ヨーロッパ編

第4章 スイス編

1998年10月2日 旅行7日目 ドイツ・ハイウェイ上

 ノイシュバンシュタイン城観光の後、バスはハイウェイに乗り一路次の国へと向かっていた。
 やがて大きな駐車場のようなところにバスは停まり、運転手が車外へと出ていく。
 日差しがまぶしかったため閉めてていたカーテンを少し開けて外を眺める。
 券売所のような検問のような、何かしらそんなものが見える。
 珍しいので写真を撮ってみる。

 ここで、添乗員さんが一言。
「今、入国の手続きをしていますから少し待っていてください」
 入国手続?
 程なくして運転手が戻ってきて、バスはまた走りはじめた。
 先程の場所には何やら警官のような人が立っている。
 あ、そうか。国境なのね。
 ということで、バスはオーストリアへと入国したわけです。
 オーストリアという国も何か芸術の国といったイメージがあっていいですね。
 しかしながら今乗っているバスから見えるのはハイウェイが窪んだところにあるせいもあって緑のみ。これでは芸術も何も分かりません。
 まあ、今回はあくまで通過国なので仕方が無いところです。
 バスがオーストリアとの国境を過ぎて20分ほどしてバスは大きく道を曲がり、別のルートに入ります。
 ここで添乗員さんがまた一言。
「もうすぐスイスの国境に着きますけど、ここはものすごく警備が厳重ですから、写真を撮ったりとかは絶対にしないでください。捕まりますよ」
 つ、捕まりますよ、なんてえらいあっさりと言ってのけてくれやがります。
 それでは仕方ない。カメラは片付けておきましょう。面倒ないざこざはゴメンです。
 しばらくして着いた場所は先程のオーストリアのと比べると地味。
 なんか映画とかに出てきそうな田舎の警察署みたいな雰囲気の事務所が二つ。
 ここで、ドイツで免税対象額以上の買い物をした人は免税の手続きをします。
 4、5人のおじちゃんおばちゃんが手に書類と買った商品を持ち、ゾロゾロと事務所の中へと消えていきます。添乗員さんも一緒に出ていったこともあってか、バスの中を静寂が包んでいます。
 ボーッと窓の外を眺めていると、警官らしき人が何やら獰猛そうな犬を連れて付近に駐車している車のそばを歩き回っています。
『お!もしかしたら麻薬のチェックしてるのかな』
 何気にみえる風景がいかにも外国っぽいんですよね。
 と、既にヨーロッパに来て1週間経っているはずの人間が感動しています。
 我ながら、お上りさんです。
 10分ほどして事務所からみなさんが戻ってきました。
 今回のツアーで一番おしゃべりなおばちゃんが戻ってきたこともあって、一気に盛り上がる車内。
 やれ事務所の中はどうだったとか、審査官の態度が気に入らないだとか、延々続く会話。
 さっきまでの静寂がウソのようです。
 というよりもこのおばちゃんがいなかったがための静寂だったのかもしれませんが。
 バスの運転手も戻ってきて、いよいよスイス入国です。
 国境のところではこわもての警官が笑顔で手を振ってくれました。
 こういう何気ない応対が外国では溢れていて大好きです。

 バスは再びハイウェイへと戻りますが、ものの数分でまた大きく道を曲がりハイウェイを降ります。
 時計を見れば1時過ぎ。
 そろそろお腹が空いてきました。
 でもスイスの都市部からは距離がありそうなところで降りてどこへいくのかしら?
 バスはやがて大きな橋にかかります。
 橋を渡り終えると大きな旗がバスを出迎えています。
「ちょうどこのバスは国境を越えました」
 添乗員さんのアナウンス。
 え?さっき国境越えたんじゃなかったっけ?
「これから昼食を取ります。お土産もここで買えますので、もう少し待っていてくださいね。ちょうど今山の上に見えるのが、この国の皇室のお城ですよ」
 皇室?
 スイスに皇室なんてあったんだっけ?
 いや、どちらにしても首都には全然遠い場所じゃないか。
 一体ここどこだ?

 さてここで問題です。
 今私がいる国はどこでしょう?

 第1ヒント 皇室があるという話の通り「公国」です
 第2ヒント スイスとオーストリアの間にあります
 第3ヒント 人造人間モンスターに名前が似てます

 正解はCMの後すぐ!チャンネルはそのままで!

 (CM中)

 さてここで問題です。
 今私がいる国はどこでしょう?

 第1ヒント 皇室があるという話の通り「公国」です
 第2ヒント スイスとオーストリアの間にあります
 第3ヒント 人造人間モンスターに名前が似てます

とテレビにありがちなCM前と同じ物を流すということをして字数をかせいでみました。
 で、正解はリヒテンシュタイン公国でしたぁ。ちなみに第3ヒントはフランケンシュタインです、ってしつこい?
 ともかく今日の昼食はリヒテンシュタインでとるようです。
 ありゃ?これじゃ細かく言ったら6ヶ国じゃなくて7ヶ国だったなぁ。
 まあ細かいことは気にしないということで……
 ところが、添乗員さんが何やらお困りのご様子。
 回りをきょろきょろとして何かを探しているのかしら?
 やがて、ありゃぁ〜といった表情でマイクを持ちます。
「バスをとめようと思って駐車場を探したら、見当たらないんですよ、駐車場が。今さっき何とか見つかったんですが、移動遊園地が設営されちゃって中に入れません。ですから、路上駐車しちゃいますんで、急いで降りてください。おまわりさんに見つかるとうるさいし」
 さすが!車をとめようと思ったら駐車場が移動遊園地で使えない、なんて日本じゃまずないですからねぇ。おかげで初めて移動遊園地を目の当たりにできましたし、僕的にはオールオッケーです。
 割と細い道の端にバスが停まり、僕たちは急いでバスを降ります。
 全員が降りたのを確認した直後にバスは出発。
 食事を終えて帰ってきた時にバスはあるんだろうか、ちいうかすかな不安を残しつつバスは一旦僕らの視界から姿を消しました。
 昼食をとるレストランはそこからすぐのところにあって、店内に入った途端トイレへとダッシュする僕。ちなみに余計な金を遣いたくない僕はトイレはホテルかレストランでしかしていません。
 トイレから戻るとちょうど飲物のオーダー中だったので、慌ててスイスビールを頼み席へ。
 オーダーとほぼ入れ代わりで前菜が運ばれてきました。
 10月2日の昼食のメニューです。
 前菜はお馴染みのスープ。ここはまだドイツから近いこともあってポタージュスープでした。
 塩辛さはほとんどなかったので、軽く飲めました。でも、甘さという物もほとんど無いので、少し日本の甘いポタージュスープを思い出しちゃいましたね。
 メインディッシュはラザニア。

 なのですが、普通ラザニアといえばパスタとパスタの間にはミートソースっていうのが僕の中での常識だったのですが、このラザニアの中には肉が全く入っていない!
 間にはミート抜きのソースとニンジンやセロリといった野菜類。
 ミートソースの味を期待して食べたため肩透かしを食らったわけですが、よくよく味わってみるとなかなかイケます。見かけ以上にあっさりとしていて、こっちもさらった食べてしまいました。
 おかげでビールもスイスイ喉を通る始末。ここんとこ毎日昼晩、ビールを飲んでいるせいかますますビールに対しての免疫が強くなったみたい。
 あ〜、もう私はビールで酔うことはできないのねぇ〜。でも、おいしいからいいや。
 デザートは何てことない普通のアイスクリーム。
 料理の印象がどこの国も強いから、デザートに印象はものすごく薄くなってしまいます。
 もう少し、特色のあるデザートでも出てくれればいいんだけどね。

 食事が終わりレストランを出た我々はバスを降りた場所へと戻ります。
 目の前の道は結構細いのに車の往来も多く、ゴミゴミした感じ。
 余談ですが、ここでも工事してました。
 目の前の山の上には先程説明のあったお城もみえます。

 天気は曇りで気温はドイツとは変わらないといったところ。
 日本から見れば少し肌寒いかな?
 しばらく行くと結構大きい土産物屋さんが見えてきました。
 よく見ると近くにはバスも停まっています。
 どうやらライン河の二の舞は踏まずに済んだようです。
 ここで1時間お土産を買う時間を与えられた僕たちは各々好みの土産物を買いに出かけます。
 僕は目の前の大きな土産物屋よりも先に隣にある貴金属店に入ることにしました。
 何せ、スイスといえば時計ですからね。見ないわけにはいかないでしょ。買う買わないは別として……
 店内はそんなに広くはないのですがちゃんと両替所もあります。
 ここで、残ったドイツマルクをスイスフランへと両替します。
 両替を済ましたところで色々と店内を物色。
 しかし、欲しい時計はやっぱしスイスでも高い!って当たり前か。
 ちなみにものすごく興味の沸いたOMEGAの時計が60万円!
 パソコンフルセット買えてお釣りが来る、値段に手が出るはずもなく、ただブラブラする私。
 でも、そろそろいい加減に土産を買いはじめないことにはまずいしなぁ……でもここ高いし……
 ブツブツと独り言を唱えつつ、隣の大きな土産物屋に行くことに。
 中はありとあらゆる土産物が並べられ実にごちゃごちゃした感じ。
 その中でもとりわけ観光客の注目を浴びていたのはもう一つのスイス名物であるところの生チョコレート。生といってもどの辺が生なのかは分かりませんが、試食させてくれるようなので、頂ける物は頂いときましょう。
 パクッ。おお、まったりとしてそれでいてしつこくなく、舌の上でとろける触感と……などといかにもな感想を言ってみたりして。
 まあ、ともかくおいしいことにかわりはないです。
 取り敢えずこれ買っとけばみんなに文句は言われまい。
 ということで、何種類かのチョコを買う買う!
 結果ここで友人のお土産の8割までは完了してしまったのでありやした。実に極端なやつです。
 しかし、単価がどうしても安いため(安いといっても日本円にすれば1500円以上するから、決して合計金額は安くない)免税額までは行かず、高い消費税とともに購入することになってしまいました。我ながら買物下手かも……
 そんなことをしているうちに自由時間も終了。
 再びバス移動となります。
 バスは先程通った道を戻り、国境となっている橋を越え、ハイウェイへと。
 今日の最終目的地は森と湖で有名なスイスのルツェルン。
 ハイウェイを走るバスから眺める景色もどことなくスイス風。
 広い野原には牛なんかがのんびりと草を食べています。
 どことなく見覚えがあるような雰囲気がするこの辺りは、あの有名なお話「アルプスの少女ハイジ」の原作者が住んでいた地域だそうです。
 言われてみればああなるほどといった感じ。写真とは反対側にみえた街はクララが住んでいたような街でしたし。
 その後バスが走ること3時間。シラーホテルへと到着。
 このホテル、ロビーがものすごく狭いもんだから僕たちのツアー客で既に大混雑。
 添乗員さんが部屋の鍵を受け取る間、一端外へ出てホテルの写真を撮ってみることに。
 ファインダーを覗くと上の方のベランダに人影が見えます。
 よくよく見てみると女性が二人、ベランダへ出ているようです。
 こっちのカメラに気付いたのか、手を振ってくれたので、写真を撮った後、笑顔で手を振り返します。ツアーがなければ部屋に遊びに行って、一夜のアバンチュールなんてことも楽しいのに……などとできもしない妄想をしながら、再びロビーへと。まだフロントで話をしている添乗員さんを横目に先程撮った写真を確認。ありゃりゃ、大ピンぼけ。女性の手を振ることに気をとられてしまったのが敗因のようです。やっぱし、女性にウブな僕ですから……あ、イテ、石投げないで、ゴ、ゴメンナサイ、嘘ついてました。単に腕が悪かっただけです、ハイ。
 さてさて、やっとこさ受け取った鍵を手にエレベーターに乗ろうとする私達。
 ところがこのエレベーターがまたちっちゃい!
 おまけに階段まではバーを通らなきゃいけないため荷物が運べない。
 仕方がないので、エレベーターの順番待ち。
 だいたい3人しか乗れないエレベーターって何よ!ホテルのくせにぃ!!
 どうしても年配の方々に譲る形となる僕はやっぱし最後にエレベーターへ。
 スーツケースをえっちらおっちらエレベーターに詰め込み、上の階へ。
 やがて目的の階に着いたがドアが開かない。
 アレ?と思っている時に突然、もたれていたスーツケースが動き出してバランスを崩す私。
 何と入るところとは反対側のドアが開いたのです。
 転倒こそまぬがれたものの、エレベーターからおっとっとと出てくる様は結構恥ずかしいものではないでしょうか。見ている人がいなかったのが幸いです。
 さすが、外国。油断も隙もないですな、って使い方違う?
 ホテルに着くのが割と遅かったのと、フロントで少し時間がかかったため、すぐ夕食の時間です。
 先程乗ったエレベーターに乗り、レストランへ。
 10月2日夕食のメニューです。
 まず前菜はおなじみのスープですが、久しぶりにポタージュではない野菜スープでした。味は普通。
 メインディッシュはビーフシチュー。

 これも特別味が良かったという印象はあまりなかったかな?
 うちで作るビーフシチューの方がおいしかった気もする……って僕の作るビーフシチュー結構いけるのよ。食べさせてあげられないのが残念だけど。
 アイスクリームのデザートを食べ終えた僕は、外へ出てみることにしました。
 というのも、添乗員さんに近くに趣のある橋があるという話を聞いたからなのです。
 外へ出てみるともう完全な夜。
 寒さに肩をすくめて、道を歩きます。
 5分ほど歩いたところに目的の物はありました。
 橋は木製で川に斜めにかかっています。
 川を見ると水はものすごく澄んでいて、白鳥が泳いでいます。
 橋には屋根がついていて、絵が釣り下げられています。
 その絵はこの都市の歴史が描かれているようで、およそ5〜60枚程の大作となっていました。
 ただ、文字が読めないので内容に関してはさっぱり分かりません。
 ホテルへの帰り道、電話ボックスを発見。
 電話の形がどんな風になっているか気になった僕は中を見ることに。
 すると電話の横に何やら見慣れない機械が。

 何かの端末のような機械をディスプレイを見ながら操作してみるとこれが電話帳であることを判明!キーボードを使っての検索は本に比べて格段に使い易く、日本でも導入してもらえないかなと真剣に思いましたよ。
 ホテルの帰ったのは夜も10時過ぎ。
 これだけでもここがかなり治安のいい地域だというのが分かるのではないでしょうか。
 軽くシャワーを浴び、明日の準備をしてベッドにもぐりこみました。
 明日はいよいよアルプスの山々が待っています……11時半就寝。

1998年10月3日 旅行8日目 スイス・ルツェルン

 6時半起床。
 さすがに朝はかなり冷え込んできました。
 パンとコーヒーだけのシンプルな朝食を、ドイツの方が良かったと思いながらとっとととり、荷物を抱えていつものバスへ。
 今日も天気は悪く、小雨がぱらつく山登りとしては最悪の状態。
 山登りといっても登山列車を使うので、体力的なことは気にしなくてもいいのだが、やはり天気が悪いと景色が見えなくなってしまう。せっかくだからスカッと晴れてもらいたいものだが……。
 バスから眺める景色は実にきれい。山の上もこうならばいいんだけど……
 しかし残念ながら雨さえも上がらず駅に到着。

 登山電車が到着するまで30分。
 昼食までは時間もあるということなので売店でチョコレートを購入。
やがて列車がホームへと到着。
 列車に乗車し席に座る。
 この車両はツアー貸し切りなのでイスの数が足りなくなることはない。

 というよりも登山列車で立って乗るというのはかなり厳しいものがあるか。  車内でパンフレットを広げて場所を確認。今いる地点の標高は約700m。これから登るユングフラウヨッホという所の標高は約3700m。ほぼ富士山と同じ高さというんだから、ちょっとドキドキ。なにせそんなに高いところに登ったことなんぞないからね。
 一度のりかえをして、山を登っていくのですがお空は相変わらずよくない。
 おまけに上に行けば行くほど雲の中に入る形になってしまって、回りは真っ白。
 途中2度ほど景色を見るためだけにある駅で止まるのですがそこから見えるのも真っ白い霧だけ。
 まったくついてないものです。
 そのうち車内でおばちゃんが一人気分が悪くなりはじめ、ちょっとしたパニックに。
 いわゆる高山病というやつで、かなり気分は悪そう。
 かといって上に登る以外道はなく、回りの皆さんも心配そう。
 え?僕の感想?
 僕は天気が心配。
 薄情というなかれ。同情したところで体調はよくならないのだ。
 下手に大丈夫とかまう方が相手の体調を崩す時だってある。
 そんなこんなで終点へと到着。
 気温氷点下8度。はっきり言って寒い。
 しかし駅といっても出発駅のように外にあるわけではなく、すべて山の中にあるため風がほとんどない。その分体感温度は多少はマシだとは思うが、それでも寒いことにかわりはない。
 ここで体調を崩したおばちゃんは暖かい飲み物を飲みながら横になってお休み。  一人だけ先に降りるわけにもいかないしね。
 ここでの自由時間も1時間。
 そこで僕は氷の神殿とやらに行くことにしました。
 氷の神殿はその名の通り氷で出来た建物というか、何というか、つまり回りが全部氷なのよ。

 床も天井も壁も全部氷。見渡す限り全部氷。氷、氷、氷。そんなところです。
 中は確かに寒い事は寒いんだけど、肌を差すような冷たさはないんでそんなに辛いということはない。ただ足元がものすごく滑りやすいのでそこにだけは神経を集中させていなくちゃダメ。それがちょっと疲れるかな?
 中には氷の彫刻が至る所に置いてあるぐらいは、他に見るところもなくちょっと期待外れの感も強い場所でした。


 そんな氷の神殿も出口に近づいた頃、何やら遠くに明るい光が見えます。
 そちらへと歩みを進めていくとそこは何と外!
 雪が舞い散る山の上でした。

 雪こそ降っているもののそんなに天気は悪くなく、意外と遠くまで眺めることができます。
 ここがこのぐらいの景色なら頂上はどれぐらいスゴイのだろうと期待感も増します。  ただ、ここでこの雪なのだから、頂上はどれほどのことになっているかという不安もありましたが……。
 メインホールに戻ってきた僕はある物を発見。

 これは正真正銘スイスの山の上で撮った物であって日本で撮った物でありません。
 ここには世界で一番高いところにある郵便局があって、手紙を出すことも出来るんです。
 で、日本人観光客がものすごく多いため、日本人専用としておいてあるんです。
 ちなみに他の国もポストはなかったです。どれだけ日本人が多いかということが分かりますね。
 次はいよいよ山頂へと登ります。
 といっても使うのはエレベーターなんですけどね。
 売店で買ったチョコレートをパクつきながら、歩くこと約5分。
 お目当てのエレベーターを発見。
 ここから一気に山頂へと登ります。
 ちなみにこのエレベーター登るのがものすごく早くて、サンシャイン60のエレベーターを思い出しました。
 山頂に向かうエレベーターの中ではただ祈るだけでした。
 そう、先程よりも雪が降っておらず、景色が見えます様に……と。
 しかしそんな心配も山頂で吹き飛ぶことになります。
 あまりに天気が悪かったため雲がかなり下の方に降りていたのが幸い、山頂はカンカン照りだったのでした。でも強い日差しがまぶしすぎたってのはありましたけど。
 景色は本当に最高の一言!アルプス特有の尖った山並みが雪を蓄え連なっています。
 自由時間も無くなってきたので、後ろ髪を引かれる思いで下りのエレベーターに乗車。
 そのエレベーターはアメリカ人と思われる若い集団と一緒。
 すごい速さで降りていくエレベーターに「Wow!」「FreeFall!!」と絶叫の嵐。
 気持ちは分かったから少し黙ってくれ……エレベーターが下に着き、大盛り上がりで歩いて行くその集団を見ながら、陽気すぎだよ……と愚痴る僕でした。
 再び電車に乗るために歩いていると、可愛い犬を発見。
 さすが寒いところにいる犬。毛が普通の犬よりゴワゴワした感じがあって暖かそう。
 よくテレビとかで見る犬ゾリの犬って感じでしたね。
 さて、電車に乗り行きでのりかえをした駅まで戻ってまいりました。
 今日の昼食はここにあるレストランです。
 10月3日の昼食メニュー! 
 前菜は暖かいスープ。寒い時には本当に体が暖まります。
 そのとき謎の一団が現れ、何やら紙を配りはじめます。
「この人達は今日乗った登山列車に関するアンケートに答えて欲しいそうです。強制ではありませんが、答えてくれた人には1ドリンクをサービスしてくれるそうです」
 と、添乗員さん。
 おお、1ドリンクサービスとな!
 それなら答えてあげないこともないですぞ。わたしゃ現金なやつですから。
 配られたアンケート用紙は小冊子のようになっていて、一緒に配られたボールペンを片手にアンケートの回答をしはじめます。
 ところがこのアンケートやたら設問数が多い上に質問文が無駄に長い!
 何せ12、3ページもだらだらと小さい文字で質問が続いているのです。
 何とか書き上げたころには、同じテーブルの皆さんはほとんどメインディッシュを食べ終えていました。
 というわけでメインディッシュはスイスの旗が可愛いハンバーグ。

 一仕事を終えた後の飯もまたうまいですな。まあ、仕事といってもアンケートだけど。
 帰りは行きとは違う方面の電車に乗ることになっていて、その出発時刻までは20分ほどあるとのこと。食事を終えた僕は一旦レストランを出てみることに。
 しかし、外に出た途端情け容赦ない雪の攻撃が始まります。
 そう、外は大雪になっていたのでした。
 寒さもさっきより増しているようです。
 しばらくの間、そんな雪をボーッと眺めていた僕ですが、鼻水が垂れてきたので慌てて近くにあった売店に飛び込みます。
 少し観光客で込み合った売店の中で暖を取っていると、電車が駅へと入ってきました。
 雪を避けるように電車に飛び乗り、やがて電車はゆっくりと山を下りはじめます。
 山を下るにつれ、雪は雨へと変わり、駅に到着したころには雨も上がっていました。
 距離に変えればたかだか1、2Kmであっても天気は全然違うわけです。
 とはいっても空は相変わらず灰色の雲が垂れ込めています。
 降りた駅でバスに乗り、今日の最終目的地であるジュネーブへと向かいます。
 ジュネーブへもハイウェイを使っての道。
 しかも時間がかかるとなれば、いつもの通りお休みタイム。

 目が覚めたのは夕方の5時半ぐらい。
 外を眺めると大きな湖が目に飛び込んできました。

 相変わらず天気は良くないですが、太陽の日も差しているあたりを見ると少しは天気がよくなったのでしょうか?
 湖は奥行きこそあまりないですが、幅がものすごく長い。
 バスで何十分と走っているにもかかわらず、一向に湖の端に着く気配がありません。
 このやたら横に伸びた湖がレマン湖だそうです。
 このままこの湖はジュネーブまで伸びているとのことでした。
 そんな湖をただ眺めること約1時間。
 やがてバスは市街地へと入ります。
 色々な機関の本部があるジュネーブらしく、どことなく威厳を漂わせる建物が至る所に見受けられます。
 やがてバスは再び湖沿いの道へと入ります。
 そして、目に飛び込んできたのがコレ。

 これ、実は噴水。
 噴水というと公園なんかにある水がチョロチョロ出てるイメージがありますが、これだって水が噴き出しているわけですから、立派な噴水ですね。立派すぎるという話もありますが。そんな噴水がよく見える公園で一度バスが停まります。
 そこで、先程の噴水を違う角度から写真をもう1枚。
 撮った角度は90度以上違うのに同じように水が落ちてみえるのはなぜだろう?
 もう一つ疑問に思ったのが、近くにあった花時計。
 時計の国スイスの癖にこんなにもなぜ時間が違うのだろう?

 あと、僕の時計を見てお分かりの通り、今の時間は7時。
 にも関わらずこの明るさ。
 気温はそんなにも高くないのに夏のような日照時間。
 今が一体いつなのかはっきりいって訳分からなくなりますです。
 もひとつ、気になったのは至るところでスイスの国旗が目に入ること。
 まあたいしたことはないんですけどね……。

 バスは市街地を少し離れ、飛行機を使うわけでもないのに空港の方へと向かいます。
 なぜなら今晩泊るホテルはその名も「エアポートホテル」。
 よって空港へと向かうわけなのですね。
 着いたホテルは少し変わった作りになっていてほぼ円形になっているんです。
 フロントのあるロビーからぐるっと円形に部屋があって、ちょうど中心部分がレストランという構造。だから、ロビーとほぼ反対側の部屋となると結構歩く羽目になってしまうのがちと難点。
 まあ、昨日みたいな小さなエレベーターで四苦八苦することがない分、マシとしましょう。
 ホテルに着いたのが8時頃だったので昨日と同様にすぐ食事となりました。
 さてさて、スイスの名物料理といったら何を連想されますでしょうか?
 やっぱし、スイスといえば「フォンデュ」ですよねぇ。
 フォンデュの中でも有名なのといえば「チーズフォンデュ」と「ミートフォンデュ」。
 チーズフォンデュはおいしいですけど、今回のツアー客の事を考えるとさすがに無理。
 という経緯かどうかは謎として、今晩のメニューはミートフォンデュです!

 ミートフォンデュを知らない方のために簡単な説明を。
 肉を自分で揚げる。以上!
 え?簡単すぎる?だって、実際にそうだもの。
 まあもう少し細かくいうと、角切りにされた牛肉をチーズフォンデュでも使う串に刺して、油の中へと入れます。自分の好きな頃合で出して、ソースにつけて頂くというわけです。
 3種類あるソースはマヨネーズとサウザンソースとタルタルソース。
 でも1番おいしかったのがシンプルな塩コショウとおばちゃんがこっそり持ってきた醤油だったりする辺りやっぱし僕は根っからの日本人です。
 そういえば、ドイツ以降はノンガス、つまり炭酸抜きのミネラルウォーターがないんです。
 場所によってはフランスから輸入したミネラルウォーターを置いているところもありますが、基本的になし。僕はビール飲んでるんで全然問題ないんですけど、お酒を飲めない人は苦労してましたね。こってりとした食事にジュースはあまりあいませんからね。それに何よりガス入りのミネラルウォーターは癖がありすぎてまず飲めないし。水は貴重ですよ。
 食事を済ませ部屋へと戻った僕はいつもの通り、さっさとシャワーを浴び、さっさと着替え、ベッドへともぐりこみます。
 長かった旅行もいよいよ明日行くフランスが最後の国。
 寂しさを少し感じつつ、11時半就寝。

1998年10月4日 旅行9日目 スイス・ジュネーブ

 起床6時。
 昨日よりも寒く感じる朝。
 大分慣れてきたパンとコーヒーというシンプルな朝食を採り、荷物をまとめる。
 今まで飛行機、バス、船と使ってきた今回の旅行。
 今日使う交通鵜手段は列車である。
 ここスイスのジュネーブとフランスのリヨンとを結ぶ高速列車「TGV」。
 それが今日の移動手段だ。
 バスで揺られること約1時間。
 5日間お世話になったバスとも今日でお別れ。
 荷物は既に列車へと運ばれ始まっています。
 バスが停まったところは駅のちょうど裏手にあたるせいもあって、駅の外観はよく分からない。
 バスを降り、重い荷物を抱え、(スーツケースは運んでもらっても自分で買った土産物は鞄の中にある状態なのです)切符の販売所へ。

 ここで添乗員さんが切符を買ってくる間にフランスフランへの両替をしておくことに。
 同じフランと名が付いても、スイスとフランスでは日本円にすると100円以上もレートが違う。
 こうやって、ますます私も含めて旅行者の方々は金銭感覚を失い、日本に帰ってきて予想以上の出費に肝を冷やすのでしょうな。
 添乗員さんより切符を受け取り、いよいよ列車の待つホームへ……とその前に、我々が通らなければいけない道があります。それは、国境。
 スイスはECに加盟していませんから、国境を越える際にはパスポートの提示が必要となります。
 ちなみに入ってくる時のバスで提示が必要なかったのは、日本人の観光バスだったからだそうです。これが他の国のバスだったりすると一人一人パスポートを国境で提示しなければいけなかったみたいです。まあ、日本人は顔パスということなんですね。
 でも列車じゃ多国籍の人と一緒に乗るわけになりますから、パスポートの提示が必要になるというわけ。
 とはいっても、列車の中でパスポートを拝見している暇が車掌さんにはありません。  そこで便宜上の国境が駅の構内にあるのです。
 なにやら細い通路へと連れていかれ、しばらく歩いていくと左手におまわりさんのような人が。
 そうやらこの人が国境の警備員のようです。
 その警備員にパスポートを見せ(スタンプは乗客が多いためかナシ)更に細い通路を進むと、やがて地面に一本の赤い線が引かれています。
 つまり、これが便宜上の国境。
 これを越えた瞬間、僕らはスイスにいながらフランスにいるという奇妙な存在となったのです。
 そして長かった旅行も終わりが近づいてきたのでありました。

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