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坂の上には(2)         作:せい

ある朝カティから電話がかかってきました。といっても、坂の上にまで電気はきていません。ですから、糸電話を使うのです。わたしの家と、カティの家は、ほんの五メートルほどしかはなれていません。そうですから、むこうにむかって、大声でよべばいいんですけどね。
 さて・・・その朝、わたしがおきると、激しい鈴の音がしました。電話のベルのかわりです。そこでわたしは、窓のほうへとんでいって、受話器・・・のつもりの紙コップを手にとりました。
「はい、もしもし。」
「もしもし、ヨハンのおくさんですか?」
と、電話のむこうでカティの声。
「そうです、ヨハンのおくさんですわ。そちらは、カーロッタのおくさんね?」
とわたしが言うと、
「いいえ、わたしはターロッタのおくさんです。おまちがえなくよう。」
とカティは言いました。
「失礼。ターロッタのおくさん、こんな朝早くに、どういたしましたの?」
「いえね、何でもないんですけどね。今日は天気がいいので、森へ植物狩りへ行きません?」
「植物狩りぃ?」
わたしには、植物狩りがどういうものなのか、さっぱり分かりません。
「あら、おくさん、ご存知ないの?とっても、おもしろいんですのよ。」
「ご存知ありませんわ。どういうものなんでしょう?」
「えーっとですね・・・ま、来れば分かりますわ。」
「じゃ、朝食を食べたら、お宅へうかがいましょう。」
「ぜひ、そうしてくださいな。じゃ!」
カティは軽く、リン!と鈴をならしました。電話を切った、という合図です。そこでわたしは下へかけおり、かまどにパンを一枚つっこみました。パンがちょうどいいぐあいに、キツネ色に焼けると、ハチミツをぬり、今度は自分の口の中につっこみました。それから、サンドウィッチをつくり、皮の袋に包んで入れました。念のため、水筒も入れました。そして、その皮袋をベルトに通してこしにさげると、お母さんとお父さんの寝室にとびこみ、さけびました。
「ちょっと、森に行って来る!」
「い、いってらっしゃい・・・」
 数秒後、わたしはカティの家の前に立っていました。