「宝探し」(4)

図書室と言えば、祐一だよな。
そう言えばあいつ、さっきも教室の前にいたっけ。
あんなとこで、いったい何をしていたんだ?
 「もしかして、祐一のやつが珠紀を?」
祐一の幻影を使えば、俺の目の前から珠紀を隠すなんて楽勝だ。
慌てて教室を飛び出す俺を、傍に珠紀を隠しながら、見送っていやがったのか?
クッソー、祐一のやつ。もしそれが本当なら、絶対に許さねーぞ。
 「おい、祐一!!さっさと、珠紀を出しやがれ!!」
図書室の扉を開けながら、俺は中に居るであろう祐一に向かって、声を張り上げる。
 「まったく、騒々しいやつだな。
 珠紀のことは知らないと、さっきも言ったと思うが」
 「うるせー!!お前が幻影使って、あいつを隠してるってのは判ってんだ」
 「何故俺が、そんなことをしないとならない?
 そんなくだらないことのために、俺は自分の力を使ったりはしない」
詰め寄る俺に、祐一は呆れたような冷たい視線で一瞥すると、
すぐに興味をなくしたように、手にした本へと顔を向けてしまった。
くそっ、取り付く島もありゃしないじゃねーか。
 「じゃ・・・じゃあ、教室の前で、いったい何してたってんだよ?」
 「返却するのを忘れていた本を、取りに行っていただけだ」
そう言って、机に置かれている本を指で叩く。
なんだよ、そんなことか。じゃあ、珠紀は何処へ行っちまったんだ?
俺ががっくりと椅子に座り込んでいると、わざわざ教室まで取りに行ったという本を
祐一が差し出してくる。
 「返却手続きは済ませてある。暇なら、本棚に戻しておいてくれ」
 「何で俺が・・・判ったよ。くそっ、なんて人使いの荒いやつなんだ」
何で俺がそんな面倒なこと、しなきゃいけねーんだよ。
そう文句を言ってやろうとしたのに、あっさり無表情な顔で睨まれてしまった。
祐一が珠紀を拐ったんじゃないかって疑ったこと、根に持ってやがるのか?
多少は悪かったと反省した俺は、渋々ながら本の返却を手伝うことにする。
 「カウンターに図書カードが置いてあるから、その本に戻すのを忘れるなよ」
 「判ってるよ、んなこと、イチイチ言われなくっても。ホント、細かいやつだな」
ブツブツと文句を言いながらも、言われた通りにカウンターへカードを取りに行く。
一枚だけ残されていたカードを手にすると、重なるように置かれていた紙が
下へと落ちるのに気付いた。
延滞の苦言でも書かれていたら、祐一を揶揄うネタにしてやろうと、
意気揚々とその紙を拾いあげてみる。
 『ふりだしに戻る』
俺が想像していたものとはまるで違い、その紙には、
こちらを嘲笑っているかのような挑発的な文字が踊っていた。
 「くっそー、バカにしやがって!!何が“ふりだし”だ。
 こっちは、双六やってんじゃねーんだぞ」
怒りに任せて、持っていた本をカウンターに叩き付けると、
俺は図書室を飛び出し、ふりだしである教室へと向かう。
 
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