好をしてなきゃいけない…と考える時点で発想が硬直してるぜ。てゆーか、最初っからいかにも天使天使して登場するよりも、最後で「あ、ひょっとして」と観客に気付かせたほうが賢いと思うんだがなあ…。 ● 一事が万事。しょせん森山茂雄は大蔵映画内の国映分子なのでファンタジーに向かない演出家なのだ。それが証拠に本作で最も画面が活き活きと輝くのは、刀 折れた企業戦士を演じる牧村耕次が「おれは島根の田舎者で、新橋でサラリーマンになるのが夢だった」と語るアナクロな台詞や、その妻を演じた平成の橘雪子こと高根綾の、夫に対する細やかな心遣いの描写ではないか。やはり野に置け れんげ草。…違うか。しょせん蛙の子は蛙。…これも違うな。まあともかくあれだ。森山茂雄は無理をせず自分の得意な分野で頑張んなさいってこった。 ● ベテラン・牧村耕次はサスガの名演ではあるのだが、この人は根っからの二枚目なので「かつての色男が容色おとろえて」というキャラ設定なのに肌色とか艶々しすぎ。この役はもう少し老けないと。ここはやはり(いかにもなタイプキャストではあるけれど)前々作と次回作の脚本を提供した佐野和宏の役でしょう。牧村耕次に付き合って各々ワンシーンずつの特別出演である城春樹野上正義が素晴らしい。撮影:小山田勝治。 [オーピー/大蔵映画]

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お嬢様レイプ 淫震悶え泣く(山崎邦紀)

「令嬢玩具 淫乱病」より改題 脚本:山崎邦紀

1995年公開の旧作。なんでも修理屋のおやじ(甲斐太郎)が嘘つき被害妄想のお嬢さま(姫ノ木杏奈)に振りまわされる話。いや別にどーってことのない出来なんだが、スゴいのは劇中で精神科医(荒木太郎)がヒロインの行動を「境界例」「ボーダーライン症候群」と分析するのである。繰り返すけど1995年の映画だぜ。あなた当時、こんな言葉 知ってました? なんでも屋の女房に小川真実。巨乳看護婦に吉行由。撮影:河中金美。助監督:国沢実。[大蔵映画]

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不倫妻の淫らな午後(池島ゆたか)

今年は後藤大輔「痴漢義父 息子の嫁と…」、関根和美「熟年の性 人妻に戯れて」と、老人を主役にしたメロドラマの傑作が相次いだが、ここにまた1本、最後の恋を描いた傑作が誕生した。主演は佐々木基子と牧村耕次のベテラン2人。脚本は五代暁子。中年主婦がホームヘルパーで訪れた先はかつての不倫相手──親子ほど歳の離れた昔の上司だった…という設定がバツグンに巧い。 ● 若い頃の放蕩の報いか家族にも見捨てられ老人一人暮らし。まだ65歳なのに(一度、脳溢血で倒れたのか)車椅子のやっかいになる体。新人OL時代に2年ほど不倫関係にあったときの二枚目ぶりは見る影もなく、すっかり呆けてしまってヒロインのことにも気付かない。体を拭くときにも力なく萎びたままの陰茎を、そっと口に咥えてみても、あのときの脈動は戻ってこない…。 ● 献身的にホームヘルパーに通うヒロインの姿と平行して(主役がセックスしないのではピンク映画にならないので、代わりに)若き日の2人の回想と、現在のヒロインの家族──夫の浮気と大学生の娘の奔放なセックスが描かれる。 そして再会した恋人たちに2度目の別れが訪れる。この別れ…というか老人の「最期の夜」のシーンが素晴らしい。牧村耕次、畢生の名演である。[ネタバレにつき黒文字]>独り真夜中のキッチンテーブル。死を目前にして──それはまるで神の罪作りな悪戯のように──突如として甦る〈愛の記憶〉 初々しいOLの姿と中年ホームヘルパーがひとつに重なる。それまで空虚だった脳裏に津波のように溢れかえる感情。ああ。ああぁ…。言葉にならぬ気持ち。痛恨。悔恨。そして幸福。満足感。────…・・ ・ ・  ● 翌朝。何も知らずに疲れてソファで眠るヒロインの家の電話が鳴る。老人の逝去を知らせる電話だ。静かに泣くヒロイン。涙が止まらない。「ママ、どうしたの?」「ううん。お世話してる患者さんがね…死んじゃったの」 そうしてまた母親へと、妻へと戻っていくヒロイン。それは彼女の最後の恋だった。 ● これはもう、とにかく佐々木基子と牧村耕次に尽きる。最近は脇に回ることが多かった佐々木基子、ひさびさのヒロイン。ピンク映画の主演なのにカラミは最後の最後に亭主役の本多菊次朗と1回のみ。それでも、みごとに全篇を背負って立つ。前述の、牧村耕次へのフェラチオ・シーンで見せた表情は、ピンク映画史上もっとも感動的なフェラチオと言って過言ではない。 ● 「大学生の娘」と「若き日のヒロイン」の二役に新人・月島のあ。ここに芝居の拙い新人を使わざるを得ないところがピンク映画の限界ではある。 亭主の浮気相手に望月梨央。 撮影:飯岡聖英。音楽:大場一魅。 ちなみに本作は、回想場面を(ピンク映画としては異例なことに)モノクロで撮っている。まあ、監督として変わったことをやりたい気持ちは解かるのだが、モノクロを使うと(ピンク映画館の場合、途中入場が基本なので)途中から入った客が「あれ、なんだこれ白黒映画かよ」と不安になるので、あまり好ましくない。それと終盤の牧村耕次の名演の直後の「暗転」はもう一拍 長めに余韻の黒味が必要でしょう。[オーピー/大蔵映画]

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ねっちり母娘 赤貝の味(渡邊元嗣)

セクシー下着メーカーの女社長@離婚歴10回を母親に持つ娘が、いろいろと振りまわされて苦労する…というコメディ映画。ビジネスにもセックスにも積極的な母親レイコにベテラン・佐々木基子。娘のキララに、新東宝の深町章「いんらん肉布団 女将の濡れ具合」に続いてまたも良い娘さん役の谷川彩。根がおっとりしたコのようで、今回のような「チャキチャキした下町娘」キャラはあまり似合わない。渡邊元嗣ももっと完全なボケ(=受け)キャラとして演出すればいいのに。 ● キララには地道な交際をしてるカレがいて、カレには穴あきパンティをデザインしてるよーな母親のこととか、自分がその下着モデルをしてることはひた隠しにしてきたのだが、地方転勤の決まった彼がキララにプロポーズし、「母を1人に出来ない」と迷ってるキララに業を煮やして、カレが母親のレイコに直談判に行ったところ、またたくまに老練な熟女の毒牙にかかり、それはもちろん母親の口からキララの知るところとなり、2人はケンカ別れ…。 ● 本作は実際に「ウィズ」というセクシー下着メーカーとタイアップしていて、女優さんたちは次から次へとセクシーなランジェリー姿を披露してくれるのだが、演出する渡邊元嗣が下着フェチじゃないので宝の持ち腐れ。せっかくの煽情的なボディタイツもすぐ脱がしちゃっちゃ意味ないじゃんか。山崎浩治の脚本も、いつまでたっても素人脚本から脱しないゆるい仕上がりだが、ラスト、やっぱりかれのことが忘れられなくて、ケンカして婚約指輪を河に投げ捨てた河原でヒロインが泣いていると、河の中でカレシがアクアラング姿で指輪を探してる…ってアイディアが良かったので、オマケして星3つ。 ● 下着モデルに林由美香。まだ19歳の谷川彩とはひとまわり以上 違うのに下着姿で並んで違和感がないってのがスゴい。撮影:飯岡聖英。[オーピー/大蔵映画]

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好色くノ一 愛液責め(かわさきひろゆき)

プロデューサー:深町章

家康の子・信康はじつは服部半蔵の胤(たね)だった!という衝撃の秘密をめぐる風魔忍群と伊賀忍者の死闘。男優陣がいちおう殺陣をこなして、それらしい発声で台詞を喋る。美術/ロケにも目立ったボロがなく、ピンク映画館にはいささか相応しくないほどの本格的な時代劇である。画面は暗めだが見せるべきところはちゃんと見えるし、台詞もちゃんと聞き取れる。忍者装束も「朱」だの「オレンジ」ではなく黒装束だし、どこぞのインチキ・エロくノ一ものVシネマよりよほどちゃんとしてる。 ● これがなぜか国映製作。 監督はホモ時代劇に続いて、これが監督第2作となる劇団「星座(ほしざ)」主宰、かわさきひろゆき。 脚本は妻の、かわさきりぼん。「伊賀の屋敷に忍び込むとはよい根性じゃ」ってそれを言うなら「よい度胸じゃ」でしょ。 撮影:長谷川卓也。 冒頭で殺される「風魔の小太郎」に、かわさきひろゆき。 その一人娘に麻白。 幼馴染の「風魔の隼人」に重松伴武。 徳川の権力を狙う伊賀の首領「服部半蔵」に野村貴浩。 くノ一に里見瑤子と紺野美如。[国映=新東宝]

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女曼陀羅 七人の絶頂クライマックス(荒木太郎)

「転校生」「さびしんぼう」「はるか、ノスタルジィ」「あの、夏の日 とんでろじいちゃん」など、幾多の大林映画の原作者としても有名な山中恒の、いちばん最初に出版された児童小説「とべたら本こ」(1960)の映画化である。脚本の内藤忠司は、大林組の助監督をながく努めていた縁で、山中恒とも面識があるのだそうだ。 ● 原作の「とべたら本こ」というふしぎなタイトルは、子どものゴムとび遊びではじめに「試し」で跳んで、跳べたらほんこ/失敗したら嘘んこね…という意味の、♪おたぁめし とーべたらほんこ!という掛け声から採られている。小学5年生の吉川カズオは、親父が競馬で(昭和35年当時で)38万6千円の大穴を当ててから金の亡者になってしまった実の両親を捨てて家出する。そして戦災孤児のふりをして余所の子どもに間違えられたりしながら、ついには初めて「家族」と呼べる共同体を手に入れる。つまり、とべたら本こなのだ。 ● さすがに小学生が主人公ではピンク映画にならないので、内藤忠司はそれを「自分の居場所が見つからない男が、家を出て めくるめく人生の変遷に直面する」という一種のピカレスク・ロマンとして再構築した。本篇の主人公である冴えない中古車セールスマン氏(でも巨根)は、宝くじで3千万円が当たってからというもの自堕落な酒浸り&男浸りの生活をおくる女房に愛想を尽かして旅に出るので、べつに犯罪者ではないし誰からも追われてるわけではないが、映画の感触としては今村昌平「復讐するは我にあり」や阪本順治「顔」などに近い。演じるのが浜野組の常連・柳東史ということもあって浜野佐知の「いじめる女たち」シリーズ最新作にも見える。すなわち、情けない男が人生の荒波(と威勢のいい女たち)にいいように揉まれまくる話だ。 ● 主人公の七つ年上の「姉さん女房」に佐倉萌。この人には腋毛を伸ばしてほしいなあ。あと荒木太郎はぜひとも佐倉萌監督の次回作の「プロデューサー」を買って出て、大蔵映画に売り込んであげてくださいな。 主人公の永遠のヒロインとなる、瞽女(ごぜ)志願の「盲の(設定上は)美少女」に高原リカ。 なぜか静活の作業服着用の「元・看護婦の百姓女」に佐々木基子。 大学のAV研究会所属の「女子学生」に(どうひっくり返っても女子大生には見えない)風間今日子と、顔と体型が不自由な新人女優。 主人公を教祖にまつりあげる「寺の娘」に里見瑤子。 そして、かれを追う「女刑事」に葉月螢。 ● これだけ各地にロケして、女優を7人も使って(正確には女優5人と女優未満1人とボンレスハム1本であるが)いったいいくらの赤字なんだろう? 荒木太郎のピンク映画にかける情熱には感服するしかない。だが、そんな情熱も作品に反映しなければ意味がない。これだけのボリュームのある話を60分に収めるにはそーとーテンポアップして語らないといけない。それで次から次へと事件が起こって最後の最後にいーかげん主人公(と観客)が疲れはてたところで「ひとつの真実」が見えてくる…という具合に持っていくのが定石だと思うが、荒木太郎の演出にはシーン・シーンで乱れがある。かつてのかれならば、軽い狂騒的なスラップスティック調で全篇を処理していた気がするが、それをするには今の荒木太郎は「演出家」でありすぎるのだ。いっそ風間今日子の件りはカットして、ひとつひとつのシーンをもう少しじっくりと描くべきではなかったか。荒木太郎は一度、いわゆる「荒木調」の装飾をすべて捨て去って、裸の演出家として勝負すべき時期に来ているのじゃないか。おれはそういう荒木太郎がぜひ観てみたい。 ● ひとつ気になったのはピンク映画界と実社会との「金銭感覚の乖離」で、いまの感覚で「働く気をなくす大金」といったら3千万じゃなく3億円でしょう。あぶく銭の3千万なんか数年で使い切っちまうぞ。 撮影:前田一作。三味線演奏に(出演もしている)瀧川鯉之助。[オーピー/大蔵映画]

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SM女医 巨乳くい込む(加藤義一)

バスト105cmのHカップ(!)という爆乳AV女優・山口玲子のピンク映画デビュー作。親友の夫と不倫をしてる爆乳女医が、正体不明の脅迫者に「親友に裏切りをバラされたくなかったら言うことをきけ」と脅されて路上露出/放尿を強制されたり「全裸緊縛スーツケース詰め」で街中に放置をされたりするうち、股間を熱く火照らせるようになる…。不倫相手の「1週間の学会出張」がなんの伏線にもなってなくて、いきなり時間が1ヶ月後に飛んだり、肝心の親友が最後まで登場なかったりと、田吾作(岡輝男)の脚本はあいかわらずデタラメなのだが、おれとしちゃあ久々にブラウスのボタンが(文字どおり)爆ぜ飛びそうな真正天然巨乳が縄がけされるだけでOKだ(火暴) ● ただ「縄がけ」がなっとならんね。ちゃんと本職の縄師を呼びたまへ。それに「スーツケース詰め」は(ジッパーをちょっと開けるとかして)中にほんとに入ってるってことを見せないと無意味でしょう。 あと、加藤義一まで(モノローグ代わりに)字幕を使ったり、セピアトーンの回想場面を入れたりして荒木太郎をやる必要はない。撮影:小山田勝治。なかみつせいじ・酒井あずさ・鏡麗子・兵頭未来洋・飯島大介の共演。 [追記]山口玲子のピンク映画デビュー作は、新田栄「破廉恥町内会 主婦悶絶」(2003年5月公開)で、その後、新田栄「尼寺の性 袈裟さぐり」(8月)、坂本太「新・日本エロはなし 人妻竜宮城」(10月)と続き、11月公開の本作が4本目になるんだそうだ。このところ新田栄はトバしてたから気づかなかったよ。[オーピー/大蔵映画]

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OL日記 あえぐ牝穴(森山茂雄)

大蔵映画の国映分子=森山茂雄が5作目にしてようやく初日を出した。2作目の「小川みゆき おしゃぶり上手」に続く佐野和宏の脚本。 ● OLのヒロインがオカマ・バーで(大学のときからの)後輩の男性社員を相手に、最近よく見る不思議な/不快な夢の話をしてる。大・大・大っキライなアブラぎった中年社員が自分の夢に登場してイヤらしいことをする。そして、なぜか夢の中の自分は淫乱ドスケベ女で、積極的に応えてしまう。まあ、それだけならフロイト流の夢解釈でもなんでも出来そうなもんだが、問題は相手も同じ夢を見てるらしいってこと。淫夢を見た翌朝にかぎってアブラー中年がニターッとイヤらしく笑いかけてくるのだ。しかもその顔には(夢のなかでつけたはずの)生々しい爪痕まであるではないか! ● おお、それって彼女はドリームマスター (c)エルム街の悪夢 ってことですかあ!? これまたずいぶんと佐野和宏らしくないネタですなあ…と思ってみていると、最初は「ヒロインの物語」と見えた映画は、後半「憧れのセンパイに大学のときから片想いのまま言い出せないでいるボンクラ青年」のドラマにぐんぐんとシフトしていく。なんだやっぱりこれは佐野和宏らしい青春映画であった。ボンクラ青年が若い頃の佐野自身の反映ならば、若い2人を叱咤罵倒しながら励ますオカマ・バーのママは、中年おやじになった「現在の佐野和宏」の分身だろう。ママを演じるのはモノホンの女装オカマの色華昇子(いろばな・しょうこ) 池島組に出てるときは「頼むからオカマの濡れ場は勘弁してくれぇ」と思ってたのだけれど、本作で初めて彼女をいいと思った(ま、脱がないせいもあるけど) ヒロインに「ママ、意外とアタマいいじゃん」とチャカされて「あたりまえよぉ。バカじゃオカマになれないのよぉ」 ● 脚本家の出張指導の成果なのか、いままで森山茂雄の弱点であった濡れ場演出もなんだか突如として巧くなった印象。指による高速Gスポット責め→潮吹き(もちろん擬似ですよ)とかアナル・セックスなんていう、ピンク映画ではあまり目にしない描写まであるし。なによりイイのは最後に結ばれたヒロインとボンクラ青年のラブ・シーンがほんとうに気持ちの入ったキスとおまんこに見える。年に何十本とピンク映画を観てたって、そういう濡れ場は なかなかお目にかかれるものではないのだ。だからこそ残念なのは、森山茂雄はまだ2人がヤッてる途中なのに次のシーンに切り替えてしまうこと。ここは全篇でいちばん大事なシーンなんだから、ちゃんとイクとこまで描かなきゃ駄目じゃんか。 ● ヒロインは佐々木日記。つまり「OL日記」というタイトルは「OLのダイアリー」じゃなくて女優名タイトルなんですね。 ボンクラ青年に片岡命。アブラー中年はもちろん神戸顕一。山口玲子(爆乳)と柏木舞の共演。撮影:飯岡聖英。音楽:大場一魅。プロデューサーの池島ゆたかも腰だけ出演。[オーピー/大蔵映画]

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三十路スチュワーデス 敏感名器(西沢幸紀)

おまんこの締まりが良くなるというインドネシア土産の媚薬をめぐる艶笑譚。製作・編集は北沢幸雄。監督・脚本は今回なぜか「西沢幸紀」名義の匿名希望さん。やっぱ品質に自信がなかったってことかね? まあそんなに卑下するほどの出来でもないと思うけど。吉原シャトーペトリュスにお勤めの穂高奈月さんが主演されておられるのだが、このヒロインの品質がそーとーに難ありで、おそらく新田栄が撮っていたならば目も当てられないよーなハンデのある素材にもかかわらず、北沢…じゃなかった西沢幸紀と、撮影の清水正二は精一杯の工夫を凝らして「商品」として通用するピンク映画に仕立てている。その「プロとして当然の努力」には敬意を払いたい。エクセスの「スチュワーデスもの」というと必ず出てくる「機内を模した貸しスタジオ」を使わずに暗幕ホリゾントとかで誤魔化してるのは、やっぱりエクセスの経費削減の影響かね? ほかに水原香菜恵・葉月螢・なかみつせいじ・兵頭未来洋の出演。[エクセス]

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義母レズ 息子交換(下元哲)

おおおっ! 池島ゆたか「デリヘル嬢 絹肌のうるおい」で電撃復帰いらい1年ぶりの〈1980年代のピンク映画クイーン〉橋本杏子主演作ではないか!! しかも監督・撮影は〈ザ・エロ事師〉下元哲。 やっぱいいなあ>橋本杏子。たしかに昔に較べりゃ歳は隠せないけど、でもこの女優には華がある。そんじょそこらのコムスメとはモノが違うね。しかし橋本杏子+しのざきさとみ+佐々木基子の「3Pレズ」シーンは、3人合わせて確実に100歳は越えてるな(数字については、これでも精いっぱい気を遣って書いております) ● 内容はタイトルのとおり。橋本杏子の息子に、この手の役を(以下略)の しらとまさひさ。 佐々木基子の息子に拓植亮二。 レズ・バーのママに しのざきさとみ。そこで働く佐々木基子のレズ・ペットに酒井あずさ。…お、女優が4人だ。 脚本は関根和美と大竹朝子。 [エクセス]

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若奥様 羞恥プレイ(関根和美)

子どもの躾に厳しく、平気で体罰を与える父親に育てられた若妻が「優しい夫」にどこか物足りなさを感じ、無意識に万引きをして警備員に捕まり、その男の性奴隷に堕ちていく…。主演は百歩ゆずってセシリア・チャン似の安西なるみ。だーから、この女優の特性はコメディにあるんであって、苛められて眉をゆがめてるのは似合わないんだってば。 優しい夫に竹本泰志。警備員に岡田謙一郎。その全身麻痺で寝たきりの妻…という難しい役柄に、酒井あずさ。脚本:関根和美。撮影:下元哲。[オーピー/大蔵映画]


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悩殺天使 吸い尽くして(国沢実)

演出・国沢実+脚本・樫原辰郎チームの新作はピンク映画版の「X-MEN…てゆーか、超能力少女の対決ものである。 ● ヒロインのマイは女子高生のとき、レイプされたことがある。だが、我しらずあげた絶叫とともに身体の奥から湧き起こった目に見えぬ力がレイプ犯を吹き飛ばし男は半死。そのときのことがトラウマとなり、若妻となったいまでも「愛する夫を傷つけてしまうのでは?」という惧れからセックスにのめりこめずにいる。そんなマイの前に、もう1人の超能力者・ユヅキが現れる。ユヅキは「わたしたちはセックスのエネルギーを物理的な力に変換できる性能力者。すなわち、エスパーならぬセスパー(=SExtra-Sensory Perception-ER)なのだ」とマイに告げる。世界制服 征服を企む秘密結社を主宰するユヅキは仲間に加わるよう強制するが、マイは「わたしは愛する人とのささやかな幸せが欲しいだけなの」と拒絶する。仲間に加わらぬなら、すなわち敵! マイに恐るべきセスパーの刺客が襲いかかる! ● これは「スケバン刑事」を元ネタにした渡邊元嗣「ねらわれた学園 制服を襲う」(1986年/橋本杏子)以来の戦闘少女ピンクの傑作である。アクション・シーンもじゃれあいレベルではなく本格的な肉弾戦。惜しむらくは60分という上映時間の制約でストーリー・ダイジェストみたくなっちゃってることで、せめて室賀厚「GUN CRAZY」なみの金と時間と尺を与えてあげたかった。てゆーか、このままでもDVDにすればある種のアニヲタ&エロコミおたくの皆さんが喜んで買うような気がするけど。なんだったらタイトルをそれ系のやつに変えてさ。どうよ?>アップリンク。 ● ヒロインのマイを演じた橘瑠璃はあいかわらず可愛いけれど「スクリーミング・クイーン」としては悲鳴が迫力不足。もっと腹筋つかって叫ばないと。台詞まわしもそろそろ もう少し勉強したほうがいいかな。ちなみにピンク映画では、撮影期間の制約のせいで「順撮り」というのはあり得ないのだが、本作ではどうやら「冒頭のレイプシーン」を最初に撮影したらしく、その後の彼女の濡れ場ではことごとく お尻とか太腿のうしろとかが切り傷/擦り傷だらけなのだ。肩なんかタンクトップの跡もクッキリと赤く日焼けしちゃってるし。これ、瑠璃ぷぅ〜☆は「頑張ったね:)」って褒めてあげるけど、明らかに助監督のスケジュール組みのミス。イチバンの売りものを傷だらけにしてどーするよ。 ● さて、本作最大の掘り出しものは敵役のユズキを演じた新人・宮沢けい(22歳) ストレートロングの黒髪が似合う梶芽衣子〜柴咲コウ系のワイルドな魅力の美人女優で、張った台詞の巧さは「魔界転生」の麻生久美子よりよほど上。ラストシーンでは「さそり」ばりに黒のロングコートでキメて「X-MEN 2」での再登場を予告してくれる(どーせなら鍔広帽子も被せればよかったのに:) 次回は美術&衣裳に中野貴雄を引っ張ってきてぜひ瑠璃ぷぅ〜☆躯に密着した特注ジャンプスーツを着せてね。 ● ユズキ配下の戦闘員に、キュッとしまったヒップと逞しい二の腕が女子プロレスラーみたいな麻木涼子@今回、茶髪。 ヒロインを導く「謎の行者」に小林達雄。 撮影:長谷川卓也。[オーピー/大蔵映画 2003年10月公開]

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Y R I C K
ヤリック セクハラUFOの来襲(宇田川大吾)

YRIK[ビデオ観賞]いや、あんまり笑っちゃうのでジャケットを載せてみた。「悩殺天使 吸い尽くして」の宮沢けいが気に入ってしまったので早速ググって、その前に主演したエロVシネマを借りてきたのだ。 ● 2003年7月リリース。73分。見てのとおり「TRICK トリック」のパロディである。だが安手のパロディAVにありがちな「元ネタと一緒なのは〈主人公の職業〉だけで、似ても似つかぬ俳優(およびそれに近い人)たちによるヌルいコントちょろっとあって、あとはいつもの濡れ場が続くだけ(いやよく知りませんけど)」などということはなく、脚本・監督の宇田川大吾(←何者?)と撮影の創優和は、きちんと堤幸彦独特の構図/フレーミングやカット割りまでも模倣していて、冒頭に下手な手書きイラストとナレーションでその回のテーマを説明し、ツカミとして傍目には超常現象としか見えない怪異が描かれ、卵の殻が割れてグリーンの黄身が見えるタイトルバックに繋がる…という構成もそっくり同じ。特徴的なチンドン&チャリラーンというベタな効果音の使い方やBGMもクリソツで、足りないのは鬼束ちひろの主題歌ぐらい。「トリック」のパロディというからにはちゃんと「謎解き」もあって、まあ「ズーランダー」や「アンダーカバー・ブラザー」を例に出しては褒めすぎだけれど、この手のものとしてはビックリするぐらい真面目にフザけてることに好感を持った。 ● 今回のお題はアブダクションカルト教団。ちかごろ巷を騒がす噂。宇宙人に誘拐され、UFOに乗せられて美人宇宙人とSEXしたら精力絶倫になった…というもの。 さて、ここは東日本科学技術大学の物理学研究室。胸に「あべひろち」と名札をつけた男を殴り倒して後釜に座ったのは上田遅漏(中村英児)。ベストセラー「どすんと来い!超常現象」でもおなじみの若手天才物理学者である。上田のもとへ妙齢の美女(白井夏)から「大宇宙真理教団の出家信者になってしまった婚約者を助け出してほしい」との依頼が舞いこむ。愛しあう時にも部屋の明かりを消すようなスマートで優しい好青年だったカレシが、ある日を境に関西弁のセックス・アニマルに豹変してしまったのだそうだ。教団の若き教祖・西園寺麗子(酒井るんな)にはUFOを呼びだす力があるのだという(ちなみに教団食はもちろん某社のカップ焼きそば) 上田はさっそく家賃滞納をネタに脅迫して、売れない手品師=山田オナ子(ほんとに…あ いや、微乳の宮沢けい)に潜入捜査を命じる。「えー、またアタシぃ? おまっけに今回も新興宗教かよ!?」 ● 宮沢けいの濡れ場はオナニー1回+セックス1回と控えめ。ま、見せるほどのもん持ってないし<おい。 あとの2女優が主たる濡れ場要員なのだが、ぜんたいに濡れ場はリアルでなく上手くすりゃR-15でも通りそうなソフトなもの。 コメディ・リリーフたる、暴力的な関西弁のアフロ(カツラ)刑事=警視庁の矢部謙三(って役名いっしょやんけ!)に、…おお、ピンク映画界から、なかみつせいじ。 その後輩で広島弁をつかう金髪の石原刑事(って役名いっしょやんけ!)に久保利明。 まあ、壁に延々とブームマイクの影が写るシーンがあったりすんのは大きな減点だが。これだけちゃんと作ってありゃ合格でしょ。てゆーか少なくとも(あまりに些末な悪フザケに走りすぎて1回で観るのをヤメちゃった)本家「トリック3」よりは面白いぞコレ。[製作:JUNK 販売:TMC 作品紹介頁

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Y R I C K
ヤリック 呪いのエロビデオ(宇田川大吾)

[DVD観賞] 2003年12月リリース。70分。笑っちゃったのは おれだけじゃないらしく前作から半年と経たずに第2作がリリースされた。おそらくTMCの販売戦略上の都合から「ヤリック2」とは銘打たれていないが、内容的には「ヤリック セクハラUFOの来襲」の完全な続篇であり、前作で登場したキャラが意外なところで再登場したり、前作からストーリーが繋がっている部分もある。でも大丈夫。プロフィール/正体不詳の宇田川大吾(脚本・監督)と撮影:創優和+助監督:竹洞哲也+制作応援:城定秀夫という妙にエクセスっぽい製作スタッフは親切なので、ちゃんと最初に山田オナ子(宮沢けい)のナレーションで「先週のあらすじ」を説明してくれるのだ。 ● 今回のお題は「見たら1週間で死ぬ 呪いのビデオ」。「トリック」の真似だけしててもネタが尽きてしまうので「リング」のパロディを「トリック」のスタイルでやってるわけだ。 今日も今日とて客のいない舞台で空しくマジックを演じてきた〈売れない手品師〉山田オナ子。ジャージ&安物のTシャツという定番普段着に着替えて苦瓜(ゴーヤ)でオナニーしてたら(←ちなみにこれは重要な伏線となる)、例によって大家のババア(ドアの向こうからよく似た声だけ聞こえる)から家賃の催促。そんな彼女のもとへ現れたスラリ長身&ボヨヨン巨乳の2人の女(涼+雨宮まり) 唖然とするオナ子はなにがなんだか解からぬままに映りの悪いビデオを見せられて「友だちがこのビデオを見て1週間後に死んだんです」…って、そーゆーことは見る前に言って!ってもう遅い。むりやり呪いの究明を頼まれたオナ子は(てゆーか、謎が解けなきゃ死んじゃうし)迷コンビの上田遅漏教授に会いに行く。じつは上田は「あべひろちバラバラ殺人」の罪で、関東こけし刑務所に収監されていた…。 ● ま、もう何の映画のパロディかお解かりでしょうけど、地下の独房の場面になった途端に「顔いっぱいのアップ」が多用されたりして…、わかった! チミたち横にビデオを置いてワンカットずつ確かめながら撮ってるだろ? 今回も宮沢けい の濡れ場は妄想の未遂が1回と本チャンが1回。あいかわらず本作でも貧乳貧乳とバカにされてるけど(じっさい貧乳だし)、泣くな宮沢けい よ。作られた巨乳より天然微乳。脱ぎ要員の明らかなシリコン乳なんぞより、あなたのほうが百万倍キレイだぞ。 ちゃんとそれなりの「どんでん返し」とか「意外な真実」なんかもあって、ストーリーも演出も快調。これならエロが無くても星3つ付ける。 ● [追記]監督ご本人からメールを頂いたので、プロフィールを転載しておく> はじめまして、「YRICK」を監督している宇田川大吾と申す者です。──中略──正体不祥とのことなので、勝手に自己紹介させて頂くと、自分は、ピンクやエロVシネ業界では、まったくの新参者です。2002年始め頃に、妙縁で、とある制作会社にて佐々木乃武良監督や山川直人監督のVシネをAP的に手伝い始め、はじめて、この世界に入りました。過去の仕事に、編集で「必撮!仕事人 報復のハメ撮り師」(佐々木乃武良監督・2002年・ジャンク)、「真夜中は牝の顔」(佐々木乃武良監督・2002年・ジャンク)、「女陰明師2 淫魔受胎」(佐々木乃武良監督・2002年・エンゲル)  監督・脚本作で(編集、キャスティング、タイトルロゴも)「Penny's ペニース 24時間ファミレス・ジャック」(2003年1月22日リリース)、「部長・痴魔耕作 リストラ腐食列島を救え!!」(2003年4月22日リリース。河崎実監督「スーパーエロリーマン 課長・痴魔耕作」の続編です)、「YRICK ヤリック セクハラUFOの来襲」(2003年7月22日リリース)、「魔界昇天 淫殺魔たちの報復」(2003年10月22日リリース)、「YRICK2 ヤリック 呪いのエロビデオ」(2003年12月22日リリース)、「YRICK3 ヤリック 〈エロネット武田〉の陰謀 !?」(2004年4月22日リリース予定。以上、メーカーはすべてジャンク、販売はTMC)で、例によってのパロディ系シリーズです。「YRICK」以外の拙作も、お暇がございましたら、見ていただけると幸いです。 [製作:JUNK 販売:TMC 作品紹介頁

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PINK SHADOW
花弁の忍者 桃影 忍法花ビラ大回転(中野貴雄)

脚本:中野貴雄 衣裳:山本志津 音楽:小倉寛光
中渡実香(桃影) ヘイタ(猿影)| 広世克則(万華珍幻斎)
如月あおい(金津園泡姫) 間宮結(カマキリ御前) アムリタ(女郎蜘蛛)

[ビデオ観賞] パロディ系のエロVシネマならこの人をおいては語れない。2002年11月リリース。現在のところ中野貴雄の最新作である。いちおう若年層の皆さんに解説しておくと元ネタは東映制作のテレビシリーズ「仮面の忍者 赤影」。だから[私はJASRAC関係者ではありません]⇒YESの方だけお読みくださいちゃんと主題歌も「赤影」のものを使用している…のだが歌詞がちょっと替え歌になってて、♪赤い国旗は謎の国 どんな国家か〜知らないが キラリと光る鎚と鎌 共産主義者だ 赤旗だ 粛清シュッシュ シュッシュシュ 赤旗は行く〜♪(木亥火暴) えー、いちおう若年層の皆さんに解説しておくと、昔「ソ連」という国がありましてぇ…。 ● とある企業の派遣社員の桃子。しかしてその実体は資本主義を隠れ蓑に世界征服を狙う万華教(マンゲ教)の野望を打ち砕くべく潜入したうさぎ頭巾のくノ一「桃影」だっ。大国主命(オオクニヌシノミコト)に命を救ってもらって以来、つねに歴史の闇に潜んでやまとの国に仕えてきた因幡忍者の末裔である。えー、若年層の皆さんに<もうええちゅうねん。 白いふわふわの尻尾付きの全身網タイツ…もとい帷子(かたびら)に はち切れんばかりの巨乳を包み、悪を制するうさちゃん型 手裏剣が飛ぶ! ● 「お前は誰だ。…バニーガールか!?」「網タイツだからバニーガールとは救いがたき俗物!」 バカだねえ。ほんとバカ。いや素晴らしい。このような才能が低予算の美術費持ち出しのVシネマの世界に甘んじているというのは日本映画界にとって偉大なる才能の浪費か、はたまた他に使い途のない才能なのか。だが、ノリだけでへらへら作ってる凡百の自主映画あがりと、中野貴雄を隔てるのは徹底した細部へのコダワリと意外と緻密な脚本にある。敵の首領=万華珍幻斎(マンゲ・チンゲンサイ←声に出して読んでみよう)ひきいる怪人たちは扇町ミュージアム・スクエア時代の劇団☆新感線のそれに匹敵する特注衣裳を身に着け(=ということはつまり特撮大作「さくや 妖怪伝」の衣裳と同レベルということである)、金津園泡姫という名のキャラはちゃんと名古屋弁で喋るし、怪人なのに途中で身の上話を始めて改心したりするのである。…え? 褒めてるよーに聞こえない? おかしいなあ。おれが岡田裕介だったら中野貴雄にポンと5億 渡すのになあ。撮影:木次信二。70分。[製作:JUNK 販売:TMC 作品紹介頁

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猥褻ネット集団 いかせて!!(上野俊哉)

市井のハンコ屋。作業机に座った男が無心に印面を掘っている。傍らのテレビからはアメリカのイラク侵攻のニュースが流れている。男のモノローグ「テレビでアメリカの偉い人が〈正義の戦争〉だと無邪気に話してる。信じられるものがあるなんて羨ましい。ぼくに〈信じられるもの〉なんてあるんだろうか…」 そして黒味の画面に字幕が出る「戦争のある時代に生まれたかった」 映画が進むにつれて、黒味画面の字幕はネットの掲示板(あるいはチャット)のテキストだと解かってくる。そうして1人、また1人とハンコ屋の2階に5人の男女が集まってくる…。じつは「猥褻ネット集団 いかせて!!」というタイトルにはいささか語弊があって、この場合の「いかせて」というのは性的絶頂を指すものではない。内容を正しく反映した題名を付けるならば「集団ネット自殺 逝かせて!!」となる(火暴) ● ピンク映画は時代のカナリアである。いや、なにもカッコつけて言うのではなく、予算も後ろ盾もない中で汲々として表現行為を続けている業界最底辺(すまん>現場の皆さん)にいるからこそ、なにかあれば真っ先に潰される立場だからこそ、向かい風きなクサい臭いに敏感で居られるのだ(Vシネマも似たポジションと言える) そうした微妙な〈風〉は意識する/しないに関わらず、かならず作品に反映されるものだ。そしてピンク映画ならではの(公開までの期間が最も短い新東宝などでは)それこそ企画から2ヶ月後には劇場にかかってるという鮮度がもたらす「同時代性」は、決して大手映画会社の作品からは得られぬものだ。 ● デカい図体とは裏腹のカナリアの心の持ち主である演出家・上野俊哉と、「雄プロ」出身で いわば廣木隆一や石川均の戦友である脚本の高原秀和は、生きて行くのが厭になることばかりが起こる、この2003年末に画面の向こうから必死でこう語りかける── 生きていますか。 生きていますか。 ぼくは生きています。 ──これぞ国映本流。ヌケないけど泣ける傑作である。 ● 主人公のハンコ屋に(上野俊哉の「バカ兄弟」シリーズの弟役でおなじみの)江端英久。 映画監督との不倫がドロ沼のB級女優に、佐々木日記。両のお尻の上と左のおっぱいの下に入ってるタトゥーは本物ですか!? その不倫相手のどっからどー見ても廣木隆一にしか見えない(AV兼業の)映画監督を脚本の高原秀和が自演。 DV夫に愛する子どもとの仲まで引き裂かれた主婦に、コトブキ引退から3年ぶりに復帰の(篠原さゆり改め)村山紀子。 援交女子高生につぐみ似のAV女優・藍山みなみ(あおやま・みなみ)。ロリな体型に不釣合いの量感あるヒップがエロいですなあ。 目の前にいる人間ともケータイで話をするような、対人関係が極端に苦手でバイトも侭ならない若者に、蔵内彰夫。 そのほか下元史朗・川瀬陽太・星野瑠海らの出演。 60分の尺では5人個々のドラマが表面的にしか描けず、本来ならあと15分は尺がほしかったところ。撮影は小西泰正。[国映=新東宝]

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痴漢股ぐらのぞき(深町章)

2003年じつに6本目の深町章 監督作品。新進脚本家 かわさきりぼんとの顔合せで挑むのは、お得意の「終戦後を背景にしたメロドラマ」である。 ● まだ終戦後の空気の色濃く残る地方都市。弟分の喧嘩の仲裁に入って愚連隊のリーダーを刺殺、5年の刑期を終えて出所した檜垣貞男だったが、組長は愚連隊の背後にいる組に怯えてさっさと手打ち。組に自分の居場所は無かった。そのうえ温泉旅館を営む弟分の実家に預けていた自分の情婦(イロ)まで、あろうことか弟分の実兄と結婚して幸せに暮らしてるというではないか。檜垣は矢も盾もたまらず、泣いて詫びる弟分を振りきり、たまたま出逢った、情婦と瓜二つのオツムの弱いパンパン娘を道づれに、情婦のいる温泉旅館へと旅立つ…。 ● 荒々しいやくざと、知恵おくれのパンパン娘の道行き。そう、これはフェリーニ「道」の換骨奪胎である。ジェルソミーナを演じた、2003年デビューの新人女優・麻白に早くも初日が出た。たぶん一から十まで深町章の振り付けだと思うが、なあに藤純子だって最初はマキノ雅弘の100%振り付けだったんだから。深町章はさすがはベテランだけあって歩き方から茶碗の持ち方まで所作事ひとつで どれほどキャラクターが魅力的に映るかをよおく判ってる。いや、泣かされました。 ● 反対に、意外とハマらなかったのが主人公の檜垣貞男を演じた、なかみつせいじ。この役は港雄一のごとく荒々しい獣のように演じるか、下元史朗のように世を拗ねたヒネクレ者として演じるか…のどちらかだと思うが、なかみつせいじはザンパノにしては どうも「良い人」過ぎちゃって、ムショ帰りの武闘派やくざの凄みが出ないのだ。この男はこれから自分を裏切った情婦を殺しにいくのだ、と観客が本気で思わなくては話が成立しないではないか。ピクニックじゃないんだからさ(でも考えたら、いまのピンク映画界には下元史郎の後継者には佐野和宏とか伊藤猛がいるけれど、港雄一の後継がいないねえ) ● 卑劣な親分に(脚本家かわさきりぼんの旦那の)かわさきひろゆき。完全に「仁義なき戦い」の金子信雄の猿真似だが、まあヨシとしましょう。 檜垣に殺された愚連隊の情婦から、敵対していた組長の愛人に乗り換えた女に爆乳・山口玲子。 組から差し向けられた殺し屋に水原香菜恵。 あと、弟分役の山名和俊クンに言うちゃるけど「パンパン」の発音は「乾パン」と一緒で前が強いのだ。パンダじゃないんだから平坦に発音するのはやめてくれ。 ● 特筆すべきはスタッフワークの素晴らしさで、例によって山梨県塩山市の水上荘ロケなのだが、照明とSEひとつで旅館の内部を起用に使い分けて、周辺部の景色を巧く切り取ることで、みごとに「昭和20年代後半(?)のロードムービー」という無理難題を解決している。撮影:清水正二、音楽:大場一魅。助監督部の配置した小道具類も貢献度大。 ● となると、いちばん頑張んなきゃいけないのは脚本の かわさきりぼん ってことになる。まず主人公は5年の服役を終えて出所したのだから、終戦直後ではなく少なくとも朝鮮戦争による特需景気以降の話で、下手したら昭和27年(1952)のサンフランシスコ講和条約の発効=GHQの廃止の後かもしれないのに、そんな時代に「地方都市で、着物の裾を持ち上げてマッチ1本いくらおまんこ見せて、家族を養ってる娘」がパンパンと呼ばれている…という設定はかなりビミョーだと思うのだが、まあ、それは措くとしても、この女流脚本家には(フェリーニは観てても)やくざ映画の素養がないことは明らかで、「愚連隊」という言葉すら御存知ないようだし、それに主人公と酒を飲んでる女が「アタシ、いいとこ知ってんの。鞍替えしましょ」って、それを言うなら「ショバ替え」だろ! また(この手の物語の常として)主人公を慕っていた弟分が、組の命令で兄貴分の命を狙って追うことになるのだが、あそこは弟分が自分から言い出すのではなくて「卑劣な組長が言葉巧みにそう仕向ける」展開にすべき。それに主人公の服役の理由だが、冒頭に本人が「喧嘩の仲裁が、誤って殺っちまった」と言ってるのに、中盤の弟分の台詞で「あの女が欲しくて兄貴にヤツを殺させた」…って、それ矛盾してるだろ! 書き終わったら読み返せよ、自分でさあ>かわさきりぼん。 ● じつは上野オークラで再見して星1つ増やした。初見の新宿国際名画座では、絶妙なSEや感動的な劇伴がまったく聞こえなかったのだ。駄目じゃん。さすがにもう愛想が尽きた。どーせ数ヶ月おくれで上野オークラに回ってくるのだ。新宿国際名画座なんか2度と行くもんか。[新東宝]

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発情家庭教師 先生の愛汁(女池充)

a.k.a.「花井さちこの華麗な生涯」

(ある種の)天才・中野貴雄による脚本は素晴らしい。…脚本は。ひょんなことから額に第三の眼が開いてしまったイメクラ嬢のヒロインが巻き込まれる大統領の指をめぐる国際的陰謀! ありとあらゆる欲望が錯綜する現代の混沌とその終末を描いた狂騒的サスペンス・コメディ・・・となるはずの脚本である。おそらくこのホンに最も相応しい演出家は(中野貴雄本人を別とすれば)性と政治のアナーキスト=瀬々敬久その人である。大蔵の山崎邦紀が撮ったならストーリー展開のシュールな部分を強調したブラックな傑作となったことだろう。それをピンク映画界の他人の金で自主映画を作る男=女池充は「いつもと変わらぬ自分のスタイル」で演出してしまう──「画面が意味もなく暗くて台詞が聞き取れない映画」として。もうハッキリ言うけど女池充よ、いくらうだうだと悩んだってアンタには「頭の中でイメージしたこと」を画面に移し変える力──すなわち「演出力」と呼ばれる漠然とした才能のかなり大きな比重を占める部分──が決定的に欠けてるってことはつまり映画監督には向いてないんだよ。アンタのやる気は観客の迷惑なんだ。頼むから定職に就け。そんで小説でも書けよ。な? ● あろうことか、昨年のPGピンク大賞で女池充を監督賞に推したバカ 観客審査員の方が6名もおられて、それで女池はなんと最優秀監督賞を受賞、副賞として富士フイルムから次回作用に(普通の監督が消費する量の)映画1本分の35mmフィルムを手に入れてしまった。本作はそれで撮られているので、女池のいつものフィルム使用量のおそらく3分の2ぐらいは浮いた勘定となる。その分の経費をどうやらすべてキャスト費に注ぎ込んだらしく、本作には川瀬陽太・小林節彦・伊藤猛・本多菊次朗・野上正義・水原香菜恵・螢雪次朗・久保新二・葉月螢・絹田良美(ぶーやん)…といった人たちが次々と現れては消えていく。ヒロインにはAV女優 兼 現役イメクラ嬢の新人・黒田笑。このコのHPの日記によるとなんやかやと1ヶ月も撮影してたんだそうな(まったく…) 65分。撮影:伊藤寛。音楽:岸岡太郎。中野貴雄の脚本に免じて星1つ増やしておく。 ● [追記]本作はその後、2004年の秋にアテネ・フランセ文化センターでの上映会に会わせて90分に再編集された「花井さちこの華麗な生涯」が作られ、そのヴァージョンが2005年の11月にポレポレ東中野で公開された。[国映=新東宝]

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ナース姉妹 桃色診察室(佐藤吏)

いまおかしんぢ「痴漢電車 弁天のお尻(a.k.a. デメキング)」(1998)でデビュー以来、おもに国映系の作品を中心に、1作ごとに(お腹にあるバラのタトゥーと共に)鮮烈な印象をピンク映画ファンの脳裏に焼き付けてきた佐々木ユメカ。そして、B級アイドル時代(よく知らんけど)を経て、昨年のサトウトシキ「ロスト・ヴァージン やみつき援助交際」(ビデオ化タイトル「手錠」)でピンク映画にデビュー。初出演とは思えぬ勘と度胸のよさでピンク映画ファンを瞠目させた佐々木日記@身長150cm弱。この、血を分けた実の姉妹が初共演する話題作。いやいや、おれだけが話題にしてるのではないよ。実際に姉妹共演というのは「ピンク映画史上初」らしく、ポスターもそのことをウリにしてるくらいだ。 ● 姉チカコは総合病院の婦長クラス、妹ワカメ(!)は個人医院の看護婦 兼 受付嬢というナース姉妹。見た目の印象どおりの「しっかりしてる姉さん」と「のほほんお気楽主義の妹」という正反対の性格で「2人で同居」とはいえ、実際にはお姉ちゃんのアパートに妹が転がりこみ、家事一切を姉さんまかせの居候。でもチカちゃん、ワカちゃんと呼び合う、とても仲の良い姉妹だ。姉は、つき合ってる体育教師からプロポーズされたのだが、七つのときに父親が家族を捨てて出て行ったトラウマから「幸せな家庭生活」がイメージできず結婚に踏み切れない。妹は妹で、父親を知らずに育ったせいか年上男との不倫専科。いまも勤め先の院長と不倫中だが、最近、本妻に子どもが生まれて男が構ってくれず不満気味…。 ● 監督・脚本は昨年「人妻ブティック 不倫生下着」でデビューしたベテラン助監督・佐藤吏。いや、佳作だとは思うんだよ。佐々木ユメカ主演のピンク映画としては水準の出来だろう。だけどさあ。これは新東宝がポスターにまで謳うほどの「美人姉妹共演」の話題作なんだよ。そんなしんみり普通の映画にしてどーすんのよ? 佐藤吏の映画には(デビュー作もそうだったが)マジメに取り組んでるのは伝わってくるけど、残念ながらまだ娯楽映画としての華がないのだ(ハッタリと言ってもいい) たとえば本作は「砂浜で少女が父親と赤いゴムボールをキャッチボールする」イメージカットから始まり、終盤でまたその「赤いゴムボール」が登場するのだが、そこまでを一本調子の地味リアルで演出しちゃってるから、観ていて「そのボールをナース服のどこから出したんですか、ユメカさん?」ってことになっちゃうのだ。せっかくの姉妹共演なんだから池島組あたりの楽しいラブコメで観たかったなあ。てゆーか今からでもお願いしますよ>池島ゆたかさん&五代暁子さん。 ● ユメカ姐さんは超安定。ニッキちゃんはデビュー作での「うぃ〜っす」ってキャラ、あれは地だったのね。 ユメカの同僚で患者の中から再婚相手をゲットするバツイチ看護婦に新人・紺野美如。いや、悪くはないけど、この役を佐々木基子にしとけば三姉妹共演になったのに!(すんません嘘です。佐々木基子は姉妹じゃありません) 電話の声として登場する「姉妹の母」に しのざきさとみ。 入院患者に なかみつせいじ。てゆーか「父親」役を なかみつせいじ にしとけば(↓)の深町組と話が繋がったのに!(←いやだから繋げる意味ないから)[新東宝] ● [追記]後日、BBSに白木つとむさんが次の情報を提供してくださった>[一般的には、ピンク初の実の姉妹競演は、佐藤監督の「ナース姉妹」の様に思われているが、(というか私も忘れていた)実は、1990年7月にエクセスで公開された「団地妻 責めて濡らす」で、実の姉妹を売りにしていた、島崎里美・里矢が姉妹の役で競演していたのである。ではなぜ当時、話題にならなかったのかというと、この姉妹はピンク映画に対して、あまり熱心ではなかったからである。(里美がこの映画を入れて4本、里矢がこの映画をいれて2本出演。二人共、主にAVをメインの活動にしていた。)ちなみに「ハダカの尻を突き出させての鶯の谷渡り」のシーンは、今でいうフリータで生活している姉夫婦及び同居している妹を、心良く思わない団地の住民の妄想として、やはり描かれていた様な気がする。(ビデオが出ていないので確認できない。一応ググッテ見たのだが、昔の作品なので、抽出できなかった。)

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いんらん肉布団 女将の濡れ具合(深町章)

当サイト イチオシの新進脚本家・河本晃の「わいせつ温泉宿 濡れる若女将」に続く2本目の深町組 参加作。ついでに言うと撮影・清水正二と、旅館の仲居・酒井あずさもそのまま続投。亭主の浮気癖が原因で離婚して以来20年。女手ひとつで1人娘を育てあげ、温泉旅館を切盛りしてきた女将の前に、借金取りに追われた元・亭主がひょっこり戻ってくる。けんもほろろに追い返そうとする女将だったが「お父さん他に行くところがないの。お願い!」という愛娘の説得に渋々、旅館に泊めるのだが…。 ● 正直、脚本の出来は前作に及ばないのだが、ウェルメイド志向の脚本家とベテラン演出家の幸福な出会いが、芸達者な俳優陣のアンサンブルを得て、みごとに花開いている。イーカゲンだけど憎めない風来坊亭主 なかみつせいじ がギターの弾き語りを披露すれば、コメディエンヌとして林由美香の牙城を揺るがす勢いの酒井あずさはニセ中国人に扮してハシャぎまくり、デビュー作「痴漢電車 おさわり痴女」(渡邊元嗣)のときとは別人のように勘が良い「女将の娘」役の谷川彩(19歳!)が真珠の涙を流す。つられて「娘のカレシ」として出演している田吾作(こと俳優名:丘尚輝)までが ひと皮剥けた軽妙な演技を見せるのだ。すでに還暦をすぎたベテラン演出家の采配も冴えわたり、豊かな肉体言語(濡れ場のことじゃないよ)が映画全体を弾ませる。これぞプログラム・ピクチャーの粋(すい)である。じつはこの中にあってはヒロインの女将を演じるしのざきさとみがいちばん不器用なのだが、そんな、人の頼みを断りきれない、悪女を演じても人の良さが滲み出てしまう不器用さが、この人の味だしね(今回は珍しやヘアヌードも披露している) ● 厭々、渋々…がやっぱり気になり、心を許そうかと思うたんびに裏切られ、今度こそはと思った矢先に決定的に決裂し、別れた後から「意外な真実」が明らかになり、追いかけてハッピーエンド…というストーリーラインはラブ・ストーリーの定型中の定型であって、河本晃は堅実にこのフォーマットを展開しており、ほぼ完璧といえるのだが、ひとつだけ文句をつけると(60分という尺の関係もあるんだろうけど)この映画では「決定的な決裂」の描写が省略されるのである。観客はその省略された時間に何があったかを用意に推測できるので物語の理解にはなんの差し障りもないし、もちろんこれは粋(いき)を狙ってそういう構成にしているのだが、だがやはり、その後に来るハッピーエンドをより感動的なものにするためには「ヒロインが泣いてバカ!男の頬をはたく」ぐらい やっとかんと いかんのではないか。 ● 女将のもとに誰かからの「プレゼント」として派遣されてきた「出張ホスト」に嵐の二宮クンみたい(←褒めすぎ)な高橋剛。 ベビーフェイスの新人・谷川彩は(深町章の演出の手腕も大きいのだろうが)もうほんとうによい娘さんに見えて、このコなにかお芝居でもやってたのかな? ひとつだけショックだったのは名手・清水正二の撮影に一ヶ所だけひどいピンボケがあったこと(=浮かれ騒ぐ元・亭主たちを女将が廊下から覗き見ているカット) これがほんとの正二の手から清水・・・上手の手から水。えー、おあとが宜しいようで。テケテンツクテンツクテケテンテンテン…[新東宝]

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馬を愛した牧場娘(関根和美)

子役時代には「座頭市の歌が聞える」の座頭市に憧れるガキの役で準主役を演じ、テレビ「ハットリ君」ではハットリ君の中の人を務め、大人になってからは数え切れないほどの東映作品のクレジットのいちばん御仕舞いのほうに名前を残す東映専属俳優町田政則。かれを主演に据えた関根和美の「デコトラ野郎」シリーズの最新作。もっともシリーズつったっておれは他に「痴漢トラック 淫女乗りっぱなし」(2000)しか観たことないので、他に何本あるのか知らんのだが。 ● 気っ風はいいが頭と財布は空っぽのデコトラ野郎が、毎度々々、苦境にある美しいヒロインに一目惚れして分不相応な妄想を抱きながらバカはバカなりに必死で奮闘する・・・というフォーマットは(愛川欽也 扮する弟分がいないことを除けば)菅原文太の本家「トラック野郎」シリーズそのまんま。もちろんアタマと終わりには馴染みのトルコ嬢(旧称)のところで息抜き(と○○ヌキ)をするわけだ。 ● 借金の形に牧場を奪われそうになってるヒロインにAV女優の秋津薫。とりたてて美人でもなく、台詞は恐るべき棒読み。ベッドシーンとかの所作になると途端に手慣れた感じになるのはストリップもやってるのかな。 馴染みのデリヘル嬢に酒井あずさ。恐るべきペースで出演を続けている甲斐あって、デビュー2年目にしてもはや「映画の出来がどうであれ この人が出てくると安心して観ていられる」という元金保証女優の域に達してるのは大したもの。 あと3人目の女優の高岡愛は二代目・一条さゆりを襲名する前の萩尾なおみにちょっと似てますね。 ● まあ、いつもの関根コメディで、とりたてて特筆すべき出来ではないのだが、日光の鬼怒川ウエスタン村にロケして弾着使用&見張り塔から落下のスタントあり(!)というサービス精神に免じて星3つ付けておく。先ごろ復帰したピンク映画の名カメラマン・倉本和比人の的確なフレーミングが娯楽映画としての安心感を保証しているのも大きい。[オーピー/大蔵映画]

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ハード・レイプ すすり泣く人妻(荒木太郎)

脚本:渡辺護

ピンク映画の地平を広げ続ける荒木太郎──「フェリーの女 生撮り覗き」(2001)の瀬々敬久・脚本に次いで、今度の新作はなんと大ベテラン、渡辺護の脚本である。もともと自作用に準備していていた脚本を貰い受けた由。下級国家官僚の高圧的な夫のもとで従順に仕える無学で愚鈍な妻。夫の出張中に家宅侵入した男にレイプされたことから死のうと思いつめるが死ねず。旦那にバラすと脅迫されて路地裏の連れ込みで2度3度と肌を合わせるうち、女の躯の裡(うち)にひそんでいた官能が花ひらく…。 ● レイプされた直後の人妻が裸の尻をほうり出したまま放心状態で布団に横たわる。薄暗い台所で男が立ったまま茶漬けを啜っている。食べ終わると胸ポケットからタバコを取り出してガスコンロにかがんで火をつける…といったあたりが見事なまでの「渡辺護」節。それを荒木太郎は、今回も「脚本のト書き」を無声映画のインタータイトルのように画面に映したり、主婦の日常生活をフィルムの早回しで描写するような小細工を駆使して、いつもの荒木演出で料理していく。いや、そうした小細工こそが「荒木太郎」映画の刻印なのだ、と言われればそれまでだが、それでも今回の脚本にはそうした装飾をすべて捨て、素で勝負して欲しかった。いまの荒木太郎にはそれだけの演出力と、小細工など無くとも揺らぎないワン&オンリーな個性があると思うからだ。それとこーゆーマジな映画のときは「黒紙に修正液で書いたクレジット」は貧乏くらいからやめて>荒木太郎。 ● 渡辺護と荒木太郎の資質の違いがもっとも明確に現れているのは「レイプ犯」の男の造詣にある。往年の渡辺護作品ならば必ずや下元史朗が演ったであろうナイーブな翳のあるキャラクター。荒木版ではこの役を、久々のピンク映画主演となる今泉浩一に振っている。「ゲイ」と「異常者」の(あるいは「ゲイの異常者」の)役を演らせたら右に出る者のない今泉の起用は、おそらく現状ではベストのキャスティングだと思うが、それによって下元史朗ならば最後の最後までハードボイルド(=男の強がり)を通したであろう「レイプ犯の男」が、女の前で平気で「弱さ」を見せたり甘えたりするようなキャラに変更されている。いや、べつに原脚本を読んだわけじゃないけど、たぶんそうだじゃないかと思うのだ。 ● 男がそうならば女もまた最後まで(こうした物語の定石であるところの)女のふてぶてしさを見せることなく、ラストに流す「ひと筋の涙」で、まるでこれが虐げられた者同士の純愛であるかのような印象を残す。もちろんそこが荒木太郎の持ち味なのだが、この脚本でその解釈は甘過ぎる、とおれは思う。終盤の展開は「最後までロマンチックでいられる男」と「しょせん霞の彼方へなど行かれはしないのだと認識した女」の違いを、もっとはっきりと描くべきで、その上で「本人にも流す気のない涙がひと筋、つーっと流れる」ってことにしないと。 ● そのヒロインを演じるのは昨年の「年上の女 博多美人の恥じらい」で現地採用デビューを飾った富士川真林。この1作のために上京しての出演である。「幻の人気女優」というまったく似合わない役だった前作に較べれば、本人の薄幸そうな感じが今回のキャラには合っているし、ときおりとても良い表情も見せるのだが、いかんせん台詞まわしが下手すぎる。この話は「近所の奥さん」役で(濡れ場なしで)特別出演している佐倉萌の主演で観たかったねえ。[オーピー/大蔵映画]

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いんらん家族計画 発情母娘(深町章)

脚本:岡輝男。ボーイフレンドとの交際を咎められ、18歳の誕生日を親に忘れられたぐらいで「生まれてくるんじゃなかった!」と家をとび出した甘ったれ娘が、謎の青年(岡輝男 自身が演じる)に導かれてタイムスリップをして若き日の両親の人生を目撃する。若き日の両親に「会って」しまう話としてはピーター・チャンの「月夜の願い(新・難兄難弟)」や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」があるが、本作の場合は両親の人生を物蔭からただ「目撃する」だけ。往年の少年ドラマシリーズあたりに同じ話がありそうだが、おそらく直接の元ネタは「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲」におけるひろしの回想である(ヒロインの名前が「ひまわり」だし) つまり「オトナ帝国」が数分に凝縮して見せていたものを60分かけてやっているわけで、にもかかわらず描かれるのは観客の予想の範囲から一歩も踏み出すことなく、いわゆる「意外なエピソード」がひとつも無いってのはプロの脚本家としてどうなのよ?(まあ「謎の青年」の正体にひと工夫あるといえばあるんだけど) もちろん意外性のない脚本を「予定調和の良さ」として魅せるのもプログラム・ピクチャーのひとつの形ではあるが、そうするためには「ひろし」役の岡田智宏に地力が無さすぎる。ヒロインには新人・麻白。母親に里見瑤子。どーせなら里見瑤子が二役で演っちゃえばよかったのに。長谷川卓也の撮影でだいぶ救われている。結局、いちばん意外だったのは…ひょっとしてラストカットの可愛い男の子のモノクロ写真は田吾作の少年時代!? [新東宝]

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痴漢電車 おさわり痴女(渡邊元嗣)

ナベ まったくやる気なし(敬称略) セックスに解放的なルームメイトの3人娘(ゆき&風間今日子&新人の谷川彩)が独自の恋愛哲学に基づいてキャーキャー言いながら逆ナンに励む…という狂騒的コメディ。おそらく発想の源は「チャーリーズ・エンジェル フルスロットル」だろう。公開の3ヶ月前に初号試写という大蔵映画の標準スケジュールからすると、撮影時には渡邊元嗣も脚本の山崎浩治も「チャリエン/フルスロ」本篇は観ていないはずだが「部屋で3人娘が並んでダンス」というまんまなシーンもあり、まず間違いない。ただ画面の密度は天と地ほども違う。マックGがワンカットごとに湯水のごとく金を使って中身の無さを観客に意識させぬテンションを全篇に維持しているのに較べて、渡邊元嗣の演出はいっこうに画面が弾まず、シラけきった隙間風が吹きすさぶ。せっかく西藤尚が久々にゲスト出演してるってのになあ。てゆーか、大蔵映画はピンク版「チャリエン」がやりたいんなら(予算を少し上乗せしてでも)中野貴雄に頼みなさいよ。[オーピー/大蔵映画]

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変態熟女 発情ぬめり(山崎邦紀)

脚本:山崎邦紀 撮影:小山田勝治 製作:旦々舎

インターネットに1人の〈痴女〉が出現する。男をホテルに誘い出しては超絶的なセックス技巧で骨抜きに。だが同じ男とは二度と寝ない。男は天上のセックスが忘れられず、他の女や自分の女房の前では不能となり、やがて禁断症状に身悶え、腑抜けとなる。そんな1人の〈被害者の男〉と、亭主を腑抜けにされ自殺に追い込まれた復讐をたくらむ〈主婦〉が出会い、2人して女をあぶり出そうと作戦を練る。次いで、とある和室。〈和服の男〉とその〈しとやかな妻〉が登場し、心から愛し合っている様子の2人のセックスが描かれる。最後に、6人目の登場人物が観客に紹介される。〈秋田弁〉を喋るかれは件の痴女と出会い、ホテルへ行こうと誘う女に こう尋ねる──「ひょっしてあなた、わしと同じセックス・アンドロイドではないですか?」 ● 結局、質問の答えをはぐらかされ、そのうえホテルでいいように犯されてしまった秋田弁の男。かれは人間的な学習能力を与えられた最新機種であるがゆえに「セックス・アンドロイド」としての能力が退化してしまい、アンドロイドとしても人間としても中途半端な自分のアイデンティティに悩んでいるのだった。思いあまったかれは自分の生みの親である工学博士=先ほどの和服の男に会いに行く…。 ● もうお気付きだろう。これはもっとも独創的な「ブレードランナー」の翻案である。かようにフザけた設定でありながら「セックス・アンドロイド=レプリカントとして生まれた者の悲哀」や「タイレル博士の最期」あるいは「しとやかな妻=レイチェルの秘密」といった「ブレードランナー」に流れていたエモーションをほぼ完璧に再現している。おれなんか本気で感動してしまった。しかも(これもいつものことだが)ピンク映画としてのエロエロ度(=商品性)も文句なく ★ ★ ★ ★ ★ なのだ。山崎邦紀──じつに畏るべき鬼才である。 ● 女優陣は〈痴女〉に鏡麗子、〈主婦〉に佐々木基子、そして〈レイチェル〉に風間今日子という旦々舎ベストキャスト。なかでも鏡麗子の場合は「胸部に人工物を移植手術して身体機能を強化」しているわけだから、それってつまりSF用語で表現するなら「サイボーグ」なわけで、まさに適役。男優陣は〈被害者の男〉に兵藤未来洋、〈タイレル博士〉に柳東史、そして〈ロイ・バティ〉に平川直大。[オーピー/大蔵映画]

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やりたい人妻たち2 昇天テクニック(的場ちせ)

脚本:山崎邦紀 撮影:小山田勝治 製作:旦々舎

前作から3ヶ月という短いインターバルで届けられた「的場ちせ」こと浜野佐知の新作。さきごろ、石原里紗なる女性ライターの書いた「くたばれ専業主婦」という専業主婦バッシングの本が話題になり、女性週刊誌やワイドショーで取り上げられて(著者と出版社の戦略どおりにまんまと)ベストセラーとなったが、本作はそれをネタにしている。 ● 「くそくらえ!専業主婦」という本を出版した女性ライター・川村絵里がワイドショーに出演して「専業主婦は夫に飼われた家畜も同然。夫にセックスを売ることで生活している」云々と喋っている。これをテレビで見ていた2人の専業主婦が激怒して、生意気な女を懲らしめるべく、1人目の専業主婦は絵里の担当編集者に、2人目の主婦は絵里の恋人に近づく…。専業主婦が独身キャリアガールに復讐して最後は夫婦和合でめでたしめでたし…という話のはずが、これは「浜野佐知の映画」なので、いつのまにやら3人の女たちが三者三様に男をいいようにもてあそび、最後にぎゃふんと言わされるのはやっぱり男性なのだった。浜野佐知イズムをよく表している専業主婦の台詞>「この躯は誰のものでもない。あたしだけのものなの」 ● ライターに熟女AV女優=桜田由加里。専業主婦その1に淫乱巨乳ゴージャス=鏡麗子。専業主婦その2にベテラン=佐々木基子。担当編集者に なかみつせいじ。 いくらかストーリーがある分だけ前作ほどの爽快感は無い。てゆーか、桜田由加里が地味すぎて「小生意気な女性ライター」ってよりは自身が「疲れた主婦」にしか見えんので敵役として成立してないのだ。この役は「生意気で自信満々」なところが魅力的に見えなくちゃ。前作で快演したゆきを使えばよかったのに。 [新東宝]

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高校教師 引き裂かれた下着(下元哲)

昨年来ホームグラウンドとしていた大蔵映画の国沢組を離れて、わが愛しのヒロイン=橘瑠璃(たちばな・るり)嬢がデビュー作「三十路女の濡れ床屋」以来のエクセス復帰を果たした。それもハードなエロで定評のある下元組である。るりぷぅの役はタイトルロールの高校教師。同僚教師との結婚を間近に控えて幸せいっぱいのヒロインが、性の魔悦に堕ちていく…というエロ漫画/エロ小説の定番ストーリー。めずらしいのは起承転結の「結」を欠くことで、この映画ではヒロインはえろえろと非道い目に遭って、それで「終わり」になってしまうのだ。「被虐のなかで新たな自我に目覚めたり」とか「いつしか精神的な支配関係が逆転したり」とかそーゆーことにはならない。ただ「いや〜ん」で終わり。エロ漫画ではよくあるパターンだけど映画でこーゆーのって珍しいよな(脚本:金田敬) ● 猫のような瞳とぽってりとした上唇がほんと可愛すぎるるりぷぅあっちでエロエロこっちでエロエロ、もう大変。なかでも家庭訪問に行って佐々木基子お母さんに目薬 飲まされてレズペットとして乳首をえんえんと弄られるシーンのエロさたるや、…先生ちょっと大切な用事を思い出したから、みんなおとなしく自習してなさい。映画の出来とは別に ★ ★ ★ ★ ★ を付けておく。 ● ヒロインに対抗心を燃やす同僚教師に(今年ものすごい勢いで出まくってる)酒井あずさ。 ヒロインの婚約者に竹本泰志。 学校のトイレでレイプされる掃除婦に佐倉萌。 撮影:アライタケシって誰?[エクセス]


美人添乗員 暴走下半身(新田栄)

でさ、たとえばファーストシーンが「旅行会社に勤めるヒロインが海外ツアーに添乗させてくれと上司に願い出る」というシチュエーションだったとするじゃない。場所は旅行会社のオフィス。上司は椅子にふんぞりかえって、その前にヒロインが立ってる。で、最初の台詞が上司の「なにぃ!? 海外ツアーに添乗したいだとぉ!?」 ま、定石としてはあれだよな。台詞アタマから上司のアップで入って、台詞終わりぐらいでカメラを切り返して、上司の剣幕に思わず目をつぶって肩をすくめるヒロインのアップ。で、引いて、手前に上司の背中をナメて、かしこまって直立不動のヒロインの全身(腿から下は机で隠れるかもしれない)を下からアオリで撮る…ってとこだよな。 ● ところが新田栄はこのシーンをいきなり引きのショットで、画面上手に(脚本の岡輝男こと)丘尚輝が演じる「椅子にふんぞりかえる上司」を置いて観客のほうを向いて台詞を言わせ、下手に立ってるヒロインは観客にお尻を向けたままで受けの台詞を喋るのだ。も一回いうけど映画の冒頭のシーンだぜ。ヒロインの顔が写るのは、ようやく次の濡れ場のシーンになってからなのである(撮影:千葉幸男) 一事が万事この調子。陳腐のレベルにすら達しない田吾作コンビの いつものやっつけ仕事。で、またヒロインが例によって例のごとく新田組特産のおかめ豚金山一彦 似。なんでこーゆー特殊なのばかりを選ぶかね? 女優2人目が(台詞をしゃべるたびに凄まじい乱杭歯が気になってしようがない)椎名みなみ。 3人目が風間今日子さんなのが唯一の救いだ。[エクセス]

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美乳暴行 ひわいな裸身(荒木太郎)

きっと あなたの胸に「害虫」やサトウトシキ「青空」(果てしない欲情 もえさせて!)にも似た重いしこりを残すであろう力作。 みずからに降りかかる過酷な運命をすべて良かれと受け止めて、「踊り」という祈りを捧げながら朽ち果てていく少女の物語。これは荒木太郎 版「美徳の不幸」である(脚本:荒木太郎) エミール・ゾラ「女優ナナ」だった「痴漢電車 秘芯まさぐる」(脚本:内藤忠司)に続く、山咲小春がヒロインを演じる世界名作古典シリーズの第2弾というわけだ(そうなのか!?) ● 冒頭は通夜の場面。さしたる悪意もなくヒロインを悪徳の道へと引きずりこんだ知り合いが三々五々と現れては霊前で肩を落とし、ある者は号泣し、ある者は言葉を失い、そうして順に彼女の人生を回想/会葬していく(←まんま、こーゆー構成の映画は過去にもあったよねえ?) もしかしたらジュスティーヌという名かもしれない高3の少女ミチ。両親は無く、伯母の家に居候している。学校の成績はつねにトップ。だけど「将来、何になりたいか」とかはよくわからない。踊ることが大好きで、いつも親友のチャボ(♀)と橋の上で踊ってる。踊る。踊る。ひたすら踊る。踊ればすべてを忘れられる。そんなある日、チャボがストリップの踊り子としてスカウトされ、ミチに「一緒にやらないか?」と誘う…。 ● 冒頭に述べたように「力作」にもかかわらず傑作になり損ねているのは、60分というピンク映画の上映時間の限界ゆえである。なぜなら本来これは(少なくとも)100分の尺でやるべき話だからだ。そのために叙述のスピードアップが必要となり、荒木は半分近くの場面をなんと20コマ(16コマ?)撮影で処理する(=1秒24コマという標準カメラスピードを、ワザと遅くして撮影したものを、通常のスピードで上映することにより画面がやや早送りとなり、動きが昔のサイレント映画のような感じとなる) また全篇回想という形式が採用され、ヒロインの台詞は「○○○──と彼女は言った」と、回想者のモノローグによって発声される。山咲小春の声が聞けるのはアエギ声のみで、彼女みずからの声で喋る台詞はひとつだけ。モノクロ・スチールも効果的に使用され、さながら荒木太郎 技巧博覧会の趣きである。どうせここまでやるなら、カラミ以外はすべて、それぞれの回想者の一人称カメラにすれば良かったのに。 ● さて、そのような本作には致命的な欠落がひとつある。ヒロインの踊るシーンが決定的に少なく、かつその踊りに説得力がないのだ。「踊れれば、それでいい」って、踊ってないじゃん全然。出番待ちで河原で石を投げてる暇にも踊ってるべきなのだ。シナリオ原題が「踊り子ミチ」であるように、この物語に絶対に必要なのは「どんなに堕ちて穢れても、ひとたび踊り始めたならば神々しく輝くヒロインの姿」なのに、それが無いのだ。殉教者であると同時に、男を虜にし 滅ぼすファム・ファタールでもあるヒロイン像を、山咲小春はみごとに演じきってはいるが、この役ばかりは(いささか演技が拙くとも)本当に踊れるコを連れて来るべきであった。あとラストに使われる「憧れのドレス」の件りは、もっと前フリしておくべき。 ● 昨年の「年上の女 博多美人の恥じらい」に続くオール福岡(+佐賀)ロケ作品。今回は山咲小春と(伯母役の)しのざきさとみの2人を福岡まで連れて行ってる。 親友チャボに「年上の女 博多美人の恥じらい」で主人公のガールフレンドを好演した地元の女優・汐音。 本職は地元のルポライターだったり素麺工場の社長だったりするという素人男優陣のキャラクターがみな素晴らしい。 しかし、このような映画を300万円の予算で撮ってしまうのは驚くべきことだなあ。いや、もちろん福岡オークラをはじめとする地元のボランティア応援あってのことなんだが、それにしても荒木太郎の情熱は尊敬に値する。[オーピー/大蔵映画]

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やりたい人妻たち(的場ちせ)

深夜に酔って帰宅した夫。寝てる妻の布団をめくって…「やめて。そんな気分じゃないの」「おまえはおれの女房だろ。ヤリたいときにヤラせるのが女房じゃないか」とむりやり。「これはレイプだわ」と憤慨した妻は翌朝、貯金を全部おろして家出。「気持ちのいいセックスしかしないことにしたの」とヤリマン宣言、快楽を求めてまっしぐら。 ● 昨年正月のエクセス作品以来、ほぼ一年半のブランクとなった的場ちせ(=浜野佐知)監督作品。脚本はもちろん山崎邦紀。ストーリーは上に記したので、ほぼすべて。直截なタイトルのとおり。起承転結の「転結」はない。旧来のピンク映画なら、最後は誤解の解けた夫婦和合で「ハッピー」エンドとなるのだが、浜野佐知 作品においては、妻はただひたすら気持ちの良いセックスに邁進し、夫は公園で弁当を食べながら「ヤル気のない妻とセックスしただけで、どうしてこんな報いを受けなければいけないのか」と呆然とするのみ。ラストは肩をガックリ落として(田舎へでも帰るのだろうか)東京駅に去る夫の後姿。次のカット、颯爽と街を歩く妻の顔のアップにエンドマーク。 ● これはもはや思想映画である。ピンク映画館に心地よい性的ファンタジーを求めてたむろする保守的な男どもに冷水を浴びせかけ、そのまま表に引きずり出して手首を縄で縛って馬で町中を引きずりまわすような映画なのである。そのあいだ女は馬上でケラケラと高笑いを続けるのだ。たいへんに痛快な映画である。おれは大好きだ。 ● ヒロインの人妻に、ゆき。この人はデビューがサトウトシキ「団地妻 不倫でラブラブ」で、たしか旦々舎(=浜野佐知+山崎邦紀の製作会社)初登場のはずだが、じつはいちばん彼女の個性に合ってる気が。 誘われて一緒にヤリマン・ツアーに出かける人妻に、2001年2月の山崎邦紀「視線ストーカー わいせつ覗き」以来となる淫乱巨乳ゴージャス=鏡麗子。撮影時は真冬だってのに全身 日焼けして水着の跡クッキリ。しかも水着のラインが乳輪の天周よりちょっと下にあるというスゴさ(いったいどんな水着着てたんだ!?) 最初っから情けなくて最後まで救われない夫=柳東史と、かれが妻を捜す手伝いをしてあげる浮気人妻=風間今日子は、旦々舎の常連組。他になかみつせいじ・平川直大らの出演。撮影:小山田勝治。[新東宝]

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ハウスレス・ホーム(荒木太郎)

ピンク映画界の〈永遠の8ミリ映画青年〉荒木太郎の、35ミリ/カラー/スタンダードサイズ/サイレントによる自主映画(52分) あ、いや、急いで補足すると、ここでいう「自主映画」とは、おれがよく女池充の映画への罵倒として使う比喩としての自主映画ではなくて、劇場公開のあてもなく自分たちでお金を出し合って手弁当で作られた本当の「自主映画」なのだ。今回、完成から1年を経て、たまたまPGピンク大賞オールナイトの1本として上映されたので観ることが叶った。自主映画だからギャラはゼロだろうし、サイレントだから録音スタジオ代がかからないとはいえ、35ミリ・フィルムによる撮影なので現像費とフィルム代だけで100万円は下らないのではないか。しかもちゃんと(高額な審査料を払って)映倫審査まで受けている。ようやるなあ…。 ● 原作・脚本・主演(たぶんスポンサーも)は縄文人(なわ・ふみひと=もちろん芸名) ここ2、3年、荒木組にレギュラー出演している中年俳優である。この人、じつは本業は建築家だかインテリア・デザイナーだかで、よく劇中に登場する山中のアトリエはこの人の仕事場。そうした本業を営むうえで感じた「家ってなんだろう?」という疑問から発想されたとおぼしきストーリーは、ひと言でいってしまえばホームレス版の「竜二」である。公園に青い防水シートハウスを建てて住んでるホームレス2人(縄文人+荒木太郎) ある晩、玄関先で酔いつぶれてるOL(里見瑤子)をハウスに運び込んで介抱し(て、ついでにヤッちゃっ)たところ、なんと翌日、OLが会社を辞めてアパートを引き払いハウスに転がり込んで来る…。 ● 前半はまあまあ面白く観られるものの、ホームレスの主人公がOLと結ばれてハウスを引き払う時点で、まだ上映時間が半分残ってるので、後半のストーリーが観客全員に解ってしまう。そしてその予定調和を補って余りあるだけの魅力は残念ながら、無い。というのは、この映画はサイレントではあっても「サイレント映画」ではないからだ。俳優たちは台本に書かれた台詞を最後まですべて喋り、カメラがそれを(それこそアテレコが出来るほどに)写し終わってから、ようやく「字幕タイトル」が出る(「ナレーション字幕」は使われない) これは「サイレント映画」の作法ではないし、そもそも荒木太郎はタイトル枚数を減らす=字幕で伝えられる情報を画面で伝える努力をまったくしていない。さすがに里見瑤子の演技には説得力があるし、俳優としては素人の縄文人も過去最高の演技を披露しているが、しょせんそれはサイレント映画の演技(=身振り)ではない。唯一、里見瑤子の同僚として中盤に登場する佐倉萌のみが、これが「サイレント映画」であることを意識した演技をしていたように思う。 ● 撮影が、ちょうど「去年の桜」が満開の時期であり、花吹雪 舞う満開の夜桜の下で胸をはだけた佐倉萌(=サクラ萌え)の立ち姿は、スタンダードサイズの画面とあいまって幻想的な美しさだった。撮影は前井一作(=佐久間栄一) 果敢な試みへの評価を含めて ★ ★ ★ つけておく。螢雪二朗が特別出演。そのうち、お金が出来たらぜひ音楽&効果音とアエギ声入りの「サウンド版」にしてほしい。だいぶ印象が変わると思うぞ。てゆーか、サウンド版にして、あと8分ほど(普通の生活に戻った荒木太郎と佐倉萌の濡れ場かなんかを)撮り足して60分にすれば大蔵系で公開できるんじゃないか?

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疼く義母と娘 猫舌くらべ(山内大輔)

昨年、エクセス「夢野まりあ 超・淫乱女の私性活」でピンク映画デビューした鬼畜系Vシネマ監督=山内大輔の第2作(脚本も) おれは前作のレビュウで「(血みどろがやりたいんなら)国映に行きなさい」と書いたんだが、まだ若いだけに思考が柔軟な山内大輔は、ピンク映画の枠内では従来の世界観が構築できないと見るや、戦略を大きく転換して、血みどろ&バイオレンス一切なしでインモラルな世界を描き出した。濡れ場の回数・質とも充実しておりピンク映画としての完成度はたいへんに高い。今後、要注目の若手監督の登場である。 ● 早くに母を亡くして、年老いた父と2人暮しのヒロイン。ある日、父が再婚し、いかにも財産目当ての若い義母と、その連れ子の虚無的な青年がやって来る。ヒロインには、現在 失業中なのに遊び暮らしているカレシがおり、そんな彼女に「弟」は熱い視線を注ぐ…。 ● ヒロインには新人・立花りょう。 年老いた父に、名優・野上正義。 義母に、カムバックしたベテラン・林田ちなみ。 その連れ子に(現在 ピンク映画の少年/青年役を一手に引き受けている)しらとまさひさ(=白土勝功) ヒロインのカレシに岡田智宏。 ヒロインの親友にゆき(アテレコは佐倉萌) ● 一種の「テオレマ」ものであり、ドラマの進行とともにアッと驚く多重どんぶりな人間関係が明らかになる。最終的には、じつは生さぬ仲である義母の息子の、そのようにしか生きられぬ哀しい生き方が焙りだされる趣向なのだが、そこで観客を感動させるには(演じる「悪女顔」の林田ちなみは健闘しているものの)義母のキャラクターの描き込みがいまひとつ物足りない。 「無垢な善人」として観客の前に登場するヒロインを演じる新人・立花りょう までが悪女顔なのは失敗だった(本来なら里見瑤子あたりの役なんだが) あと、撮影スケジュールの関係なんだろうが、ヒロインと親友(ゆき)は電話による会話ではなく、ちゃんと顔を合わせるべき。撮影はおそらく一軒の家(スタジオ)で行っているのだろうが、ロケセットの使いまわしが巧みで感心した。なんと助監督を、いまや大蔵のエース監督となった加藤義一が努めている。[エクセス]


狂乱のエロ妻たち(坂本太)[キネコ作品]

ビデオ撮りの4篇オムニバス。あのぅ…いきなりクレジットが1:1.85ビスタのフレームからハミ出してるんですけどぉ…。映画ではないので5分で退出。 ● じつは当週のエクセス新作は製作会社「フィルムハウス」の2本立て。ひょっとして(最近、1本あたりの製作予算が大幅に削られたと聞くエクセスにおいて)山内大輔作品を「従来の予算」で製作するために苦渋の選択として本作の予算を通常の半分に抑えた…という可能性もあるので、坂本太を非難するのは保留しておく。両作品の撮影を担当した創優和は、本作では薄汚いキネコ画面を恥じてか「楊由和」(=よう言うわ)という変名でクレジットされている。[エクセス]

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変態未亡人 喪服を乱して(山崎邦紀)

脚本:山崎邦紀 撮影:小山田勝治

山崎邦紀の映画はいつだって三題噺だ。物語に入る前にまず突拍子もないキャラ設定の女優3人が並列して紹介され、観客が「いったいこれらの人物がどうやって結びつくのか!?」と呆気にとられているのを尻目に、山崎邦紀は即物的でイヤらしい濡れ場で目を眩ませながら、奇妙奇天烈な詭弁を弄して涼しい顔で木に竹を繋ぎ、観客が理解しようがしまいがお構いなしにサッサと撤収してしまうのだ。 ● たとえば本作の場合は、いきなりカフカの「変身」の冒頭部を白衣の佐々木基子が朗読する。続いて巫女姿の里見瑤子が股間にひめたる神秘の女陰(ほと)パワーで世直しせんと、清浄なる神社を出でて穢れた下界へと降り立つ。そして喪服姿のヤリマン未亡人の川瀬有希子が、郵便ポストのように孤独に佇んでいるホームレスの なかみつせいじ を拾ってSMセックスに興じる。 (もしもーし、付いてきてますかあ?>皆さん) それでいてまったくメチャクチャな映画かというと、ヒロインが夫を亡くした時の想い出を語る場面の詩情など、不意に、まさしく映画的としか言いようのない瞬間が訪れたりする。ほんとうに不思議な映画作家である。 ● ヤリマン喪服未亡人に惚れている義弟に、柳東史。(株)旦々舎という闇金業者の取立て屋に、平川直大。[オーピー/大蔵映画]

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教育実習生 透けたブラウス(加藤義一)

教職課程のハリキリ女子大生が手違いで男子校の教育実習にまわされて…。デビュー2年目にして大蔵映画の若きエースとなった加藤義一の新作は、テレビでおなじみの「型破り教師と落ちこぼれ学級」の物語。「チアーズ!」のような爽やかスポ根ものを目指しているようだが、脚本を書いた田吾作(岡輝男)を含めてフケた生徒がたった5人ではキビしい。この話を1時間では、ただでさえ時間が足りないのに、本筋に入る前に なかみつせいじ×酒井あずさ の意味のない濡れ場などで時間を消費するものだから、構成不良の なんともショボくて笑えぬコメディになってしまった。 ● 主演は前作「痴漢電車 快感!桃尻タッチ」に続いて、こうしたアタマの弱い宇能鴻一郎ヒロインにピッタリの佐倉麻美。 意地悪なハイミス(死語)教師に、しのざきさとみ。 生徒のなかで唯一「高校生」に見える生徒側主役に、白土勝功(しらと・まさひさ)。「引き籠もりのユージ君」と紹介されるんだけど、学校に出て来てる時点で「引き籠もり」とは言わないのでは?>田吾。[オーピー/大蔵映画]

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不倫妻 愛されたい想い(吉行由実)

日本の三大メルヘン映画監督といえば大林宣彦・小中和哉・渡邊元嗣なわけだが、彼らがジュブナイルSFを原点としているのに対して、少女漫画的なメルヘン趣味を持ち味とするのが吉行由実である。この女優兼業監督の「せつなく求めてII 人妻編」(2000)以来となるピンク映画の新作は、その乙女チックなテイスト全開の、「不思議の國のアリス」を元ネタにした「人妻 性の冒険」篇。 ● ヒロインの小早川美緒は23歳で処女で結婚したお嬢さま。結婚前の性が有末美緒(ありすえ・みお)なので学生時代の友だちは彼女を「アリス」と呼ぶ(…って、ええかげんにせえよ!) 結婚6年目を迎えて、夫はアンティーク家具の買付けでいっつもヨーロッパ出張。そんなとき美緒は、大学時代の同級生だったプレイボーイのナオヤに再会する…(脚本:五代暁子) ● 「しあわせ(=愛)を求めてさまよう寂しがり屋のお姫さま」というのは明らかに吉行由実 自身の心象風景であって、ほんとうは自分で演じたいところだろうが、吉行由実がそんな役をやろうものなら「悪い魔女」がカマトトぶってるようにしか見えないので、ヒロインには美形AV女優/ストリッパーの つかもと友希を連れて来て演じさせ、乙女チックなナレーションも含めて声をすべて林由美香にアテレコさせている。吉行由実の映画においては、最新作「帰ってきた刑事まつり」の一篇に至るまで監督自身のアルター・エゴにほかならない林由美香にヒロインの声を委ねたことが、このキャラクター(の内面)が吉行由実であるという何よりの証左だろう。ちなみに吉行由実は(キャスト費節約のため)濡れ場要員として出演もしている。 ● 出来のほうは、乙女チックなイメージ・ショットを多用したりと、ここまで少女漫画チックにされてしまうと、おれとしてはちょっとなあ。女性のほうが受けるんじゃないか。「発狂する唇」の佐々木浩久 監督が友情出演している。[オーピー/大蔵映画]

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SEX配達人 おんな届けます(堀禎一)

故・小林悟や北沢幸雄の助監督として経験を積んできた堀禎一の監督昇進第一作。サトウトシキの「団地妻 隣りのあえぎ」と「ロスト・ヴァージン やみつき援助交際」に付いた縁で、国映からのデビューとなった。脚本の奥津正人もおそらく新人。撮影の橋本彩子(なんと三遊亭圓窓の姪御さん)もカメラマンとして独り立ち第一作・・・というフレッシュな布陣。 ● 内容に触れる前にまず指摘しておきたいのは、国映の現場に悪影響を受けてしまったか知らんが、それがポルノ映画であろうと一般映画であろうと、女優の顔もはっきりと判らないような撮影はプロとして失格であるということ。百歩ゆずって屋外はノーライトで行くとしても、室内や車内は的確な照明を当てるべき。俳優の顔をちゃんと写しつつ、観客には「薄暗い室内」と認識されるように撮るのが「腕」ってもんでしょ。描きたいドラマはドラマとして、どうして濡れ場をきちんと撮ることをためらうのか? 観客のニーズに応えられないのならば、彼はプロではない。それはピンク映画だろうがVシネだろうが東宝系の全国公開作品だろうが同じこと。此処でそれが出来ないのならば、どこへ行こうと出来やしないぞ。 ● さて、内容だが「煮詰まった同棲カップル」の話である。ヒロインは二十代後半のほか弁屋バイト。同棲して長いカレシは三十直前のデリヘルの送迎運転手で、2人はいまだに六畳+四畳半のアパート住まい。いつまで経っても「結婚」の二文字を口にしないカレに、ヒロインは苛立っていて、でもカレシはそんなカノジョの心も知らず、新入りのデリヘル嬢に鼻の下を伸ばしてる。そんな時、ほか弁屋に毎日きまって午後3時にイカフライ弁当を買いに来る青年がカノジョにプロポーズする…。よくある話である。どこにも「新しさ」が無く「瑞々しい気負い」も感じられず、もちろん巧くも無く、前述のようにイヤらしくも無く「破綻」さえ無い。ただの凡作。…撮る意味ないじゃん。 ● でまた、このカレシってのがスゲー厭な野郎なんだよ。なにしろ従業員が女のコに手を出すのは御法度なのに、新入りデリヘル嬢にあっさりフラれると、金を出して彼女を買っちゃうし。しかもその金を同棲相手のヒロインに借りようとするし。そんなこんなで彼女が喧嘩して出てっちゃって、発したひと言が「食事とかどーすんだよ」 …な? サイテーな野郎だろ。だから雨降って地固まっても、ヒロインが幸せになれる気がしないのだ。てゆーか、あんたら結婚したって状況は何ひとつ変わらんと思うぞ。 ● イカフライ弁当を買いに来る青年が「土方」のバイトをしてるってのがPGのサイトの「あらすじ紹介」を読むまで判らなかった。いちおう汚いジャンパーを着せたりしてるんだが、長髪のせいもあって、近くのデザイン事務所かなんかに勤めてるよーにしか見えない。これなんか、青年が働いてる道路/ビルの脇をヒロインが通りかかって「あら?」というシーンを1つ入れるだけで解決するんだが。あと土方の昼飯は正午と決まってると思うけど。 ● そんな本作の唯一最大の功績は「新入りデリヘル嬢」役で「ロスト・ヴァージン やみつき援助交際」の佐々木日記を2作目にひっぱり出したことにある。なんとなくピンクは あれ1本で終わりかと思ってたけど、2本出るってことは続ける気があるってことだ。てことはユメカ姉ちゃんとの姉妹競演の可能性もあるってことだもんな。いや朗報、朗報。 ● ヒロインには、ゆき。近ごろ場数をこなしてるだけあって下手ではないが、脚本の不足を補うほどの演技は無理。 サイテーなカレシに文学座出身の恩田括(おんだ・まとむ) イカフライ青年に劇団「アンドエンドレス」の加藤靖久。 他に涼樹れん・星野瑠海・マメ山田・伊藤猛・風間今日子(脱ぎなし)の出演。[国映=新東宝]

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白襦袢レズ 熟女ねぶり(新田栄)

演出・新田栄+脚本・岡輝男の「田吾作コンビ」のいつものやっつけ仕事。予告篇がキネコだったので、てっきり本篇もキネコだと思ったら、クレジットが重なる冒頭以外はフィルム撮りだったのが、せめてもの救い。話は、それぞれに人妻となった2人のレズ友情もので、ヒロインは例によって例のごとくの和服@女中着付けのブス新人なので、相手役が林由美香じゃなかったら観られたもんじゃない。てゆーか、どれだけ脚本が凡庸で演出が平坦でも、林由美香が出てるあいだは安心して観ていられるのだ。ほんと偉大だ>由美香さん。 ● 由美香さんの亭主の「売れない小説家」に竹本泰志。ヒロインの亭主の「金満社長」に岡田謙一郎。その「欲張りな愛人」に、ゆき。お前はほんとに金のかかる女だ、わかったよ降参だ、前から欲しいといってたバッグ買ってやるから。バッグだけじゃ厭よ、バッグに似合う服も…とかなんとか言いながら向かった先はSATYなのだった。SATYかい! ● ではここで岡輝男先生の…じゃなかった岡輝男先生向けの脚本講座ぁ!(パフパフー!) えー、本作にはヒロインと由美香さんのレズ・シーンが冒頭・中盤・ラストと計3回、出てきます。これは台詞にもあるように「境遇が変わっても、あたしたちの関係は何も変わらない」ことを示すためのシーンで、ここまではOK。問題はそのあいだに起こるドラマのほうで、金満社長の会社が倒産して愛人にポイッと捨てられたり、小説が新人賞を受賞してベストセラー作家になったり…と「境遇が変わる」のは常に亭主たちのほうであって、ヒロインたちの「関係」にはまったく変化が生じないのだ。ダメじゃん。台詞で「何も変わらない」と言わせるのは、実際には2人の「気持ちが変わってしまってる」あるいは「以前と同じでは居られない」からであって、変わってないものを「変わらない」と言わせても意味ないでしょーが。最後にありがたーい金言をひとつ賜っちゃるけど、ドラマとはつまり「関係の変化」のことなのだよ。岡輝男クンはわかりましたか? [エクセス]

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味見したい人妻たち(城定秀夫)

製作:北沢幸雄 脚本:城定秀夫 撮影:長谷川卓也 照明:奥村誠 音楽:タルイタカヨシ

ピンク映画館というのは休憩が1本おきぐらいにしか入らない。だから田吾作コンビのいつものやっつけ仕事のあとに続けて本作が始まる。それまで椅子の座面に背中の辺りまでズリ落ちて観ていたのだが、本作のファーストカットに思わず居住まいを正した。お、こいつはちゃんとした映画だ。 ● 傑作には2種類ある。ファーストカットから観客を大いなる予感にわななかせ、そのままラストに向かっていよいよその確信を確固たるものにさせてゆくタイプと、すっと何気なく始まっていつの間にか観客を映画に引き込みエンドロールで茫然自失とさせるタイプだ。例えば三村晴彦のデビュー作「天城越え」と同じく、本作は前者だ。北沢幸雄や国沢実の助監督だった城定秀夫の(自作脚本による)監督昇進第1作は、新人ならではの、ワンカットたりともゆるがせにはしない、ダレ場を作らぬ、1コマとて観客に目を逸らさせてなるものかトイレに行くなら新田栄の映画で行ってくれという気迫の籠もった傑作である。 ● 結婚1年目の、愛する夫と満ち足りた結婚生活を送っている元・女教師が、たまたま再会したかつての教え子を家に引き込んで愛欲に溺れる・・・というストーリーは過去何十本と同工異曲の作品が作られてきた定番中の定番で、とりたててなんの新味もない。だが城定秀夫は、それをルーティンワークにせず、それがまるで初めて物語られるストーリーであるかのように物語にゼロから向き合い、独創的な場面とリアリティある台詞を書き、入念なロケハンを行い、経験の浅い女優たちへの所作指導ひとつおろそかにしない丁寧な演出を施した。撮影期間の限られたピンク映画においてこれだけ「犬」を効果的に使った作品も稀だろう。そして「美女濡れ酒場」「貪る年増たち サセ頃・シ盛り・ゴザ掻き」「小島三奈 声を漏らして感じて」と1作ごとに観客を魅了してきた長谷川卓也の卓越したカメラがここでも素晴らしい成果を見せる。音楽のつけ方もひとつひとつがきちんと場面の内容にリンクした丁寧なもの。流れる空気はピンク映画というより、かつてのロマンポルノの傑作群に連ねたくなる。 ● 元・女教師のヒロインに、角松かのり田中麗奈を足してちょっとエラを張った感じの、新人・KaoRi。下手すっと高校生より童顔なのに、だんだんと性に紅潮してぬらっと輝いてくるさまが素晴らしい(ま、半分以上は演出とカメラのおかげだけど) その年の離れた夫に田嶋謙一。 女教師に憧れていた高校生に白土勝功。 ヒロインの家から覗ける隣家の、訛り丸出しの三つ編みお下げの田舎娘に、当サイト・イチオシのカワイコちゃん(死語)橘瑠璃。 ワンシーンのみの濡れ場要因に、佐倉麻美。 ● 最後になるが特筆しておきたいのはこれが、ピンク映画3社のなかで「エロ」への要請が最も厳しいエクセスの基準に照らしても濡れ場の量・質ともに飛びぬけてエロティックな作品であるということだ。映画によるポルノグラフィのスタンダード足るべき一品である。「作家主義」を勘違いしてる国映の若手監督ども必見。[エクセス]

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豊満美女 したくて堪らない!(坂本礼)

国映軍団の最若手・坂本礼の「セックス・フレンド 濡れざかり」(1999)「18才 下着の中のうずき」(2001)に続く2年ぶりとなる第3作。脚本クレジット名「らもんなか」こと今岡信治を脚本に得て、今作もやはりバリバリの青春映画である。もうすぐ三十になろうってのにバイク便のバイトとかでフラフラしてるボンクラ3人組が、ホームページで高校時代の同級生が千葉の館山のファッション・ヘルスで働いてるのを見つけて「こりゃイッパツやらせてもらうしかないだろ!?」ってことで、その場のイキオイでバババババッと房総半島まで出張ってゆくが…。 ● 寂れた田舎町を余所者が訪れたことにより退屈な日常に波紋が生じて…という類の話。会うには会えたものの彼女はヘルス嬢ではなくて、しかも地元の勇魚(いさな)会という勇魚とり(=鯨とり)の船長と結婚しちゃってて「お前ら彼女に鯨とって来れんのか」と挑発されて、イキガカリ上「おお、鯨ぐらいいつでもとって来てやらあ!」と答えてしまい…。ボンクラたちはジャンボ鶴田の大ファンで、衝動的に山梨県にある「人生はチャレンジだ!!」と刻んであるジャンボ鶴田のお墓に参ったり、町とか砂浜とかを意味もなくがーっと走ったり。青春やね。  ● だがここで坂本クンに残念なお知らせだ。今岡信治の脚本(ほん)は──演出も演技も──そんな肩に力入れて、想い入れ込めて撮るような脚本じゃないのだ。もっとシラけてないと。幾つになっても、何に対しても熱くなれない/熱くなるものを見つけられないってことが問題なのであって、本作の「熱くなれないぜチキショー!」ってじゅうぶん熱いっての。資質が合ってないんじゃないか。あと、映画としてはヒロインの心理がまったく描けてないのが致命的。 ● 映画として出来がよくないこと以上にマズいのがピンク映画としての不誠実だ。本作には濡れ場が計4回ある。 冒頭にプロレス3Pが置かれ、中盤にはファッション・ヘルス嬢の濡れ場が2回あって、最後にようやくヒロインの濡れ場となる。冒頭の濡れ場を演じるのは、昨年末のエクセス「和服妻凌辱 奥の淫」では東スポ1面にまでなった元祖・電波子ことAZUSA(滝島あずさ) その時よりはよほど好感の持てる演技をしてるのだが、これは本筋とはまったく関係のない濡れ場かせぎのための濡れ場であって、いや、それ自体はピンク映画ではよくあることだが、そんなところに(ギャラだって比較的 高めだろう)滝島あずさを消費してしまうのは、それこそジャンボ鶴田を第1試合に組むみたいなもんじゃないか。勿体ない。 日本語の不自由なヘルス嬢を演じるのは(おそらくブラジル人の)Rika。ここは相手役を務めるのが川瀬陽太なせいもあってメインのストーリーよりもよく出来ている。 問題なのはヒロインの扱いで、これは一昨年の「痴漢ストーカー 狙われた美人モデル」で悪役を演じていた巨乳AV女優の西野美緒が演じているのだが、まず最初に「ボンクラどもの憧れの的」として画面に登場して、次に「じつはすでに人妻で、しかも亭主は飲んだくれの佐野和宏」と判ってボンクラどもガックシ…となったところで、とりあえずヒロインと佐野和宏のカラミをイッパツ入れるだろフツーは。でもって、さんざジラしておいて、肝心の濡れ場は砂浜でのセックスをずっと引きのフィックスで撮ってるだけ。唯一の濡れ場なのにヒロインの表情もせっかくの巨乳もまったく写さないのだ。なに考えてんだよ。とりあえずカラミは寄っとけ>坂本礼。「味見したい人妻たち」を観てよおく勉強するよーに。 ● あと、おれは新日ファンだったので(全日の)ジャンボ鶴田のことはまったく知らないのだが、しかし(今岡本人はともかく)本作の主人公たちって「29歳」という年齢でジャンボ鶴田の全盛期を知ってるものか?[国映=新東宝]

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熱い肉体、濡れた一夜(池島ゆたか)

勝負は最初の10分でついた。 ● 「セレンディピティ」の翻案である。それぞれに結婚を控えた男女が、かつての一晩だけの行きずりの出逢いを忘れられず、そのときの相手を捜し求める。つまり冒頭の出逢い(=セックス)に説得力がなければ成り立たない話なのである。にもかかわらず(さまざまな事情があるにせよ)全出演者中もっとも演技が下手で魅力のない新人2人が主役に割り振られるという無茶なキャスティングのため、全篇中でいちばん大切な「最初の濡れ場」がいちばん気持ちの伴わないものになってしまった。まあ、役者がダイコンでもその前段たる「偶然の出逢い」が印象的に描かれていれば、あるていどカバーできるものなのだが、脚本の五代暁子にも演出の池島ゆたか にも今回そのような「運」は無かったようだ。 ● ヒロインの柏木舞と主人公の兵頭未来洋はふた昔前の大蔵や東活のピンク映画に出ていた感じの顔。端的にいえば垢抜けないタイプ。 主人公の婚約者に、このあと同じ池島組のスラップスティック・コメディ「ノーパン秘書 悶絶社長室」でヒロインを演じた、文学座養成所出身の巨乳新人 まいまちこ。どちらかといえば本作のようなドラマのほうが柄に合ってるようだ。 ヒロインの親友に新人・北条湖都。 その不倫相手に本多菊次朗。こいつは偶然にも「主人公の上司」という設定なのだが、これも「設定」だけでドラマにはまったく活かされない。 冒頭で主人公を振る同僚OLに(脱ぎなし出演の)河村栞。てゆーか、なぜ河村栞を主役にしないのだ! これが河村栞と川瀬陽太のコンビなら、とりあえず「商品」として成立したものを…>池島ゆたか。[オーピー/大蔵映画]

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小島三奈 声を漏らして感じて(国沢実)

脚本:樫原辰郎 撮影:長谷川卓也 照明:ガッツ

当週のオークラは国沢実と荒木太郎という気鋭の新作2本立てという旧正月特別番組(そうなのか!?) ● 高校を出てプラプラしてるプー子ちゃんがレズのお姉さんの毒牙にかかって甘い蜜をチューチュー吸われちゃう話。カノジョを盗られたカレシが怒って乗り込んでいくけど、やっぱり白い蜜をチューチュー(以下略) ● 「プライベート・レッスン 家庭教師の胸元」路線の元気が出るレズものかと思いきや、後半の展開が…! フランス映画の翻案と言っても通りそうな洒落た・・・ああ、だめだ! 何を書いてもネタバレになってしまうので、これ以上は書けん。撮影+照明は「美女濡れ酒場」「貪る年増たち サセ頃・シ盛り・ゴザ掻き」の実力派コンビ。「恋人同士が滑り台のまわりを楽しそうに笑いながらじゃれ合う」なんて日本映画が最も苦手とする描写をきちんと画にしているのには感心した。 ● ヒロインは藤田朋子をさらに童顔にしたような妹系(てゆーかコドモ系?)の小島三奈。張りのあるおっぱいが(本物なら)すばらしい。 頼りないカレシに山名和俊。 そして偶然ヒロインの窮地を救ってくれる親切なきれいなおねいさんに当サイト・イチオシのカワイコちゃん(死語)橘瑠璃。まだピンク映画デビュー3本目ながら毒を秘めた華の魅力でみごとに映画を背負っている。[オーピー/大蔵映画]

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隣のお姉さん 小股の斬れ味(荒木太郎)

くたびれたワゴン車にテント一式 積んで白黒ショーを巡回興行してるシンジ君(荒木太郎 自演)が、行く先々で白黒ショーの相手役となる女性を拾っては、つかのま仲良くなって、でもいつもすぐフラれて、それでも懲りずに愛を求めて関東近県を西から東・・・というのが荒木組名物、さすらいの「キャラバン野郎」シリーズの定型であって、ピンク映画だからとうぜん毎回のマドンナが話の中心となる。ピンク映画版「男はつらいよ」と言われる所以である。もっとも、そうした括りから想像されるであろう「軽い艶笑コメディ」とはいささか趣が異なり、まあ、広義の「ダメ男コメディ」には違いないんだけれども、基底をなすのは「人生いかに生くべきか」という哲学的なテーマだったりする(いや「男はつらいよ」だって──特に初期作品では──そういう話だったんだけど) そうしたテーマ的な部分を担当するのが、全作品を通じて林由美香が演じている「ハナエ」というシリーズ・ヒロインで、そもそもシンジ君が愛の放浪に出たきっかけはハナエに捨てられたからなのだった。やがてシンジ同様に根無し草となったハナエは(たいがいは他の男のレコとして)主人公の前に現れては「ほら、シンジ君、しっかりしなさい」と叱咤激励してくれる守護天使の役割を担うことになる。喩えていえば「男はつらいよ」に毎回、ヒロインとは別に浅丘ルリ子の「リリー」が出てくるようなものだ。 ● 昨年5月の「痴漢電車 秘芯まさぐる」以来となるシリーズ最新作は、回を重ねてはや9本目。今回は趣向を変えて、ハナエの故郷に設定された静岡は清水港(しみずみなと)にオールロケして、彼女の故郷からの旅立ちを描く「エピソード1」である。終盤にシンジ君も(脇役として)登場。すなわちそれが2人の馴れ初めでもあるわけだが物語の比重はそこには置かれない。メインとなるのはあくまでハナエの物語。その頃のハナエは東京で契約愛人などをして稼いだ金で地元で小さなスナックを開き、飲んだくれのろくでなし親父(名優・野上正義)と、床屋の見習いをしてる妹・蝶子(新人・松川芽生)の面倒を見ている。そこへ東京で大企業に就職した高校時代の「初恋の人」テルヒコが訪ねて来て、ハナエに愛を告白する。だがハナエは、こんな汚れてしまった自分より、テルヒコには昔から彼のことを一途に想いつづけてる妹・蝶子のほうが相応しいと考え、たまたま清水港で空腹で行き倒れてた青年を自分のフィアンセと偽り、かけがえのない想い出を「あのときのことは、あれはただ処女を捨てたかっただけでアンタのことなんか何とも思ってないワ」と宣言する…。 ● このような設定にした理由は明白で、それはもちろん(先に説明した話の構造上、いつもはワキにまわる)林由美香を主演にしたいからだ。荒木太郎は──全篇が彼女への破天荒なラブレターだった「由美香」の平野勝之や、最新作「帰ってきた刑事まつり」の一篇にいたるまで一貫して林由美香にヒロインを託している吉行由実や、おれと同様に──彼女をとても愛していて、このシリーズを林由美香が引退するまで続けると明言している。最近では、いつまでも変わらぬ若さの林由美香よりも、荒木太郎自身のほうに老けが目立って「青年」役にはキツくなってしまったほどだ。 ● 1970年生まれというプロフィールが正しいとしてもすでに33歳。いや、まだ33歳というべきか。ピンク映画デビューは1989年だが、それ以前にもAVやビニ本(裏本?)のモデルをやってたはずだから、入れ替わりの激しいハダカ業界では(いくら童顔とはいえ)驚異的な生存力である。しかも林由美香はまだこれからブレイクする人なのだから(えー絶対ブレイクしますとも。しなくてどーする) この人が圧倒的に素晴らしいのはゴールディ・ホーン/メグ・ライアン系の、肩をすくめたりとか、人差し指を立てて「よし!」と声に出して言うとか、驚いて「げっ」と声に出して言うなどのベタ(大袈裟)なコメディ演技が自然にこなせることで、たとえば本作での「借金取りを相手にガルルルルと唸る」なんて芸当──ほんとに「ガルルルル」と声に出して言うのだ──が出来るのは、現在のピンク映画界では林由美香をおいて他にないだろう。のみならず「せつない」系や「ファム・ファタル」系の芝居をやらせても、大抵の女優よりは巧みにこなしてしまう。本作での「悪女のふりをして男に手切金を要求したあとで、タバコに火をつけてふっと煙を吐きだす夜の屋上」なんてシーンはじつに絶品である。突飛な喩えだが、もはや彼女を「ピンク女優」というカテゴリーでくくること自体に無理があるのではないか。むしろ林由美香は久保新二や野上正義やと比ぶるべき存在なのである。<褒めてるのか、それは? ● というわけで、必ずしも映画として傑作とは言いかねるが、林由美香ファンと「キャラバン野郎」シリーズを観てきている人ならば落胆することはないだろう。脚本:内藤忠司、撮影:小山田勝治。どーでもいいけど、タイトルの「小股の斬れ味」って日本語として間違ってる気が…。[オーピー/大蔵映画]


中村あみ お願い汚して(渡邊元嗣)

渡邊元嗣が絶不調である。いったいどうしちゃったのか!?というぐらい酷い。何も知らずに観たら小川欽也の映画かと思ってしまうそうなほど酷い…と言えばどれほど酷いかご想像いただけようか。学芸会レベルの自主映画。 ● 「水曜日の男」が愛想を尽かして去っていった。かまうもんか。こんなときのために常に複数の男をキープしてるのだから。そんなヒロインのアパートに、嫁に行った姉が久しぶりに訪ねてくる。じつは彼女は、仲の良かった姉のいない淋しさを埋めるためにたくさんの男と付き合っていたのだった。あくる朝、急に姿の見えなくなった姉を探すうち、偶然に高校時代の初恋の人と再会する…。 ● 以下、ネタバレで書いてしまうが、じつはこれ「シックス・センス」の姉妹版なのである。それまで普通にヒロインと会話していた姉がじつは、結婚式の前日(それはヒロインの高校の卒業式の直前でもある)に[事故死]していて、すさんだ生活を送るヒロインを愛する人と引き合わせるために戻って来た、という設定なのだ。…あれ?「普通に会話してる」? そうアクロバティックな大ワザを駆使していた元ネタ作品と違って、本作のヒロインは姉と普通に会話をしてるのだ。ダメじゃん。姉がらみの話と、ヒロインと(例によって世の中で渡邊元嗣の映画の中にしか存在しない)「星を見るのが好きなカレシ」との恋愛話がバラバラなので、焦点がぼやけてしまってるし、主役ならまだしも「脇」でそういう設定にしてしまったので、姉の濡れ場がムチャクチャ無理のあるものになってしまった。山崎浩治はもう少し真面目に脚本を勉強するよーに。てゆーか、そもそもお盆映画として作るべき話だろ、これ。 ● 演出・脚本に輪をかけて酷いのが主演の中村あみで、芝居も もちろん酷いんだけど、わざわざ名前をタイトルに冠されてるってことは、そこそこ有名なAV嬢なんでしょ? ほぼブスの側なんだけど…。たぶん間違いなく相沢知美が声をアテてるのだが、この役は相沢知美のキャラではないし、また、キャラにない役の「声優」が出来るほど達者な役者でもない。 戻ってきた「姉」に里見瑤子。 その婚約者に、なんと「バカ兄弟」シリーズの「バカ弟」こと江端英久@無駄づかい。 「再会したカレシ」にピンク映画には珍しくハンサム系の白土勝功。 その「今のカノジョ」に風間今日子。 ちなみに本作にはなぜか渡邊組常連の十日市秀悦も ささきまこと も出てこない。…ひょっとして本当に小川欽也が撮ったんじゃないの?[オーピー/大蔵映画]

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ノーパン秘書 悶絶社長室(池島ゆたか)

秘書と浮気してるスケベ社長が妻から「重大な話がある」と手紙を渡され、すわ浮気がバレたか!?と封を切る勇気もなくおろおろしてるところへ「娘」を名乗るコギャルが乗り込んできて、隠し子がいるなんて女房に知れたらそれこそ血の雨だ。ただでさえややこしい状況なのに、秘書に惚れてる若手社員やら掃除夫のおっさんも加わりてんやわんやの大騒動…。 ● 今回いつもの座付き作者・五代暁子ではなく、元・池島組の助監督だという新人・森角威之の脚本。現在は小劇団を主宰してるというだけあって、基本的に社長室のワン・ロケーションの出し入れから成る狂騒的コメディ(を意図して書かれた脚本)である。出来としてはまだまだ習作レベルで、登場人物のあいだを行き来すべきアイテムである「手紙」は途中でうやむやに消えてしまうし、他人の秘密を覗き見できる立場にある掃除夫のおっさんの使い方もあまり効果的とはいえない。ラストに用意されている「秘密」も設定が観客に示された時点で自明だし、「じつは掃除夫のおっさんは社長秘書の父親だった!」ぐらいの(混乱に拍車をかける)仕掛けはあってしかるべきだろう。演出の池島ゆたか は精一杯テンポアップしてスラップスティックな演出を心がけてはいるが、本来ならば客が付いていけないほどの目まぐるしい展開であるべきところを、池島ならではの「濡れ場をじっくり魅せたい」というサービス精神が足を引っ張ってしまった。編集ももっさりし過ぎ。 ● なによりこの手のコメディは役者が達者じゃないと成立しない。チョビ髭を付けてスケベ社長を演じる本多菊次朗はサトウトシキ作品や上野俊哉の「バカ兄弟」シリーズではむちゃくちゃ可笑しいのに、本作では(演出家の要求がそうだったのか)俳優・池島ゆたかのエピゴーネンを目指して完全に空振り。 社長秘書を演じる(文学座研究生出身だという)新人・まいまちこ は垂れ巨乳ながら愛嬌があっていいんだけど、ちょっと庶民的すぎて「社長秘書」って感じじゃないなあ。下町の総菜屋の看板娘とか似合いそうだもの。 ここはどー考えてもなかみつせいじ と林由美香の出番でしょう。 ● コギャル役の、やはり新人・柏木舞は(演技の巧拙は別として)柄には合っていた。 いちばん素晴らしかったのは社長夫人役の酒井あずさ。イヤらしくてゴージャスで、コメディエンヌとしての勘もなかなかのもの。[新東宝]

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わいせつ温泉宿 濡れる若女将(深町章)

東京における新東宝の封切館である新宿国際名画座では基本的に[新作2本+旧作]→[旧作改題2本+旧作]→[旧作3本]というローテーションでまわしていたのだが、本作から どうやら[新作+旧作改題+旧作]→[新作+旧作改題+旧作]→[旧作3本]という組合せに方針を変更したようだ。ま、たしかに新作だけを追いかけているおれのような客は、十日変わりで[新作1本+新東宝の2番+旧作]で上映してる上野オークラとくらべて、新宿国際名画座は月に一度しか行かないわけだから新作をバラかしたほうが映画館としちゃあ効率が良い…と言えるかもしれん。しかーし! あんたら新宿国際名画座のエアコンの音で台詞もロクに聞こえない劣悪な映写環境を計算に入れてないだろ? こちとら「ひでえ映画館でも、まあ新作2本ならどっちかは当たりがあるだろ」と思って1,800円 払う気になるのだ。これが新作1本きりで1,800円じゃ、よほどのことがないかぎり(客層はともかく映写環境はマトモな)上野オークラの併映に落ちてくるのを待つだろフツー(上野オークラは200円 安い1,600円だし) 新東宝はピンク映画の新作1本で1,800円取りたけりゃ、いますぐ新宿国際名画座のスピーカー入れ替えてマトモな音量で上映させろ。 ● というわけで、おれの中じゃクリーンアップが凡退した後に渋いヒットを打つ6番打者みたいな存在の、深町章の新作。つまり2本立ての2本目としては絶大な信用を置いている監督なのだが、ピンで勝負となると、…うーん、よほど上野にまわってくるのを待とうかと思ったんだが、脚本が榎本敏郎と組んで「痴漢電車 さわってビックリ!」「人妻出会い系サイト 夫の知らない妻の性癖」と傑作・佳作を連打してきた新進・河本晃ということで1,800円を賭けてみる気になったのだが、これは大当たりだった。 ● 主人公は詐欺師。とはいえ、寸借詐欺や無銭宿泊がせいぜいの小悪党。ふと立ち寄った田舎町で、主人が脳卒中で倒れて半身不随、いまは妾腹の娘が若女将をつとめる温泉旅館の噂を聞きつけて、無銭宿泊…あわよくば財産の分け前にありつこうと「行方知れずだった長男」を名乗って乗り込んでいく。人の良さそうな若女将を簡単に丸めこみ、こいつぁ幸先上々と思ったのも束の間、翌日、やはり行方知れずだった長女、つまり自分の「姉」が旅館を訪れる…。 ● 前2作でもウェルメイドへの志向が明らかだった河本晃だが、ベテラン監督との初コンビに用意したのは良く出来た世話物の芝居のような脚本だった。おそらく上述のストーリーを読まれれば、わかる人には最後まで展開がすべて予測できてしまうだろう。実際ストーリーはそのとおりに進行する。だが、充実した俳優陣のアンサンブルとベテラン演出家の地力を得れば、物語が定石にピタッピタッとハマっていく快感を堪能できる。ウェルメイドとはそういうものだ。 ● 深町章が使い続けてきた岡田智宏に(おれ的には)やっと初日が出た。悪人になりきれないゆえの二流の詐欺師というキャラクターがピタリとハマった。いかにもインチキくさいスーツ姿にアルミのブリーフケースを提げてスタコラサッサと逃げ出しながら、振り向いて後ろ向きに小走りになりながらソフト帽をヒョイと頭に乗っけてニヤリとするあたりの「かろみ」がこの人の身上だ。 中盤から登場の「姉」に里見瑤子。いや、美しい。いまやすっかり「大人の女優」の風格である。カラミひとつにも、そんなふうに生きて来てしまった…いや、そんなふうにしか生きられなかった女の哀しさを漂わせて絶品。 ほんとうに善人の若女将に河村栞。本来ならタイトルロールのはずだが今回はすっかり里見瑤子に喰われてしまいお気の毒。 仲居に酒井あずさ。 そして、脳卒中で寝たきりの(つまり台詞が一言もない)主人の役に大ベテラン、港雄一という贅沢なキャスティング。 撮影はもちろん清水正二。あれ?と思ったのは今回えらい(照明の)暗い場面が多いことで、いつもの艶笑喜劇とは違うってことでワザと変えてるんだろうけど、深町章のピンク映画をそこまでリアルな明かりで撮らなくとも…という気もしなくもない。[新東宝]


人妻と すけべ女医 本性丸出し(東次郎)[キネコ作品]

新年早々から残念なお知らせだ。どうやら今年からエクセスは製作費削減のため新作2本立てのうち1本をキネコにすることにしたようだ。ピンク映画3系統のうちエクセスだけは(前身の日活ロマンポルノからの名残りで)いまだに予告篇が作られているのだが、次週予告も やはり1本はキネコだった(新田栄のほう。新人監督のやつはフィルム撮り) ハダカが見たけりゃビデオで(いや、ネットでも)事足りる。おれが玉石石石石石石石石石混合のピンク映画の〈石〉のほうの作品をそれでも我慢して観ていられるのはそれがフィルムで撮られているからだ。ここでハッキリと宣言しておくが、キネコ2本立てになった時点でおれはエクセスを観るのを止める。老婆心でひとつエクセスの経営陣に教えといちゃるけど、日本の映画業界から洋ピン上映館が根絶した理由を知ってるか? アメリカのポルノがみんなビデオ撮りになって、映画館でかかるのが100%キネコになったからだ。人は映画でないものを映画館に観に来は、しないんだよ。 ● さて本作の内容だが、女医(ゆき)が不倫相手の奥さんを毒殺しようと企む話なのだが、ほら、よく、この手の話で、相手が不用意に漏らした「女房が死んでくれたら、お前と一緒になるよ」という一言が暗示となって犯行を決意したりするじゃんか。でもって紆余曲折あってイザ犯行ってときに、その声がボイスオーバーでちょっとエコーがかかってリフレインしたりするじゃん。ところが本作においては、ラブホテルで行為後に男がその台詞を吐いてシャワーに消えると、直前に発せられたばかりの台詞がいきなりヒロインの脳裏でリフレインし、次の場面で、翌日、病院の薬局にいるヒロインの思いつめた顔にまたリフレイン、錠剤を擂り潰しながらまたまたリフレイン…って客をバカにしてるだろ? 客はあんたらほどバカじゃないんだよ。すべてがこの調子で映画の態を成してない。よって星はゼロ。[エクセス]


三十路家政婦 いかせ上手(下元哲)

げっ。でぶのおばさんが主演だ。南けい子ってもともと器量の良いほうではなかったが、こんなに太ってたっけ? 「こりゃ脱いだら吐く」と思って5分で退出。ちっ、1,800円をどぶに捨てちまったぜ。 ● 脚本:石川欣。他に、佐々木基子・しのざきさとみ・今井恭子が出演…してるらしい。そうそう、腕を骨折して長期欠場中だったベテラン男優・久須美欽一の復帰には「おかえりなさい」と申し上げておく。[エクセス]

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痴漢電車 快感!桃尻タッチ(加藤義一)

脚本:岡輝男

いや、いままで田吾作 田吾作とバカにして悪かった。岡輝男 先生の脚本による、往年の滝田洋二郎の痴漢電車シリーズや、絶好調時の渡邊元嗣に比肩しうる傑作ギャグ・コメディである。元嗣ファン必見。 ● 看護婦をしているヒロイン、さくら には、いまや結婚を誓い合った恋人がおり、幸せの絶頂のハズなのだが、大きな心配ごとがあり気が晴れない。というのも、母を知らぬ、父との二人暮らしなのに、その父親の鶴二郎は痴漢の元祖「出歯亀」こと池田亀太郎の末裔で、いい年して「痴漢によって働く女性のストレスを軽減し日本をよくするのだ」と勝手なことをホザいては、娘が止めるのも聞かず満員電車へと出かけていく毎日。しかも大学院生の恋人のワタルは、よりにもよって父の宿敵である等々力刑事の一人息子なのだ。ああ、わたしたち、このまま一生 結ばれないのかしらん…と悲観してたら、ある日 突然、満員電車で啓示を受けた恋人が父に「弟子入りしたい」と言い出して…。 ● これつまり、ただ1人だけマトモな(でもちょっとトッポい)ヒロインが、奇人変人だらけの周囲に振りまわされる…という、正統的なスクリューボール・コメディなのである(もちろんピンク映画だからほんとのスクリュー場面も満載:) デビュー2年目にして正月映画を任され、いまや大蔵のエースの風格さえある加藤義一は、すっかり演出の勘どころをつかんだ感じで、そもそもあんまり「映画」を観るつもりで来てないという世界一やる気のない観客であるピンク映画館の観客から、そこここで笑いを取っていた。もちろんおれも(滅多にないことだが)上野オークラで何度も声を出して笑ってしまった。もちろん脚本が田吾…じゃなかった岡輝男 先生だから、ひじょうにベタなギャグばかりなのだが、ベタでも突き抜ければ(そしてちゃんと考えて演出すれば)オモシロイものが作れるという良い見本だ。 ● ヒロインには林由美香 似のマスクと、ちょっとバカっぽい戸川純しゃべりがキュートな佐倉麻美。「看護婦」という設定がちっとも物語に絡まないじゃん…と思ってたらちゃんと最後に! ● 優れたコメディ映画がつねにそうであるように脇には芸達者がそろった。 もうひとりの主役である「痴漢道を信奉する父・鶴二郎」にベテラン、平賀勘一。その学生運動の同志で、今は刑事で敵味方の等々力虎彦に なかみつせいじ。大きく変貌した新宿西口の繁栄を歩道橋の上からしみじみ眺めて鶴二郎が「あの頃は楽しかったなあ。毎日がお祭りやった」「なにを言っとる。祭りは終わってないぞ」 ● ヒロインの恋人に兵頭未来洋。父である虎彦に痴漢弟子入りの許可を貰いに来て「お父さん、ぼくは日本を建て直したいんです!」「バカもん! 痴漢なんかで建て直せるわけ無いだろ!」「やってみなきゃわからないじゃないですか!!」 ● そしてキー・キャラクターである「少林寺拳法をあやつる中国人痴漢、ウン・ピョウ」に丘尚輝こと岡輝男。今回なんと頭を丸坊主にして、しかも外周にぐるりとチャルメラ模様の剃り残し(=ラーメンの丼についてるやつね)という捨身の怪演。そして、ウン・ピョウと(車内で)運命の出会いをする、やはり少林拳の達人の日本人女性に林由美香 似の…林由美香 本人 ! いや、これ素晴らしいキャスティングだ。だってヒロインの佐倉麻美って本当に[林由美香と岡輝男を足して2で割ったみたいな顔]だもの。 ● 他に、痴漢の被害(?)者に風間今日子。 ヒロインの恋人にRAPで啓示を与える「ガイジン痴漢」に、どー見ても日本人にしか見えない城定夫と相沢知美。ここになんとかして本物のガイジン連れて来てれば満点だったのになあ。[オーピー/大蔵映画]