せい文庫 本文へジャンプ


【続】星草村歴史博物館のおはなし(3)        作:せい

ルルルー、ルルルー。午前二時。星草村歴史博物館の、電話が鳴り出しました。ルルルー、ルルルー。今、ちょうど夢の中で、おいしそうなケーキにかぶりつこうとしていたカメダさんは、ただちに起こされました。
「まったくもう、何なんだ!こんな時間に!ちょっとは、礼儀ってものを知っているのかねぇ!」
カメダさんは、文句を言いながらも、起きだしました。その電話は、だれかがとってくれるまで、ずーっと鳴り続けているつもりのようなのです。そして、カメダさんは、そういう激しい音を聞きながらは、眠れないたちなのでした。
「はい、どちら様ですか。」
カメダさんは、少々つっけんどうに言いました。
「カラカラです!」
相手は、せっぱつまったような声でさけびました。
「カラカラさんでしたか!」
「そうです、カラカラです。カメダさん、お願いがあるんです!」カラカラさんは、あわてたように、言いました。「実は・・・締め切り間近だというのに、まだ大百科の原稿を書き終えていないんです。だけど、ぼく、大百科のことよりも、古代ムーン文字の解読をしなくちゃならなくて。カメダさん、ぼくのかわりに、大百科、書いてくれますか。」
「もちろん、いいですとも!」
カメダさんは、喜んでさけびました。でも、カラカラさんの次の言葉を聞いたとたん、カメダさんは青くなりました。
「じゃ、お願いしますよ・・・あ、そうそう、何の動物のことを書くかは、カメダさんが決めてくださいね。ぼくは、何にも手をつけていないんで。それと、締め切りは一週間後です。じゃ、さようなら。」
 その日から、カメダさんは方々の国をとびまわり、できるだけたくさんの資料を集めました。そして、ものすごい早さと集中力で、無事、約束の一週間で、原稿を書き終えることができました。
 それから二週間後。カメダさんの書いた大百科は、本になり、出版されたのでした。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

第三十二話「キリンがキリンになったわけ」  ミドリノ・カメダ著

「じゃ、明日は身体測定です。体操着を、忘れずに持って来てくださいね。それと、特に女の子!体重を減らすために、薬を飲んできたりしては、いけませんよ。じゃ、今日はここまで。さようなら。」
「さようなら!」
 動物小学校の校門から、子どもたちがわーっと跳びだしてきました。みんな、放課後に何をして遊ぶか、楽しみでたまらなかったのです。そんな中、一匹だけ、この世の終わりがきたような顔をして、とぼとぼと帰っている子がいました。キリンです。当時、キリンは学年中で一番チビで、一番目立たない地味な子でした。ですから、ほかの子たちにはどうでもよい身体測定も、キリンにとっては、地獄にいるような瞬間なのでした。ねえ、だって、考えてみてくださいよ。ほかの子どもたちは、どんどん身長がのび、今では百六十センチの子だっているのに、一人(あるいは一匹)だけ、まだ百十センチしかないのですから。しかも、子どもたちの身長を測る先生は、それを記録する先生に、大声で、その子の身長を言うのです。そうでもしないと、記録する先生には、聞こえないのです。
 不意に、肩をたたかれて、キリンはふりむきました。そこに立っていたのは、親友のゾウでした。
「ねえ、君。今日、ぼくんちに、こないかい?」
ゾウは言いました。
「ううん、遠慮しておくよ。」
キリンは答えました。
「そうかい・・・ねえ、キリン君。もし、身長のことで困っているのなら、ぼく、助けになると思うんだけど・・・」
ゾウは、おずおずと言いました。とたんに、キリンの顔がぱっとかがやきました。
「ほんとにかい!」
「うん、たぶんね。」
「よし、それじゃ、家に帰ったらすぐ、君んちに行くよ!」
そして、キリンは、いなずまのごとく、家にとんで帰ったのでした。
「じゃ、まずは、君の今の身長を測らなきゃ。」
ゾウは言って、メジャーを持ってきました。キリンは思わず、びくっと、あとずさりしました。それを見て、ゾウは言いました。
「ああ、君。だいじょうぶだよ。ぼく、君の身長がいくつだろうと、決してわらったりしないよ。」
「ほんとうだね?」
「ああ。親友として、誓うよ。もしぼくが、わらったり、からかったりしたら、絶交してもいいよ。」
「うん・・・分かった。それじゃ、測ってくれたまえ。」
 キリンは、かべにぴったりとくっつきました。するとゾウが、キリンの頭の先から足のつま先にかけて、メジャーをあてました。
「うーんとね、百二十センチだな。」
「あーあ、去年から、一センチしかのびていないよ。」キリンは、落胆して声をあげました。「大人になっても、ぼく、こんなに小さいのかな。」
「まあ、そう気を落とすなって。そのうちのびてくるさ。」
「そのうちじゃ、ダメなんだ!明日までに、せめて百二十五センチにはならないと。」
「そう、すぐにはのびないよ・・・」
「何だって!君、さっき、『身長のことで困っているなら、助けになる』って、言ったじゃないか!」
「えっ、まあ、言ったは言ったけどさ。『かも』しれないって言ったんだよ。まあ、できるかぎり・・・」
「君って、なんてひどいやつなんだ!」
キリンは、途中でゾウの言葉をさえぎると、いきなり彼にとびかかりました。そして、手当たりしだい、つねったり、ひっかいたり、ひっぱったりしました。ゾウは、必死でキリンの攻撃を防ぎながら、とぎれとぎれに、やっと言いました。
「君・・・ちがうよ。そりゃ・・・(アイテッ)勘違い・・・だよ(ウワアッ)。ぼく・・・できるかどうか・・・分かんない(グハッ)・・・けど、できるかぎり・・・やってみるって、言ったんだ・・・ギャァーッ!」
突然、ものすごい悲鳴がひびきました。キリンはあわてて、ゾウの鼻をつかんでいた手を、放しました。窓の外では、近所の動物たちが、ほうきを持ったり、野球のバットを持ったりして、とびだして来ています。
 キリンは、何とか近所の動物たちを追い返すと、すまなさそうに、ゾウをながめました。ゾウは、鼻がながーくなって、今にも地面にとどきそうです。さっき、キリンにひっぱられたのです。
「ごめん、ほんとうにごめんなさい。ぼく、君をこんなふうにするつもりじゃなかったんだ。それに、君が最後まで言わないうちに、カッとなって、とんでもない誤解をして・・・ぼく、絶交されても、仕方がないよ・・・」
「いや、だいじょうぶだ、君。こんなこと、よくあることさ。ぼくこそ、誤解を招く無責任な言葉を言ってしまって、ごめんなさい。絶交なんて、とんでもないよ。それにさ、何かがのびるって、縁起がいいじゃないか!君の背も、きっとのびるさ。」
キリンは、ゾウの友情に感激して、もう少しで泣き出すところでした。するとその時、窓の方から「おーい、君たち!」という声がしました。
 キリンとゾウが、何事か、と顔を出してみると、それは動物小学校の、野球チームの子どもたちでした。
「ねえ、君たち。ボールが、木の枝に、ひっかかっちゃったんだ。とってくれないかい?」
チームのキャプテン、オランウータンが言いました。
「うん、いいよ。ゾウ君、行こう!」
「オッケー!」
そして、ゾウとキリンは、外にとびだしました。
「どれどれ。見えないじゃないか。」
 キリンは、思い切り背のびをして、木の葉の間をながめました。
「もっと上だよ。」
オランウータンが言いました。キリンは、さらに背伸びをしました。が、木の枝にひっかかったというボールは、かげも形もありません。
「ちょいと、君たち。ぼくらをだましているんじゃ、なかろうね?」
怪しむように、ゾウが言いました。野球チームの子どもたちは、あわてて首を横にふりました。
「ぜったい、だましてない!ほんとだってば!だいたい、君たちをだまして、何になる?」
それもたしかにそうだ。ゾウはとりあえず、キリンとチームの様子を見守っておくことに決めました。
「もっと上、もっと上だってば!」
 チームのメンバーたちは、じれったそうにさけびました。キリンは、ぐぐぐーんと背伸びをして、よーく目をこらし、木の葉の間を見つめました。すると・・・あっ、ありました、ありました!緑の葉っぱの間に、何やら白いものが見えています。
「あったよーっ!」
キリンは、大声をあげました。みんなは、ほっとして息をつきました。そのとたん、みんなの目の前で、キリンの姿がぐわんっと、ゆらぎました。子どもたちがハッと息をのんだ瞬間、パリパリパリッ!メキメキメキッ!という音とともに、キリンの顔が消えました!・・・
 子どもたちが、おそるおそる木の上を見上げてみると・・・そこには、すっかり首が長くなった、キリンの顔がありました。キリンは、みんなを見下げて、うれしそうに言いました。
「どうだい、ゾウ君!ぼく、学年中、いや、学校中で、一番背が高いぞ!」
「・・・あ、ああ、よかったね・・・」
ゾウは、冷や汗をかきながらつぶやきました。さすがにこれは、伸びすぎというものじゃないかな・・・?でもまあ、本人が喜んでいるんだもの。ま、いっか。
 その日・・・いや、ちがった。次の日から、キリンは学校一のチビから、学校一の背高のっぽに。学校一、目立たない子から、学校一、有名な子になりました。
子どもたちはみな、町の風景が見たくなると、キリンの頭にあがりこみ、そこにつかまって、町をながめるのです。それはほんとうに、いいながめでした!そしてまた、キリンはその動物が提案した場所に行ってくれますので、これはなんとお得な展望台でしょう!たちまちキリンは、町中の人気者になりました。よかった、よかった。       (完)

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

「あなた、出版社の方から、電話よ!」
イネコさんがさけびました。カメダさんは、読みさしの本を机におき、何か、自分の書いた大百科の原稿に、まちがいでもあったか、と心配しながらイネコさんのところまで行きました。
「はい、お電話かわりました。カメダです。」
「おお、カメダさん!出版社の、スッポンです。実はですね、あなたの書いた大百科の原稿、とても優秀ですので、サンサラ考古学賞を受賞していただくことになったんですよ!おめでとうございます!」


        *あとがき*

       

       こんばんは、せいです。

      へんなところで終わって

      しまい、ごめんなさい。

      でもですねぇ、実は、四

      話につながっているんで

      すよ。では、その四話目

      ぜひ、読んでくださいね。