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ある町の、小さな山の中に一人のおばあさんがすんでいました。
「ソソソ、ラララ、いい天気。ソラ、洗濯物ほしましょ、ほしましょ。ラ、ラ、ラ。」
ソソラさんは元気に歌いながらパッパッパ、と洗濯物をのばしてハンガーにかけました。
そして、そのハンガーを、二本の木にわたした太い針金にかけていきました。
「ソッソッソ、ラッラッラ、そいじゃ、ソラソラ木さん、今日もおねがいね。」
すると、二本のソラソラ木は「まかせて」って感じに枝をゆらゆらさせました。ソソラさんは、にっこりわらって洗濯かごをとると、丸太でできた自慢のお家にはいっていきました。
「さ、朝ごはんをたべましょか。それとも新聞読もかしら。」
ソソラさんは洗濯かごをかたづけると、自分で自分に聞いてみましたが、答えたのは電話でした。ルルルルルー、ルルルルルー、とつぜん電話がなったのです。
「おや、びっくり、くりくりクリコさんね。はーい、いま行きまーす。」
ソソラさんはいそいで電話をとりました。案の定、それはりすのクリコさんからでした。
「おはようございます。ソソラさん。今、わたしの孫がきているのですけど・・・。どうしてもソソラさんのケーキを食べたいってきかなくて。」
クリコさんは、自分もケーキを食べたいようでした。
「もちろんいいですよ。三時にどうですか?
あの、まぜこぜケーキでいいかしら。」
「ほんとですか。ありがとうございます。じゃ、三時におうかがいしますね。」
クリコさんはうれしそうに言って、電話をきりました。
「ソソソ、ラララ、ふふふっふ。さあ、行くぞ。食べ物さがし。」
ソソラさんは楽しくなって、歌いながら、赤い小さいぼうしをかぶりました。そして台所の棚にかけておいたかごをとると、「いってきまーす。」とさけんでドアをあけました。
「いってらっしゃーい。」と、植物たちは枝をふったり、ゆれたりしました。ソソラさんはにっこりしながらゆるやかな山道をのぼっていきました。
しばらく歩くと、どこかからドサッバサッと大きな音がしてきました。地面が、がんがんゆれて、小さくて軽いソソラさんはなんどかよろめきました。(どうしたのかな。)ソソラさんは気になったので、音のするほうへ行ってみました。するとどうでしょう、大きなクマが、地面にたおれていたのです。ソソラさんはあわててかけよると、クマをだきおこしました。
「だいじょうぶですか。」
クマはニ、三度うなったあと、「だいじょうぶです。」と答えておきあがりました。
「んまあ、クマオさんじゃない!どうしたんですか。」
ソソラさんは目の前にいるのが、よくソソラさんの家にくるクマオさんだとわかっておどろいて聞きました。
「いやあ、木のねっこにつまずいて、木にぶつかって・・・で、ごらんのとおりです。」
クマオさんは、はずかしそうに言いました。
その時、とつぜん
「ほーら、言わんこっちゃない。」
というしわがれ声がしました。ソソラさんがふりむくと、木の上にふくろうのフウじいさんがとまっていす。
「そこのわかいの、これで年寄りのいうことはきいたほうがいいとわかったろ。歩きながら本なんか読んじゃいかん。」
フウじいさんはお説教のような調子で言いました。
「はあ、すみませんでした。」
クマオさんは頭をかきながらあやまり、左手をポケットにつっこみました。そして、小さな箱をとりだしました。
「なあに、それ?」
ソソラさんは身をのりだしました。フウじいさんも興味がありそうです。
「なんだと思いますか。これ、携帯用ハチミツ入れなんですよ。」
クマオさんは得意そうに言って、ふたをあけようと右手を出しました。とたんに、「いたっ!」とさけんで顔をしかめました。
「どうしたの!」
「どうしたんじゃ。」
ソソラさんとフウじいさんはおどろいてさけびました。
「いやあ、右手がちょっと痛くて。」
とクマオさんは言うのです。一応、ソソラさんがみてもらって、ひどいけがではないとわかりましたが、三人は病院へ行ってみることにしました。
少し歩くと、「キヌタ病院」というかんばんが、見えてきました。三人の知り合い、タヌキのタヌさん夫婦の病院です。
順番はすぐにきたし、しんさつもすぐにおわりました。クマオさんのけがはとてもわかりやすくて、かるかったからです。シップをしてもらって
「どうも、ありがとうございました。」
と言って、出て行こうとする三人を、お医者のポタオさんがよびとめました。
「あの・・・ソソラさん。今日、ケーキを焼くんですよね?」
「ええ、そうです。」
と、ソソラさんが答えるとポタオさんが、はずかしそうに言いました。
「あの・・・わしと女房も食べに行っていいですかな?あと、はい、このブドウ、ケーキに入れてください。」
そして、ポタオさんは小さなつぼをソソラさんに、わたしました。
「もちろんです!ありがとうございます。」
ソソラさんがよろこんで答えると、
「ぼくも!」
「わしも!」
クマオさんとフウじいさんも言いました。ソソラさんは、うれしくなって
「はい、どなたでもどうぞ。お友だちやごかぞくもどうぞ。」
と言いました。
「ありがとうございます。」
みんなはよろこんで、頭をさげました。
外に出ると、クマオさんがさっきのハチミツ入れをとりだしました。
「あの・・・このハチミツ、ぜひケーキに使ってください。」
クマオさんははずかしそうに言うと、ソソラさんの手にハチミツ入れをにぎらせ、走っていってしまいました。
「三時にきてねーっ。」
ソソラさんが大声でさけぶと、クマオさんはわかったのかわからないのか、ちょっと手をふったようでした。
「わしからも、はい。このイチゴはやわらかくておいしいんじゃ。歯がなくても食べられるすぐれものじゃ。カロリーもゼロだしの。ぜひケーキに入れとくれ。」
と言って、フウじいさんも小さなイチゴを何粒かのこして飛んでいってしまいました。
「あんなにいそがなくてもいいのに。」
ソソラさんはつぶやくと、ふふっとわらいました。そのとき、道のむこうからキツネのツキヨさんがやってきました。ツキヨさんは、ソソラさんを見つけると、うれしそうに手をふりました。
「こんにちは、ソソラさん。」
「こんにちはツキヨさん。」
ソソラさんも答えました。そして、あっ、と思い出しました。ツキヨさんもケーキを食べにきてくれるかしら。
「ねえ、ツキヨさん、今日家でケーキをつくるんだけど、食べにきませんか?」
ソソラさんはおもいきってきいてみました。
「わあ、うれしい。もちろんうかがいますからね。何時に行けばいいでしょうか。」
ツキヨさんはおおよろこびです。
「三時ごろにきてくださるとうれしいわ。」
ソソラさんが言うと、ツキヨさんは元気に、
「はい、うかがいます!」
と答えました。それから、少し間をおいて、バッグをごそごそやりました。そして、中に入っているなにかをとりだしました。
「はい、これ。いつも持ち歩いているんですよ。おやつがわりに。ケーキに入れてくれるとうれしいです。」
そう言って、ソソラさんにチョコレートをひとつてわたすと、風のようにかけて行ってしまいました。次に会ったのはイタチのタツくんでした。タツくんもよろこんで、ケーキを食べにくることを約束し、ソソラさんにおいしいキイチゴがとれる場所を教えてくれました。そのあとに会った何匹かの動物たちも同じように、もっていた食べ物をくれたり食べ物がとれる場所なんかをたくさん教えてくれました。それで、あっというまにソソラさんのかごは食べものでいっぱいになっていました。
ソソラさんは家につくと大急ぎでケーキをつくりはじめました。もう、三時まであと二時間しかないのです。まず、ハチミツを少しまぜたスポンジを二つつくり、一つにいろいろな木の実をまぜたクリームをたっぷりぬります。つぎにもうひとつのスポンジを初めのスポンジにかぶせ、クリームをきれいにぬります。そして、最後に木の実やチョコレートでかざって完成です。小麦粉とクリーム以外はみんな、今日会った動物たちにもらったのです。
ピンポーン、ピンポーン。たてつづけにベルがなりました。
「ソソソッソ。ラララッラ。お客さんのごとうちゃく。だれかな、だれかな。」
ソソラさんはうきうきしながらドアをあけました。立っていたのはクリコさんと、孫のエリコちゃんでした。
「こんにちは。」
クリコさんがにこにこしながら言いました。
「こんにちは。いらっしゃい。」
ソソラさんもにっこりすると、クリコさんたちを居間にとおしました。クリコさんは、テーブルの上にならんだお皿の数を見て、ぎょうてんしました。
「こんなにくるんですか!」
「ええ・・・よばないほうがよかった?」
ソソラさんが、すこし心配になって聞くと、
クリコさんは目をかがやかせました。
「いえ、いえ、とんでもない!にぎやかでたのしいわ。」
それからぞくぞくお客さんが、とうちゃくしました。最後の客さんがとうちゃくするまでに、ソソラさんはお皿を三十枚もついかしなければなりませんでした。この山全部の虫たちや、動物たちがきたからでした。ソソラさんがケーキを焼いているあいだ、その香ばしい、いいにおいがえんとつから、山じゅうにひろがり、たくさんの動物たちがその香りにつれられてやってきたのです。
「はい、たくさん食べてね。」
「はーい、いただきます。」
「うーん、おいしい。」
「最高にすばらしい。」
「すてき!」
その日のおやつにはだれもが満足しました。
みんなが集まって、とてもにぎやかでたのしかったし、なんといってもソソラさんのケーキは、世界一おいしいのです。動物たちは、おなかがいっぱいになって動けなくなるまでケーキを食べました。そのとき、だれかが
「ソソラさんのケーキは魔法のケーキね。」
と言いました。
「ケーキ一つで、こんなにたくさんひとが集まるなんて。おかげで、うちの子にもお友だちができましたわ。」
「いえ、いえ。」
ソソラさんは、はずかしそうに首をふりました。
「ケーキがおいしいのは、みなさんのおかげですよ。わたしは焼いただけで材料は、みなさんがくれたんだもの。これは、みんなの魔法よ。」
いっしゅん、しーんとなりました。それから動物たちは、「わーっ!」とかん声をあげて手をたたきました。それから、さっきよりずっとにぎやかに、楽しくなりました。
その日の夕方が、人生でいちばん楽しかった、とみんなはひとりのこらず思っていました。 |
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