「ふわふわ」(2)

座っているときには、全然大丈夫だと思っていたのに・・・。
歩き出してみると、自分が酔っているのだと実感できる。
まるで身体が宙に浮いているような気分。足が地に着いていない感じ。
そんなフラフラした足取りで、ようやく見つけた真弘先輩は、縁側に座っていた。
真弘先輩の顔を見た途端、さっきまでの淋しい気分が吹き飛んでしまう。
コントロールできない感情は、今度は嬉しい気持ちを心に満たし始める。
 「真弘先輩、こんなところにいたんですね」
 「あぁ、酔い覚ましにな・・・。ってお前、まさか酒飲んだのか!!」
私の顔を見た真弘先輩は、驚いた顔をして声を上げた。
 「何で判るんですか?」
 「当たり前だろ!! んな赤い顔してれば、誰だって判る」
真弘先輩の横に座った私は、怒られているのに、何故か嬉しくなる。
 「そんなに赤いですか? んー、確かにちょっと、顔が熱いかも・・・」
頬に手を当てると、いつもよりも体温が上がっていることが判る。
 「ったく、こっちの気も知らねーで、何笑ってやがんだ、こいつはよ。
 で、どうなんだ? 気分悪くなったりとか、してねーのか?」
真弘先輩の気持ち、ってなんだろう?
玉依姫がお酒を飲むと、守護者に何か影響があったりするのかな?
どんどん回転が止まっていく頭で、真弘先輩の言葉に対する答えを、
何とか考えようとする。けど、何も思いつかない。
 「気分は、すごい良いですよ。なんだか、身体がふわふわしてます。
 でも、ちょっと眠いかも・・・」
気を抜くと、そのまま瞼が閉じてしまいそうになる。
 「だー、もう、この酔っ払いが!!肩、貸してやるから、少し寄りかかってろ」
 「えっ、良いですよ。寄りかかったら、そのまま眠っちゃいそうですし・・・」
真弘先輩の肩に強引に頭を押し付けられた私は、言葉では反論してみるのだけれど、
身体の方が付いていけない。何だか気持ち良くて、ずっとそうしていたいと、思ってしまう。
 「んなの、気にすんなって。眠っちまったら、布団まで送ってってやるからよ」
 「えっと、あの、それって・・・」
 「バッ、バカな勘違いすんなよな。風邪引かねーように、布団に寝かせてやるってだけだ。
 心配なら、美鶴も連れて行くから、安心しろ」
 「なーんだ、つまんないの」
 「誰が酔っ払いなんか、襲うかよ。良いから、お前はそのまま眠っちまえ」
耳のすぐ傍で聞こえる真弘先輩の声が、とても心地よくて、まるで子守唄を聞いているみたい。
どんどん遠退いていく意識の中、何とか真弘先輩と会話を交わす。
 「ねぇ、真弘先輩」
 「あー、どした?」
 「こういうのって、・・・良いですね」
 「勘弁してくれ。また酔っ払うつもりか?」
 「そうじゃない・・・ですよ。
 おじいちゃんやおばあちゃんに・・・なっても、こうして二人で縁側に座って・・・。
 ずっと、一緒に・・・って・・・」
 「そうだな。・・・そうなると、良いよな」
真弘先輩の返事を最後に、完全に眠りの世界に落ちていく。
その後、夢の中の出来事のように微かに覚えているのは、真弘先輩の独り言と美鶴ちゃんとの会話。
 「眠ってくれた助かった。さすがの俺でも、眠った女を襲うほど、落ちぶれちゃいねーからな。
 ったく、こんな顔見せられたら、誰だって理性無くすっつーの。
 あいつらの前で、絶対に酒は飲ませねーぞ。判ってんのか、おい」
 「鴉鳥さん、こんなところにいらしたのですね。珠紀様もご一緒ですか?」
 「あー、美鶴か。珠紀なら、眠っちまった。部屋へ連れて行くから、布団敷いてくれ」
 「・・・・・・・・・・」
 「だから、お前も勘違いすんなよ!! 普通に寝かせてやるだけだっつーの。
 怖いからそんなに睨むなって!!」
賑やかな掛け合いの後、私の身体はまるで空を飛んでいるみたいに、ふわふわと宙に浮かんだ。
 
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