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夏のある夜、吹き出しカワセミが冒険をしました。えっ、どんな冒険かって?それを今、お話しするところなんですよ!まあまあ、早まらないで。どうせですから、冒険の一部始終をゆっくり、聞こうではありませんか。
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「宇宙は真っ暗で、実に科学的なところです!」
ペルシモンがさけびました。
「いや、そんなはずはない。宇宙はジャングルのようなところで、星々は鳥のように飛び回っているはずだ。」
と言ったのは、吹き出しカワセミ。
「いえいえ、星というのは、芸術的なはずよ。きっと、絵の具を混ぜ合わせたような模様が描いてありますよ。」
モリーが言いました。
「ツキ博士に聞いたことがあるんだけど、宇宙はとっても神秘的らしいですよ。」
モックの声が、地の方から聞こえてきました。見ると、逆立ちをしています。
「ああ、そういえばその話し、聞いたことがあるよ。ホシ博士の宇宙の研究レポートに書いてあった。宇宙は、とても、謎めいているんだろうねえ。」
と、ウォーター・ブルーが言いました。
「いったい、本物の宇宙ってどんなのなんだろう。」
シェル(アザラシ四兄弟の末っ子)が首をかしげながら言いました。
「実際に宇宙に行ってみればいいわ。」
と、サニー(スガタヲカエタ、セマイマの従妹でナマエヲカエタ族)。
「確かにね。でも、急ぐ必要はないわよ。少なくとも、今日じゃなくていいわ。」
さて、その日はペン・銀達の友達、セマイマやサニー、それに吹き出しカワセミやアザラシ四兄弟が、がくぶち島に泊まることになっていました。がくぶち島には、余っているエグルーがたくさんあるのです。
その夜、ペン・銀達とその友達は、草火をやり、シイカを食べました。暗闇の中にパアッと細い火が走る様子は、とてもとても美しいものでしたよ。草火の後は、シイカが出されました。ああ、何ておいしそうな緑の実だろう!
「あっ、そういえば。」
不意に、吹き出しカワセミが声をあげました。
「どうかしたんですか?」
「わしの従妹が、一度でいいからシイカを食べてみたいと言っておったわ。」
「ああ、ワライカワセミさんね。」
「そうだ。」
「じゃ、とどけてあげたら?」
セマイマは言って、さもおいしそうに自分のシイカにかじりつきました。
「ううぬ・・・」
吹き出しカワセミはなごりおしそうに、シイカを見つめました。ううぬ・・・。
「シイカなら、まだたくさんありますわ。あなたが帰ってきたら、また切ってあげますよ。」
ピョーンが笑いながら言ってあげましたが、吹き出しカワセミはまだ決心しかねているようです。でもまあ、それは仕方のないことでしょうね。シイカは吹き出しカワセミの大大大大好物なのですから。
「うむ、分かった。シイカを従妹にとどけに行く事にしよう。」吹き出しカワセミは、怒ったような顔で宣言しました。「だれか、風呂敷を持ってはおらんかね。」
「はーい、ぼく、持ってますよ!」
ウミに借りた風呂敷にシイカを包むと、吹き出しカワセミは飛び立ちました。
「ンググ、ミュクミュルク〜!」
空の上から、吹き出しカワセミが何かどなりました。けれども、くちばしが包みでふさがっていましたので、地上のみんなには彼が何と言ったのかは分かりませんでした。どうしても知りたい、という人は、直接本人に聞いてみてください。
「ああ、すっかりおそくなってしまったわい。まったくあいつときたら、いつまでもベラベラベラベラと。おしゃべりにもほどがある!」
吹き出しカワセミは、すっかり真っ暗になってしまった周囲を見回しました。今度は風呂敷ではなく、ランプをくちばしにくわえていました。
がくぶち島は静かでした。すっかり、周りの空気にとけこんでいます。
「まったく、出かける前に、シイカを用意して待っておけ、と言っておいたのに。けしからんやつらだ。・・・」
吹き出しカワセミは、わざと大きな声で、「まったく」を連発しました。目をつぶり、首をすくめました。
生き物達が眠ってしまえば、灯なんてなんの役にもたちません。全て・・・全てを、闇が飲み込み、支配しています。吹き出しカワセミは恐ろしくなって、エグルーへとびこみました。と、その時・・・
空がスゥッと緑がかったかと思うと、深緑の大きな龍のようなものが、壮大に空を舞い始めたのです。ゆっくりと、ゆっくりと・・・龍は天を・・・いや、この世界中を、我が物顔で舞いまわります。この龍の前では、暗闇さえもたじたじとなっているようです。
一瞬でした。龍の尾が地上をかすめたと思ったら、もう次の瞬間には吹き出しカワセミを乗せ、天に舞い戻っていたのです。そうです、吹き出しカワセミを乗せて。彼は、龍が天に昇るあの瞬間に、その尾にしがみついたのです。
どんどん、どんどん、地上が小さくなってゆきます。ほとんど灯がつかない地球の裏側は、あっという間に闇にまぎれこんでしまいました。そこで吹き出しカワセミは、満足して周りを眺めまわしました。この龍の背中は、何て気持ちがいいのでしょう。さっきまではあんなに大きかった闇が、今はほかのものと、そう大差ない、身近なものに思えました。(これを知ったら、友達は何と言うかな。)吹き出しカワセミは、安心しきって龍の背にうずまりながら、思いました。(絶対、おどろくに決まっている。エッヘン、どうだ!)
龍は、上へ上へと昇ってゆきます。もうだいぶ、空の高いところにいるのが分かりました。空気がどんどんうすくなっていくのです。こうなるともう、快適とは言えませんでした。耳の中が空気でいっぱいになって、キーンと鳴るのです。そして、体の中がスカスカになったような感じがするのでした。
不意に、眠気がおそってきました。吹き出しカワセミはがんばって、その小さな丸い目を開けていようとしましたが、とうとう龍の上で丸くなり、眠りこんでしまいました。
ヒュゥゥ〜、シュゥウ〜。
ひんやりとした、心地良い風が吹きぬけます。吹き出しカワセミは、ゆっくりと目を開きました。
まっくら!
そこは、不思議な空間でした。色々な絵の具を流し込んだような模様の球が、残忍な笑みをうかべながら、ゆっくりと、回っているのでした。中には、周りに輪っかがあるものや、焼ける寸前のホットケーキにできるような、凹凸を持った球もありました。
吹き出しカワセミは、じっと身を硬くして、球達を見つめました。ゾワゾワ〜ッと、首筋の毛が逆立ってきます。ここでは、生命の存在が許されていないようでした。今にも、球達が、吹き出しカワセミを死の世界へ引きずり込もうと、襲ってくるようです。緑の龍も、もはや味方ではありませんでした。吹き出しカワセミの両の羽は、だんだんと緑の龍から離れていきました・・・
ゾワッ。
あっ!フキダシカワセミの体が、音もなく舞い上がりました。声をたてようとしましたが、音は、千年も昔にひからびたように、出てきません。羽を動かそうにも、体がすっかり固まってしまい、動かないのです。ああ・・・
吹き出しカワセミの体は、何ものかに向って、すごいスピードで吸い寄せられていきます。ものすごい圧力です。その圧力が最高に達したとき、吹き出しカワセミは一瞬、大きな黒い穴が、自分に迫ってくるのを見たような気がしました。
それから後、不思議な空間は静かになりました。
ああ・・・あ!灯と、緑色の何かが、ビュンッ!と目の前をかすめました。と、次の瞬間・・・!
ドッシャーン!
みんなの顔と、そこいら中に、シイカが飛び散りました。吹き出しカワセミは、ペッペと、シイカの種を吹き飛ばしながら、テーブルの上に立ち上がりました。
「おんやまあ、みんな!ちと、派出にやりすぎたようじゃな!」
おわり
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