ACT.38 滅び行く常識 (1999.09.03)

 昨晩、仕事からの帰りにいつも行くコンビニへと立ち寄った。ビールの蓄えが乏しくなってきたからだ。私はスーパードライ派なのだがたまには違うのでも飲もうかとあれこれと吟味をしていたのである。ラガーは苦味があっておいしいんだけど量飲めないしなぁ、一番搾りもうまいのは最初の2口ぐらいまでだしなぁ、ヱビスは好きなんだけど少々高いのが気になるしなぁ、お!新製品が出ているではないか、「五穀の恵み」とな、でもこれ発砲酒ではないか。発砲酒は安いんだけど、どうしても味的に見ると弱いんだよなぁ。カロリーが気になるからラガースペシャルライトでも飲もうか、でもなぁ……などとガラスケースの前でブツブツ言っている姿は傍から見ればただのおかしな人である。しかし、仕方がないのだ。私は優柔不断なのである。考え出したら止まらないのだ。
 そんな時、ふと横から誰かが現れ私が見ていた隣のガラスケースを開けると何やらチューハイの缶を手にして乱暴にドアを閉めた。何を慌てているのかとその後ろ姿を見てみると何とセーラー服。おいおい、制服を来て酒を買うとはいくらなんでもまずいだろ。レジの兄ちゃん、ちょっと言ってあげなさい、っておいおい何売ってるんだよ。どう見ても親父の使いをしているような感じではないだろ。袋もいらないって言ってるじゃないか。明らかに自分で飲もうとしてるんだぞ。あらら、行っちゃったよ。もうどういうことだ、これは!明らかに20歳未満と分かる格好のやつに売りつけるのは間違いであろうに。私がレンタルビデオ店に勤務していた時には、高校生にアダルトビデオは貸していなかったぞ。私服の18歳の子は大目に見てあげたが。とりあえず、そういう社会のルールっつーもんはきちんと教えてやるのが我ら大人の役目ではないのか。と、腹を立てながら結局スーパードライを買って店を後にした私であった。
 まあ、ここまで目くじらを立てて怒るほどのことではないのかもしれない。しかし、一応法律でも20歳未満の喫煙、飲酒は禁止されている以上、堂々と私は違法行為を行っていますという態度は誉められたものではないだろう。それも女の子だ。だいたい、私が子供の頃は親父に酒を飲むなら自分の金で飲めとよく言われたものだ。私はその言いつけをきちんと守ってアルバイトで稼いだお金でこっそり酒を飲んでいた。違法行為をするのなら自分の責任で行わなければいけないということを言っているのだと思う。まあ、未成年である以上親の責任は当然出てくるが、自分の稼いだ金で飲んでいるならばまだ自己管理が出来ている方だといえると私は思う。親の金を使って酒を飲むようなすねかじりのやつに酒を飲む資格なんぞないと私は声を大にして言いたい。どうせ、酒の旨さなんて分からずに飲んでいるようなケツの青い餓鬼どもなのだから。
 と、腹の中でムカムカしながら駐車場にとめてある自分の車に近づくと先程の女子高生、いやもしかしたら中学生かもしれない、を含む5人ぐらいの餓鬼どもが地べたに座ってガヤガヤと騒いでいる。よくよく顔を見てみるとどいつもこいつも赤ら顔で、酒を飲んだり煙草なんぞふかしている始末。当然、全員制服姿だ。本当に大馬鹿野郎たちである。こんな行為をカッコイイと思っているのだろうか。自分は立派な大人だとでもアピールしたいというのだろうか。もし、注意をしたならば彼らはこう言うだろう。「そんなの勝手だろ」と。ふざけるんじゃない。てめえらは誰のお蔭でそんなことが出来ているのか分かっているのか。しかし、そんなことを行っても多分こいつらには通じない。馬鹿なのだから。
 こんなことを言っている自分は年をとったと思う。しかし、少なくとも私が子供だった頃には一般常識として存在していたことだった。昔の歌や言葉、ファッションなんかが時代の流れによって葬り去られて行くのは仕方のないことだ。しかし、一般常識が過去の遺物として扱われていくことに私は激しい憤りを感じているのである。夏が終わり恐怖の大王は去ったのかもしれないが日本の未来は間違いなく暗い、と買ったばかりのスーパードライを一気に飲み干し私は思うのだった。

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