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芝生は、朝の新鮮な空気と、金色のまぶしい日の光に、ふんわりと包まれていました。
カタン。
ソヨは郵便受けを開け、中につっこまれていた新聞を、ひっぱり出しました。と、どこからか温かな、やさしいそよ風がふいてきて、ソヨの胸に抱かれた新聞を、パラパラとめくってゆきました。
(今年も春になったのだわ。)
そう思うとソヨの胸は、ウキウキはずんでくるのでした。
家へ入ろうと、歩き出したときです。不意に何かが、ソヨのうでの中からハラリと、芝生の上に落ちました。
それは、一枚の葉書でした。ほんのりさくら色をしていて、本当は切手が貼ってあるはずの場所には、大きな桜の花びらが一枚、貼られていました。文字はうすい金色で、そう簡単には読めません。
(新聞にまぎれていたのね。きっと、お父さんかお母さんにだわ。)
ソヨは宛名を読もうと、葉書に顔を近づけました。そのとき、かすかに甘い蜜のにおいがしたのは・・・気のせいでしょうか?
「タ・ン・・・?」
ソヨは一字一字、指で追いながら読んでいきました。
「タ・ン・ポ・ポ・の・・・妖精!?」
あわてて顔をはなし、もう一度見てみました。が・・・宛名にはやっぱり、「タンポポの妖精ポカポカ様」と書いてあるのでした。葉書の内容は、こんなものでした。
「ポカポカ様
今年も春がやってきましたね。明日の明け方、いつもの野原でタンポポの花を咲かせてください。待ってます。
春の精代表 ウメの妖精ポッチリ」
これは大変なものを拾ってしまったようです。どうやって、妖精に手紙をわたすというのでしょう。
「決めたっ。」ソヨは、声に出して言いました。「明日の明け方、家の近くの野原に行ってみよう。何か分かるかもしれない。」
次の日の朝早く。太陽が昇る前の薄暗い中、ソヨはそっと家をぬけ出しました。
野原についてしばらくすると、だんだんと東の空のすそが、赤く染まり始めました。と、
ククク
リリリ
まるで、鈴を鳴らしたような、まるで、乾いた木をたたいたような笑い声が、野原中をいっぱいにしました。そして、ぼんやりと明け始めた空の中から、たくさんの妖精達がふってきたのです。妖精達はみな、野原に咲く花のひとつひとつほどの大きさしかなく、野原に咲く花と同じ色の服を着ていました。
サラサラサラ・・・
風のような笑い声をたてながら、白い服を着た妖精達が、野原のすみに立ち並ぶ桜の木を取り巻き始めました。するとどうでしょう。むきだしになっていたはだかの木の枝に、ポッポッと、かわいらしい小さなつぼみができ始めたのです。
(あれがきっと、タンポポの精だわ。)
ソヨは、フワフワと落ちてくる、黄色の妖精を見つけました。黄色の妖精達は、まるでタンポポの綿毛のようにふんわりと、地面に横たわりました。と、まるで黄色の傘を開いたかのように、パッパッパと、あちこちでタンポポの花が
開き始めました。ついさっきまで、寂しく茶色に枯れていた野原は、今ではもう、絵の具を散らせたキャンバスのようです。
日はすっかり、昇りきりました。さっきまでのことがうそのように、野原はしずまり返っています。リリとも、笑い声は聞こえません。
呆然と立ちすくんでいたソヨは、ハッと我にかえりました。そして、家へとかけて行きました。
次の日も、そのまた次の日も。野原の桜が満開になり、地面がやわらかな緑の若草でおおわれるまで、ソヨは毎朝野原にかけて行きました。けれど結局、タンポポの妖精ポカポカが誰か、それは分かりませんでした。
今でもソヨは、あの葉書を持っています。もう何十年も経って、紙はすっかり茶色くなり、文字はほとんど見えませんが・・・毎年春になると、初めてソヨが葉書を見つけた日のように、若々しいさくら色に染まり、甘い蜜の香りをただよわせるのでした。
あとがき
このお話は、夜、書いたものです。急いで書いたので、深いところが欠けているかもしれません。これからは、じっくり時間をかけて、書くことを心がけます。
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