「宝探し」(2)

勢い良く階段を段飛ばしで駆け上がると、屋上へと続く重い扉を力任せに開け放つ。
 「珠紀、何処だ!!」
転がるように外へ飛び出した俺は、周囲を見回しながら珠紀を探す。
だが、屋上には誰の姿も見当たらない。
 「くそっ、どういういことだよ!!屋上へ来いって、言ったんじゃねーのか?」
端から端まで見て回ったが、珠紀はおろか、連れ去ったであろう人物すらも、
見付けることができなかった。
怒りのぶつけ先を失った俺は、イライラとしながらも、いつもの場所へと歩き出す。
珠紀たちと昼飯を食っているフェンス前に。
その時、いつも珠紀が座っているテーブル席の上に、
見慣れない物が置かれているのに気付く。
風に飛ばされないように石を重しにして、ノートの切れ端のような紙が置かれている。
 「んだよ、これ!!」
紙に書かれていた文字を読み終えた俺は、持っていた紙を握り潰すと、
怒りをそのまま口にする。
 『宝物は、調理実習室へ移動した』 
紙にはそう書かれていた。
 「くそっ、そっちがそのつもりなら、何処へだって行ってやる!!」
俺は握り潰した紙をポケットに突っ込むと、屋上を後にした。
再び段飛ばしで階段を駆け下り、急いで調理実習室へと向かう。
廊下まで差し掛かったとき、調理実習室の中から賑やかな笑い声が聞こえてきた。
あの中に、珠紀がいるのか?
俺は期待を込めて、勢い良く扉を開ける。
 「おい、珠紀、いるのか?」
 「あれ、真弘先輩じゃないですか?
 もしかして、匂いに釣られて来ちゃいました?」
調理台に群がる女子の顔の中に、珠紀の姿を探していた俺を見付けて、
慎司がのほほんとした顔で声を掛けてくる。
 「なぁ、慎司。ここに、珠紀はいるのか?」
 「珠紀先輩?今日は来てませんよ。
 そんなことより、見てください、このスフレ。
 こんなにふっくら焼きがあるのは、滅多にないんですよ。今日は完璧です。
 真弘先輩も、一緒に食べていきませんか?」
ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、慎司は持っていた皿を俺に見せた。
美味そうな匂いを漂わせているそれに、一瞬興味が惹かれたが、
ここは心を鬼して辞退を申し出る。
 「あっ、ああ、ありがとな。でも、わりぃ。今日は遠慮しておく。
 今、それどころじゃねーんだ」
 「真弘先輩が食べ物に反応しないなんて、お腹でも壊してるんですか?
 じゃあ、僕の書いたレシピを差し上げます。
 今度、珠紀先輩にでも作ってもらってください」
少し残念そうな顔をして、慎司はテーブルの上に置かれている紙を指し示す。
美味そうな菓子を目の前にお預けを食らわされた俺は、
近いうちに珠紀に作ってもらおうと心に決めて、
ありがたくレシピとやらをもらって行くことにする。
テーブルの上に置かれていた紙には、慎司の几帳面な文字と絵が書かれていた。
そして、それ以外の文字も・・・。
 『今度は、茶道室へ移動する。早くしないと、宝物が逃げていくぞ』
紙の端の方に、走り書きのような文字が付け加えられている。
 「あーっ、真弘先輩!!僕のレシピ、ぐちゃぐちゃにしないでくださいよぉ。
 ごみにするくらいなら、もう上げませんからね」
怒りで紙を握り潰しているのを見た慎司は、頬を膨らませながら抗議する。
俺はそんな慎司に構うことなく、掴みかからんばかりに詰め寄った。
 「おい、慎司!!これ、誰が書いた?
 どんなヤツだったか、お前見なかったか?」
 「あれ、いつの間に?僕たち、ずっと調理に夢中だったから・・・。
 特に、ふっくら焼きあげる工程は、レンジの前から片時も離れるわけには
 行きませんでしたからね」
俺が手にしている紙を覗き込んだ慎司は、不思議そうな顔で首を傾げていた。
慎司にも気付かせないとは、いったい敵はどんなやつなんだ。
 「慎司が気付かなかったんなら、その場に珠紀はいなかったってことか。
 くそっ、何処へ連れていきやがった。ぜってー、探し出してやる!!」
俺はそう吠えると、茶道室へ向かうために、調理実習室を飛び出した。
 
 
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