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星草村歴史博物館のおはなし(3)―キツネがキツネになった話―  作:せい

 もうすぐ春です。いつもは気むずかしいカメダさんも、この時ばかりは、とろ〜んととけたような感じでした。その時、だれかが博物館の扉をたたきました。カメダさんはあわてて、立ち上がりましたが、それより早くカメヨが扉を開けてしまいました。外に立っていたのは、か弱そうなウサギの女の子でした。
「まあ、サネリちゃん!どうしたの。」
カメヨはうれしそうな声をあげました。
「まあ、そう騒がないで。カメダさんはいるかしら?」
ウサギの女の子は、こまったような決心したような表情で言いました。
「いるわ。よびましょうか。」
カメヨが気をきかせて言うと、ウサギの女の子はとんでもない、という顔をして、言いました。
「ね、カメヨちゃん。お願いがあるの。カメダさんにね、わたしがここで働きたいって言ってたって、言ってほしいのよ。」
それを聞いたカメヨは、すぐさま手をふりました。ねえ、だってそんなのとんでもないことではありませんか!
「だめよ、サネリちゃん。自分で言いなさいよ。」
「無理よお!」
「だから、呼んできてあげるって言ったのよ。わたしも手伝ってあげるから。」
「おねがいよ、カメヨちゃん!カメダさんに言ってちょうだい!」
二人がもめている間に、お客さんはどんどん増えてきました。みんな、入口の二人を不思議そうに、あるいは邪魔そうに見ながら館内に入ってきました。カメダさんも、さすがにはずかしくなり、カメヨをよびに、入口までとんで行きました。
 「カメヨさん、何をしゃべっているのですか!はずかしいですよ。」
カメダさんのところへ来てから、カメヨの性格は前に増してもしっかりしてきましたが、カメダさんが、女の子一人(あるいは一匹)でかわるような性格だと思ったら、おおまちがい!ごらんのとおり、今でも気むずかしやで、きちょうめんで、がんこです。
「すみません、カメダさん。この子、わたしのお友だちなんですけど、カメダさんにおはなしがあるんですって。」
カメヨはまじめな顔をして、ウサギの女の子を前におしだしました。ウサギの女の子は、ぱっと顔を赤らめ、とまどったように口をもぐもぐさせ、カメヨをにらみました。が、カメヨはそしらぬ顔で、そうじをしに博物館に入って行ってしまいました。こうなれば、もうしかたがありません。ウサギの女の子はふるえ声で用件を言いました。
「あ、あのぉ。わたし、ここで働きたいんですけど・・・・・・。カ、カメヨちゃんもは、働いているし・・・・・・ど、うで、しょうか、か?」
「もうすこしはっきり言ってくださいませんか。聞き取れません。」
ウサギの女の子は真っ赤になって、口をつぐんでしまいました。時々、
「あ、あの・・・・・・」
と言葉にならない言葉を出すだけでした。その時、
「サネリちゃんは、ここで働きたいんですって!」
クリスマスにカメダさんにもらった、あのほうきで床をはきながらカメヨがにっこりして言いました。
「そうなんですか?」
カメダさんが、あきれたようにたしかめると、ウサギの女の子は、ガクガクしながらうなずきました。そして、カメヨのほうを見て、にっこりうなずきました。
「でも!」
とカメダさんは、声をあげ、きっぱりと言いました。
「うちでは、動物手はたりています。ほかに行ってください。」
たちまちウサギの女の子は泣きそうになり、うつむいてしまいました。カメヨはあきらめたように首をふると、また助け舟をだしてあげました。
「ね、カメダさん。この子わたしのお友だちなの。静かだし、きちんとしているし、接客以外の仕事なら、何でもできるわ。ね、お願いします、この子もいっしょに働かせてください。お部屋ならたくさんあるでしょう?」
これを聞いたウサギの女の子も勇気づき、
「お、お願いします!」
と頭をさげました。それがあまりにも熱心なので、カメダさんも、つい気をゆるめました。そして、(まあ、この子がいればいつもきちんとしていそうだし・・・・・・。ためしに働いてもらおうかな。)と考えたカメダさんは、なるべくきびしい声で、
「まあ、いいでしょう。でも、役立たずだと判断したら、出て行っていただきますよ。」
と言いました。ウサギの女の子とカメヨは大喜びで、
「ええ、お願いします!」
とさけびました。
「あ、あの・・・・・・。わたし、静香南(シズカナ)娑音利(サネリ)といいます。」
ウサギの女の子・・・・・・いえ、サネリは礼儀正しく言いました。それから、真面目な顔をし、はっきりした調子で
「博物館の奥にあるピアノ、使わせてもらってもいいですか?」
と聞きましたので、カメダさんもカメヨもおどろいてしまいました。
 サネリが来てから何日かたちました。サネリやカメヨ目当てで来るお客さんや、観光客が増えましたが、カメダさんは、少しひまになったようです。サネリとカメヨが、掃除から接客まで、何から何までやってくれるので、カメダさんはやることがないのです。『動物の歴史大百科』も、もうすぐ読み終わりそうです。カメヨが来た時とはうってかわって、少しさみしく感じながら、カメダさんは今日も、大百科をひろげたのでした。

 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

第十三章 「キツネがキツネになったはなし」 ネ・ズウミン 著

 雨あがりの野原を、一匹のキツネが歩いていました。キツネは、たいへん、かしこそうに見え、そのとおり、かしこかったし、とても正義感があったので、動物みんなに好かれていました。
 「あ、キツネさんじゃないですか!」
むこうを走っていたブタが、キツネにむかって手をふりました。
「あ、ブタさん!こんにちはーっ!」
キツネは喜んで手をふりかえしました。そして、二匹は同時にかけよりました。
 「いやあ、いい天気ですねぇ。さっきの雨はなんだったんでしょうね?」
いっしょに歩きながらブタが言いました。
「さあねぇ。すぐやんじゃいましたからね。それにしても、ブタさん、どこへ行くんですか?」
キツネが聞きました。
「ええっとね・・・・・・。ほら、あそこ。どこだったけなあ。あちゃー、わすれちゃったよ。ほら、リンゴのいっぱいなっているとこ。キツネさんは知りませんよね?」
「ええっと、たしか、『リンゴのが丘』じゃなかったけ?」
「ああ、そうそう!ぼく、今からそこに行くんです。そうだ、キツネさんもいっしょにきませんか?」
「いいですね、アザラシの赤ちゃんにおみやげを、と思っていたところなんです。ちょうどよかった。」
話しはぐあいよく決まり、二匹はリンゴのが丘にむかって歩きだしました。そのとちゅう、キツネはちょいちょい、最近考え出したマジックを、ブタに披露してあげました。姿を消したり、物の姿をかえたりする、魔法みたいなマジックで、おまけにキツネが上手なものですから、ブタはそれこそ「キツネにつままれた」ようにポカーンとして見ていました。
「ブラボーッ!すごい、魔法使いみたい!」
「いやあ、ちょっとした科学マジックですよ。」
ブタにほめられ、キツネはてれくさそうに頭をかいてわらいました。
 しばらく歩くと、ちょうど収穫時のリンゴの、あま〜い香りがしてきました。どうやらリンゴのが丘はもうすぐのようです。あ、ほら、あそこに『背高リンゴの木』が見えます。二匹は、よろこんで丘をかけのぼっていきました。
 リンゴを食べ終え、満足して休んでいるブタのもとに、一人の商人がやってきました。商人は、まるまる太ったつやつやの若いブタを見ると、(ははーん、これはいい。だいぶもうかるぞ。)と一人ほくそえみました。
 キツネがもどってきてみると、そこにはもう、ブタの姿はなく、しめった土に人間の足跡が残っているだけでした。(ああ、ぼくはなんで、栗なんてつみにいかずに、ブタさんといっしょにいてあげられなかったんだ!)キツネは自分をせめましたが、ぐずぐずしていて、手遅れになってはこまります。大急ぎで丘をかけおり、足跡をたどって町に入っていきました。
「ブタさーん、ブタさーん、どこにいるんですかーっ!」
キツネは大声で、さけんでまわりました。すると、
「ここでーす!助けてください。ぼく、あと一時間で豚汁にされちゃうんです!」
と、どこかから弱々しい声が聞こえてきました。キツネがあたりを見回すと、広場の真ん中に、『おいしい豚汁 売ります』という看板をさげたやたいがありました。これはたへんだ!
「ブタさーん、ちょっと待ってて、今行くからぁーっ!」
キツネは、こうさけぶと、近くの草村にとびこみました。
 「いらっしゃい、いらっしゃーい!あったかくておいしい豚汁だよお!抽選で十名様に三千円で、三千円で、ここにいる、ブタを調理してあげますよおっ!新鮮なブタだよおっ!」
やたいの商人が声をはりあげて、さけびはじめました。そのそばではブタが、耳をたれてしょんぼりうずくまっていました。すると、
「はい、はいはいっ!わしが買おう!さあ、すぐに調理してくれ!百万円出すから、そのブタでステーキを作ってくれ!」
と一人のお金持ちがさけびました。ほかのお客さんは、
「そんなの不公平です!」
とさけびましたが、ずるい商人は、「はい、わかりました。」と言って、包丁を手に、ブタのおりの戸をあけようとしました。その時、
「わしは一億円でそいつを買おう。」
という声がしました。みんなびっくりしてふりむきました。すると、そこには、ビロードのマントをかけ、レースのついたズボンをはき、宝石がついているのか、宝石についているのか分らないほどに宝石を身につけた、一人のおじいさんが立っていました。年はとっていても、その姿には気品があり、肉のうすいわし鼻が、よけい、その人にかしこい印象をあたえていました。
「そんな、ばかな!」
あのお金持ち以外のお客は、あきれて帰って行きました。
「おい、商人。ブタはここで調理しなくてよろしい。わしがかついで帰ろう。おまえのような、ド素人が料理したら、おいしいブタが台無しになってしまう!」
おじいさんは、じろりと商人をにらんで言うと、財布をとりだしました。
「は、はい、かしこまりました。」
商人はふるえながら言うと、包丁を持った手をおろしました。
「ま、待ってくれ!そんなの不公平だ!」
お金持ちはさけびましたが、おじいさんににらまれ、すごすごと帰って行きました。
 精算をすますと、おじいさんはブタをかつぎ、堂々と帰って行きました。けれどもその時、
「あっ!」
商人は、おじいさんの腰のあたりに、キツネのしっぽがあるのを見つけました。(くそっ、だまされたかっ!)商人はあわてて鉄砲をとりに走りましたが、やたいにもどってみると、もうおじいさんの姿は消えうせ、レジにのっていたお札も、ただの枯れ葉になっていたのでした。

                           (完)
 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  
カメダさんは、本をとじ、ふーっと息をつきました。そして、目をつぶり、ゆり椅子を前に後ろにゆらしながら、ちょっと昼寝を、と思いましたが、その瞬間、カメヨがとびこんできて、
「カメダさん!スウェーデンの方―たしか、アルマジーさんていっていたわ―が、アルマジロの歴史について教えてほしいって!」
とさけびました。
「わ、わかりましたっ!すぐ行くって、言っといてください。」
カメダさんはあわてて言うと、メガネとネクタイをなおし、カメヨにつづいて、部屋をとびだして行ったのでした。









     *作者あとがき*



    星草村シリーズ三作目、どうでしたか?

    自分では、シリーズ九か十作目まで書き

    たいなあ、と思っています。星草村には、

    シリーズが増えるごとに、登場人物が増

    えるので、けっこう大変です。けっこう

    大きい村だったんだ〜! と、私自身も、

    今、気づきました。でも、星草村は、書

    いていると、自分でもワクワクするくら

    い、おもしろいし、短いけど達成感もあ

るので、大好きです。本当に、登場人物

(動物?)たちが勝手に動いているよう

な気がします。ところで、この物語、最

後はおどろきの結末で(ハーッピーエン

ドですが)終わります。シリーズ四作目

の後に、この物語の兄弟物語(というの

かな?)を投稿するつもりです。
               2012年1月28日  自宅にて