せい文庫 本文へジャンプ


星草村歴史博物館のおはなし(4)―シカがシカになった話―   作:せい

 星草村歴史博物館では、毎朝七時までには、館内中をきれいにし、いつお客さんが来てもいいようにする、と決めてありました。もちろん、あのカメダさんが決めたのです。カメダさんは、だれであろうと、不規則でダラダラした生活は許しませんでした。そんなわけで、歴史博物館は、いつでもピッカピカで、お客さんを待っているのでした。
 この日はもう、朝のお掃除は終わり、みんなそろって部屋のすみのテーブルをかこんで、七時のお茶を楽しんでいました。すると、とつぜん
「宅急便でーす。」
という、ちょっと気だるい女の子の声が聞こえてきました。カメヨがぱっと立ち上がり(いつものことです)玄関にかけて行きました。そしてしばらくすると、金色に髪をそめ、マニキュアをぬり、ドクロマークのアクセサリーをじゃらじゃらつけたキツネの女の子をつれてやってきました。とたんにカメダさんは、けわしい顔になり、
「まさか、その子もここで働きたいっていうんですかね?」
と、言いました。
「ううん、ちがうの。この子は・・・・・。」
カメヨが説明しようとしましたが、キツネの女の子はそれをさえぎり、バカにしたように、
「ばっかねえ、だれがこんな流行おくれの湿っぽいとこで働くのさ。あたし、ただでさえ、コツコツ働くの苦手なのにさ。」
と言いました。
「うむむっ。」
カメダさんは思いきり首をのばして、女の子をにらみました。それは、だれもがちぢみあがるような目つきでしたのに、女の子はてんで平気なもので、
「あたしは、バイトの配達員やってるの。喜喜乃(キキノ)っていうの。おじさんとこに、月草村の博士たちから小包が来てるわよ。」
と言って、カメダさんに重い、四角い包みをわたしました。
「お茶でも飲まない?」
今ではかなり、積極的になったサネリが聞きましたが、女の子は
「ううん、まだ仕事があるから。サンキュー!」
と言って帰って行ってしまいました。カメダさんは、せっかくの楽しいお茶をじゃまされ、不機嫌でしたが、カメヨとサネリはキキノにうっとりしていました。カメヨたちは、「最近の流行」や「自由」なキキノにひかれ、カメダさんは、それが悔しく、やきもちをやいていたのかもしれませんね。
 この日はめずらしく、一日ほとんどお客が来ませんでした。カメヨとサネリは久しぶりにポシェットを肩に、町に出かけていきました。〈この包み、何が入っているのかな?〉カメダさんは気になり、さっき届いた包みを開きました。中には、「ハッピーバースデー ツキ&ウミ」と書いたカードと、お月さま色の、コンペイトウのキーホルダー。それに、『動物の歴史大百科』第三巻が入っていました。カメダさんは、ポッと心が温かくなりました。〈時間があったら、月草村と日野草村に行こうかな。〉と思いながら、そっと『動物の歴史大百科』をひらいたのでした。
 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
第一章「シカがシカになった話」       リ・ス著
 
 山の奥で、ロバとシカとウマがなわとびをしていました。本当に急な斜面で、木やら草やらがびっしり生えていて、枝はのびほうだいに、あちこちにのびていましたので、なわとびをするのは、そう簡単なことではありませんでした。でも、シカは毎日この山でくらしていますので、手馴れたもので、らくらく三重とびなんかをこなしていました。
「まあ、すごいわ。シカちゃん!」
「ほんとにねえ!地味でとりえのないわたしとは大違い!」
ロバもウマも、うらやましそうにシカを見ています。シカはもう、鼻高々でうれしくってたまりませんでした。
「そんなことないわ。ウマちゃんは、わたしよりかっこいいし、ロバちゃんは・・・・・・えっと、やさしいもの。こんなの、練習すればすぐできるわ。」
そして、得意そうに二匹の目の前でとんでみせるのでした。けれどもそのうち、ロバもウマもすっかりあきてしまいました。できないものをやったって、おもしろくないし、それほど熱をこめて「とべるようになりたい!」と思っているわけでもありませんでしたから、まあ、仕方のないことですね。
「まあ、来学期に先生にほめられるかもしれないのに!練習しましょうよお!」
シカは、必死でひきとめようとしましたが、
「いやよ。おもしろくないもの。」
「ほめられなくったって、かまわないわ。」
と言われたのでは、あきらめるしかありませんでした。
 三匹は山をおり、ずいぶん歩いて野原につきました。
「うえぇ、きったなぁーっ。」
ウマが首をぶるぶるふりました。雨あがりの野原は、すっかりぐちゃぐちゃになっていて、そのどろが三匹のひづめに「ぶちゅっ」と入り込むのでした。
「ほんと!ねえ、山にもどりましょうよ。あそこなら木があるからぬれてないわよ。」
シカは、ここぞとばかりに言いましたが、二匹は少しも聞いていませんでした。
「そうだわ。リンゴのが丘に行きましょうよ。あそこは日当たりがいいから、きっとかわいているわ。」
「いいわね!」
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・・・・。」
シカは、すがるように言いましたが、二匹はもう夢中になっていて、ちっとも気がつかないのでした。
 リンゴのが丘は、日当たりがよく、ワラがしいてある地面は、もうすっかりかわいていました。おまけに、今はリンゴがたくさんなっていて、手をのばせばいくらでも食べることができるのでした。それで、三匹は夢中になって、わらいながらリンゴを食べました。
「おいしいわねえ。」
「最高のリンゴだわ!」
「リンゴのが丘もね。」
「ああ、やめられなーい!」
「ね、そうだわ。持ってかえりましょうよ。」
「賛成。」
三匹が、楽しそうに話していると、不意にむこうのほうからブタとキツネが走ってきました。ブタは、いくらかよろよろしていましたが、それでも、猛スピードで三匹の前をかけぬけて行きました。
「どうしたんですか。」
三匹が聞くと、
「そんなに気楽にしてないで!さあ、人間が来るよ!」
ブタとキツネはそうさけんで、あっという間に見えなくなってしまいました。・・・・・・そして、もちろん三匹もあわてて立ち上がりました。こうしてはいられません!早く逃げないと!ああっ、もう後ろに人間が!
 三匹は、あわてて走り出しました。かけて、かけて、かけました。本当に、夢中で山の方までかけました。ところが・・・・・・
「あっ!」
とちゅうで、ウマがころびました。何につまづいたか分からないけれど・・・・・・でも、今はそんなこと考えている場合ではありません!シカは、あわてて後ろをふりかえりました。けれど、人間がすぐ後ろにせまっているのを見ると、たまらなくなって走って行ってしまいました。
 翌日、学校で・・・・・・。
「ふん、おまえ、友だちも助けられないような臆病者なのかい!」
「ええっ。」
「ひっどおい!」
シカは思いがけない言葉をあびせられました。学校の友だちはみな、友だちを見捨ててにげるやつなんて、とてもがまんできなかったのです。かわいそうなシカ!それからずっと、臆病のレッテルをはられてしまいました。でも、仕方がありませんよね?  (完)
 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
 「ただいま、カメダさん!」
カメダさんは、あわてて本をとじ、立ち上がりました。カメヨとサネリが帰ってきたようです。
 カメダさんが下へおりて行くと、二匹は楽しそうにニコニコしながら両手を後ろに組んで言いました。
「カメダさん、お誕生日おめでとう!」
そして、ぱっと両手を出し、めいめい小さな包みをさし出しました。
「あっ。」
カメダさんは何も言えず、ただただ赤くなるばかりでした。うれしくってたまらないのは、たしかですけれどね。
 カメヨとサネリは、気をきかせて部屋にひっこみました。それで、カメダさんは、そっと二つの包みをあけてみました。・・・・・・カメヨの包みに入っていたのは、草で編んだ、きれいなしおりでした!茶色い布地に、時計の柄が編みこんでありました。ああ、本当に、本当に、胸がいっぱいになってしまうほど、きれいでした!サネリの包みに入っていたのは、二千円分の図書カードでした。『動物の歴史大百科』四巻を買う時につかおう、と決めて、カメダさんは一人、くすっとわらったのでした。



       *作者あとがき*


      こんにちは、せいです。

      毎回、楽しく書かせても

      らっています。今回は、二
      
      日で仕上がりました。急いで

      書いたので、まちがっている所

      があるかもしれませんので、教え

      てくださいね。



     たくさんの 投稿待ってる せい文庫   





            2012年2月3日 自宅にて