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坂の上には(1)         作:せい

 わたしの名はプロプシー。でも、みんなはモプシーとよんでいます。わたしが住んでいるのは坂の下のアパート。わたし、このアパートが大っきらいです。階段には、いつも蛾がいますし住んでいるのは気むずかしいご老人ばかり。友達をよぶことすらできません。
 ある休日の朝のことでした。いきなり父さんがやってきて、言ったのです。
「ひっこそう。」
『ひっこそう』この言葉でどれほどわたしは喜んだことでしょう!この古くさいアパートから出られるのです!考えただけで、ウキウキします。
〔一〕 坂の上に
「ひっこすですって!?」母さんが、台所からとんで来ました。手には、入り卵をのせたフライパンを持っています。「どこへ!」
「坂の上だよ・・・」
テストの点を聞かれた子どもみたいに、消え入りそうな声で父さんは言いました。わたしは、おどろきました。坂の上ですって!?坂の上は、森じゃないの!
「坂の上は森じゃないの!」
わたしが考えていたのとまったく同じことを、母さんは言いました。
「ああ・・・」
あわれっぽく父さんはうめきます。
「どうやって住む気?」
母さんは父さんを追い詰めます。
「家を・・・建てるんだよ。」
母さんが、何か言いたそうに口を開いたので、わたしは急いで言いました。
「すてき!いいと思わない、母さん?」
「まあね。」母さんはしぶしぶうなずきました。「ひっこすことに、反対はしないわ。」
そして、そのとたん、フライパンの入り卵がすっかりさめているのを見ると、キャッとさけんで台所へ飛び込んでゆきました。
「ばんざーい!」
わたしはさけんで高くはねあがりました。父さんも。
 そういうわけで、わたしたちヨハン家は、このおんぼろアパートから脱出できることになったのです。家は、父さんが建てることになりました。父さんは昔、大工でしたので、こんなこと、朝飯前・・・いえ、夕食前なのです。
 それから半年。坂の上のマイホームはどんなものでしょう?ひっこす当日、わたしはワクワクしながらカントテールと、学校からの帰り道を急ぎました。そう、カントテールも、坂の上の森に住んでいるのです。それで、クラスは同じでも、あまり話したことのないカントテールと、わたしは仲良くなったのです。
「ねえ、プロプシー。」
カントテールが言いました。
「なあに。」
「わたしのこと、カティってよんでいいわよ。あのね、なぜだがわたし、父さんと母さんにカティってよばれているの。」
「そうなの。それならカティ・・・わたしのことも、モプシーってよんでいいわよ。あのね、なぜだかわたし、父さんと母さんにモプシーってよばれているの。」
 数日がたちました。わたしとカティは、毎朝いっしょに学校へ行きます。カティと仲良くなるまで、わたしはカティのことを、おとなしくってよく言いつけを守る女の子だと思っていましたけど、全然ちがいました。すっごく活発でおもしろい子です。
「早くして、モプシー。でないと、おくれちまうわ。」
「何なの、その奇妙な言い方は!カティこそ早くして!」
わたしはさけびました。というのも、学校へ通じる道はカティが行こうとしている西の道だけじゃないからです。わたしが行こうとしている東の道からも行けます。
「じゃんけんよ。」
とわたし。
「いいわ。」
とカティ。けれど、いくらやってもあいこばかり。
「コインで決めましょ。わたし、ちょうど五プシー玉を持っているわ。」
「オッケー。」とわたし。「コインの表が西。うらが東よ。いい?」
「いいわ、やって。」
そこでわたしは、カティから五プシー玉をうけとり、空中高く放り投げました。コインは、日の光を浴びて、キラリとかがやき、落ちてきました。
「うらが出たわ。」
 とわたし。
「いいえ、表よ。」
と、カティ。
「うら!」
とわたし。
「表!」
とカティ。
「うらよ。」
「表よ。」
「うらったら!」
「表ったら!」
そこでわたしたちはそーっと、後ろをふりかえりました。と、同時に
「あれえ!?」
と声をあげてしまいました。コインがなくなっていたのですもの!
 しばらくの沈黙。やがてカティが言いました。
「真ん中の道を通って行きましょう!」







  あとがき

  
  おひさしぶりです!久々に、投稿してみました。

このお話しは、四年生のころに書いたもので、もうすでに手書きで下書きしてあります。それに、ちょっと手を加えて、パソコンに写したので、挫折ってことは絶対ありませんが、パソコンに写すのが面倒になるかも・・・

 まあ、とにかくみなさん、ぜひ、読んでくださいね!