ACT.30 インターネット講座? その4 (1999.08.17)

「助手よ、もう少しで完成じゃ」
「博士、博士」
「あとはこの薬品と薬品の調合さえうまくいけば……」
「博士ってば」
「うるさいのぉ!重要なところなんじゃ。邪魔しないでもらえるかの」
「ですが、もう始まっていますよ」
「な、なんじゃと!」
チュドーン!

「ベタな始まりですね」
「たまにはいかにもといったシチュエーションも重要じゃよ」
「なるほど」
「あくまで我々は博士と助手であるからの」
「ごもっともです」
「で、今日は何じゃったかの」
「はい、久しぶりに作者からお呼びがかかった模様です」
「そうか。別に呼ばれることはやぶさかではないが、作者は一向に小説の筆が進んでおらんようじゃないか」
「博士、それは口止めされております!」
「口止め?何を偉そうなことを言っておるのじゃ、あやつは」
「博士、あくまで我々は……」
「ええい!皆まで言うな。しょうがないのぉ、あのボンクラのためかと思うと虫酸が走るが、これを読んどる者のためということで講義をしてやろうかの」
「器の大きさが違いますな」
「当然じゃ!作者の器がお猪口だとすれば、わしはワンショットグラスぐらいはあるからの」
「小っちゃぁ!」
「さて、今日は何について話そうかのぉ。いい加減インターネットのことも飽きて来たじゃろうし」
「そうですねぇ。何にしましょうか?」
「よし、インターネットのことにしておこうかの」
「結局そこですか」
「仕方ないではないか、既にタイトルがインターネット講座になっておる」
「あ、本当だ。でも最後のクエスチョンマークはなんでしょう?」
「まあ、そのうち分かるわい。では今回は最近のインターネット上での流行といったものについて話すとするかのぉ」
「流行ですか」
「うむ、一応今の時点でのな」
「勉強させていただきます」
「まず最近のサイトは人間の五感のうちでも特に視覚と聴覚にターゲットを置いたものが多いのぉ」
「それはそうですよ、博士。やっぱり音楽か画像、イラストといったものがメインになりますからね。そういえば、動画の配信なんかも始まりましたし」
「うむ、そうじゃな。よく勉強しておる、助手よ」
「ありがとうございます」
「しかし、これからのインターネットは五感のほかの部分に要注目じゃと思うんじゃ」
「他といいますと?」
「五感も知らんのかね?五感といえば視覚、聴覚、嗅覚、味覚、内閣のことではないか」
「最後のは「かく」の字が違うんですね」
「そうじゃ、内閣というのは体の内側をえぐられるような玉筋を感じる感覚を言うのじゃ」
「博士、それは内角です」
「よく分かったの」
「博士、ふざけているのですか」
「冗談じゃ。たまにはこういうのもええじゃろ」
「いつもこういう感じがしますが」
「ともかく、正しくは視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の5つじゃな」
「はい。となると、インターネットで嗅覚、味覚、触覚を刺激させるというのですか?さすがにそれは難しいのでは……」
「何を言うか、助手よ。すでにわしはどれも試作品を完成させておる」
「お見事です、博士」
「まずは嗅覚なんじゃがこれを見てくれたまえ」
「ええっと、ディスプレイには納豆の画像が表示されていますね」
「よく匂いをかいでみたまえ」
「匂いですか?……あ!します!しますよ!これはまさしく納豆の匂いではないですか!」
「そうじゃろ。これはディスプレイに表示されている画像を認識して、あらかじめ準備しておる匂いの素を流すというものなのじゃ」
「あれ?画像をカレーに変えてみたんですが、匂いはしませんよ」
「助手よ、勝手なことをするではない!しかし、実はそれこそがこの機械の弱点なんじゃよ」
「弱点?」
「そうじゃ。これはあらかじめ匂いの素をセットしておかねばならんから、セットされておらん匂いは決して出てくることはない」
「つまり、セットしているものしか匂いは出てこないと?」
「そうじゃ」
「しかし、それでも匂いを表現できるというのはスゴイですよ、博士。今のところ他にどのような匂いが出せるのですか?」
「今のところは先程の納豆のほかに、ブルーチーズ、くさや、ドリアンなどじゃな」
「臭いものばっかりじゃないですか」
「そうなのか?わしの大好物ばかりなのじゃがのぉ」
「ともかくこれはもう少し製品化までは時間がかかりそうですね」
「そうじゃな」
「では次は味覚ですが」
「うむ、助手よこの管を口に咥えるのじゃ」
「ハイ」
「ここで先程の納豆の映像を出すと……」
「な、何やら管から出てきましたよ!あ、これはまさしく納豆の味です!す、スゴイですよ、博士!」
「そうじゃろう。しかし、これもさっきと同様の原理を使っておるから、同じ弱点を持っておるんじゃ。ちなみに、今味わえるのは納豆、ブルーチーズ、くさや、ドリアンなどじゃ」
「好きですねぇ、博士」
「まあ、そういうことも可能じゃということじゃな」
「最後に触覚ですが、やはりこれは実際の感触が得られるというものなんでしょうか」 「その通りじゃ。これは特に世の男性諸君には非常にありがたいものになるのではないかな」
「ということは、あ、あれもOKなのですか?!」
「当然じゃ」
「す、すごい発明じゃないですか、博士!」
「助手よ、そんなに興奮するでない」
「し、失礼いたしました。取り乱してしまいました」
「うん、分かるぞその気持ち。わしもそのような想いを込めて作ったのじゃなからな」
「は、博士、さ、さっそく試してみたいのですが」
「うむ、これがそうじゃ」
「意外と小さいんですね」
「うむ。触覚とは言っても主に手の触覚を刺激するものじゃからの。大きいものとなるとどうしてもコストがかかってしまうしのぉ」
「なるほど。でも手だけでも十分ですよ」
「では始めるぞ」
「おお、なにやら感触が変わりましたよ。なんだろうこの感触は?粒が入っているような、少々粘り気も感じられるような……これはなんですか、博士?」
「納豆じゃ」
「またですか!なんで納豆の感触なんかを表現するんですか!」
「助手はないのかね、納豆を思い切り手でかき回してみたいだとか、ブルーチーズに思う存分指を突っ込んでみたいだとか、ドリアンのトゲトゲがぁトゲトゲがぁ、とか」
「ありませんよ!」
「そう、そうじゃったのか!この作品は失敗のようじゃ……」
「ま、まさか、それだけしか表現できないんですか!?」
「うむ、十分だと思ったんじゃが」
「博士、どんどんインターネットから話が飛んでいっているような気がしますが」
「その辺りがタイトルのクエスチョンマークに現れておるのじゃよ」
「なるほど。さすがです、博士」
「今日の発明は失敗のものもあったが、『失敗は成功の母、性交で失敗して父』という言葉もあるしのぉ」
「深いですねぇ」
「ではいくかの」
「博士、オチは?」
「元々ダジャレが得意じゃない作者にあまり酷なことを言うでない」
「しかし、それでは読者が納得しないのでは」
「何度か続ければなれるじゃろう」
「それもそうですね」
「ということで、今回はオチない、じゃなかったおしまい!」

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