総入れ歯の安定には、いろいろな要素が絡み合っています。

 ちなみに、下顎は上顎に比べて入れ歯の乗せることのできる部分の面積が1/3〜1/5程度しかありません。したがって、食べ物を噛んだ場合の総入れ歯にかかる単位面積あたりの力は、単純計算ですが下顎には上顎に比べて3〜5倍だということになります。

 それだけでなく、上顎は頭についているので(首を動かさない限り)動きませんが、左右二つの関節でぶら下がっている下顎は食べてもしゃべっても動きます。その上、その動く下顎には舌があり、これがまた動きまくるわけです。

 つまり・・・上下共に総入れ歯の場合、不安定要素がより多くあるのは下顎だといえるのです。

 みなさんは、上顎の総入れ歯ほうが下に落ちてきやすいようなイメージをお持ちになるかもしれませんが、上顎の総入れ歯は意外と安定させやすく、実際には下顎の総入れ歯が浮き上がったりガタついたりするケースが大半なのです。

 そんな不安定な総入れ歯を安定させるために、現在はインプラントが多く使われています。(もちろん、部分入れ歯においてもその安定を図るためにインプラントが用いられることはありますが、ここでは総入れ歯に限ってのお話をさせて頂きます。)

 上顎には、通常のインプラント(2〜4本)に義歯安定用のアタッチメントを併用します。何本ものインプラントを打って作られるフル・ブリッジに比べて、はるかに手術による外科的侵襲が少なく、メインテナンスがすこぶる楽であり、費用的にも数倍安上がりであり、フル・ブリッジに比べてもそれほど遜色なく食べられるるというのが、このような総入れ歯の特徴でしょう。

 そして、総入れ歯がより不安定な下顎にこそ前述のような装置を使いたいわけですが、その解剖学的形態から使えない場合のために考案されたのが、「ミニ・インプラント」という下顎の総入れ歯を安定させるために開発されたインプラントであり(逆に、上顎には基本的に使えません。)、ミニ・インプラントは手術直後から何でも食べて頂けるというのが大きな特徴でもあります。(残念ながら、このミニ・インプラントですら使えないケースはあります)

(この画像は、「アイエス コーポレーション」 HPよりの引用です。)

 さて、総入れ歯というのは大抵の場合ご高齢の方にお使いいただくものですね。したがって、このような装置を使う場合には、特に以下のような条件が重要になってくることを忘れてはなりません。70歳の人が80歳になられるまでの10年というのは、決して30歳の人が40歳になる10年と同じではないということです。

@手術による外科的侵襲が、最小限にとどめられること

Aよりご高齢になられたときのことを考えて、その後のメインテナンスが容易であること

B治療費が高額にならないこと

C治療途中の食べにくい期間の発生を、ゼロに近づけること(ゼロにすること)

Dその他

 勿論、現状の総入れ歯で十分に食べることができておられる方は、そのコンディションを保つことを心がけていて頂くだけでOK!前述のような装置は、全く必要がありません。

 また、最初にも書きましたとおり総義歯を安定させるためのファクターはたくさんあり、それらに対する配慮が十分になされてるにもかかわらず安定を図れない・・・そのような場合に用いるのが本項に書きましたような装置であり、これらに頼る以前にやるべきことはたくさんあるのです。

 あくまでもここに書きました安定装置は、いわば最後の手段的なものであり、このような装置に最初から頼るのは大きな間違いであることを最後に付け加えておきたいと思います。