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ね、みなさんは、「アストリッド・リンドグレーン」って知っています?ええ、そう。あの、有名な童話作家です。リンドグレーンが、このお話に関係あるのかどうか、それはほとんどありません。でも、このお話を読む前に、みなさんに、知ってほしかった、というだけなんです。
昔、いえ、今より少し前、スヘーデンという国の、スティックホイルという町に、「ファーストフード・リンゴクレーイ」という、ペンネームの、若い、売れない童話作家が住んでいました。毎日のように、お月さまやお星さまに「有名で喜ばれる童話作家になれますように。」と言って、お願いしていました。
〈ああ、なんかいいアイディアないかしら?〉ある日、リンゴクレーイは家の前の公園をながめながら考えていました。公園では、たくさんの子どもたちがおままごとをしていました。
「ふう・・・・・・。」
リンゴクレーイが絶望のあまり、ため息をついたその時、小さな女の子が、花柄のスカーフを頭にまき、なんともあわれな様子で
「リンゴをどうぞ。リンゴをどうぞ。」
と言っているのが見えました。
「おやまあ、かわいそうに!マッチ売りの少女のようだわ!そうだ、行って買ってやりましょう。」
リンゴクレーイは、思わずそうつぶやくと、さいふを持って家をとびだしたのです。
「リンゴをどうぞ。お願いします、買ってください!」
女の子は泣きそうになって、さけんでいます。リンゴクレーイは急いで、
「リンゴ、リンゴ買います!」
とさけんで手をふりました。女の子は、はじめおどろき、それから顔中をほころばして
「ありがとうございます!」
とさけびました。そして、リンゴを一つ、リンゴクレーイにわたしました。
「あら、一つだなんて!わたし、みんな買うわよ。ご飯にこまっていたところなの。」
リンゴクレーイは自分でもおどろくほど、気前よく言ってあげました。女の子は、顔中大ニコニコでリンゴの入ったかごをわたすと、前掛けのポケットをさぐりました。そして、一本のペンとリンゴのキーホルダーを取り出すと、
「はい、お礼です。このペンにはね、リンゴの汁かジュースを入れるとかけます。」
と言って、リンゴクレーイの手にのせました。
「えっ。」
リンゴクレーイがおどろいて、手の中の物を見つめ、また顔をあげてみると、さっきの女の子はもういませんでした。
それから何年かたちました。今では、リンゴクレーイは今では有名な童話作家です。いえ、リンディー・クレリーは、でしたね。リンディーというのは、リンゴクレーイの本名です。あの女の子に会って以来、
「わたしは、わたし。無理におもしろおかしい表現にしなくていいんだわ。」
と、考え始めたのです。それで、あのばかばかしいペンネームとは、きっぱり縁を切り、本名で新しく作家活動を開始したのです。それにしても、クレリーが、あのペンネームと縁を切って、本当によかったこと!ねえ、だって。あんなにおかしなペンネームで、『国際アンデルセン賞』を受賞する、なんて考えただけでもぞっとするでしょう?ええ、
そうね。これも言っておかなくてはいけませんね・・・・・・。クレリーは、あの女の子にもらったペンを、ちゃーんと使っているんですよ!
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