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独りの王様                      作:せい

 むかし、「ドウブツ民主主義共和国」に一頭の、ヒグマがおりました。このヒグマは王様でも総理大臣でもないのに、いばりちらしておりました。そして、とうとう武力で国の頂点までのぼりつめてしまったのです。ところが、このクマはそれだけでは満足せず、十年をかけて、ドウブツ国の宝石や金全部で大きな、それは大きな御殿をつくりました。この御殿は小さなドウブツ国の半分ほどまで広がっていましたから、かわいそうに国民たちはせまいアパートにおしこめられ、貧しく、苦しい生活を送っていました。これまで何匹もの動物たちが、ヒグマの王様を智し、なだめましたが、みな失敗におわりました。国民たちはだんだんいらだち、その怒りは、王様の御殿で働いている総理大臣や貴族たちにむけられました。そして、やがて国民たちは反乱をおこしましたが、それはあっけなく失敗しました。王様のもとで働いている兵隊たちが、それはそれは強かったからです。

 何十年かたったある日、ドウブツ国に一頭の旅熊が現れました。旅熊はこの国のすみずみまで旅をして、やがてこの国の都市にやってきました。そして、市の広場で「王様反対」の演説をやりました。初め、国民は、このクマが王様と同じヒグマであることに不満で、ちっとも味方につこうとしませんでした。それどころか、王様に言いつけ、この旅熊を牢屋にぶちこんでしまったのです!

 やがて、裁判の日がやってきました。
「なぜ、そなたは偉大なるヒ・グマ王を侮辱した!」
総理大臣が言いました。が、それはたいへんうんざりした調子でした。
「ううん、あれは侮辱のうちに入るのですか。」
旅熊は、とぼけたように言いました。
「な、なんだと!」
「わたくしは、最近ここに来たばかりですが、王様のことはたいへんよろしいと思っております。ただ、どんな人にも欠点はあるものです。王様の場合、もうちょっとばかり、法律をゆるくしたほうがいいのではないか、と思ったのです。」
旅熊は、うまく答えたつもりでしたが王様はたいへん冷たい人でしたので、また、旅熊を牢屋にぶちこんでしまいました。ところがその夜、その牢屋に食べ物を運んできた女の子が、旅熊から計画を聞きだし、それを実行する、と約束してくれました。

 次の日、女の子はこっそり、総理大臣に計画をうちあけました。それはいい、と思った総理大臣は御殿で働いている動物たち全部に打ち明けました。こうして、どんどん広まった旅熊の計画は、十五年後、とうとう実行されました。

 その日、国から国民の一部が消えました。あくる日、もう一部が消えました。また次の日・・・・・・といったぐあいに、ドウブツ国からどんどん動物が減っていきました。みんなでドウブツ国から遠くはなれた場所に国をつくり、少しづつ準備し、少しづつそこに移動していたのです。

 御殿で働く貴族たちがいなくなって、はじめて王様は独りになったことに気がつきました。けれども、もう、どんなになげいても国民たちの行方は分らず、それをさがす兵隊たちもいない、つまり、手遅れなのでした。