せい文庫 本文へジャンプ


【続】星草村歴史博物館のおはなし(4)        作:せい

スッポンさんから電話がきて、一週間目の朝。星草村の住民たちは、晴れ晴れした顔で、おたがい垣根ごしに、
「まあ、カメダさんのようなひとがいるなんて、わたしは、誇りですよ」とか、「やっぱりカメダさんは、何かすごいことをなさると思っていたんですよ!」とか話していました。
そして、今日、カメダさんの、サンサラ考古学賞受賞式に行けないのを、とても残念がりました。が、当人のカメダさんはというと、とても、誇りを持って授賞式を待ち望んでいるようには見えません。とても、それでころでは、ないのです。
「ああ、授賞式でやるスピーチ、考えてないよーっ!」
 カメダさんは悲惨なさけび声をあげ、床にがくっとひざをつきました。
「ほら、そんなことをしたら、せっかくの服がやぶけちゃうわ!」
カメヨがそう言って、カメダさんを立たせました。
「あちらにつけば、何かいい言葉がうかんできますよ」
楽天家のイネコさんは、カメダさんをもっと不安にさせる、なぐさめを言いました。
「ま、うかんでこなけりゃ、仮病を使って、帰ってきたら?」
と提案したシカダは、思い切り、サネリとカメヨにけとばされました。あっ、もう行く時間です。みんなは、嘆くカメダさんを、苦労してタクシーにおしこみました。そして、後からカメヨが乗り込みますと、みんなは手をふって、二人を見送ったのでした。
 式場についてからも、カメダさんはひどく悲しそうな顔をしていました。(ああ、どうして、この式は、こんなに早く進むんだ!)カメダさんは、自分の横で、ものすごい早口スヘーデン語で話している、カンガルーの司会者を、キッとにらみつけました。
 けれどもとうとう、スピーチの時間になってしまいました。カメヨは観客席で、ぎゅっと両手をにぎりしめました。ああ、うまくやってよ、やってよね、カメダさん!
「えー、では、ここで、受賞者のミドリノ・カメダさんに、スピーチをしていただきましょう」
司会者はそう言って、カメダさんにマイクをさしだしました。
「はい・・・」カメダさんは、マイクを受け取ると、一瞬スッと息をすいました。そして・・・「では、これから、ペンギンがペンギンになった話、をいたしましょう!」

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

「ペンギンがペンギンになったわけ」        ミドリノ・カメダ話
「さあ、今日は、飛行レッスンをします!」
「わーい、やったあ!」
たくさんの鳥の子どもたちは、おどりあがって喜びました。飛行レッスンほど、楽で楽しいものは、ほかにないのです。ただ、そんな中に一羽だけ、深い谷底へ突き落とされ、あがって来られなくなった人のような顔をした鳥がいました。ペンギンです。ペンギンは、この鳥たちの中では一番年上。本来ならもう、飛行レッスンなんてやっている年齢ではないのですが、まだ、全然飛べないのです。
「では、一列にならんで、一羽ずつ、こっちがわから、あっちがわまで、飛んでわたってください」
 鳥の子どもたちは、ワイワイガヤガヤいいながら、長い列をつくってならびました。そして、前からじゅんに、一羽ずつ、先生の笛の合図で、三メートルほど間があいた、小さい谷間の上を飛びました。ほら、こんなぐあいに・・・
「ピーッ!」
「はいっ!」
トテトテトテ・・・パッ、フワリ、ヒュー、スタッ。トテトテトテ・・・
「はい、いいですね」
先生はそう言って、飛べた子に、ニッコリと笑いかけました。
 いよいよ、ペンギンの番になりました。みんな、息をひそめて、じっとしています。そして、今日は、ペンギン、どんなおもしろい失敗をやってくれるだろう、と、目をこらしていました。
「さあ、ペンギンさん、あなたの番よ」
先生は言って、ペンギンのかたをちょっとつつきました。ペンギンは、やりきれない気持ちで、スタート地点に立ちました。
「ピィィィーッ!」
トテ、トテ、トテ、ステッ、ドッシーン!いつものことながら、ペンギンは谷間に落っこちました。見物している鳥たちの間から、クスクスと笑い声がもれました。
「ペンギンさん、あなた、ちゃんと真剣にやっているんでしょうね?それに、もっと速く走れないの。ま、とにかく、自分で落ちたんだから、自分であがって来なさい」
そう言った先生の口元にも、ふっと笑いのかげがうかびました。
「はい」
ペンギンは、羽を谷間の壁にかけました。そして、ぐぐぐーっと力を入れ、よいしょっと、体を持ち上げました。もう、何度も、このような谷間に落っこち、自分であがって来ていたので、ペンギンの羽の筋肉は、とても強くなっていましたし、ペンギンの羽はとても平べったかったので、ほんの五分ほどで、ペンギンは、谷間からはいあがりました。すると、先生が優雅にペンギンの前まで飛んできて、小言を言い始めました。
「まったく、ペンギンさん、あなたは、ほんっと、もの覚えが悪いですね」
生徒たちは、どっと笑い出しました。
「では、今日のレッスンはこれにて終了。みなさん、さようならー」
「さようならー」
 生徒たちは、楽しげに笑いながら、上空へ飛び立ちました。
「おい、ペンギン !なぜ、鳥なのにペタペタ歩いて帰るんだい!」
 一羽のハヤブサの子が、空のはるか上からどなりました。
「歩いて帰りたいから、歩くんだ!」
ペンギンは、悔しそうにハヤブサをキッとにらみましたが、効果はありませんでした。ハヤブサは、意地の悪いクックという笑い声をたてながら、雲の間に消えていってしまいました。
「あーあ」ペンギンは、海辺の雪道を、こごえながら歩いて行きました。「どうして、ぼくはこんな体になっちゃったんだろう。走るのもおそいし、第一飛べないし」
そのときでした。不意に、風に乗って、
「助けて〜」
という、かぼそい声が聞こえてきました。だれかが、おぼれているようです!ペンギンは思わず、我をわすれて声がした方に、駆け出しました。が、ペンギンの短い足は、ペッタン、ペッタン、ゆっくりとしか、動きません。
「くそっ、この大事なときに!」
ペンギンは、何とか足をあやつろうと四苦八苦しましたが、足はちっとも言うことをききません。
「ええいっ、こうなったら!」
とうとうペンギンは、えいやっと、雪の中にとびこみました。そして、足で、力いっぱい地をけりました。すると、どうでしょう。ペンギンは、ものすごいスピードで、おもしろいくらいスイスイと、すべってゆくではありませんか。
ペンギンは、すべっている間中、目をこらして、どこかに溺れているひとはいないかと、見ていました。すると・・・あっ、いました、いました!一頭のアザラシが、波にさらわれて、あっぷあっぷしています。
「助けて〜、助けて〜」
アザラシが、しかも大人のアザラシが、生活の場である海で溺れるなんて、ちょっと、いえ、だいぶおかしな話しですが、そのときペンギンは、アザラシを助けたい一心で、とてもそんなことを考えている余裕はありませんでした。
「いま、行きます!待っていてください!」
ペンギンはそうさけぶと、バッと海にとびこみました。相手のアザラシが一瞬、息をのみました。
 ペンギンは、足で力いっぱい水をけりました。そして、雪の上でやったのと少しも変わらず、実にみごとに、波に乗りました。谷登りできたえられた、力強く平べったい羽は、オールのようにスイスイと、水をかいてくれました。陸では、あんなにノロノロしていて言うことをきかなった足と羽が、水の中では見違えるようです。ペンギンは、ほんの数秒で、アザラシのもとへ到着しました。
「さあ、アザラシさん、ぼくにつかまって」
すると、アザラシは、大声でさけんだのです。
「合格―っ!」
「えっ?」
きょとんとするペンギンに、アザラシは説明しました。
「実はね、君の体つきを見て、君は飛ぶより泳ぐ方があっているんじゃないかと思っていてね。今日、君が帰るところを見計らってテストしたんだ。いやあ、それにしても、君みたいに、フォームのきれいな鳥は、ほかにいないよ。ブラボー!どうだい、明日から、私の水泳教室の生徒にならないかい?」
「もちろん、よろこんで!」
こんな、夢みたいな話しがあるでしょうか。ペンギンは、自分は他の鳥とは違うんだ、と思うと、さっきまでのしずんだ気持ちは消えていました。
 その後、ペンギンの水泳はぐんぐん上達してゆき、とうとう、オリンピックで三位という、好成績を残すまでになったのでした。  (完)
  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
ほぉっ。会場の全員が、うっとりと聞き入っていました。と、みな我にかえり、「すばらしい!」とさけびながら、拍手をはじめました。それはもう、会場が割れるんじゃないかというくらい、大きな大きな拍手でした。カメダさんは、ひたいの汗をぬぐい、客席のカメヨに向って、ぎこちなくウィンクをしました。
                                 おわり



         


          *あとがき*

          

         こんにちは、せいです。

         これで、星草村のお話

         しは終了です。楽しん

         でいただけましたか?

         アドバイスなどがあった

         ら、ぜひぜひ、お願いし

         ます。

                           
 2012年4月22日  自宅にて