ACT.105 生の迫力 (2001.08.29)

 ひょんなことからTUBEのライブに行けることになった。
 私のTUBEとの出会いは、TUBEのデビューの年までさかのぼるから16年ほど前になる。
 当時はレンタルレコード屋が最盛期の時代で、ようやくCDが発表されたぐらいである。
 私がTUBEを知るきっかけになったのはとあるCMで流れていたTUBEのデビュー曲「ベストセラー・サマー」を耳にしたことだ。
 当時の私にはファンだといえるアーティストがほとんどおらず(安全地帯とTM NETWORKぐらいだった)、その新人バンドの音、何よりもボーカル前田亘輝の声に惹かれ、すぐさまファーストアルバムである「ハート・オブ・サマー」をレンタルした。(当時の私はレコードを買うという気持ちはあまり持っていなかった。さほど音源に執着感がなかったのだと思う)
 こうしてTUBEにはまった私はしばらく新譜が出るとレコードを借りて、カセットで聞くという日々が続く。
 やがてレコードからCDの時代に変わり、就職をし、多少金銭的に余裕が出来た私は一気に過去の作品も含めてCDを買い漁り始める。
 この間に6、7年あるわけだが、この間に一度もライブに行ってみたいという気持ちにはならなかった。理由は2つあると思う。1つは、当時の私はアーティスト嗜好ではなく、楽曲嗜好だったこと。そして楽曲嗜好であるがゆえに、観客の声などでせっかくの曲をちゃんと聞けないことだ。だから、当時の私はライブ盤を聞いていなかったし、ライブビデオにも興味がなかった。
 そんな私がライブに初めて興味を持ったのは、TUBE結成10周年時に、私の地元香川に野外ライブで来た時のことだ。今までホールツアーで来たことはあっても、野外で来るのは初めてのことだったし、日本全国で10ヶ所しかしない内の1ヶ所に地元が選ばれたことが少なからずうれしかった。しかし、だからこそチケットの入手は困難で、あっという間にソールドアウトとなってしまった。そこで私は数ヶ月後に発売されたそのライブツアーの様子を撮られたライブビデオを買った。これが私のライブとの接点の始まりといえるだろう。そしてそのビデオでライブにはライブなりの音楽の楽しみ方があるのだと知ったのである。
 しかし、ファンクラブなどにも入会していない私にチケットを手に入れる機会はほとんどなく、というよりも自分で手に入れる努力もしていなかったのだが、実際にライブには行くことなく更に数年の月日が流れていった。

 2001年8月20日、そんな私の元に突然メールが届けられた。
 それは熱狂的なTUBEファンである会社の同僚からのコンサートのお誘いメールであった。私はすぐさまその話に飛びついた。こうして私の初ライブのきっかけは思いがけずやってきたのであった。
 ライブ2日前にメールが送られてきた辺り、同僚もあせっていたのであろう。理由は分からないが、私的にはオールOKである。
 ところが1つだけ気になることがあった。それは台風11号の存在であった。
 台風11号は数日前に日本に近づいてきた大型台風で、その勢力の強さと動きの遅さが特徴だった。20日現在では四国南岸におり、予想では22日の夕方には東北地方の太平洋側に抜けているだろうと予測されていた。それならば、多少雨は残るかもしれないがライブは出来る。濡れるのは嫌だが、せっかくの機会であるしそれもありだろうと考えていた。ところが、台風は予測に反してその速度を上げなかった。21日時点の予想では22日夕方には東北地方にいるとの予測。まあ、それでも何とかなるかといった程度だ。しかし、一向に速度を上げない台風は、ついに22日当日朝の予想で夕方に関東地方直撃という最悪の予報を出してきた。これを聞いた私はすぐさま同僚に連絡し、ライブが行われるのか主催者側に確認を取ってもらう事にした。結果は翌日に延期。私を誘ってくれた同僚は翌日は行けないとのことなので、私がチケットを買い取ることにした。せっかくのチャンス、こんなことでみすみす逃してはたまらなかったのだ。と、これだけ我々を慌てふためかせた台風であったが、昼過ぎには一気に勢力が弱まり、4時には関東を通り過ぎてしまった。結果的にライブが出来る天候に落ち着いてしまったのが、いまさら後の祭である。
 翌、22日。私は朝から気分が高揚していた。もう遠足前の小学生状態だ。
 あらかじめお願いしていた時刻にとっとと早退し関内駅へ向かう。駅はものすごい人手でごった返していた。このほとんどがライブに向かう人なのだ。さすがスタジアムライブともなると規模が違う。
 私は開演15分前に入場した。同僚からもらったチケットの座席を見ると1塁側スタンドの3列目とある。
 今回のライブでは、バックスクリーン側にステージが立てられており、内野グラウンドがアリーナ席であとは1、3塁側スタンド、バックスタンドが座席になっている。
 で、さっそく1塁側スタンドに出た私はグラウンドの方面に向かって歩き出した。そして、目当ての3列目で自分の座席番号を探す。しかしどういうわけか、私の座席番号を含む10番分ほど、欠番となっている。どういうわけだと辺りを見まわすと、遥か視線の上の方に目当ての番号のいすがあるのを見つけた。どうやらグラウンド寄りと、上側で番号を交互にふっているようなのだ。というわけで私の席はチケット上では3列目であったが、実際は23列目だったのである。おかげでステージに立つ人の姿は確認できても、顔は全然確認できない。ただ、上側の座席のほうがグラウンド寄りの座席に比べて傾斜が高いため、前の人の頭や姿などを気にせずに、コンサートに集中できるという点ではよかったのではないかと思う。まあ、つまり微妙な席だったわけだ。
 私が席に座ったのは開演予定の午後6時5分前。
 この時点ではまだぱらぱらと空席があり、やはり急に翌日に延期になった影響が出ているのかと思ったが、実際に開演された6時15分にはほとんどの席が埋め尽くされていた。ファンはこんなことではめげないのである。ただ、私の席の隣と前は最後まで空席であったので、余裕を持って声援できたのはラッキーであった。
 ライブレポートは別にまとめてあるので、この後の文章の意味がよく分かるためにも、先に読んでみていただければと思う。

 ライブレポート

 それにしても生の迫力はすごい。
 一体何回鳥肌が立ったか分からないぐらい、前田氏のボーカルに圧倒された。
 そして皆で腕を振り上げたり、両手を振ることの何と楽しいことか。今まで客観的に見て、何が楽しんだと感じていたのだが、実際にやってみると、他の観客との一体感を感じられて非常に楽しいのだ。この時は、恥ずかしいだとかそういうのを全て捨てて、頭を空っぽにして楽しむのが1番いい。何よりも、実際に一体になっているのを見ると、その迫力には感動さえ覚える。嗚呼、これがライブなんだな、と心底感じた瞬間であった。
 笑いあり、涙ありの感動の3時間は本当にあっという間に終わってしまい、まるで真夏の夜の夢を見ていたかのような感じであった。
 ライブを見終え、横浜スタジアムの外に出ても、まだ体や心の興奮を覚めておらず、無重力空間をふわふわと漂っているかのように心地よい。
 ライブに行くことで、ますますTUBEというグループが好きになったし、TUBEの見たことのない顔を見ることも出来た。そして、普段なんとなく聞いていただけの楽曲の持つパワーも体感できた。私はライブを否定していたころの自分を恥ずかしく思いながらも、こうして新しい視点を見つけることが出来た喜びを噛み締めながら駅までの人の流れに身を任せた。
 来年も必ず行くぞという決意を胸に。

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