ACT.8 携帯を拾ったら (1999.07.02)

 携帯電話を落してしまった。
 正直ショックである。
 こんなでかい落とし物をしたのは9年前に財布を落として以来だ。
 既に落としてから数日が経っているが未だに見つかっていない。
 多分誰かが持ち去ったのだろうと思うが、一体何に使うつもりなのだろう?
 ちょっと犯人のつもりで考えてみよう。

 やっぱし最初は落し主の個人情報を手に入れようとするだろう。
 人のプライバシーほど興味をそそられるものはないからな。
 え〜と、まずストラップはモモだな。モモといっても魔法のプリンセスではない。ポストペットの愛くるしいテディベアの方である。なるほど、落し主はポストペットユーザーであるのだな。……だから、どうした。
 次に、着メロはと……この〜木なんの木、気になる木ぃ〜♪……日○のテーマ音楽であるな。そういえば、あの曲今は女性が歌っているみたいである。あの昔の変に爽やかさを出そうとしているやつの方が好きだったんだけどなぁ。しかし「見たことも〜ない木ですから、見たこともない〜木に〜なるでしょう〜」のフレーズはおかしいのではないか?見たこともない木を見た瞬間それは見たことのある木になるのだから、例え成長しても見たことのある木にかわりはないのではないのか?……話がそれてしまった。つまり、着メロから落し主は○立ファンであることが分かった。……日○ファン?
 次は色々と操作をしてみようかな。おっ!電話番号が出た!なるほど、この携帯の番号は090−XXX−XXXXなのか。……今持っている以上役に立たん。
 電話帳はと、結構入ってるな。え〜と、ヤツ1、ヤツ2、ヤツ3、ヤツ4……っておい!全部ヤツじゃねえか!落し主はズボラな人間だな。しかし、記憶力はいいのかもしれない。……着眼点は悪くないぞ。<そういう勝負じゃないって
 やはり、携帯電話から個人のプライバシーを知ろうとする方が難しいのだ。
 となるとやはり、電話をかけるという手段に出るしかないのだな。
 いくら電話しても払いは落し主持ち、魔法の電話だぁ〜、などと喜んでいられるのも今のうち。落し主は電話会社へ使用停止の旨を伝えるだろう。たとえ、届け出をしなくても携帯電話がバッテリーで動いている以上、充電をしなければ使い続けることは不可能だ。となれば、さっさと電話をしてしまうことにする。
 ――どこに電話すりゃいいんだ?
 いきなり電話を渡されて、電話してくださいと言われても困っちまうぞ。
 よし、ここにかけてやる!!
「プップップッポ〜ン午後8時20分40秒をお知らせします」
 ヨシッ、時計の時間はあっている。
 次はここだぁ!
「明日の高知地方は雨。また山沿いでは一部強く降るところがあります」
 明日は雨かぁ。もう、梅雨は嫌いだよ。
 そして、とどめはここだぁ!!
「もしもし、あたしリ○ちゃん。今、パパとママはお出かけなの」
 今でもあるのだろうか、○カちゃんダイヤル……
 どうだ、おそれいったか。
 これで少なくと50円は使ってやったことになる。
 我ながら悪だぜ。……って、他に電話とけるとこないのか、俺よ。
 ハイ、ありません。ああ、お友達が欲しいわん。
 そうだなぁ、僕がモバイルでもしているのなら使い道もあるんだけどなぁ。
 せっかく拾ったのにこれじゃ使い道ないじゃないか!!
 ――ということなので、僕の携帯電話を拾った人間は速やかに交番へ届け出なさい。

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