「宝探し」(3)

茶道室は調理実習室と違い、とても静かだった。
人の気配はあるものの、動いている素振りを感じさせない。
ここに、珠紀を監禁しているのか?
俺は、そっと襖を開けると、その隙間から中を覗いてみた。
和服姿の長髪の男が、こちらを背にして座っている。
 「あれは・・・大蛇さんか?」
まさか、珠紀を拐ったのは、大蛇さんなのか?
潜伏先に茶道室を選んだのも、確かに大蛇さんなら頷ける。
学校関係者でもない人間が、校舎内をフラフラしているだけでも、目立っちまうからな。
 「鴉取くん。そんなところに隠れていないで、入ってきたらどうですか?」
こっそり覗いていたつもりなのに、しっかりバレてやがったか。
軽く舌打ちをすると、大蛇さんに戦いを挑む覚悟を決めた。
 「そっちがそのつもりなら、俺も受けて立ってやる。
 さぁ、正々堂々と勝負しやがれ!!」
襖を大きく開け放つと、高らかにそう宣言する。
静まり返った部屋に反響する俺の言葉に、茶道室にいた女子生徒数人が、
唖然とした顔で見返していた。
 「随分と威勢の良い見学者さんですね。
 まずは大人しく、こちらに座っていてください。
 茶道は静かに心を落ち着かせた状態で、行うものなのですよ」
大蛇さんから苦笑交じりに窘められた俺は、訳も判らずに、言われた通りの場所に座る。
茶道室の中には、指導役の大蛇さん、それから見知らぬ女子生徒が数人。
他には誰もいない。監禁されているはずの珠紀の姿は、何処にも見当たらなかった。
 「それでは、点てたばかりのお茶を一服、ご馳走しましょう。
 まぁ、鴉取くんは、こちらの方がお目当てなのかも知れませんけどね。
 本日の茶菓子は、村で評判になっている和菓子を用意したんですよ」
そう言って、濃い緑色をした液体の入った鉢を、俺の目の前に置く。
一緒に、美味そうな饅頭が乗った皿も・・・。
そういや、同じような鉢が、女子生徒たちの前にも置かれているな。
やっぱり、これはただの部活動、ってやつなのか?
俺は自分の勘違いを誤魔化すように、目の前の鉢に手を伸ばすと、
女子生徒の冷たい視線に耐えながら、緑色の液体を一気に口の中へと流し込む。
 「にっげー!!」
口一杯に広がる抹茶の苦さに、俺は思わず大声で叫んでしまった。
その苦さを饅頭の甘さで紛らわせようと、慌てて目の前に置かれた皿を持ち上げる。
その時、饅頭を乗せていた紙の端に、文字が書かれているのが目に留まった。
 『次は図書室だ』
紙には小さくそう書かれている。
これは、間違いなく、一連の挑戦状だよな。
 「鴉取くん、どうかしましたか?」
俺が皿を片手に固まっているのを不審に思ったのか、大蛇さんが尋ねてくる。
犯人の意図も判らない状況で、話すわけにはいかない。
珠紀は俺が護るって決めたんだ。誰の手も借りずに、一人で助けだしてやる。
 「何でもないです。ご馳走さんでした!!」
大蛇さんの言葉にそう返すと、痺れる足でどうにか立ち上がり、
俺は作動室を飛び出した。手には、しっかりと饅頭を握りしめたまま。
 
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