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むかしむかし、今から何百年も前のこと、イギリスに一人の王子がいました。
ある時王子は不意に狩りに行きたくなりました。自分の馬に一番上等な鞍をのせ一番上等な銃をかつぎ、森へでかけました。
パッカパッカと調子よくひづめの音をひびかせながら馬は森の小道を歩いていきました。と、その時!一匹の鹿が王子の前をかすめて走っていきました。王子は馬にむちをくれ、夢中で追いかけました。だんだん森のおくへ入っていきました。
王子は銃をかまえました。ドーン!・・・・・ざんねん、はずれです。はりきってもう一度・・・・・またはずれ。王子は何度も何度も撃ちました。そうしているうちに弾がのこりわずかになってしまいました。これ以上つかうと猛獣におそわれた時危険になります。
王子はしかたなく鹿をあきらめ、城へ帰ることにしました。
パッカパッカパッカ、馬はもと来た道をもどって行きます。王子は「ゆかいな散歩」を口笛でふいていました。その時・・・・ジャッパーン!王子は沼にころげこみました。馬の鞍もいっしょに。王子は岸に手をかけあがろうとしました。・・・・・ところがあがれないのです。しまった!底なし沼です。どんどんしずんでいきます。なんてことでしょう。
王子は必死にあがろうとしました。そして自分がどうなったか分からないうちに馬といっしょに岸にすわり、びしょぬれのあわれなすがたで沼をながめていました。見ると、ちょうど鞍の最後の部分が沼に消えたところでした。
「あーあ、びしょぬれのうえに鞍なし馬にのらなきゃならない。鹿にもにげられちまったよ。今日はなんてついてないんだ!」
王子はおこってつぶやきました。けれどもずっとこの森にいるわけにもいきません。しかたなく馬の背にのると今度はじゅうぶん気をつけながら城への道を歩いていきました。初め王子は今日という日の文句ばかり言っていましたがしばらくすると、いつもの陽気な王子にもどっていました。城につくころにはご機嫌になって歌までうたっていたのでとうとうおきさきにあきれられたほどでした。
それから数十年がたちました。今では王子はりっぱな王になり、子どもまでできました。ある時その子ども(王子)が狩りにいってみたい、と言い出しました。
「よかろうよ。だが馬には鞍をつけないで行くんじゃよ。あと鹿を一分以上追いかけんことだな」
王はそういうと王子をおくりだしました。
沼に落ちないように落ちてもだいじょうぶなように、です。
Burgmuller 25 Leichte Etuden Op.100
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