ACT.23 嘘も方言 (1999.07.26)

 方言が苦手なのである。
 いや、嫌いという意味ではない。
 話すのが苦手なのである。

 私の生まれはプロフィールにも書いているが香川県である。
 うどんの都である。いや、都というほど栄えてはいないな。まあ、至る所がうどんで出来ているそんな所だ。
 香川県での方言は「讃岐弁」と呼ばれている。ひねりもへったくれもない。まあ、変にひねられても困るのだが。ともかく、讃岐弁という方言がある。讃岐弁の特色は話の語尾が「のぉ」になるところである。
「そんでのぉ」「やらないかんのぉ」「I don't のぉ」といった具合だ。
 で、「のぉ」という時のイントネーションは下げ気味になる。聞いてみれば分かるが実に田舎臭い感じである。しかし、私はそれが話せない。地元の人間であるのにだ。

 今はプロフィールにも書いているが高知県に住んでいる。
 酒と鰹と坂本龍馬の都である。いや、都というほど栄えていないどころか香川よりも田舎という感じであるな。まあ、至る所が酒と鰹と坂本龍馬で出来ているそんな所だ。
 高知県の方言は「土佐弁」もしくは「高知弁」と呼ばれている。「讃岐弁」以上にひねりもへったくれもない。んで、高知弁の特色は何といっても独特の語尾にある。
 よく使われるのが「きぃ」「ちゅう」「がぁ」である。これだけ見ると何やら怪人が話しているようであるな。
 用例として「今から行くきぃ」「それなら知っちゅう」「一体何しよるがぁ?」「ピッピッピーヨコちゃんじゃアヒルじゃがぁがぁ」といったものがある。
 また皆さんは上記以外に高知といえばという語尾が頭にあるのではないだろうか。
 そう「ぜよ」である。
 坂本龍馬曰く「男はでっかく生きなあかんぜよ!」とか、二代目スケバン刑事麻宮サキ曰く「おまんら、許さんぜよ!!」とか、NASA航空宇宙局第1カウントダウン隊所属長ピーター・アンドリューさん47歳曰く「スリー、トゥー、ワン、ぜよ!!」などが用例としてある。
 最初は実際にそんな方言を使っている人なんかいないのではと思っていた。だいたいにしてテレビなどで使われる方言には古い表現や、多少誇張した物が使われることが多いからだ。しかし少なくとも高知弁は実際に使われている。まあ、年配の方がほとんどであるが。間違ってもコギャルなどは使っていない。だから「なんか、超ムカツクって感じぜよぉ〜」などという使われ方もない。
 つまりテレビなどでしか使われていないと思っていた高知弁はしっかりと存在しているのである。だから高知の飲み屋などにいくとこういう会話がごく普通に聞こえてくる。

「おんしゃあ、いつになったら返すがや!」
「そのうち返すきに、ちょっと待っとき」
「おんしゃあ、いつもそればっかや。いつまでも甘えとったらあかんぜよ」

 一見すると喧嘩をしているかのように見えるが実際に話を聞いてみると本当に喧嘩をしているようにしか聞こえない。しかし、本人達は至って冷静であり普通であり通常でありノーマルである。そう、これが日常会話なのである。だから初めて会話をすると自分が怒られているのではないかとういう気分になる。そのように恐ろしい方言なのである高知弁というのは。
 私も朱に交われば赤くなるという言葉通り、エセ高知弁を使ったりする。しかし、やはり話すのは苦手であったりするのだ。

 このような方言を話すのが苦手なのには当然訳がある。
 私はプロフィールにも書いているが幼少の頃を埼玉県で過ごしてきた。
 ん?埼玉の名産って何だ?まあいい、とにかく都だ。至る所が市で出来ているそんな所だ。
 埼玉にももちろん方言はある。が、それがどういうものなのか私は分からない。幼少の頃であったため何が方言なのか理解できなかったのだと思う。ただ印象に残っているのはイントネーションが少ないということだ。標準語がそうである。イントネーション、つまり言葉に抑揚がない。単調なのである。これが私の体に染みついてしまった。

 私が方言を話すのを苦手とするのは、例えどんな言い回しを使おうとも言葉の抑揚がないためそれらしく聞こえないためである。おかげでどこへ行ってもその地方の人間ではないことがばれてしまう。それは当然、地元である香川でも言われるのだ。
 こんな悲しいことがあるであろうか。地元の人間にあんた地元の人間じゃないだろうと言われるのである、地元の人間であるこの私が。色々と努力もしてみた。しかし相変わらず私の言葉に波はなく、まるで静かな瀬戸内海のようである。だから私はその思いを文章にぶつけて行くのだ!<そうだったのか!?

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