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星草村歴史博物館のおはなし(2)-ウサギがウサギになった話-  作:せい

 カメダさんはため息をついて、ほうきをもっていた手をやすめました。今日は「星草村おおそうじ」の日で、星草村の住人は全員少なくとも、二時間はおおそうじをしなくてはならないのです。
「うう、だれが、こんなルールを作ったんだ!ぶるるっ。」
カメダさんはいつもよりずっと、きむずかしそうな顔をしていましたが、言葉には迫力がありませんでした。寒くて、寒くて、しかたがなかったのです。おおそうじですから、窓をあけないわけにはいきません。それで、十二月の北風がビュービューふきこんでくるのです。カメダさんは、おこってほうきをふりあげました。
「おい、北風。さっさと出ていかないと、たたきのめしてやるぞ!」
けれども、北風のほうはぜんぜん動じません。「たたけるものなら、たたいてみろよ」って感じで、カメダさんのコートのすそをめくりあげます。カメダさんはあきらめて、ほうきをおろしました。そのときでした。トントン、トントン。だれかがドアをたたいているようです。カメダさんは、いっそう顔をしかめてドアをあけました。外に立っていたのは、小さな女の子の亀でした。
「こんにちは、寒いですね。」
女の子は礼儀ただしく言いました。
「ええ、寒いですね。何かようですか。」
カメダさんはいやそうに顔をしかめて言いました。
「わたし、凄委(スゴイ)科目代(カメヨ)といいます。村長さんにたのまれてここのお手伝いにきました。」
カメヨはまじめに言いました。
「ほう、ここの手伝いに?自分の家の大掃除はおわったんですか。」
「ええ、おわりました。一ヶ月に一度お休みをいただけるといいのですが、ま、よろしくおねがいします。」
カメダさんは、なんのことやらさっぱりわかりません。
「お休み?手伝い?お客さん、何をおっしゃってるんです。」
「えっ、わたし、村長さんにこの博物館で働くようにって、言われたんです。」
カメヨは元気に言いました。カメダさんはくらくらしました。頭のなかがごちゃごちゃです。でも、カメヨがこの博物館で働く、ということだけはよくわかりました。
「どうしてそんなことになったんですか。わたしは一人でじゅうぶんです。」
カメダさんは、つめたく言いはなちました。カメヨは、こまったように首をかしげました。そして、言いました。
「そうですか・・・・・・。でも村長さんに言われたんですよ。それにわたしもここで働きたいし。おねがいします!」
カメダさんは、気がゆるみました。(うん、たしかにもう一人くらい働いていたっていいかもしれない。この子は気がききそうだから、これまでより長く本を読んでいられるかもしれないぞ。)こう考えて、カメダさんはカメヨに言いました。
「そこまで言われちゃしかたありませんね。まあ、いいでしょう。あなたが役にたつようなら、ずっと働いてもらいましょう。ところで、さあ、早く中にお入りください。いつまでも戸を開けていられたら、寒くてしかたありませんよ。」
「はい、ありがとうございます!」
カメヨには、カメダさんの皮肉はまったく通じないようでした。
 カメヨが働きはじめて一週間がすぎました。今日は、クリスマスイブ。つまりクリスマスの前の日です。星草村歴史博物館では、ありとあらゆるものやところに、クリスマスのかざりがつけられました。カメヨがやりたいと言ったのです。
 仕事がひとだんらくしたころ(もちろん昼休みごろですが住民たちは、クリスマスのお祝いの準備におわれて、いつもよりお客が少なかったのです)カメダさんは久しぶりに、例の『動物の歴史大百科』を広げてみました。ここのところ、クリスマスの準備でいそがしく、ほとんどひまがなかったのです。カメダさんは、すっと、しおりをはさんでいたページをあけました。それは、ウサギがウサギになったはなし、でした。
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第三章 「ウサギがウサギになったはなし」 キレ・イ・ナウマ著

 どこまでもどこまでも、広い野原を一羽のウサギがはねていました。そのころのウサギは、まだそれほど長い耳をしていなくて、今より、ずっとずっと、何万倍もすばしこかったのです。それはもう、ハヤブサも頭をさげるくらいに早くって、トラやライオンさえも、どこからどこへ行ったのか分からないほどでした。そして、ウサギの方もそれをたいへん自慢していました。ですから、ちょっとうぬぼれが強くても、ほかの動物たちは目をつぶっていてくれました。ところが、あるときからウサギは、盗み聞きがすきになってしまったのです。じつは、今日、この野原を出歩いているのはそのためなのでした。
(さあて、今日はだれの話を聞いてやろうかしら?あらまぁ、あんなところにカメさんとブタさんがいる!何を話しているのかしらね?聞いてやりましょう)ブタとカメを見つけたウサギはそっと二匹のそばにしのびよりました。
 話の内容はすぐにわかりました。これは、言いふらせばおもしろいわね、とウサギは思いました。そこで、家に帰って友達のネコに電話をしようとしましたが、ボタンを押しまちがえてしまいました。けれどもウサギはそれに気がつかず、何度も何度も押しましたがネコが出ないので、どうしたものかとネコの家に行ってみることにしました。ところが外に出たとたん、何か大きな黒いものがサーッ、とウサギの真上をとび、気がついたときにはウサギの体は雲の真下でした。そして、ウサギは気ぜつしました。
「ウサギさーん、ウサギさーん。だいじょうぶですか?」
ウサギの耳元で、ばかでかい大声がしました。ウサギがあわててとびおきてみると、ちょっとはなれたところにリスがすわっており、心配そうにウサギを見ていました。
「ええ、だいじょうぶです。いったい何があったんでしょうか?」
ウサギは、ちょっと不思議に思いながらも、礼儀正しく聞きました。
「どういうわけかは、分からないけど、大ガラスさんがね、泣きながらお空を飛んでいたんですよ。それでたまたまウサギさんのお耳が大ガラスさんの足にひっかかったんでしょうねぇ。でも大ガラスさんは気がつかなくって、そのまま飛んでいたんですけど、運よくわたしのお家の前でウサギさんを落としたんです。―おけがはありませんか?」
リスはていねいに答えてくれましたが、その声は、ウサギにはとても大きく聞こえました。それで
「リスさん、もうちょっと小さい声でおねがいします。」
と、ウサギが言うと、リスは少しこまったように、
「これが一番小さな声なんですけど・・・・・・大ガラスさんの足にひっかかってお耳がのびてしまったようですね。もうちょっとはなれてお話しますね。」
と答えました。ウサギはおどろいて、大ガラスの涙でできたらしい、水たまりをのぞきこみましたが、そこに写ったのは耳がピョーン、と長い、自分の顔でした。ウサギはショックで泣きだしてしまいました。
「まあまあ、泣かないでウサギさん。とっても独特ですてきに見えるわ。」
だいぶ、はなれたところからリスがなぐさめてくれましたが、ウサギの耳には入りませんでした。
 これで、ウサギの悪いくせ、つまり盗み聞きのくせは治りました。耳があまりにもよく聞こえすぎるので、近くによることができなくなったのです。また、遠くからだれかの話声が聞こえてきても、ウサギはもう、だれにも言いふらしたりしませんでした。

                       (完)
 *  *  *  *  *  *  *  *  *  *
カメダさんは、時計を見ました。一時半をまわったところでした。この時、カメダさんは何とも言えない不思議な気分になりました。そして、カメダさんは席を立って、コートをつかみました。
 クリスマスの朝、カメヨは、寒いのもかまわず、ベットからとびだしました。部屋のすみと、暖炉につるした、くつしたにプレゼントを見つけたのです。(あの部屋のはしっこのは、だれからかしら?サンタさんは必ず一つしかくれないのに)カメヨは不思議に思って部屋のすみにおいてある、細長い包みをあけてみました。そして、感動して小さく「わあっ」とさけんでしまいました。それは新しいほうきでした。黄色の柄に、緑と青の点々がついていて、てっぺんにカメダさんそっくりの小さな人形がついていました。ほうきをうごかすと、その人形がカメダさんそっくりの声で「ら〜らら〜」と歌うのです。そのとき、カメヨは、ふさにリボンでとめた手紙を見つけました。あけてみると、「博物館をきれいにして下さい。 カメダ」と書いた、いちごのにおいのカードが入っていました。(カメダさんらしいわ。すてきねえ)カメヨは、うれしげにふふっ、とわらうと、サンタさんからの包みをあけにいきました。







      *作者あとがき*



星草村シリーズ二作目です。どうでしたか?

書き始めてから、だいぶながいことほったら

かしにしていましたが、みなさんが「おもし

ろい」と言ってくれたので、がんばって書き

上げました。

 みかさんが、漢字を多くしたほうがいい、

とアドバイスをくださってので、すこし気

をつけて書いてみました。気づきましたか?

 それでは、三作目をお楽しみに〜






                   平成二十四年一月十五日
                          自宅にて