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(1)
神さま、というのは、人間がつけた名前であって、神さま自身は自分のことを「ハミ」とよんでいました。
ある日、ハミさまは思いました。(ああ、たいくつだなあ)そして、自分のつくった宇宙をながめました。真っ暗で、神秘的ですが、どこかちょっと物足りない気がします・・・そうだ!新しいヒシ(星のことです)を作ろう。きっとにぎやかになるぞ!ハミさまは、思いついたらすぐ実行するたちでしたので、大急ぎでヒシを作り始めました。まず、畑に出かけてヒシ花という花を摘んでくると、その花びらをすりつぶして粉にしました。次にヒシ花のくきを小さくきざみ、花びらの粉にまぜこみました。そしてそれを、二つの大きなボウルに入れ、冷凍庫に一晩置いておきました。
(2)
あくる朝。冷凍庫からボウルを取り出したハミさまは、まな板の上でボウルをひっくりかえしました。そして出てきた半円形の白いものを、二つくっつけました。ほら、これでヒシの形のできあがり!
ハミさまは作業小屋へ出かけ、マッチぼうに火をつけると白いヒシの真ん中に、ブスッとつきさしました。さあ、これでヒシは少し暖かくなりました。でも、火だけあっても困ります。ハミさまは、水もつくることにしました。そこで台所へ行くと、大きな洗面器に水道水を入れると、ぐるぐるかきまわしました。こうすると、きれいな水になるからです。そのうち、だんだん調子にのったハミさまは、うっかりとなりにあった塩のびんをひっくりかえしてしまいました。ドバーッと塩がこぼれます。そしてその半分は、水の中に入ってしまいました。それが少しだったらまた作りなおしたでしょう。でも、もう水は完成間近でしたから、ハミさまはヒシに穴をほり、水をその穴に流しこみました。けれどもその時、ハミさまは考えました。(塩水じゃ、とても飲めないじゃないか!)とね。そこでハミさまは、何も入っていない、まったくの真水を作ることにしました。ところがそれが、以外ともむずかしいんですね。第一、ヒシは塩水でいっぱいなので、真水が入る場所なんてないのです。ハミさまは、何時間も何時間も考えましたが、いい案がうかばないので、とりあえず、その問題はおいといて、次にハミさまがしたことは、塩水だらけのヒシに陸地をつくることでした。ハミさまは自分の畑から土をとってくると、昨日ヒシを作るときにあまった粉を混ぜ合わせました。それから、それを少し固め、塩水の上にうかべました。(ほら、今でも陸と陸とがくっついたり離れたりすることがあるでしょう?あれは、地上がただ浮かんでいるだけだからなのです)ううん、だいぶよくなった!とハミさまは満足しました。
(3)
次の日、ハミさまは、洋服のつぎあてをした時に使った、糸のあまりで、シャクブチュ(植物)を作り、少し自分の息をふきこみました。こうすると、シャクブチュは生命を持つことができるのです。
シャクブチュを地上に植えつけたところで、ハミさまはその出来栄えを見てみました。そして、あることに気がつきました。(ヒシは真っ暗じゃないか)そこでハミさまは、ヒシを透明にすることにしました。そうすれば、ハミさまが前につくったヒシ、パイヨウ(太陽)が照らしてくれるので、明るくなるでしょう。ハミさまはすぐに、ポケットから小型ナイフを取り出すと、そーっとそーっと、慎重に慎重に、ヒシの側面をけずり初めました。透明になるまでけずるのは、とても骨のおれる仕事でした。その仕事は、徹夜でがんばっても、次の日までかかりそうでした。そして、実際、ヒシを全部透明にしてしまうには、次の日のお昼までかかりました。
(4)
ヒシをけずり終えると、ハミさまはやっと安心して、「ふぅーっ」と息をつきました。それから、汗を流して体をきれいにするために、シャワーを浴びに行きました。
シャワーで、体をすっかりきれいにしてしまうと、ハミさまはエネルギーを作るため、昼食を食べることにしました。昼食を食べ終えると今度は、元気をつけるために昼寝をしました。そしてやっと、夕方になってから、ハミさまは作業小屋へ向いました。ところが、テーブルの上にのったヒシを見たとたん、ハミさまはやる気をすっかりなくしてしまいました。なんと、ヒシの塩水の上に、ヒシのけずりカスが、プカプカ浮いていたのです!それでも、数分後、なんとか、少しだけやる気を起こしたハミさまは、けずりカスをとりはじめました。さいわい、落ちたけずりカスはほんの少しだったので、何分かすると、ヒシは元通りになりました。
ハミさまは、ヒシのけずりカスを捨てるため、カスをしぼっていました。カスは塩水をすって、ベチョベチョになっていたからです。その時ハミさまは、カスから落ちる水が、えらくきれいなのを発見しました。そうです、それは本当に真水のようでした!びっくりしたハミさまは、急いでその水をなめてみました。本当に、正真正銘の真水です!
「やったあ!」
ハミさまは、思わず声をあげてしまいました。
それからハミさまがしたことは、もっと真水を作ることでした。昨日作った陸地の一部をもりあげ、そのところどころに、くぼみをつくりました。次に、そのもりあがりの下にも大きなくぼみを作り、上から、真水を流しました。陸地のところどころに、カスをうめこみ、勝手に水が湧き出るようにしました。(温泉が湧くのは、カスが、たまたまマッチの近くにうめられているからなのです)そして、とうとう・・・
「やったあ、完成だ!」
ハミさまはさけびました。そして、その出来栄えを見るために、ヒシを目の高さまで持ち上げました。ハミさまは、ヒシがあまりにも美しいので、思わず、は〜と息をついてしまいました。みなさんは覚えていますか?ハミさまの息がかかったら、生命が生まれることを。その時、ハミさまの息はヒシ全体にかかりましたから、その時ヒシにあったもの、そう、塩水と、真水と、土と、それにヒシとはみんな、生命を持ったのです。特に塩水には、たくさんの息がかかりました。そして、ある時、その塩水に、動く生命が生まれたのです。
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