入れ歯で食べるにあたり、基本的には食べ物に制限はありません。しかし、完璧な総義歯でも咀嚼力(ものを噛みつぶす力)は、天然歯の8割に満たないといわれます。完璧な総義歯などこの世にはまず存在しないわけで、結局は残念ながら天然歯の7割も噛めれば上出来だろうということになります。そこで、歯医者は患者さんによく「かたいものは、出来るだけ避けて下さいね。」などと言うことになるのですが、それでは「かたいもの」とはどんな食べ物の事なのでしょう。

 患者さんは、この歯医者の言葉からよく「おせんべい」や「ナッツ」のような、いわゆる硬度としての硬いものを想像されるようです。しかし、私達の言う「かたいもの」とは、「イカ」や「タコ」「あわび」などに代表される、弾力のある「噛んでも噛んでも、なかなか噛み切れない」もののことを指しているのです。

 そして、最も患者さんが誤解されるのは「パン」です。「ごはん」と「パン」は、大きく違います。「ごはん」は噛めばそのままつぶれますが、「パン」は噛んだ瞬間にギュッと圧縮され「イカ」や「タコ」と同じような状態になってしまいます。これは、フランスパンのようなもののことだけを言っているのではありません。食パン、アンパン、みな同じで、結構パンは入れ歯にとっては難しい食べ物なのです。

 では、パンは食べられないものなのかというと、そんなことはありません。カリッとトーストにするかスープや飲み物にでも浸せば、楽に食べられるようになるでしょう。また、入れ歯にとって苦手なものに、繊維性に富んだものがあります。「菜っ葉」や「ごぼう」といった野菜類、そして「お漬物」のようなものです。これも、調理方法さえ考えていただけば、食べることはできます。

 基本的に、入れ歯で食べるすべての食べ物について言えることは・・・

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入れ歯(特に総義歯)の前歯は、見た目の回復と発音のためにあるもので、基本的に噛み切るという動作をするためにあるのではないとお考えいただき、前歯で噛み切ることは避けて、すべての食べ物はあらかじめお口に入る大きさにして食べるように心がけて下さい。

勿論、よくできた総義歯であれば前歯で噛み切ることも十分に可能なのですが・・・

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お口に入る大きさのものであっても、食べ物によっては切り目を入れておいていただくことで、より食べやすくなるでしょう。

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焼く、煮る、蒸す・・・というように、火を通すことによって食べやすくして下さい。

往々にして、生ものは難しい食べ物としてに分類されることが多いです。

 入れ歯の方は、食べ物をお口にお入れになる前に、入れ歯で食べやすいようあらかじめ加工した上で、食べていただく・・・そんな工夫が、どうしても多少は必要になってくるということです。