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カメダさんとイネコさんが結婚して、一年がたちました。今日は、その結婚記念日。パーティーをやるのです。その夜、カメヨご自慢のごちそうが、テーブルいっぱいに並び、サネリの見事なピアノがなる中、シカダが、自分で台本を作った劇を、披露してくれました。カメダさんとイネコさんは、わらったり、食べたり、おおいに楽しんでいました。その時でした。トントントン。おそる、おそるって感じで、博物館のドアをたたく音がし、
「あの・・・すいません・・・」
という、か弱そうな声がしました。カメダさんは、この楽しいひと時を壊されたので、ちょっと不機嫌になり、強い調子で
「何ですか!」
とさけびました。
「ええっと、旅の者なんですが、汽車に乗り遅れてしまったんです。この村には、宿がないようだし。あの、一晩泊めてもらえませんか」
カメダさんは、ダメです!と言おうとしましたが、それよりも先に、イネコさんが、
「もちろんいいですよ!さあ、お入りください」
と言ってしまいました。「どうも、ありがとうございます」と、ドアの向こうの誰かは言い、入って来ました・・・
「あっ、もしかして」入って来たカラスを見るなり、カメダさんはさけびました。「もしや、あなたは、あの偉大な考古学者、カラカラさんでは?ほら、動物の歴史大百科の著者の・・・」
「えっ」カラスは、びっくりしたように言いました。「そうです、ぼくは、大百科の著者ですよ!ありがとう、偉大なんて言っていただいて・・・あ、お礼に、まだ発表していない『動物の歴史大百科』のお話をしましょうか」
「えっ、本当ですか!ありがとうございます」
「いえ、いえ、では・・・」
カメダさん以外の人たちが、けげんそうな顔で見守る中カラスは、話し始めたのでした。
* * * * * * * * * *
「ヘビがヘビになったわけ」 カラカラ・スウ話
「号外、号外だよぉーっ」駅前で、牡牛の新聞売りが声を張り上げています。「今度、野原で『こっそり動物はだれた』大会が開催されるよぉっ」
「『こっそり動物はだれだ大会』だって!ぜひ、見なくちゃ」
「今年は、誰が出場するのかしら?」
新聞は、みるみるうちに、売り切れていきました。ちょうどそこへ、ヘビが通りかかりました。ヘビは、みんなが騒いでいるのを不思議に思い、近くにいた、マングースに聞いてみました。
「いったい、なぜみんなは騒いでいるんですか?」
「ああ、『こっそり動物はだれだ』大会のことですよ」
と、マングースは答えました。
「ああ、えっと・・・誰が一番こっそり歩けるか、っていう大会でしたっけ」
「そう、それそれ。くわしいことは、この新聞に書いてあります」
そう言って、マングースは新聞の一面を、ヘビに見せました。
「ほう、興味深い!」とヘビはさけびました。「あの・・・よかったら、この紙面だけでいいので、くださいませんか?」
「ああ、いいですよ。どうせ、私は経済についてしか、興味ありませんから」
マングースはそう言って、気前よく新聞の一面を切り取ってくれました。
その晩、家に帰ったヘビは、何度も何度も新聞を読み返していました。(うーん、ぼくも、この大会に出たいなあ)と、ヘビはとても強く思いました。ヘビは、自分は世界一とりえのない動物だ、と思っていましたから、何でもいいから、何かで名誉を得たかったのです。(でも、ぼくなんて一足歩くたびに音たてちゃうし・・・やっぱり無理かなあ。うーん)そして、そのままヘビは、三日三晩悩み続けました。とうとう三日目の夜。ヘビは、大会に出ることを、決意しました。でも、どうしたら大会で勝てるのでしょうか?またまた三日三晩悩んだ末、ヘビは友だちのリュウに相談しに行きました。
「うむ、どうすればいいかな」
ヘビの話しを聞いたリュウは、少し考えこみました。そして、しばらくすると、深刻な顔をして言いました。
「これは、とても大変な事だけど、かまわないかな」
「ああ、かまわないよ・・・」
「あのさ、足をなくす、っていうのは、どうだい」
「ひぃっ」
ヘビは、思わず悲鳴をあげました。が、すぐに
「いい考えだね」
と言い直しました。
「でも、どうやって足をとるんだい?」
「うん、ぼくでよかったら、いいかな。痛くはしないから・・・」
「あ、ああ、いいよ・・・でも、あと三日待ってくれないかな。ちょっと考えたいんだ」
「ああ、いくらでもかまわない」
そこで、それから三日間、ヘビは足をとるかとらないか、考えました。四日目の朝、ヘビは、リュウの家に行き、足をとることにした、と話しました。
「本当にいいのかい?」
リュウは、何度もたしかめました。
「ああ、いいよ。もう決心したんだ。どうせ、ぼくの足なんて、飾りみたいなもんさ。ぶらぶらしているだけで、何の役にもたたない。早いとこ、とっちゃってくれ」
と、そのたびに、ヘビは何度もうなずきました。ヘビの決心が変わらない、と分かると、リュウはヘビをベッドに寝かせ、足をとかす薬を飲ませると、二日間は寝ているように、と言いました。
「なぜ、二日も?」
「それぐらい経たないと、足はとけないんだ」
そうリュウは答え、どこかへ行ってしまいました。
二日後、ヘビは、とても嬉しそうな顔でリュウに言いました。
「リュウ君、君のおかげだよ。邪魔な足がなくなったおかげで、すっごく身軽だ!ありがとう!」
「やっ、本当かい!それは、何よりだ。ぼくも、自分で作った薬が役に立ってうれしいよ」
「じゃ、早く大会にむけて、準備を始めよう。じゃ、リュウ君またね!」
「おっとっと、ちょっと待って!」
帰ろうとしたヘビを、あわててリュウはひきとめました。
「うん、何だい?」
「おなかではうのって、痛いだろ。だからこれ、皮だよ。人間みたいでイヤかもしれないけど、かぶってくれ」
そして、リュウは一枚の皮をヘビにわたしました。
「おうっ、ありがとう。全然イヤじゃないよ」
ヘビは明るく言い、さっそく皮をかぶると、
「じゃ、またね〜」
と言って帰って行きました。
おなかではうのは、なれてしまえば、それほど難しいことではありませんでした。ヘビは、ラクチン、ラクチンと思いながら、本番を迎えたのでした。
「こっそり動物はだれだ」大会のルールは、かんたんです。審査員が一匹ずつ一列に立ち、選手たちは、その百メートル後ろからスタートします。審査員たちは、選手たちがやって来る足音が聞こえたら、赤いカードをあげ、すると、その選手は負け、ということになるのです。
観客たちの声援をあびながら、選手と審査員たちはそれぞれの位置に立ちました。その数秒後、バーン!運命のピストルが鳴りました。審査員たちは、じっと身をかたくし、選手たちはせいいっぱい静かに、進みはじめました。早くも、一番はじの審査員の赤カードがあがりました。アリクイが、残念そうにうなる声が聞こえます。数秒後、今度はヘビの横の選手のカードがあがりました。その選手、ヤマネコは、うらやましそうにヘビをながめ、見学席にひきあげて行きました。それからしばらくは、どの選手のカードもあがりませんでした。が、パッ!カードがあがりました。ヘビのすぐとなりです。ヘビは、自分のか!とはっとしましたが、ライオンが
「ああ、私の体力も落ちたなあ」
と言いながら見学席にすわるのを見て、ほっと胸をなでおろしました。ああ、あと二メートル!二メートルでゴールです!ヘビは、えいやっとおなかに力を入れました。そのとたん、かさっと落ち葉がなりました。あっ、ふう、よかった。審査員は、気がつかなかったようです・・・そして、そして・・・ゴールです!パンパかパーン!ラッパの音がひびくなか、ヘビは、とびあがって喜びました。観客たちは、以外な優勝者に「ほおっ」とおどろきの声をあげています。
「本当に君のおかげだ、ありがとう」
その夜、ヘビとリュウは、満足しきった顔で、いっしょに食事をしていました。
「いやあ、そんな事はないよ。君のがんばりのおかげだ。おめでとう」
リュウは、にっこりして言いました。
「ま、そんな事は、どうでもいいんだ。これからも、よろしく」
「こっちこそ、何かあったら、いつでも言ってくれ」
「うん!」
二匹は嬉しそうに乾杯をしたのでした。 (完)
* * * * * * * * * * *
「結婚記念日にふさわしいお話ですね」
しみじみと、イネコさんが言いました。カラカラさんは、照れくさそうに頭をかきました。
「さあ、思うぞんぶん、楽しんでいってくださいな」
カメヨは言い、また新しい料理を運んできました。
「明日になったら、村長に宿をつくるよう、頼んで見ますよ」
カメダさんはそう言いながら、結婚式の日におとらないくらい、嬉しい気持ちでいっぱいでした。
*あとがき*
完結したはずなのに、
また書いてしまいました。
今度は、十話まで書くつ
もりです。どうぞ、よろし
くお願いします。 2012年3月11日 自宅にて
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