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街の明かりが灯る時                     作:みれ

ある、昔の童話に出てくるような街に小さな、明るい明かりが灯りました。レンガ造りの家に、ピカッ、と明かりが灯るのです。
暗い時に、高台からこの光景を見ると、心温まる事でしょう。
1つの家からバァーと、綺麗な明かりが灯る事によって、心の傷を癒そうとしていた旅人がいました。
その、旅人の名前はグレーといいます。いかにも、暗そうな名前ですが、明るい性格の持ち主でした。
しかし、ある日の事件によって、彼は心に傷を負ってしまったのです。
それは、3年前のこと。グレーはいつも通り、友達と仲良く遊んでいました。遊びが終わったので、家に帰るとお母さんがいないことに気付いたのですが、彼は小さかった為、お母さんが帰ってくると信じてたのです。しかし、真相は、お父さんと喧嘩が続き、我慢できなくなったお母さんが、家出をしたことに過ぎなかったのです。
そして、ようやく、ことの意味に気が付いたグレーは、お母さんを探すことに決めたのです。
お父さんは、酒飲みのため、毎日、酔いまくり、グレーのことなど気にもしませんでした。
ですから、グレーが家を出たことも気がつかなかったのです。
それから、3年経った今、ようやく、お母さんを探したと目撃された町まで行きましたが、お母さんはもう、死んでいたのです。
長い、長い旅が招いた結果は、悲しい結果でしたため、疲れ果てたグレーは、生きる気力をなくし、お母さんの永眠は、グレーの心の傷となって、記憶に残ったのです。
それ以来、お母さんとお父さんと3人で過ごした日々を思い出しながら、あの、明かりが灯っていく様子を見て、過ごしていたのです。
お母さんから貰った、ペンダントを握り締めながら、涙をこぼしながら、見ていたのです。
でも、不思議ですね。この町は、見るだけで、温かい記憶がよみがえって来るのですから。
グレーは、もう、遠い国へ行こうと決めて、歩き始めようとした時、ある声が聞こえたのです。
「あの・・・、これどうぞ。よかったら、食べてください。」
その少女は、可愛い顔立ちに、大人しそうな落ち着く声で、グレーに呼びかけたのです。
「なんで、あんたが俺に食べ物を分けるんだ?」
「寂しそうに、あの街を眺めていたから。あなた、いつもここで街を眺めているだけで、何も、食べようとしない。これでは、死んでしまうから。それは、無念じゃない。」
グレーは、驚きました。だって、自分がこの街をいつも眺めていることを知っているからです。グレーは、驚きのあまり、質問をしました。
「あんた、何で知っているんだ。」
「何を?」
「俺が、この街を眺めていたこと。」
「私は、ここの牧場の娘なんですけど、いつも、ここで、牛乳運びの休憩をしているんです。そしたら、あなたがそこで街を眺めていたんです。」
「それで?」
「それでって?」
「なんで、俺に食べ物を分けるのか。」
「あぁ、それか。それは・・・。」
「何だ?」
「いつも、何しているのかなぁ?と思って、見にきたらあなたが、お腹を、押さえているんです。それで、てっきり、お腹がすいてるのかな、と思って、今日差し入れを。」
「せっかくだが、その差し入れは断っておく。」
「なんで、ですか・・・?」
「俺は、今日からまた、旅に出る。なのに、恩なんか売ってもらったら、返せなくなる。」
すると、少女はくすっ、と笑ってこいういった。
「恩なんか、返さなくてもいいですよ。死んでしまったら、私が心残りじゃないですか。唯一あなたのことを知っていたのは、私なんですから。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
そう言うと、グレーは差し入れで貰った食べ物を食べることにした。
中には、卵とベーコンのサンドイッチ、バナナ、アップルパイに牛乳を3つ。
少女は、そっとグレーの隣に座った。
「私も、一緒にいいですか?まだ、ご飯を食べてないんです。」
「どうぞ。ところで、なんで牛乳が3つもあるんだ?」
「まず、私のが1つ、そして、あなたのが2つ。」そういって、少女は、牛乳をグレーに渡した。
「お前の名前は何だ?」
「サランです。サランは、韓国語で『愛』という意味なんです。愛をたくさん持った子になってほしいという意味でサランです。」
「あんたの親、韓国人か?」
「いいえ、韓流なんです。親が。」
「韓流?」
「韓流ブームですよ。それで、韓国ドラマの見すぎで韓国語を覚えたみたいなんです。」
「そうなのかよ・・・!面白いな、お前。」
「お前じゃなくて、サランです。」
「面白いですね、サランさん。」
「ふふふ・・・。笑いましたね。」
「笑ってない。」
「今、笑いましたよ。ほら、また。」
「うっ、うるさい!]
こうやって、グレーの心にも、小さな明かりが灯ったようです。
ほら、あの街の明かりが灯る時のように・・・。