ACT.69 おにぎりにマヨネーズ (2000.01.26)

 コンビニの棚でそれを発見したときの私の感想は、「遂にやってしまったか……」であった。
 その元凶はマヨネーズである。
 卵と油と酢から精製される調味料であるところのマヨネーズだ。
 さて、このマヨネーズであるがこの調味料ほど人の好みがハッキリ出るのも珍しいのではないだろうか。
 つまり、好きな人はチューブの口からそのまま吸ってもおいしい!って言うぐらい好きなのに、嫌いな人はほんの少しでも食べたくはない、こんなもん人の食いもんじゃねぇ!と居酒屋のサラダで大暴れするほど嫌いなのだ。って、それは俺の友人である。
 これが他の調味料となるとここまでハッキリと好き嫌いの差の出るものはないだろう。
 醤油が嫌いだなんていう日本人はいないだろうし、というよりもそんなやつは日本人じゃない。決定。ソースが嫌いだという人間もあまり聞かないな。ケチャップはたまに苦手な人がいるというのを聞いたことがある。トマト嫌いの人はケチャップも嫌いというのもあるだろう。別にそれは構わない。原材料が嫌いという明確な理由があるのだから。
 ところがマヨネーズが嫌いという人の理由は原材料には全く関係ない。あ、卵アレルギーがどうこうでってのは別ね。そんなの好き嫌い以前の問題だから。
 ここまで書いておいて何だが、実は私も幼少の頃はマヨネーズが嫌いで嫌いで仕方がなかった。あの、何とも形容のしがたい味、そして中途半端な油っこさ、どこを見ても好きになれる箇所は見当たらなかった。タルタルソースも嫌いだった。わーい、わーい、今日のご飯はカキフライだぁ!って、てめぇ!何だ横の白いグチャグチャしたソースはよぉ!こんなもん食えるかぁ!!と家庭内暴力も辞さないほど嫌いであった。まあ、それ以前に当時はカキフライも嫌いだったのだが。
 そんな私が今では平気でマヨネーズを食せるよう担ったのには当然訳がある。あれは中学生の頃だったと記憶している。今ではもうなくなってしまったが、父にとあるタコ焼き屋さんへと連れていってもらった。そこはよくある持ち帰り専門の店ではなくて、店内で食べさせてくれるタイプの店だった。そこはバーカウンターなんかもあったりして、タコ焼き屋のくせに変にこじゃれた趣のある店だった。でも、父親はそこで酒しか飲んでいなかったから本職はタコ焼き屋じゃなかったのかもしれない。それはともかく、そこで私は初めて手作りのマヨネーズというものに出会ったのだ。市販のものに比べ、黄色が強く、まるで泡立てた直後のホイップクリームのような弾力を兼ね備えたそれを見た瞬間は、まさかそれが忌まわしきマヨネーズだとは露とも思わなかった。その色加減から、カラシか何かを混ぜたソースだと思っていたのだ。そして、そのソースにタコ焼きをつけて食べた瞬間、全身に鳥肌が立った。いや、全身に立ったら気持ち悪いな、腕だけぐらいにしておく。ともかく立った。食べた後でもそのソースがマヨネーズであることにはまったく気付かなかった。私がおいしそうに食べているのを見て父親が驚きながら「お前、いつからマヨネーズ平気になったんだ?」と問いかけられるまで、私は恍惚の表情でタコ焼きを頬張っていたのである。って、それはそれで気持ち悪いやつだが。
 その正体を知り私は驚愕した。これがマヨネーズなの?と店主の首に掴み掛かり、前後にゆすること約12回。そのままチョークスリーパーに移行してギブアップ勝ちであった。そんなわけはない。ともかく、その衝撃以来、私のマヨネーズ嫌いは一気に直ってしまった。妙なもので市販のものでさえ平気になってしまったのだから、その衝撃は推して知るべし。
 さてさて、このマヨネーズであるが意外といろいろなものと相性がいいのは広く知られていることである。溶き卵にマヨネーズを加えてから卵焼きを作るとふっくらと仕上がるし、スルメには醤油マヨネーズとの相性がいい。他にもケチャップと混ぜてもいいし、ソースとの相性のよさはお好み焼きで広く親しまれていることからもお分かりのはずだ。
 ここでようやく本題に入る。いつもに増して前置きが長くなってしまったので忘れておられる方もいるかもしれない。そんなあなたのためにもう一度。
 コンビニの棚でそれを発見したときの私の感想は、「遂にやってしまったか……」であった。
 これはおにぎりのことである。
 おにぎりの中にはマヨネーズを使っているものも少なくない。一番有名なのはシーチキンマヨネーズではないだろうか。このシーチキンとマヨネーズの相性はもうグンバツである。冷蔵庫の中には何もない状態で、戸棚にシーチキンの缶詰を見つけちゃったりすると砂漠でオアシスに出会えたかのような幸福感に包まれる。缶詰を開け、おもむろにそこにマヨネーズを搾り出す。後はフォークでもお箸ででも好きなだけ混ぜ食す。これを幸せといわずして何を幸せというのか。我ながら簡単な男である。
 他には鶏そぼろからしマヨネーズなんてものもある。これも私は好きだ。あと最近はあまり見かけないがカニマヨやエビマヨなどもある。これらのマヨネーズ関係の具にはある共通点がある。それは、具単体では少々味が薄いという点である。シーチキンもエビもカニも鶏そぼろ(醤油で甘く煮付けたものは除く)も味こそあれ、ご飯のおかずとしてはやや力不足だというのがお分かりだろう。
 いよいよ本題だ。って、本当に前置き長いな。今回見つけたおにぎりの具はなんと「昆布マヨネーズ」であった。よりによって昆布にマヨネーズである。昆布単体でも十分おにぎりの具として成り立つにも関わらずマヨネーズなのである。
 嗚呼、遂におにぎりの具もネタが尽きてきたのであるなと、涙をこらえながら購入したのであるが、食べた感想を一つ。結構イケるな。ってやっぱりそんなオチか。やたらと長い前置きを無駄にしやがって。

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