ACT.16 水もしたたるいい目覚め (1999.07.16)

 仕事をしているとポタポタと雨音が聞こえた。室内にもかかわらず、外は晴天にもかかわらずだ。音の元へと目をやると、鮮やかな青いバケツが鎮座されている。そして、そこへと落ちる水。そのまま天井へと目を向ければ業務用クーラーがかすかな風の音を響かせながら動いている。そのすきまから、また一滴。

 1年ほど前、今住んでいるアパートに入って間もない頃のことだ。その日は夏の真っ盛り。私は熱帯夜に苦しまされることを嫌い、クーラーをガンガンにかけて就寝した。深夜、顔に何かが当たっていることに気づき目を覚ました。覚ましたといっても、まだ夜中。当然頭の中は寝ぼけ状態。目を開けることもままならない状態であったが、相変わらず顔には冷たいものが当たり続けている。
 冷たい?!
 私はガバッと起き上がると、電気をつける。そのまぶしさに一瞬顔をしかめる。
 やがて光に慣れた目に飛び込んできたのは想像もしない現象であった。
 室内に雨が降っていた。それも結構な豪雨だ。クーラーが雨雲になっていた。
 あわててクーラーを止めるもすぐには雨はやまず、ようやく止んだ時には床は水浸しを通り越して池になっていた。当然、布団も多大なる被害を受け、その晩を床掃除と布団干しで過ごすはめになってしまった。

 にしても水で起こされるというのは実に不思議な感覚を受ける。
 目が覚めても、一体何が自分に起こったのか全く理解できないのだ。
 私はなんとバケツの水で起こされたことがある。漫画のような話だが実話なのである。もともと朝が弱かった私は、毎日のように学校へ遅刻をしていた。時には学校に着いたら昼休みだったなんてこともあった。我ながら、なんてやつであったのか。
 その姿に切れてしまったようである。水をかけた後のことまで気が回らなかったのだから相当のことであろう。まあ、当然か。
 布団に入ったまま上半身がびしょ濡れ。私は目が覚めた後も5分ほど天井を見上げたまま何をすることが出来なかった。何を考えていたのかは全く覚えていない。むしろ記憶がないといってもいい。空白の5分間である。宇宙人にさらわれた人はこのような感覚を受けるのであろうなぁという状態である。
 これほど不思議は感覚は二度と経験することはないだろう。いや、もう経験したくはないので、水を準備する必要はないぞ。だから、必要ないってば。

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