ヨーロッパ編

第5章 フランス編

1998年10月4日 旅行9日目 スイス・ジュネーブ

『長い国境のある細い道を抜けるとそこは駅のホームだった』
 なんて人の小説のくだりをパクリつつ、いよいよこの欧州旅行も大詰め。
 最後の国となるフランスへ向かうTGVは既にホームへと到着済みです。
 電車を見たら取り合えず先頭車両を見てみないと気が済まない僕は重い荷物を下げたまま、えっちらおっちら、列車の先頭へと走ります。
 そこには既に何名かの先客が。
 同じ事を考える人々の顔ぶれは全て日本人。
 ああ、悲しい国民性。
 セルフタイマーで写真を撮るカップルを横目に僕も1枚パシャリ。

 先程と同じ距離を重い荷物を肩に走り戻ります。
 いやぁ、見てみるとそんなに大差はない物ですね、電車。
 とは言っても外国での初電車はやっぱし楽しみです。
 中の作りは割と新幹線に似ているのですが、ドアの近くの2列だけは個室になっていて、ちょうど僕の席もその中。これはちょっとランクが上なのかもしれないなと思って、期待した僕が浅はかだったと気付くのは発射から30分ほど後のことでありました。
 やがてゆっくりと列車は駅を離れフランスへと向けて速度を増していきます。
 速度こそ日本の新幹線に負けるものの結構な速さです。
 それよりも何よりも外の景色がいいんです。
 日本の新幹線からの景色といえば高架からですから、高いところから見るといった感じでしょ?
 TGVは普通の列車が走るような高さを走るので、景色が日本のに比べて身近に感じられるんです。それに加えてのどかな景色が続きますから、気持ちまで穏やかになれますね。
 が!僕が座ったのは座席が向かい合った作りになっている、個室タイプの席。
 で、真向かいに座ったのがこのツアー客の中で一番おしゃべりなおばちゃん。
 列車が動き出した瞬間始まったおしゃべりが一向に止まらないのだ!
 回りのおじちゃんおばちゃん連中を巻き込み、話のネタが湯水の如く湧き出てくる。
 こんなんじゃ、外の景色をゆっくり眺めて旅情に浸るなんてできっこない。
 仕方がないので寝ることにしようと思っても、おしゃべりがうるさくて眠りにつくことすらできない。だからといって、起きてて話題が振られても困るので寝たふりをすることに。
 その時ウォークマンを持ってきたことを思い出し、バッグの中から取出し耳にセット。
 いつもよりボリュームを上げておばちゃん連中の声が聞こえないようにする。
 大音量の音楽には慣れているという変な耳のおかげでやっと眠ることが出来たのでした。ありがとうウォークマン!
 睡眠をとること約1時間半。
 フランスまではもう少しかかるということで、ここで昼食と相成りました。
 本日の昼食はジュネーブの日本料理屋で作ってもらったという幕の内弁当。
 これには日本食に飢えていたツアー客全員から歓喜の声。
 飲み物にはウーロン茶までついて至れり尽せり。
 お弁当を手伝って配っている時の添乗員さんとの会話。
「お、ウーロン茶じゃないですか」
「本当はみなさんのことも考えてて日本茶にしたかったんだけどねぇ」
「手に入らないんですか?」
「そんなことはないけど、ものすごく高いのよ」
 だそうです。
 ヨーロッパで日本茶が必要な方はティーバックを準備された方がいいですな。
 幕の内弁当の中身は実にオーソドックスで、日の丸ご飯に、焼いた鮭、煮物、煮豆、ウィンナー、エビフライとお漬け物。
 中でもやっぱしお米はおいしかった。
 添乗員さんもここのお弁当は珍しく日本の味付けでおいしいと話していました。
 ああ、あとはうどんさえあれば…………まあ、これは讃岐人の一種の病気ですが。
 さてさて、おいしいお弁当を食べ終え更に列車で走ること約1時間半。
 TGVは終点となるフランスはリヨン駅へと到着しました。
 リヨン駅はものすごく大きな駅で、映画とかでよく見たことがある作り。
 そして、構内にはオープンカフェがありました。
 どうもフランスといえばオープンカフェみたいな勝手なイメージを作っているため、僕は既にフランス気分を味わいはじめていました。
 駅から外へと出ると、残念ながらここも天気は良くない状態。
 気温はスイスほどではないにしろ、かなり肌寒いです。
 リヨン駅は外観を見ただけでは駅とは分からない様な建物で、時代を感じさせる素晴らしい作りです。

 少しとろい兄ちゃんが電車から降ろされた僕らの荷物をバスへと移していきます。
 それを見かねたおじちゃんら数人がそれを手伝います。
 実はこれってかなり見慣れた景色なんです。
 どうも日本人は待つというのが苦手なのか、大変そうにしていると助けずにはいられないのか、みんなやっきになって手伝う傾向があるようです。
 僕?
 僕は特別手伝ってはいませんよ。
 だって、その人にとってそれが仕事であり、それでお金を稼いでいる以上プロ意識を持ってやって頂きたいですからね。逆を言えば手伝って僕が得することもないですし。
 結構、僕って冷たいやつかもしれません。
 しかし世間なんてそんなもんです!
 こんなところで変に力説しても仕方ないのですが、バスはいよいよ観光へと出発です。
 フランス初日にあたる今日は市内観光を明日にまわし、ベルサイユ宮殿観光をすることになっています。というのも明日はベルサイユ宮殿がお休みだからなのです。
 バスはリヨン駅を出て、ノートルダム寺院やルーブル美術館などが車窓に見える通りを走り、コンコルド広場を回り、ダイアナさんの交通事故が起きたトンネルを抜け、ちょうど凱旋門賞が行われていたロンシャン競馬場のある公園を横目に(競馬場は残念ながら見えませんでした)郊外へと走っていきます。
 通りの右手にベルサイユの文字がかかれた標識を越え、街のようなところへと入っていきます。
 通りぞいの建物は全て一様に高さが同じになっています。これは昔ベルサイユ宮殿にあった王の寝室よりも高い所に建物を建ててはいけないという決まりがあったためだそうです。
 そして目的のベルサイユ宮殿らしき建物が見えてきます。
 が、ガイドさんが「今見えている建物はベルサイユ宮殿じゃないですからね。あれは馬を入れていた建物ですからね」と。
 馬を入れておくだけにしてはあまりにもでかい建物。
 だから、イギリスから言ってるけれども何でもかんでも大きくすればいいってもんなのかい?
 バスがとまった駐車場もこれまた巨大。
 観光バスが何百台ととまっているさまは実に圧巻です。
 ベルサイユ宮殿はバスから見えた厩舎とは反対の方向にあり、やはりとてつもなくデカかったのであります。
 しかし、観光客も多い。
 今まで行ったどこの観光地よりも多い感じです。
 バスを降りて、大きな門を抜けて、宮殿へと足を進めます。

 足元は石畳になっているのですが、かなり段差が大きくて歩きづらいです。
 だだっ広い敷地を建物へと進めていくとちょうど中央に誰かの銅像が。
 多分ここを建てたルイ12世あたりだとは思いますけど、よく分かりません。
 観光の入口までたどり着いて、ここで僕らツアー客を2つに分けます。
 というのも中はものすごい混雑のようなので、とても一人のガイドさんでは説明ができないみたい。で、2人のガイドさんの組にそれぞれ分かれるわけです。僕は後から入る方の組になりました。
 いよいよ中へ。
 これまた中は豪華!今まで行ったどこにも負けず劣らずの豪華さなのであります。

 しかし、ここで問題が。
 ガイドさんの案内が混雑しているせいか声が小さいせいか全く聞こえないのだ。
 近寄ろうにも他の客に邪魔され全く近寄れない。

 仕方ない。ここでの説明はないものと考えておかねば……
 ふと、先の部屋を見るとマイク片手に説明をしているガイドさんの姿が。
 しかし、マイクを使っているわりには声が全く聞こえない。
 おかしいなとよく観察してみると、ツアー客の耳にはイヤホンらしき物が。
 ほぉ〜イヤホンにマイクから直接説明が聞こえるのか。
 なかなかやるな韓国ツアー!
 また、まわりの他の国の観光客を見てるとよく見かけるのがなんか大きめの携帯電話。
 最初はこんなうるさいところで電話なんかよくできるなぁと見ていたのですが、これまたよくよく観察してみると、どうやらあの携帯電話らしき物からガイドの案内が聞こえている模様。
 そんな色々とハイテク機器があるなら、うちのツアーでも使ってくれればいいのにとぼやきながら人の波に飲まれ揉まれる僕です。
 写真を収めようと前に出ていこうとしても人の波はなかなかかきわけられず、気付けばいつも部屋の一番端へと追いやられてしまいます。しかたがないので窓から外の景色を撮ってみたりなんかして。
 しかし、そんなことでくじけていてはいけません。
 ガイドさんを見失わないように注意しながら、人の波をかき分けて写真を撮っていきます。
 5、6部屋を過ぎた辺りで一旦廊下へと出てきます。
 この廊下こそ、有名な鏡の間。

 豪華なシャンデリアや彫刻が通路の天井を、脇を彩り、壁は一面全て鏡。
 まあ、外側の壁は窓になってますけど。
 そんな通路が100m近く伸びてるんだからこの宮殿の広さが分かるってもんです。
 にしても人の多いこと!
 先程の部屋のようなすし詰め状態こそ無いものの、鏡の間は大混雑。
 もうこうなったら部屋を見てるのか人を見てるのかさっぱりです。
 仕方がないので誰もいない鏡に向かって自分を映してみたりして。

 このベルサイユ宮殿を観光してすごく感じたのは実際に行ったはずなのに自分の目で見たものと写真に映っている物ではギャップがあるということです。
 僕の感覚でいうと、実際に見た物よりも撮った写真の方が素直に綺麗だと感じられるんです。
 現場では他の観光客のことやスリやガイドさんやと色々なことに注意をしなきゃいけない。
 それが観光の妨げになっているようです、僕の中では。
 だから、あまり他のことに注意しなくて済んだノイシュバンシュタイン城やサンピエトロ寺院なんかは実際に見たものの方が印象が強いんです。逆にイタリアなんかは観光地よりも食べ物の印象が強く残っていたりするんですよ。

 少し話が横道にそれてしまいましたが、ベルサイユ宮殿の観光はまだ終わっていません。
 再び部屋の観光へと移動をしていきます。
 ゆあはり狭いスペースとなると人の波は激しく、それが色々な方向へ動いています。
 朝の山手線のラッシュの3割弱ぐらいの人の押し合いがあるといっても過言ではないでしょうってぐらい込んでます。だって、自分の足元見えないし。
 今いる部屋は寝室だというのに、落ち着く暇もありゃしないわい。
 次の部屋はあの有名なマリーアントワネットが使っていたという部屋。
 壁には肖像画がかけられています。
 人の波に乗って先へ進むとやがて少し広めの部屋へ。
 この部屋がまぶしいぐらいに金色が目立ちます。
 しかし、何よりも四方にかけられた絵が見事なのであります。
 ここに飾られている絵は全てナポレオンに関する物で、ちょうど写真を撮った僕の背中にあたるところには彼の肖像画がかけられていました。

 そんな部屋を抜けると長い廊下のようなところに出て、そこから階段を降り出口へと向かいます。ほぼ宮殿内をぐるっとまわった形で、庭に近いところから外へと出てきました。
 大きな噴水もある広い庭は別料金。

 そんなにゆっくりとみてまわる時間の無かった我々は近くまで行き、ロープを張っているところで記念撮影。
 たかだか庭だけなのに、侵入してくる者はないか見張っている人がいるあたりは、おおげさという気もしないでもないですが……
 まあ、何かがあってからでは遅いんでしょうから、念には念をいれてってことですかね?
 にしてもあのトレンチコート姿は逆に怪しい気がする……(笑)
 さっき通った足場のよくない石畳をベルサイユ宮殿の門へと向かって帰る僕たち。
 ベルサイユ宮殿は実に豪華なイメージが強かったところ。
 ただ、それ以上に気になったのは匂い。
 この宮殿噂通りで実に臭かった!
 香水か何か強めの匂いで多少消されてはいるものの、ほのかに香るアンモニア臭。
 このベルサイユ宮殿にはトイレという物が存在しません。
 それも昔はやったペストを恐れた王様が作らせなかったそうです。
 だから、当時はそこかしこでおしっこをしていたみたい。
 その匂いが残っているってわけですな。
 今になってやっとこの匂いということは昔はどれほどの匂いだったか想像するだけで鼻が曲がりそうです。さすが、世界一奇麗な臭いところと言われるだけのことはありますです。(笑)
 観光を終えバスへと乗り、今度向かうはホテルです。
 が、予想よりも早く観光が終わったため多少時間が余っている模様。
 そこで急遽免税店へ寄り道をすることになりました。
 突き当たりにオペラ座があるオペラ通り沿いのとある店へ到着。
 しかし、今までと同じように店内には高い商品ばかり!
 買いもしない商品をダラダラと眺めて自由時間終了。
 明日には残りの土産物も何とかしなければと再確認する形となりました。
 また明日あるフリータイムはこの辺りで解散することになるようです。
 まあ、ここからならルーブル美術館も近いですし、地下鉄もたくさん走ってますしね。
 帰途についたバスはパリ市をぐるっと囲んだ形になっている環状線へと乗ります。
 これから向かうホテルはベルサイユ宮殿とはほぼ反対の方角のパリ郊外にあるんです。
 時間は午後6時。
 ちょうど夕方のラッシュの時間です。
 イタリアの車の量もすごかったですが、ここパリも多い!
 さっきからほとんど車が進んでいません。
 特にパリ市から郊外へ出る所が混んでいて、4車線もあるのに大渋滞。
 ホテルに着いた頃にはすっかり暗くなってしまいました。
 にしても、結構パリ市内からは距離があるところにあるなぁ。
 これで明日のフリータイム大丈夫かしら?
 フリータイムになれば個人でどこに行こうが何しようが何食べようがOK。
 そのかわり、ホテルへも自力で戻らなくちゃダメ。
 これだけ郊外になると地下鉄も走ってないし、タクシーを使うにもお金がかかる。
 う〜ん、ちょっと対策を練っておいた方がいいかもね。
 いつもの如く、自分のスーツケースを転がしながら、添乗員さんからの連絡。
 それが済んだら各自の部屋へと解散。
 部屋へ着くなり僕はスーツケースを開け、日本から持ってきたパリのるるぶとマップルマガジンを引っ張り出し、明日のフリープランの再チェック。
 フリープランといっても特別にどこかへ観光しようというわけではないのだ。
 買っていないお土産の調達とちょっと町の中をブラブラして何気ないお店に立ち寄る。
 観光なんてこの10日間で散々しているから、逆に何気ない日常の部分を眺めてみたいわけ。
 しかし、一番重要なのは言葉と帰り道。
 フランスという国は昔ほどではないにしろ、やっぱし英語が通じにくいというかあまり聞いてくれないお国。というのも自国語に誇りがあるからなんだよね。
 だから、簡単な単語ぐらいへフランス語でも言えなければまずいわけ。
 とはいうものの、フランス語って難しい!
 挨拶とはい、いいえぐらいしか分からん!!
 一応、外国語ブックなんてものも準備はしているから何とかなるかなという気もするけども……
 さてさて、帰りの交通手段をどうするかだな……
 一番楽なのはタクシーを使う方法。
 ただ、ホテルに戻る時間がどうしても帰りのラッシュの時間とぶつかる可能性が高いので、時間もお金もかかりそう。(パリのタクシーは日本と同じ距離と時間の両方で値段が上がるのだ)
 かといって地下鉄を使う方法だと、このホテルまでは絶対に来れない。せいぜいパリ市を出るところぐらい。もう一つ電車があるけど、これは結構乗り方が面倒くさいらしいのでパス。
 あとはバスぐらいだけど、この辺りまで来てるバスってあるのかしら?
 添乗員さんにあとで聞いてみることとしましょう。
 時計を見やればもうすぐ夕食の時刻。
 今晩の食事が行われるところへと歩いていくと、なにやらレストランとは違う雰囲気の部屋へ。
 食事をする場所というよりは、何かの控え室のように味気ない部屋に3台の丸テーブルと人数分のイスが並べられているだけ、という感じ。
 真っ白な壁に窓もカーテンをかけられ、何か隔離されたみたいだなぁ、おい。
 前菜のスープが2人の若い兄ちゃんの手によって運ばれてきます。
 テーブルに既にあったフランスパンをかじりつつ、スープを飲みます。
 普通のスープでしたけど、さすがにフランスパンは本場という感じでおいしかったです。
 フランスパン=固いというイメージが強いでしょ?実際固いんですけど。
 日本で食べるよりも、噛めば噛むほど甘みが口に広がるといった感じ。
 8人ぐらいで一つのテーブルを囲んだんですけど、あっという間に山のように盛られたパンがなくなってしまいました。
 ただおいしかっただけではない理由もあります。
 それが給仕の作業の遅さ。料理を運ぶ速度が極端に遅いのである。
 2人で各自1度に3皿ずつぐらい運ぶんだけど、話にならない。
 こっちはお腹が空いてるから、取り合えずテーブルにあるパンを食べるしかないのだ。
 おまけにこの兄ちゃん、英語がさっぱり分からない。
 無くなったパンがもう少し欲しかった人がいて、必死に篭を持ってお願いをするのだけど分かってくれないのだ。
 まあ、フランス人なんだから当然なのかもしれないけれど"Please"ぐらいは分かって欲しかった。
 はっきり言っておばちゃん連中にフランス語を話せというのはかなりきつい。
 添乗員さんが事前に教えてくれた基本会話もほとんど覚えていないのだ。
 まあ旅行客のわがままなんだけど、もてなす側の人間として最低の心配りはして欲しかったなと感じました。
 実際「シュルブプレ(お願いしますの意)」なんてすらっと出てこないし……
 そういや添乗員さんはこのフランス語を面白い方法で教えてくれてました。
 普通日本人が「シュルブプレ」と言ってもほとんどフランス人には通用しないそうです。実際苦労していた方もいましたし。そこで、ある日本語を早口で言って下さいと添乗員さんは教えてくれました。
 その日本語というのが……「新聞くれ」。
 最初これを聞いたバスの車内がドッと沸きます。
「ですから、お店かなにかでショーケースに入ったコレが欲しいなぁと思ったら、コレはフランス語で『ススィ』と言いますので、『スシ、新聞くれ』と言って下さい。お店の人は喜んで商品を見せてくれますよ」
 これで、バスの中は「スシ、新聞くれ」の大合唱。
 あれだけ盛り上がっていたにも関わらず、いざ使う時となったらみなさん口から出てこない。
 もしかしたら思い出していたのかもしれませんが、みんなの前でいうのが照れ臭かったのかもしれないなんて、今となって思いました。
 やっとこさ、運ばれてきたメインディッシュはササミのソテー。

 固いことはなかったですが、少し味が薄めだった印象が。
 どちらにせよ、給仕の印象の悪さが一番印象に残った食事でした。

 食事を終え、部屋を戻る前に添乗員さんにバスのことを聞くことに。
 すると、ちょうどホテルのすぐそばまで来ているバスがあるとのこと。
 しかもそこがちょうど区間の終点にあたるそうなので、乗り過しの心配もない!
 さっそくそのバスの路線の番号をメモし、自分の部屋へ。
 地下鉄の路線とバス路線図を広げ、パリ市から一番近い最寄りの場所を確認。
 見るとちょうどパリ市の外れにあたる地下鉄の駅からそのバスが出ていることが判明。
 これで、明日の帰りの交通手段は決定!
 細かいどこに行くとかは明日何となく決めることとしましょう。
 行き当たりばったりな旅もたまにはいいもんです、と自分に言い聞かせるかのように考え、ベッドへともぐりこみます。
 この旅で一番夜更かしをしたこの日、僕は12時に就寝しました。

1998年10月5日 旅行10日目 フランス・パリ郊外

 起床6時半。
 まだ半開きの目をこすりつつ、寝癖頭で朝食をとりに。
 なぜか今日はいつも以上に眠い。
 パンとコーヒーを淡々と口へと運ぶ。
 味は眠気のせいかよく分からない。
 簡単に食事を済ませ部屋に戻る。
 今晩もこのホテルに滞在するため、荷作りをしなくてもいいのが幸い。
 スーツケースの中身を整理することもなく、昨日準備しておいた今日の荷物を抱えロビーへ。
 何やら話している添乗員さんの声も耳には届かず、バスへと移動。
 いつもの指定席へと腰掛けると、今回のツアー初の男性ガイドが自己紹介を始めています。
 バスは昨日走った道を戻りながら、パリ市へと入っていきます。
 やがて視界には凱旋門が入ってきます。

 そうだった、今日の午前中は市内観光だった……
 今頃になってそんなことを思い出すぐらい頭の中身は眠っていたのでした。
 寝ぼけ眼をこすりながら、ポケットからデジカメを取出し写真撮影開始。
 凱旋門のあるシャルル・ド・ゴール広場を撮影のために2周ほどした後、シャンゼリゼ通りへ。
 その後通りを何度か曲がって着いた場所はセーヌ川にある観光船乗場。
 今度は船に乗ってセーヌ川クルーズと相成るわけです。
 天気も良くなく寒いこの状態で観光客が多いわけもなく、ほとんどガラガラの状態で船は出港しました。
 船は2階建の構造になっていて、1階部分は室内、2階部分が屋外になっています。
 ここはやはり見晴らしのいい2階部分へと向かいます。
 しかしそこに並べられているイスは雨で濡れたままの状態。
 それを拭くような布を持ち合わせていなかった僕はとりあえずデッキに立ったまま景色を見ることに。
 船の走る反対側の方角にはエッフェル塔の姿が見えます。

 僕は上にジャンバーを着込み、ドイツのライン川下り時よりも暖かい服装でいるにも関わらず、船の上で受ける風はとても冷たく、みるみる僕のからだを冷やしていきます。
 たまらず僕は1階へと移動。
 1階部分は室内になっているので風からは逃げることが出来ました。
 ただ、出港したばかりのこの船は暖房も効いていない状態のため、例え屋内といってもかなり寒い。正直こんな状態では観光どころではない。
 にしても、他のじっちゃんばっちゃん連中の元気なこと元気なこと。
 ごく一部の人を除いてほとんどが2階デッキで観光を楽しんでいる。
 ここで若い自分が負けるのも少ししゃくだったので、再びデッキへと登ることに。
 デッキへ出るとちょうどルーブル美術館の前辺り。
 橋や建物が見えてくると、フランス語、英語、ドイツ語、イタリア語、そして日本語の順番で解説のアナウンスが流れる。アナウンスの流れる順番にもお国柄が出ている気がします。
 ルーブル美術館といえば「モナ・リザ」や「ミロのヴィーナス」なんかが置かれている世界一有名だけど、その広さも半端じゃない。
 何せすべての展示品を見ようと思ったら最低1週間はかかるというのだから。
 今回のツアーではこのルーブル美術館観光は含まれていなくて、午前中のツアー終了後にオプショナルツアー(といっても添乗員さんとが有名な展示品のある場所を説明してくれるだけなので、特別な追加料金はかからない)として予定されています。
 しかし、今日はルーブルのほぼ向いにあるオルセー美術館が休館日なため、普段よりも混雑しているとのこと。そんな混んでいるところへわざわざ出向くのも辛かった僕は行かないことを決めていました。
 それにしても、元宮殿ということもあって大きな建物である。さすがに大きな建物には慣れはじめてきてもいたけど。
 やがてセーヌ川の真ん中に島が見え始め、船は向かって右へと進路をとっていきます。
 この島はシテ島といって、裁判所や警察、市立病院などがあるこの街の中心部にあたる。
 そしてこの島には世界的に有名な寺院もあります。
 ノートルダム寺院。

 フランスにおけるゴシック建築の最高傑作といわれるだけあって、色々な角度で見るたびに見せる様々な美しさは見事の一言です。
 ここは観光コースに入っている。あとでゆっくりと堪能することにしませう。
 シテ島、島の2つのセーヌ川に浮かぶ島で船は折り返します。
 そして船着き場を過ぎ今度はエッフェル塔のある方へと向かい、エッフェル塔へと最も近づいた時の写真がこれ。
 パリ万博が行われた時に建築家エッフェルの手によって作り出されたパリのシンボルタワー、エッフェル塔。この建築家エッフェルはフランスの紙幣にも顔が描かれている人。
 紙幣といえばフランスのお札はものすごくカラフル。
 赤や青などの原色を使用したお札は、我々日本人にはまぶしいくらい。
 しかし、明るいからこそ遠めでも目立つ。
 これがスリまどの格好の餌となるわけ。
 イタリアと並びスリやひったくりの多い国にフランスでは、いつも以上にお金の取り扱いには注意しなければいけない。
 さて観光船は再びUターンをして、船着き場へと向かっています。
 僕の耳は冷たいや間隔が無いを通り越して、痛みが走りはじめていました。
 暖房が効いてきた1階の座席で窓の外のから唯一見える川の流れを眺める。
 通常ならば船はもう少し先までいくとのこと。
 ではなぜ今日は行かないのか。
 それは見るべき物がないから。
 その見るべき物は今日本にありました。
 分かったかな?自由の女神像です。
 アメリカ独立100周年の記念にフランスが送った自由の女神像。
 そのお礼にアメリカもフランスへ縮小版ながら自由の女神像を送り返しているのです。
 というわけで、船は船着き場へと到着しました。
 約40分の観光という名の寒さとの戦いはこうして終わったのだった。
 まあ、そんなに大層なことでもないけど。
 バスは通りをいくつも曲がりながらトロカデロ広場前へとやってきました。
 トロカデロ広場前にあるシャイヨ宮はエッフェル塔を撮影するには絶好のポイント。
 ベルサイユ宮殿前で見かけたような黒人の物売りが徘徊する広場からは真正面にエッフェル塔が望めます。
 塔のほぼ中央にある電工掲示板の数字は21世紀までのカウントダウンを表しています。

 僕はアメリカ横断ウルトラクイズの決勝戦がこのシャイヨ宮で行われたことを思い出し、別の意味で感動してしまいました。

 バスへと乗り込み午前中のツアー最後の目的地、ノートルダム寺院へと向かいます。
 意外と小さな入口から建物の中へ。
 中は想像以上に暗い。
 途中途中にあるろうそくの光だけが頼りといった感じ。
 私は他のツアー客と一緒にはぐれないようについていきます。
 まあしかし寺院内はちょうど反時計回りに建物内を一周するような感じで柵が置かれ、誰でも無条件に出口へと向かうことが出来るようです。
 とはいっても、この暗さじゃ写真撮影も大変です。
 何せフラッシュ撮影禁止ですから。
 さて、この寺院で有名な物といえばステンドグラス。
 大きな薔薇模様と呼ばれるステンドグラスを3枚寺院内から見ることが出来ます。
 写真で見ると結構小さいですが、実物は意外に大きい物で、目を凝らしてみればその1枚1枚に奇麗な模様や人物の姿を見ることが出来ます。また一番中央にはキリストやマリア様の姿が描かれているのです。
 寺院の中央よりもやや奥よりにあるのが祭壇。

 我々観光客が見るための通路はちょうど祭壇とその祭壇に向かって並ぶイスとの間。
 イスには熱心な信者と思われる人が座っていて、少し僕は邪魔なのではないかと恐縮してしまいます。
 寺院でもサンピエトロ寺院は荘厳さを僕にイメージさせましたが、このノートルダム寺院は厳粛なイメージがありました。もちろん芸術品の美しさにも目を奪われたのですが、それ以上にこの薄暗い空間で気持ちが締め付けられるような感じがしました。
 暗い寺院から外へ出て、寺院の外壁沿いに通りを歩きます。
 近くにあるお土産屋さんで少し休憩。
 といっても、お土産を買わせろというほかのお客さんの要望が叶った感じ。
 ポストカード、キーホルダー、風景画……大して見栄えもしない土産物屋で物色するほどの物もなし。
 ただ、デジカメの電池が切れかかっていたので何とかして電池を手に入れなくては。  しかし、ここもその隣の土産物屋にも電池はない。
 日本じゃどこにだって売っている電池がこんなにも手に入れにくい物だったとは……。
 乏しい電池のデジカメを胸にバスへと乗り込む僕。
 あくまで午前中のみという時間設定があったのでこれで市内観光は終了。
 これから向かうレストランで昼食をとり、その後は自由行動と相成ります。
 さてさて、昼食はお待たせのフランス料理!
 とはいっても昼間からフルコースを食べるほどお腹も減ってはいないので、いつもの通り3品だけです。
 ここで僕はこの旅行で初めてワインを注文することにしました。
 メインが肉だということなので赤ワインをハーフデカンタで。
 で、前菜がエスカルゴでございます。

 ま、早い話がカタツムリやね。
 僕はこれがエスカルゴ初体験でございます。
 エスカルゴをつかむ道具を使う手もぎこちなく、専用のフォークで身を刺します。
 巻き貝を楊枝で食べるような感じで身を取出し、口へと運びます。
 身の味は貝とそっくり。
 カタツムリの殻を巻き貝に替えてしまったら誰も分からないのでは?といった感じ。
 また、ニンニクとバジリコが効いたソースは濃厚でワインが進んでしまうではありませんか。
 メインディッシュはビーフシチューのような物。

 まあ、早い話が牛肉の煮込みなんですけども。
 これまたお肉が柔らかくて、ジューシー。
 これまた、ワインが進んでしまうではありませんか。
 あっという間にデカンタのワインが無くなりましたとさ。
 といったところで、デジカメが電池切れに。
 今回の旅行のために20本の単3電池を準備し、更にドイツで8本の電池を追加購入したにも関わらず、迎えてしまった電池切れ。とはいっても、ドイツで購入した電池はマンガン電池だったこともあってか、あっというまに切れてしまったのです。
 やはり、意味もなくディスプレイをオンにしていたのが敗因のようです。
 仕方が無いので、ここからはしばらく写真撮影はお休みです。
 食事を終え乗り込んだバスは、昨日の話し通りオペラ通りに停まります。
 各々バスを降りたあとはいよいよフリータイムのスタートです。
 僕は早々にバスを離れ、オペラ通りから北東の道へと入り、地図を頼りに郵便局へと向かいます。
 郵便局に行くのは記念切手を購入するため。
 歩くこと約15分。
 かなり大きい郵便局へ到着。それもそのはず、ここは中央郵便局。
 中へと入り、手近な窓口で本を片手に記念切手について問い合わせ。
 聞けば2回が専用の売場らしい。
 階段を上るとたくさんの記念切手が壁に掲示されナンバリングされています。
 近くには用紙が置いてあります。僕はすぐ近くに丸め捨てられていた用紙を拾い、広げて中身をチェック。ふむふむ、どうやらこれにナンバーを記入して窓口で購入するようですな。
 ゴミをお手本代りに何枚かの切手のナンバーを記入。
 窓口へ持っていき、支払って終了。意外と簡単です。
 最初の目的を終えた僕は次にまとめて土産物を買える場所へと足を進めます。
 昨日のうちにチェックしていたフォーラム・デ・アルが目的地です。
 解散地となった所からだと地下鉄で約6駅分離れたところになるのですが、中央郵便局からだと徒歩で10分ぐらいの場所になります。
 ここはいわゆる大型ショッピングセンターです。
 結構中は広いので迷子にならないようにせねば……
 しかし広いだけあって、色々と収穫もありました。
 ネクタイやアクセサリー、ぬいぐるみなどバラエティに富んだお土産をゲットすることに成功。
 やはり普通の土産物屋よりも選択肢の幅が広くていいですね。
 また、本屋とCD屋とパソコンソフトが一緒に販売されている店では乾電池もゲット。
 ただ、これだけ人がたくさんいるところでデジカメをこれ見よがしに見せびらかすのは、かえってまずいと思い、結果このフリータイム中に写真をとることは1度しかありませんでしたとさ。
 せっかく買ったばかりなのに盗られたくないですからね。
 しかし、ここでまだ重要な土産物が残っていたのです!
 それはなんと女性物の下着!
 これは同じ会社の人に頼まれた物でお金ももらっている以上、買わないわけにはいかないのです。
 というわけで、このショッピングセンターにある下着屋さんも覗いてみたのですが、イマイチ頼まれていたような物が見当たりません。
 ここに来るまでの通りなんかにあるお店もこじんまりとした店が多く、またブラとペアになった物が多くてこれまた見つからない。(頼まれたのはショーツなのだ)
 仕方がないのでフォーラム・デ・アルを出て、再びオペラ通りに向かって歩くことに。
 次に向かうはちょうどオペラ座の裏手にあるギャラリー・ラファイエット。ここには松坂屋も入っているので、いざとなれば日本語でも何とかなるかもしれません。
 さすがにデパートとなれば、大きい売場があるのではないかという予想なのです。
 結果的に予想に間違いはなかったのですが……

 フォーラム・デ・アルに来た時とは違う道をたどってオペラ座の方へと歩く僕。
 ちょうど、歩いているあたりは裏通りになるせいか、人の通りはほとんどなくて静かです。
 この辺りには、教会や役所、銀行といった建物が集まっていて、そんな建物を眺めるだけでも観光気分が満喫できます。
 パリでは建物を改築する際には許可を取らなくてはいけないそうで、例え取れたとしても外観に手を加えることは出来ないそうです。つまり、壁だけは残して内部を改築したり改装するわけです。
 ちょうど午前中の観光時にシャンゼリゼ通りから少し入ったところにあるホテルが改装工事をしていて、綺麗に壁だけをそのまま残していたのが実に印象的でした。
 国をあげて、古き良き街並みを残そうとしていることは素晴らしいですね。
 僕も裏通りを歩きながら、その恩恵に肖っているわけです。
 やがてオペラ通りへと戻り、オペラ座に向かって歩き続けます。
 オペラ座は19世紀当時の雰囲気のまま修復されており、その豪華さには目を奪われそうになりますが、道路を渡っている間はきちんと回りに注意しましょう。(爆)
 実際は中に入って色々と見学をしてみたいのですが、余り時間的に余裕がないのが残念です。
 オペラ座の西側へと回り、そのまま外周を回るような形でオペラ座の裏側へと向かいます。
 その裏側にあるのがオスマン通りで、そこを渡ったところに目的のギャラリー・ラファイエットは建っています。ちなみにすぐ隣にはこれまた大きなプランタン・デパートが建っています。ここには高島屋が入っているそうです。
 入口のすぐ横で売られている焼き立てのパンの匂いが鼻腔をくすぐらせるのを振り払いつつ店内へと向かいます。
 店内に入るとまず化粧品の匂いが鼻を襲います。
 前を見やれば数々のブランドがブースを並べ、そのそれぞれのベースでお客さんが販売員に顔を色々と塗りたくられています。まあ、こういう表現もどうかとは思いますが事実なので仕方がない。
このあたりは日本のとそう大差はないように感じます。
 向かって右側には鞄が、そして左側には貴金属が。
 普通日本では貴金属は上の階にありますから、これは意外に感じました。
 もし強盗とかが来たらすぐ逃げられちゃうんじゃないかしら?
 それはともかく広いフロアからエスカレーターを探し上へと向かうことにしましょう。
 何やら店内案内図のようなものもありますが、フランス語が理解できるわけもなく、そのまま素通りしてエスカレーターに乗り込みます。
 やはりおしゃれな街であるだけのことはあって各フロアにはファッション関連のものが多く取りそろえられています。洋服やアクセサリーはもちろん、下着も……
 そうです、着きましたよ下着売場に。
 このデパート、かなりの床面積があるんですが何もここまで広くなくてもいいんじゃないというぐらい広いんです。その1フロアがほぼ全て女性下着……
 前を見ても、後ろを見ても、右見ても、左見ても、下着!下着!下着!
 一体これほどある中から、僕は何を選べばいいというのだろうか……
 と、エスカレーターを降りてすぐのところで固まる僕。
 しかも今はセール時にあたるのか、お客さんもたくさんいます。
 もちろんみなさん女性。接客する人もレジ打つ人も品出しする人もほとんど女性。男なんて本当に数えるほどしかいません。その数えられる男性のうちの1人が僕……
 イカン!イカン!こんなところで固まっているほど僕に時間はない!
 時計を見れば既に4時を回っています。
 フォーラム・デ・アルでウィンドウショッピングをしすぎたからなぁ、と反省する間もおしいのです!僕は意を決して売場内へと足を進めるのでした!!
 にしてもさすがにこれだけの下着に囲まれると、どこからどうしたものか迷ってしまいますな。
 仕方がないので取り敢えず軽くフロア内を歩いてみることに。
 様々なブランド、色、形、繊維、デザイン、価格……ただ単に下着といってもこれだけ種類が豊富だったとは……こんなことなら、軽々しく引き受けるんじゃなかったなぁといまさらながら後悔する僕。まあ、価格の上限は決まっていますからそれに合わせて適当に見繕うしかないないですな。
 一応出てくる前に言われたのは「ブランドもの」「シルク製」「フリル付き」の3つ。
 以上の3つの言葉を頭の中で反復しながら、それにあてはまりそうなものを物色します。
 って、これ文章にしてみたら、僕ただの変態みたいやなぁ〜。
 しかし!この旅行記は事実を克明に綴るのです!!
 売場を歩いているうちに一つ気付いたことが。
『よくよく考えてみたら下着のブランドなんかほとんど知らんぞ!!』
 実に初歩的なところでつまずく僕なのでありました。
 「こら、まいったぞ……」と呟きながら、他の2つの点で更に詮索を続けます。
 ここで新たに発見したことが一つ。
『フリルが付いてるシルクの下着なんてほとんどねぇ!!』
 そうなんです、フリルが付いてるのはほとんど綿か科学繊維。シルクのはその触感を感じるためかほとんどちゃんとした布のタイプになっていたのでした。
 女性からしてみれば当たり前なこと書いてるのかもしれないですが、特に下着フェチでもない僕には新発見が山積みなのでした!いやぁ〜勉強になるなぁ……何が。(自問自答)
 ともかく、どのようなタイプのものを買うかだけでも決めなければいけません!
 じゃなきゃこのフロア内をぐるぐる回るだけで最後にはバターになってしまいます。
 まあ「ブランドもの」に関しては、日本でもそこそこメジャーなやつを買っておけば間違いないとして、問題は「シルク」を取るか「フリル」を取るかな訳ですな。ってよくよく考えれば、すごいことで悩んでるな、俺。
 思案すること約数分。決定です!「フリル」優先で行きませう!
 え?なぜかって?
 そりゃ、銭でんがな、銭!
 ただでさえブランドものは高いのに、そこにシルクなんてつけたら、一体幾らかかることか。
 さて、タイプが決まったら次は実際の選定作業ですな。
 まずは僕でも知っているようなブランド物を捜してと……おお、クリスチャン・ディオールは知ってるぞ。さっそくブースの中に入り吟味スタート!
 ここでのポイントは照れないことですな。あくまで堂々とこれはプレゼントなのよという顔でね。
 おっとここで良さそうなデザインのものを発見!
 値段をチェック。フムフム、ちょうどセール中ということもあってか日本円で約6000円。
 1万円渡されているから全然問題ないな……定価だけ見れば1万4千円だし……
 …………ん?イ、イチマンヨンセンエン!?
 メチャメチャ高いやないかぁ!安うなっとるいうても、6000円でっせ!パンツ1枚が6000円って……まあ、自分の金じゃないからいいか。(爆)
 こうして、下着売場のフロアに立ってから約30分。長く厳しい戦いはこうして幕を降ろしたのであった……うんうん、よくがんばったぞ、俺。たいして売場見てないくせにというツッコミは却下!
 ってまだお金払ってないやん!しかし、近くにはレジらしきものはない。
 パンツ片手にレジを探しキョロキョロする僕。
 めっちゃ挙動不審みたいやん!と今は思うが、その時は早く購入を済ませてしまいたい一心で、回りの目なんぞ気にならなかったのであった。
 やがて、レジを見つけた僕はカードで購入。
 商品を渡される時も「メルシー」と言ってのけるほど余裕を持っているフリをすることに成功!
 今度こそ戦いは終わったのである。ふぅ〜、嫌な汗かいたなぁ〜。
 さてと、土産はこれで全部かな?上りのエスカレーターに乗りながら、頭の中でチャック中。
『あ、婆ちゃんの土産がまだだった。さて、どうしたものかな?』
 エスカレーターが着いたところはちょうど文房具売場。
『文房具ねぇ……』
 頭の中で呟きながら、ショーケースに並ぶ品々を見てみることに。
『そういや、婆ちゃん今もの書きしてるって言ってたなぁ〜』
 そこで目に飛び込んできたのが、色使いも鮮やかな万年筆。
 どうしても万年筆といえば黒で重厚なデザインというイメージを持っている僕には、ピンクや緑などカラフルな万年筆は意外なもの。
『これって、意外と面白いかも。えっとぉ、値段は……』
 すぐ横の値札にかかれた文字は通常価格からの割引で約12000円。
 『2本で12000円かぁ。あ、1本は万年筆じゃなくてシャーペンなのかぁ。どうしようかな ぁ』
「ボンジュール!!」
 突然頭上より声をかけられた僕は、慌てて顔を上げる。
 そこにはこの売場の販売員らしきおばさんが笑顔でこっちを見ています。
「ボ、ボンジュール」
 平静を装うかのように挨拶をする僕。
 ペラペラペラペラ……
 気を使ってくれてかゆっくりと話してくれる販売員さん。
 しかし、いくらゆっくり話されてもフランス語はチンプンカンプン。
 キョトンとしている僕を見て、おばさんも僕がフランス語を理解できないことが分かったようです。するとおばさんは紙とペンを取出し、何やら書きはじめます。そして、さっき僕が見ていた商品をショーケースから取出し、その商品を指差しながら紙を見せます。
 紙にはその商品の通常価格が書かれていました。
『いくらなんでも値段がいくらかぐらいは分かってるぞ。バカにしてるのか?』
 と少し腹立たしく感じる僕。
 するとおばさんはその通常値段をペンで消し、その下に割引後の価格を書きます。
『割引後の価格だって、プライスカード見たら分かるっちゅうねん!人を小馬鹿にするのもいい加減にしやがれってんでぃ』
 頭の中で何語とも分からないぼやきを吐き出し、笑顔のおばさんの顔を見つめる僕。
 するとおばさんの笑顔度がワンランクアップしながら紙に書かれている金額をペンで消し、更に1割以上安い金額を書いてくれるのでした。
 おお!プライスカード以上に安くなるわよということを教えてくれたのかぁ〜!!
 な、なんて優しい店員さんなんだぁ〜!と先程のぼやきも忘れて感激する僕。相変わらず、単純な男であります。

 ギャラリー・ラファイエットを出た頃には外も薄暗くなりはじめていました。
 時計を見ると5時半を回っています。
 さっさと食糧を調達して、ホテルへ戻らなくてはいけない時間です。
 やはり夜の街を歩くのは不安ですからね。
 え?万年筆?即刻購入しました。迷う必要性などなかったですし。
 それはさておき、どこで買い物をしたものかしら?
 ギャラリー・ラファイエットには食料品売場が見当たらなかったんです。
 近くにスーパでもあればいいんだけど……
 雑誌を広げてこの付近の地図とにらめっこ。
 どうやら少し歩いたところにスーパーがあるようです。
 再びオペラ座の外周を回るようにして、オペラ通りへと戻ります。
 お目当てのスーパーは最初バスで解散したところから程無いところにありました。
 店内は1階が衣料品関係のものを扱っていて、地階が食料品売場になっていました。
 黄色いカゴを手に取り、いざお買い物スタート!
 ここで僕はサンドイッチ、サラダ、ジュースにデザートを購入。
 実にシンプルなもんです。お金も無駄遣いしたくなかったし。
 レジのシステムは買った商品をコンベア上に並べて行く方式。
 日本ではカゴのまま出しますけど、海外では意外とよく見るタイプです。
 少しぶあいそなレジを抜けて外へ出てみると、かなり暗くなっています。
 時計の針はとっくに6時を過ぎており、よいこはおうちに帰る時間です。
 ここで、事前に調べていた交通データが需要になるわけです。
 今いる場所から一番近い地下鉄の駅はピラミッド駅なのですが、せっかくすぐ近くにルーブル美術館があるので近くまで行ってみることにしました。
 高い城壁で中までは見ることが出来ませんでしたが、その大きさを改めて確認し、すぐ近くにある「パレ・ロワイヤル・ミュゼ デュ ルーブル駅」というやたら長ったらしい地下鉄の駅へと入ります。ガイドさんの話では切符は窓口のようなところで買うことが多いとのことでしたので、きちんと買う時の言葉も練習して行ったのですが、そういう時に限って自動券売機が置いてたりするわけです。今回の旅行では本当に見事に僕の苦労は報われないようです。
 券売機は画面に表示されるものから自分の購入したいものを番号で選択していくタイプ。
 といっても地下鉄は全線均一料金なので、1枚だけの購入か「カルネ」と呼ばれる10枚がセットになっているものかを選ぶぐらいなので、フランス語が分からなくても大丈夫。ちなみに切符は1枚8フランです。
 この駅には2つの路線が走っているので、間違えないように7番線のホームへ。
 ホームへと降りてくると、ちょうど地下鉄がホームに滑り込む時でした。
 一番近くのドアの前に行き、乗車します。
 日本の電車みたいな横開きじゃなくて、ワゴン車の後部座席のドアのように手前側に少し出てから横に開くうえ、開くスピードも早いので最初は少しビックリです。
 車内はそこそこ混んでいて、両手にたくさんの荷物を抱えた僕は取り合えず中程で立つことに。
目的地はここから14駅先の「ラ・ヴィレット駅」。少し時間がかかると思うので、本音としては座りたいところ。
 やがてオペラ駅に着き、乗客がそこそこ降り、席が一つ空きました。
 ドアのすぐそばにあるその座席は映画館の座席のような折り畳みタイプ。
 ラッシュ時などには使わないようにと添乗員さんから話してもらっていましたが、そんなに混んではいなくなったのでそこに座ることに。
 日本のような車内アナウンスのない車内は割と静かで、列車が走る音が車内に響くだけです。
 そんな地下鉄に揺られること約30分。目的の駅へと電車は到着します。
 ドアの開閉はボタン式になっているので、自分でボタンを押しホームへと出ます。
 この駅で降りる乗客はほとんどなく、ホームは寂しく感じます。
 地上への階段を上る途中に一つ気付いたことが。
『あ、写真全然撮ってねえや……』
 せっかく電池まで購入しておきながら、全然写真を撮っていなかったのであります。
『せっかくだし、ここ撮っておくか』
 というわけで,久しぶりの写真がコレ。

 地上へと出てくると既に外は真っ暗。
 ちょうどバス乗場の前に出てきた僕はホテルへと向かうバスの乗場を探します。
「お、あった、あった。え〜と、次のバスの時間はと……って、時刻表ないじゃん!」
 そうなんです。パリのバスに時刻表はないのです。
 しかしすぐそばにテレビにはバスの番号と時間が表示されています。
 「なるほど。ここに表示されている番号のバスがその時刻に到着するわけだな。え〜と、お目当ての番号はと……って、番号ないし!」
 画面に表示されるバスはせいぜい2、3本。この駅から出ているバスは6、7本。これでは一体いつになればバスが来るのか分かりません。
 「まいったなぁ〜。こんな寂しいところで待っているのも恐いしなぁ〜。一応近くにタクシー乗場が無いか確認してみようかなぁ」
 ブツブツとつぶやきながらバス乗場を離れ、車の通りが多い道へと向かいます。
 曲がり角を曲がった先はちょうどホテルになっているようで、そのホテルの目の前にタクシー乗場はありました。が、残念ながらタクシーは止まってないようです。
「まだラッシュにかかってる時間かもしれないから、もう少し待てばタクシーも来るだろう」
 タクシー乗場を確認した僕は再びバス乗場へと戻ります。
 バスの到着時間を告げるテレビ画面はさきほどより少し変化がありましたが、あいかわらずお目当てのバスの番号はありません。
 5分が過ぎ……10分が過ぎ……一向に目当ての数字が現れないテレビを横目にタクシー乗場とバス乗場を往復する僕。バスだけではなくタクシーも一向に現れません。
 そして更に5分が過ぎ僕は一つの結論を得ます。
 それは目当てのバスの運行が今日は既に終わっていたことなのです。
 こうなると、交通手段はタクシー以外にありません。
 急いでタクシー乗場へと向かいますが、通りを走りぬける乗客を乗せたタクシーは通っても、この乗場に停まるタクシーは1台もありません。
『これはもしかしたらヤバイ状況なのじゃないか……このままタクシーを待つべきか、それとも一旦地下鉄で市街地に戻った方がいいのか……どうする?』
 考えつつも時間は容赦なくに過ぎていく。
 時計の針は7時半を回っていた。
『仕方がない。一度パリの市街地まで戻ってタクシーを拾おう!』
 そう決めて地下鉄の駅へと歩き出すことに。
 50mほど歩いた時にふと気になって後ろを振り返ると2台のタクシーがホテルの前に停まっているではないですか!
 よくみるとここまで乗客を乗せてきたらしく、車内では精算が行われている模様。
 僕は慌てて乗場へと戻り、乗客が降りたことを確認してから助手席の窓を叩きます。
「Bonsoir!(こんばんは)」
 挨拶も程々にホテルの名前と住所が書かれた紙を運転手さんに見せます。
「NOVOTEL……BOURGET?(場所はブルージェか?)」 
「Oui(そうです)」
 少し間を置いて、うなずく運転手さん。
「Merci!(ありがとう)」
 自分で後部座席のドアを開けタクシーに乗り込みます。
 やがて走り出したタクシーでホッと一息。
 タクシーは予想以上の速さで道をぶっ飛ばします。
 だいたい時速80Km以上は出ています。
 まるで映画のようです。(心の中では結構興奮していたのだ)
 徐々に見たことのある風景が目に入ってきて、ホテルに確実に近づいていることが分かります。
 ホテルのそばにあった航空博物館を過ぎ、いよいよホテルも近いというところで突然タクシーは路肩へ停車してしまいます。
『あれ?ホテルまではもう少しあったはずだけど……』
 不審に思う僕に向かっておもむろに振り返る運転手!
 目が丸くなってる僕に手を差し出し何やら話しています。
『え?もう会計なのか?まだ着いていないのに……』
 しかし、運転手さんの声によくよく耳を傾けるとホテル名と所在地を言っているようです。
 気付いた僕は乗車する時に見せた紙を手渡します。
 どうやらこの運転手さん、このホテルには初めて行くようで道がよく分からないようです。
 紙を見ながらブツブツとしゃべった後、紙を僕の方へと戻し、再び車を走らせます。
 僕は軽く息を吐き、車の行く先に目を配らせます。
 実はこのホテルまでの道は実に分かりにくいみたいなんです。
 あとから聞いた話では、同じ所を5周ぐらいされた人もいたそうです。
 でも、さすがおばさん!それに腹をたてて、チップは一切出さなかったそうです。
 それはさておき、無事僕が乗るタクシーの運転手さんはホテルへの看板を見つけ、無事ホテルへと一発で連れていってくれました。
 僕は普通よりも多少多めのチップを手渡し、メルシーを連発してタクシーを降りました。
 少し疲れた足取りでホテルへと入るとフロントで同じツアー客のおじいさんが何やら話をしているようです。何事かしらと見ていると、フロントのお姉さんが、日本人の方ですか?と英語で聞いてきます。
 こりゃトラブルだなと思った僕は、面倒うんぬんよりもせっかくの生きた英語と話せるチャンスと思い、そうですと答えフロントへ向かいました。
 おじいさんが言うにはフロントに預けたはずのホテルの鍵がないとのこと。
 つまり、おじいさんがいうルームナンバーの鍵が無いそうなのです。
 おじいさんとフロントのお姉ちゃんとの間を話していると、何かバイリンガルになったようで気持ちがいいですな。困っているおじいさんには失礼な話しだけど。
 といっても、いくら会話が出来ても見つからない部屋の鍵が出てくることもなく、みんなで困っているところにそのおじいさんの奥さんがホテルに到着。結果その奥さんが鍵を持っていたというオチだったんですが、お礼を言っていただけていい気分でした。
 とか何とかしていて部屋へ着いた時には9時前。
 たくさんのお土産をを床に下ろして、スーパーで買ってきたサンドイッチをパクつきます。
 テレビをつけ、口の中のサンドイッチをジュースで流し込みながら荷物の整理を始めます。
 2つ買ったサンドイッチはあっという間に無くなり、デザートとして買ってきたクリームブリュレをパクリ。ただそれが日本にあるようなものより全然おいしかったので、荷物をそっちのけで味わってしまいました。
 お腹もふくれ、情け容赦なしに襲ってくる眠気と戦いながら荷物の整理を行い一段落着いた頃には時計の針も11時を回っていました。
 あとはただベッドで泥のように眠るだけ……
 観光最終日はこうしてふけていきました。

1998年10月6日 旅行11日目 フランス・パリ郊外

 起床は5時半。
 いよいよ帰国の日が来てしまいました。
 最初の頃はまだ何日もあると感じていましたが、過ぎてしまえば早いもの。
 しかし、今の僕にゆっくりと感傷にひたる時間はありません。
 ツアー客の中で最後に朝食を取り終えた僕は溜りに溜まった重い荷物を引きずりというか、荷物に引きずられというか、まあ何とかバスへと乗り込みます。
 帰りの飛行機も行きと同様、イギリスのヒースロー空港から出るため一度我々はイギリスへと戻らなければいけないのです。
 空港に着いたころはまだ空は薄暗い状態。
 空港内の明りが目にまぶしいです。
 チェックインカウンターで待つこと約1時間。
 ようやく荷物を渡し、出国手続へと移ります。
 こんなに時間がかかるならその分寝かせろってんだい、とぼやきながらツアー客の列の最後尾をついていきます。出国手続を済ませた我々は少しだけもらった自由時間で最後のショッピングをすることに。僕はここで最後に残していたワインを2本購入し、何とかお土産を全て購入することが出来ました。ちなみに面白そうだったのでプレイステーションの本も買ってみたりもしました。その本は知り合いにあげたんですが、付録で付いていたCDがデモ版だったみたいで、せっかくなら遊んでみたかったとのこと。内容自体は文字は分からなかったけど面白かったとのことでした。ゲームが好きならそんなお土産もありですよ。
 重たい荷物を抱えながらの買物時間も終わり、久しぶりに通る気がする金属探知機のゲートを抜け、待合室で更に待つこと10分。ようやく搭乗手続となりました。
 こうして僕は10日間の観光を終え、帰国の途に着いたのでした。

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