「告白」(2)

延々と続く深い暗闇の中に立ち尽くしている。
いつからそうしているのだろう?
そしていつまでそうしているのだろう?
そんな風に考え始めたとき、遠くに微かな光を発見する。
その光を目指して、動かない足を賢明に前へ出す。
後少し。もう少しで、光を捕まえることができる。
精一杯伸ばして手は、無常にも光までは届かなかった。
その代わりに・・・。
 「珠紀様、大丈夫ですか?」
名前を呼ぶ声に導かれるように、ゆっくりと目を開ける。
先ほど目指した微かな光ではなく、溢れる程の光の渦が目の中に飛び込んでくる。
光の洪水が引いた後、心配そうに覗き込んでいる美鶴ちゃんの顔だけが、残っていた。
そして、美鶴ちゃんの手の中には、私の手がしっかりと握られている。
 「美鶴ちゃん?私・・・どうして?」
 「学校で倒れられたんだそうです。多分、貧血でしょう」
貧血?そうか。真弘先輩に腕を引かれて、急に立ち上がったから・・・。
 「真弘先輩が?」
 「はい。鴉取さんが、ここまで運んできてくださいました」
そう言った美鶴ちゃんは、何故か可笑しそうにクスクスと笑い出す。
 「貧血を起こされている珠紀様より真っ青な顔で、駆け込んでいらっしゃったんですよ。
 それはもう、見事な慌てぶりでした」
その光景を思い出したのか、美鶴ちゃんは更に声を上げて笑う。
慌てている真弘先輩。私も、見てみたかったな。
 「もう・・・帰っちゃった?」
 「いえ、まだ居間に。珠紀様が目を覚まされるまでは、心配だからとおっしゃって・・・。
 ただの貧血ですからご安心ください、と申し上げたんですが、頑として聞いてくださいません」
美鶴ちゃんは、ちょっと呆れたような顔で、そう言葉を返す。
真弘先輩がいると聞いた私は、慌てて起き上がった。
 「珠紀様、そんなに行き成り動かれると、また倒れてしまいますよ」
 「ううん、もう大丈夫。美鶴ちゃんが、ずっと手を握ってくれていたお蔭だよ」
さっきまでの痛みが、すっかり消えている。
眠っている間に、美鶴ちゃんの言霊で回復してくれていたのかな?
 「そんな、私は何も・・・」
私の言葉に照れたように顔を赤くした美鶴ちゃんは、私が立ち上がるのに手を貸してくれた。
 「あまりムリをなさらないでくださいね。
 私は台所でお夕飯の用意をしておりますから、何かあったらすぐに声を掛けてください」
そう言葉を残して、美鶴ちゃんは台所へと消えていく。
居間の手前に一人残された私は、真弘先輩に逢うために、そっと襖を開けた。
 
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