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星草村歴史博物館のおはなし(9)―動物が動物になったはなし―   作:せい

 カメダさんは、朝からそわそわしています。ピシッとのりのきいたスーツを着て、ネクタイをしめています。カメヨたちも、心配そうな嬉しそうな顔をして、博物館の中を行ったり来たりしています。その時、博物館のドアが開き、美しい着物を着たイネコさんが入ってきました。イネコさんはカメダさんのそばへ行くと、
「うれしいわ」
と言いました。それから、カメダさんのうでをとり、
「さあ、もうタクシーが来ていますよ」
とも言いました。カメダさんは、ぼーっとしたまま、博物館の前にとまっていた、『オサルの運転タクシー』に乗り込みました。
 数分後、タクシーは公民館の前に着きました。公民館には、星草村の村民たちや、カメダさんの友だちの、ツキ博士やウミさんがみんな集まり、ワイワイガヤガヤしていました。みんな、いっちょうらの晴れ着姿です。タクシーの運転手のオサルさんは、幸せそうな顔で、カメダさんとイネコさんを、一番前の席まで案内しました。そこには、『新郎新婦特別席』と書いてありました。
 やがて、公民館の奥から、星草村の村長オオカミ、帆氏戸(ホシト)代瑠(ヨル)さんが現れました。前髪をなでつけ、真っ黒のタキシードを着て、緊張しているようでした。
「みなさん」と、ホシトさんは声を張り上げました。「今日は、まことにおめでたい日です。こちらにいる、カメダさんとイネコさんが、結婚いたすことに、なりました!」
みんな、ワーッと声をあげました。
「そこで、ですが、このお祝いの記念として、私が、『動物の歴史大百科』の、最終章を読み上げることにいたします」
みんなが見守るなか、ヨルさんは、秘書から『動物の歴史大百科』を受け取ると、オッホンとせきばらいをし、大声で読み始めたのでした。
  *  *  *  *  *  *  *  *  *  
第三十章「動物が動物になったわけ」     ムラノ・ミンナ著
 そのころは、まだ、「人間」という種類の生き物と、「動物」という種類の生き物しかいませんでした。しかも、二人(二匹?)は、双子のようにそっくりでした。
 ある日、動物の家に、人間がたずねてきました。
「やあ、人間君。どうしたのかい」
「いやあ、ちょっとね。雑談を聞いてほしくてさ」
「かまわないよ。そこに座って、さあさあ」
人間は、椅子にこしかけると、話し始めました。
「君は、年がら年中同じ格好で、あきないかい?」
「いや、べつにあきないよ。楽だしさ」
「変わっているよ。ま、ぼくのような美意識が、ないだけかもしれないけどさ」
「美意識がなくて、すみませんね。ぼくはこのままがいいんだ」
これを聞いて、人間は、あきれたように首をふり、「君とは、話しが合わないよ」と言って、帰ってしまいました。
 数日後。今度は、動物のほうが、人間の家に行きました。一年前に借りた本を、ようやく読み終えたので、返すのです。
 ピンポーン。
「は〜い、ドアは開いてるよ」
そこで、動物はドアを開けて中へ入りました。そのとたん、「ああっ」と声をあげて、目を見開きました。
「き、君、だれ?」
「ふっふん、人間だよ。神さまにもらったんだ。どう?けっこう、よくないかい?」
動物は、夢でも見ているようでした。今、自分の前に立っているのは、よく知っている毛むくじゃらの生き物ではなく、すべすべで、体の一部にしか毛のはえていない、奇妙な布をかぶった生き物だったのですから!
 「君、それ、どうしたの」
やっと、落ち着きをとりもどした動物は聞きました。
「さっき言っただろ、神さまにもらったんだ」
人間は得意そうに答えます。
「へえ、本当!」
「本当だよ。百回くらい頼んで、ようやく承知してくれたんだ。これなら、暑くっても、寒くっても、調節できるから便利なんだ。それに、一つの格好にあきたら、格好を変えればいいしね」
「面倒くさくないかい?」
「いや、ぜーんぜん!」
「ふーん・・・」
聞いているうちに、動物は、人間のことがうらやましくなってきました。そこで、人間に頼んで、奇妙な形の布を貸してもらい、頭からかぶってみましたが、きゅうくつでたまりません。
「こんな、ピッチピチのものをかぶっていて、きつくないの?」
「ぜーんぜん!ぼくは、こういうのに、適した体になったんだもの」
 その晩、家に帰った動物は、どうしたら、自分も人間のようになれるか、と考えました。そりゃ、何日か前に、「ぼくは、今のままがいい」と宣言してしまったので、人間の真似をする、というのは、勝負に負けたような気もしました。でも、この際、そんなことはどうだっていい!という気持ちのほうが、強かったのです。そして、とうとう動物は、神さまにお願いしに行くことに決めました。
 トントン、トントン。
「はーい、どちらさまかね?」
「動物、と申すものです。お願いがあって、参りました」
「はい、ちょっとお待ちよ」
数秒後。ドアが開き、中から白い服のおじいさんが出てきました。それを見て、動物はおどろきました。
「あなたが、神さまですか!」
「そうじゃよ。どうかしたのかね?」
「いえ、何も。ちょっと、人間に似ているなあと思いまして」
「ほっほっほ。そうじゃよ、人間が、わしと同じ姿になりたい、と言ったもんでな・・・でも、やっぱり毛むくじゃらのままの方が、よかったのかも・・・う〜む」
「あの・・・」
「あ、そうそう、君も、何か頼みがあるということであったな。もしかして・・・」突然、神さまの目がキラリと光りました。「わしのような姿になりたい、とか?」
「実は、そうなんです」
動物は、おずおずと答えました。そのとたん、
「それはいけないよ!」と、神さまはさけびました。「それは、ダメだ!ぜったい!」
「なぜです!」
「それは、十年後くらいに、分かるだろうよ。ともかく、君を二本足生物にすることは、できないのだ」
「どうして、人間はよくって、ぼくはだめなんですか!」
「それは、今話すことはできない。まあ、十年間待っていれば、分かるさ」
そして動物は、神さまに追い出されてしまいました。
 時はたち、人間も動物も、中年のおじさんになりました。もう結婚もしていますし、奥さんは妊娠中です。そして、十二月のある晩。動物と人間の家では、同じ時刻に、同じようにして、まったく別の外見の、赤ちゃんが産まれました。人間の赤ちゃんはすべすべで、動物の赤ちゃんは毛むくじゃらでした。それから、数年後。またまた、同じ時刻に同じようにして、ちがう赤ちゃんが産まれました。人間の赤ちゃんは、もちろんすべすべ。動物の赤ちゃんは、もちろん毛むくじゃら。そして、また数年後・・・またまた数年後・・・動物と人間の赤ちゃんは、まったく同じ時刻に、同じようにして、産まれていきました。同じようにお風呂に入れられ、同じ日に、命名されました。外見以外は、本当に、何もかもが同じでした。けれども、たった一つ、違うところがありました。人間の方は、何度赤ちゃんを産んでも、同じような外見の子しか、産まれませんでした。しかし、動物の方は、その時の両親の状態により、まったく別の外見の子どもが産まれたのです。たとえば、動物が毛をそった時に産まれた子は、毛の少ない子でした。逆に、動物が、面倒くさがって毛をそらなかった日は、毛むくじゃらの子が産まれました。動物の奥さんは、一万回出産したのですが、その一万回ぜーんぶ、他の子と、同じ外見の子は産まれませんでした。これを知った人間は、急いで神さまのもとへ行き、こう言いました。
「神さま!不公平です。動物の方は、色々な子孫を残せるのに、ぼくの方は、同じ種類の子孫しか残せないなんて!」
「本当にそうかね?君も、君の子どもも、動物にはない能力を、色々と持っているではないか。これで、おあいこだよ」
これを聞いて、人間は
「それも、そうですね」
と、満足した顔で、帰って行きました。         (完)
  *  *  *  *  *  *  *  *  *  
 わーっと、みんなは歓声をあげました。村長さんは、照れたように、頭をかくと、
「さあ、みなさん、おおいに、この式を楽しもうじゃありませんか!」
と、さけびました。
 村長さんの言うとおり、その日、みんなは、おおいに、カメダさんとイネコさんの結婚式を、楽しんだのでした。
                           おわり

 




      *あとがき*


     やっと、終わり

     ました。星草村

     シリーズ、どう

     でしたか?楽し

     んでいただけた

     なら、嬉しいで

     す。


           2012年3月10日 自宅にて